飲食店において原価管理が重要な理由
原価管理は経営の無駄を省き、効率化するために必要です。適正な価格設定や販売政策の実施に役立ちます。
飲食店経営者の中には、価格を大まかな判断で決めている人も少なくないでしょう。調子の良いときはそれでも問題ないかもしれません。
しかし、売上が減ったり原料価格が変わったりすると、途端に経営に支障をきたすようになります。価格は原価を踏まえて適切に設定しなければ、本来得られるはずの利益を損なうことになるのです。
特に、長期的な視点で経営を考える場合は原価管理が重要になります。何にどのくらいの費用がかかるのか数値として表れ、今後の見通しを立てやすいためです。このように、原価管理は堅実な経営を行うために不可欠と言えます。
飲食店における原価管理のやり方
続いて、飲食店における原価管理の具体的な方法を解説します。
1.食材の原価率を計算する
原価率とは、売上のうち原価が占める割合のことです。これを計算することで、適正な価格設定や仕入れ値の検討が可能になります。では、その計算方法を見ていきましょう。
1-1.売上原価の算出
原価率を求めるには、まず売上原価を明らかにしなければなりません。売上原価は以下の計算式で算出します。
理論原価とは「単価×使用量」で算出される原価のことです。たとえば、1個100円のリンゴを10個使用すれば、理論原価は1,000円となります。
しかし、実際には使用されずロスする分にもコストは掛かっています。リンゴ10個を使う間に、ほかのリンゴ2個が傷んで使えなくなったら、ロス分を合わせて1,200円として計上しなければなりません。そのロスを踏まえて算出する原価が売上原価です。
さらに、月ごとの売上原価を算出するには、以下の計算式も使います。
- 月締め売上原価=前月繰越+当月中の売上原価-翌月繰越
たとえば、前月のリンゴが3つ余り、当月に12個消費あるいは廃棄し、翌月に5つ繰越したら、月締めの売上原価は「3+12-5=10個⇒1,000円」となります。
1-2.当期原価率の算出
続いて、売上原価を元に当期原価率を算出します。当期原価率とは、一定期間(主に1か月間)における原価率のことです。以下の計算式で算出できます。
- 当期原価率(%)=当期間中の売上原価/売上高×100
例として、下記の条件を基にある月におけるリンゴの当期原価率を計算してみましょう。
- リンゴ1個の価格
- 100円
- 販売する焼リンゴ1個の価格
- 300円
- 販売した焼リンゴの個数
- 90個
- 廃棄したリンゴの数
- 10個
- 前月繰越
- なし
- 翌月繰越
- なし
- 当期原価率
- 月締め売上原価/売上高×100
=(前月繰越+理論原価+ロス分の金額-翌月繰越)/売上高×100
=(0+100円×90個+100円×10個-0)/(300円×90個)×100
=37.0%
よって、このリンゴの当期原価率は37.0%になります。
2.適正な原価率を設定する
適正な原価率は一概には言えません。業種によって異なるのはもちろん、業種が同じでも経営方針によって最適な原価率は大きく変わるからです。
一般的に、飲食業における適正値は25~30%といわれています。しかし、寿司店では約35%~40%です。商品1個に対して得られる利益は少なくなりますが、多くの顧客を集めることで利益を出しています。
反対に、高級レストランなどでは原価率は低くなります。原価率が低いのは商品価格が高いためですが、高級感や料理人の腕前を強みに集客し、利益を上げています。
自社で原価率をどのくらいにするかは、周囲の店を参考にすると良いでしょう。他店と異なる方針で原価率を決め、独自の強みを磨くことで集客できる状態が理想的です。
飲食店における原価管理のポイント
飲食店における原価管理には、他業種にはない留意点があります。2つ見ていきましょう。
歩留まりの考慮
飲食店はほかの業種と比べて歩留まりが低いため、原価率が想定以上に高くなる傾向があります。
歩留まりとは、食材の使える割合のことです。たとえば、リンゴ1個が300gでも、芯などを取り除いた可食部は250gくらいです。この点を考えなければ適切な原価管理はできません。
例として、リンゴ(1個:300g・原価100円)をジュースにして売る場合を考えましょう。ジュース1杯に使うリンゴを50gとし、その売値を100円とします。
- 【歩留まりを考慮しない場合】
- ジュースは「300g/50g=6杯」でき、売上高は600円です。よって、リンゴ1個あたりの原価率は「100円/600円×100=16.7%」となります。
- 【歩留まりを考慮する場合】
- 可食部は250gのため、実際にはリンゴ1個からジュースは5杯(500円分)しか作れません。よって、リンゴ1個あたりの原価率は「100円/500円×100=20.0%」となります。
レシピ表の作成
食材を何g使うかが正確に分かれば原価率計算が簡単になります。「販売数×1食あたりの使用量」で食材の合計使用量が分かり、その数値に1gあたりの原価をかければ原価の合計値が算出されるからです。
先述のリンゴジュースを例に考えてみましょう。リンゴ300gの可食部が250gで、この原価が100円です。したがって、1gあたりの原価は「100円/250g=0.4円」となります。
このとき、リンゴジュースを8杯販売したとしましょう。1杯あたりのリンゴ使用量をレシピで正確に50gと決めておけば、合計使用量は瞬時に400gと分かります。
よって、ジュース8杯分の原価は「0.4円×400g=160円」です。あとは、これを売上高で割れば原価率が算出されます。
したがって、飲食店における原価管理ではグラム単位でのレシピ表が鍵を握ります。複数の食材を使う商品でも計算に手間がかからなくなるでしょう。
飲食店において食材の原価率を抑えるポイント
飲食店において、原価率を少しでも低く抑えるにはどうすれば良いのでしょうか。
廃棄の多い食材を減らす
あまり売れないメニューを廃止したり、足の早い食材の使用を止めたりすることで、廃棄量を減らしましょう。廃棄量が少なくなれば、当期原価率の計算式における分子の値が小さくなり、原価率が減少します。
一般的に廃棄率が3%を超えると経営に支障をきたすと言われています。この数値を目安に、廃棄量が多い食材は思い切って取扱いを止めましょう。幅広い食材を扱うのを止め、特定の食材だけを扱う専門店にするのも良いかもしれません。ほかの店との差別化も同時に達成され、独自の魅力で集客できるようになるでしょう。
完全に取扱いを止められない場合は、注文率を高める工夫が必要です。ほかのメニューとセットで出すなどすれば、廃棄に回す量が少なく済むでしょう。
原価率が低い食材を仕入れる
食材を原価率が低いものにする方法もあります。ただし、この方法は利益ではなく損失をもたらす危険性があります。食材が低品質なものになった結果、顧客からの評価が下がる可能性があるためです。
ファストフード店のように安さを強みにするのであれば、あまり問題ないかもしれません。しかし、美味しさを強みにする場合は、食材の品質低下はリスクになります。むしろ、原価率を上げてでも美味しいものを提供した方が顧客が増えるかもしれません。
これらの問題を回避しつつ原価率を下げる方法として有効なのは、独自メニューの開発です。たとえ食材の品質が高くなくても、ほかの店で食べられない特別なメニューであれば需要が期待できます。
飲食店における原価管理の方法を知り、経営を最適化!
原価管理は堅実な経営には欠かせない活動です。以下の手順で原価率を算出し、適正な価格を設定しましょう。
- 1.売上原価の算出
- 2.当期原価率の算出
- 3.業種やライバル店を考慮し原価率を設定
また、飲食店の原価管理では以下のポイントを意識しましょう。
以上を踏まえ、経営の最適化を図りましょう。