原価計算とは
原価計算とは、商品やサービスを提供するまでにかかった費用を計算することです。その費用を「原価」と呼びますが、原材料だけでなく製造や販売をする従業員の人件費、テナントの賃料なども含みます。
原価計算は、適正販売価格の設定や経営計画にまで影響を与えるため、企業にとって非常に重要です。そのため、損失が出ないように正しい知識を持って原価計算をする必要があります。なお、製造業以外でも飲食業やIT業、接客・サービス業の方も知っておいて損はないでしょう。
原価計算の目的
原価は目的によって算出方法が異なります。1962年に策定された原価計算基準によると、原価計算の主な目的は以下の5つに分けられます。
- 1.出資者や債権者向けの財務諸表に記載するため
- 2.価格計算の資料にするため
- 3.原価管理に必要な資料にするため
- 4.予算編成や予算統制に必要な資料にするため
- 5.経営の基本計画を立てる資料にするため
参考:原価計算基準|北星学院大学
製造原価とは
製造原価は主に製造業において使われる用語で、製造にかかった材料費や人件費、設備費などが該当し、これを原価の3要素といいます。製造原価は細分化できるため、原価計算が複雑になりやすいといえます。
なお、販売にかかった原価は販売費といい、会社を運営し管理する費用は一般管理費と呼びます。また、製造原価の関連用語である「売上原価」は、販売したモノやサービスにかかった原価を指します。小売業においてよく使われる用語で、売れたモノに対する仕入れ原価、と覚えておくとよいでしょう。
製造原価や売上原価との違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
【形態別】製造原価の構成要素
ここからは製造原価の分類について詳しく見ていきましょう。
分類の方法もいろいろとありますが、まずは費用発生の仕方で分類した「形態別」に構成要素を紹介します。
1.製造にかかる材料や原料を指す「材料費」
製品の製造に必要な原材料や部品を消費した際の費用は、材料費に分類されます。製品のパーツなど直接製品の一部となるものはもちろんですが、製品の組み立てなどに利用する工具の費用も材料費です。
材料費を詳細に分類すると、以下の5種類に分けられます。
- 原材料費
- 製品の材料にかかる費用
- 買入部品費
- 外部企業から仕入れる物品にかかる費用
- 燃料費
- 製造に必要な燃料にかかる費用
- 工場消耗品費
- 製造に必要な道具のうち、少額なものにかかる費用
- 消耗工具器具備品費
- 大型の工具や機材にかかる費用
2.製造・販売にかかる労働の対価を指す「労務費」
労務費とは、製品の製造に必要な労力にかかる費用で、以下の5つに分類されます。
- 賃金
- 正社員や契約社員など、月給制で製造業に従事する人の給与です。基本給に加え、時間外労働や深夜労働などによる割増分も該当します。
- 雑給
- アルバイトやパートタイマーなど、時給制で製造業に従事する人の給与です。賃金同様、割増賃金の支払いも含みます。
- 従業員賞与手当
- 従業員に支払う賞与や手当(交通費、家族手当など)です。賞与や手当の支払いに関しては、月給制と時給制で働く従業員の区別はありません。
- 退職給付費用
- 将来的に支払われる退職金として、企業で積み立てられているお金を指します。製造部門に従事する従業員の退職金は労務費に分類されます。
- 福利費
- 社会保険料や労働保険料が該当します。福利費も製造部門に従事する従業員のものだけを労務費として計上します。
3.その他の原価を指す「経費」
経費とは、製造にかかる費用のうち、材料費と労務費に分類されないものです。以下の4種類に分類されます。
- 測定経費
- 消費量が測定されるものです。電気代や水道代などの費用が該当します。電気代は材料費の燃料に該当すると思われがちですが、測定経費として計上します。
- 支払経費
- 何に支払ったのか明らかな経費です。租税公課や広告宣伝費、通信費、修繕費、雑費などが該当します。
- 月割経費
- 数か月分を支払う経費です。電話やコピー機のリースや、業務上必要な新聞・雑誌の購読などが該当します。
- 発生経費
- 金銭の支払いはないものの、経費として計上すべきものが該当します。減価償却費が代表的です。
【製品との関連別】原価の構成要素
原価は、製品との関連によって、直接費と間接費に分類することも可能です。
製品・サービスへ明確に関わっている「直接費」
直接費とは、その名の通り製品やサービスの製造に直接関わっている費用です。例えば、テーブルを製造する場合、使用する木材やネジなどが直接材料費に該当します。
また、テーブルの製造にのみ従事する作業員の給与も、テーブルの製造に直接関わっていることが明確です。そのため、直接費の一種である直接労務費に分類されます。
製品・サービスへ直接関わらない「間接費」
間接費は、直接費とは逆に、どの製品の製造に使われたのかが曖昧な費用です。主に、形態別分類における工場消耗品費や消耗工具器具備品費が該当します。
また、製造に直接関与していない従業員の労務費も間接費に該当します。例えば、事務に携わる従業員の給与は間接費です。
そのほか、電気代や水道代、修繕費、減価償却費など、形態別分類における経費の多くが間接費に該当します。
【製造業向け】原価計算の種類
続いて、原価計算の種類を見ていきましょう。原価計算の分類にもいくつかの方法がありますが、ここでは製造業向けに3種類紹介します。
標準値にもとづいて算出する「標準原価計算」
材料や労働力の標準使用量や標準使用時間から算出する原価を標準原価といい、その計算を標準原価計算といいます。標準原価計算は実際の使用量や使用時間から算出するわけではないため、精度が低いと実際の数値と合わなくなる可能性があるのが難点です。
しかし、実際の数値を用いないことによるメリットもあります。標準原価計算によって算出した原価と実際の原価の差異が大きい場合、作業効率の改善が必要だと判明します。したがって、コストダウンや原価管理目的で算出されるのが一般的です。
実績値にもとづいて算出する「実際原価計算」
実績原価計算は、標準原価計算とは異なり、実際の使用量や使用時間から原価を算出する方法です。実際原価計算は、標準原価計算よりも高い精度で実際のコスト算出が可能です。したがって、実際原価計算は現状を把握するために行われます。
標準原価計算の結果と大きな差異があれば、実際の作業に問題があることがわかります。標準原価計算の結果を目標とし、実際原価を目標に近づける取り組みをすれば、製造の効率を上げられるでしょう。
なお、標準原価計算と実際原価計算を「全部原価計算」といい、財務諸表には全部原価計算で計算した原価を反映させるため財務会計と関連しています。
固定費と変動費に分類する「直接原価計算」
直接原価計算は、原価を変動費と固定費に分けて変動費を原価として原価計算する方法です。
変動費とは、製品の生産量に比例して発生する費用のことです。固定費は製品の生産量に比例しない費用を指します。固定費は製品の生産量が増えるほど、全体の費用に占める割合が小さくなります。製品を多く製造するほど、1つの製品を作るのにかかる固定費は減少するのです。
例えば機械を組み立てる場合、その部品にかかる費用は変動費です。一方、組み立てに使う工具の費用は固定費に分類されます。
固定費と変動費を分けて考え、変動費を原価として原価計算することで、実際の採算性が分析しやすくなるのが利点です。そのため、直接原価計算法は損益分岐点分析などに利用されています。
また、直接原価計算は「部分原価計算」と呼ばれ、管理会計と結びつけて行われます。
原価計算を行う方法
次は、原価計算の方法を見ていきましょう。
手動で計算する
原価計算は費目別原価計算、部門別原価計算、製品別原価計算の3段階で行います。
- 費目別原価計算
- 原価計算では最初に行います。なぜなら、原価データの多くが費目別に管理されているためです。費用を材料費・労務費・経費に分類し、それらをさらに直接費と間接費に分類して、それぞれ計算します。
- 部門別原価計算
- 費目別原価計算で算出した各費目の費用について、どの部門が費用の責任をもつのかを明らかにし、分配する段階です。例えば、製造部は原材料や労務費、技術部は設備や工具などの費用に責任をもつことになります。
- 製品別原価計算
- 製品ごとの損益を明らかにする段階です。直接材料費・直接労務費・直接経費・製造部門費を製品別に集計します。
原価管理システムで計算する
手動で計算するのは大変煩雑で、知識が必要です。複数の計算方法があるため、エクセルで管理するのも容易ではありません。
しかし、原価管理システムを使えば複数の計算も円滑に行えます。ITシステムに計算を一任することで、原価計算に必要な労力やコストを大幅にカットできるでしょう。さらに、計算の結果がすぐに得られるため、経営者は迅速な経営判断が可能になります。
原価計算の方法を簡単にしたい方や原価計算の精度を上げたい方は、システムでの原価計算方法がおすすめです。
一口に原価管理システムといっても、さまざまな機能や形態があるため、自社に適した製品を見極めることが大切です。原価計算システムについて気になる方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
原価計算を効率的に行って、経営を最適化しよう!
原価計算の種類や計算の方法を紹介しました。計算は手動でもできますが、原価管理システムを活用することで大幅に効率化が見込めます。システムの導入を視野に入れ、経営の効率化を目指しましょう。