製造原価報告書とは
製造原価報告書とはどのような書類なのでしょうか。「製造原価明細書」や「売上原価」など、似た用語もあるので違いも押さえておきたいところです。また、作成義務の有無については注意が必要なため、よく理解しておきましょう。
製造原価報告書の意味
製造原価報告書とは、製造業で必要な財務諸表の1つです。製造原価明細書と呼ばれることもあります。当期に販売した製品の製造原価を、ステークホルダーと共有するために作成します。
製造原価報告書は、損益計算書に記載される売上原価を補完する資料です。基本的に損益計算書への添付が求められますが、連結財務諸表においてセグメント情報を注記している場合は必要ありません。よって、グループ企業などの財務諸表では不要とされています。
製造原価と売上原価の違い
製造原価と混同されがちな用語に、売上原価があります。前者は、販売する製品の製造に要した原価のことです。一方、後者は売上を得るために要した費用をいいます。
例えば、製品そのものの部品にかかった費用は、製造原価のうち材料費に該当します。製造作業に従事した従業員の人件費も製造原価です。一方、販売場所を用意するための費用は製造原価に該当せず、売上原価に当てはまります。
作成義務の有無
先述のとおり、製造原価報告書の作成義務はありません。あくまで損益計算書を補完するための資料です。しかし、損益計算書と貸借対照表だけで製造業における経営状況を明らかにするのは困難です。そこで製造原価報告書を作成し、材料費・製造経費・労務費・外注費などを明記することで、より経営状況を明確化できます。

製造原価報告書を作る2つのメリット
作成義務のない書類を作るのは、煩雑に感じられるかもしれません。しかし、作ることでいくつかのメリットが得られます。よりよい経営状況を実現するために、製造原価報告書を活用しましょう。
原価や人件費などが認識できる
製造原価報告書を作成しない場合、製造と販売に要した費用が合算されます。製造部門と販売部門の区別がなくなり、どちらにどれほどの費用がかかったのかわかりません。 一方、製造原価報告書を作る場合、製造部門と販売部門の経費を区別して管理する必要があります。煩雑ではありますが、詳細な認識が可能になります。
経営の分析ができる
では、原価や人件費を正確に認識すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。最大のメリットは、経営状況の分析と最適化を図れることです。
経営状況の改善に必要なのは、利益の向上だけではありません。経費を抑えることも大切です。経費を抑えるには現状を分析し、製造プロセスや人員配置に潜む無駄を取り除く必要があります。そこで、製造原価報告書によって原価や人件費を認識していれば、効果的に無駄を排除できます。
経営が好調なうちは、製造原価報告書の必要性を感じられないかもしれません。しかし、窮地に立たされた際に具体的な打開策を立案できるかどうかが、製造原価報告書に左右される可能性があります。いざというときに備えて、作成する体制を整えておくとよいでしょう。
製造原価報告書の見方や計算方法
製造原価報告書にはいくつかの項目が記載されます。各項目の関係を押さえておかなければ、経営状況を把握できません。そこで、次は各項目の意味と計算式を紹介します。見方を理解し、製造原価報告書から自社の状況を分析できるようになりましょう。
製造原価報告書の記載項目
製造原価報告書には、製造原価の内訳を記載します。以下の項目に分けて記載されるのが一般的です。
- 当期材料費
- 製品製造に要した材料の費用です。
- 当期労務費
- 製造に従事した従業員の人件費です。給与や賞与のほか、福利厚生や社会保険料なども含まれます。
- 当期経費
- 製品製造に要した経費です。工場の水道光熱費や消耗品費、減価償却費などが該当します。
- 仕掛品
- 製造途中の製品の金額です。
- 当期製品製造原価
- 当期に完成した製品の製造原価です。損益計算書にも記載されます。「当期総製造費用 + 期首仕掛品棚卸高 - 期末仕掛品棚卸高」で算出します。
計算の方法
続いて、前述の各項目について計算方法を紹介します。
- 当期材料費
- 「期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高」で算出します。
- 当期労務費・当期経費
- これらは当期に発生した労務費・経費を、単純に計上するだけで問題ありません。
- 仕掛品
- 期首仕掛品棚卸高・期末仕掛品棚卸高をそれぞれ計上します。
- 当期製品製造原価
- まず、当期材料費・当期労務費・当期経費の合計である当期総製造費用を計算します。そして、「当期総製造費用 + 期首仕掛品棚卸高 – 期末仕掛品棚卸高」で当期製品製造原価を算出します。
- 1つ簡単な例を見てみましょう。材料費・労務費・経費が合計で100万円かかったとします。期首時点で仕掛品は30万円、期末時点では10万円あったとします。新たに消費した総製造費用100万円に加え、仕掛品からは20万円が消費されたわけです。よって、当期製品製造原価は120万円となります。
製造原価報告書に関する知識を深めて正しく記載を
製造原価報告書は、製造業において損益計算書の内訳を示す書類です。損益計算書に記載される当期製品製造原価を、材料費・労務費・経費に区別します。
区別しなければならない分、管理は煩雑です。しかし、自社がどこにコストをかけているのか分析できます。無駄を省いて効率的な経営体制を整えるのに役立つでしょう。作成義務はありませんが、経営改善のために作成体制を整えるとよいかもしれません。
