ものづくり補助金とは
ものづくり補助金とは「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の略称で、中小企業庁と独立行政法人中小企業基盤整備機構が制度化した補助金です。生産性向上を実現するための革新的なサービスの開発、試作品開発、生産プロセス改善のための設備投資支援を目的としています。
「ものづくり」と聞くと、製造業における工作機械が対象と考える方も多いでしょう。しかし業種に関係なく、生産性向上につながる設備の導入であれば補助対象になります。そのため、採択事例にはサービス業・小売業・農業などさまざまな業種の事業者があげられています。さらに条件を満たせば、個人事業主も応募が可能です。
なお、ものづくり補助金には3つの部門が用意されていることを覚えておきましょう。中小企業による設備投資などを支援する一般型・グローバル展開型と、30名以上の中小企業の事業計画策定を支援するビジネスモデル構築型があります。
参考:ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト|全国中小企業団体中央会
ものづくり補助金の対象
ものづくり補助金を申請できる対象者の条件を次にまとめました。
- ■すでに創業している
- 申請時点で事業を開始していることが条件です。法人の場合は設立登記を行っている必要があり、個人事業主の場合は税務署に開業届を出している必要があります。
- ■企業規模が条件を満たしている
- 業種によって資本金と従業員数の上限がそれぞれ定められており、いずれかが基準以下であれば対象です。例えば、製造業や建設業、ソフトウェア業は資本金3億円以下、従業員数300人以下が条件です。またその他サービス業は資本金5,000万円以下、従業員数100人以下、小売業は資本金5,000万円以下、従業員数50人以下と、業種によってかなり開きがあります。
- ■賃金の引き上げ計画を従業員に表明している
- 営業利益・人件費・減価償却費を足した付加価値額と、賃金の引き上げ要件を満たすような事業計画を策定し、従業員に表明していることが必要です。
補助金の金額と補助率
ものづくり補助金の補助上限額と補助率は以下のとおりです。
- ・補助上限額:一般型は1,000万円、グローバル展開型は3,000万円
- ・補助率:1/2~2/3
補助率については原則1/2ですが、従業員5名以下(一部業種は20名以下)の小規模事業者であれば補助率は2/3になります。また、先端設備導入計画や経営革新計画の認定を受けていれば、同じく補助率2/3が適用されます。補助率を上げるための条件は難しくないため、ほとんどの申請者が補助率2/3で申請しているのが実状です。なお、新型コロナウイルスの蔓延に伴い、一般型に追加された「低感染リスク型ビジネス枠」の補助率は3/4です。
参考:
令和2年度補正予算「ものづくり補助金」の「特別枠」の公募が開始されました|中小企業庁
低感染リスク型ビジネス枠|小規模事業者持続化補助金
2022年以降の実施スケジュールと変更点
ものづくり補助金のうち、一般型とグローバル展開型は約3か月ごとに通年で公募を行っています。
2022年以降の実施スケジュールは以下のとおりです。2023年度の情報は、発表され次第更新します。
- 一般型・グローバル展開型
- ●12次
- 公募期間締切:2022年10月24日(月)17時
- 採択発表:12月16日(金)
- ●13次
- 公募期間締切:2022年12月22日(木)17時
- 採択発表:2023年2月中旬予定
- ※1次~11次までは省略
参考:スケジュール|ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト
- ビジネスモデル構築型
- ●4次
- 公募期間締切:2022年9月9日(金)17時
- 採択発表:2023年1月中旬予定
- ※3次までは省略
参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金公募要領(ビジネスモデル構築型3次公募)|ものづくり・商業・サービス補助金事務局
2022年度は、応募期間を約2か月、審査期間を約1か月として、6月・9月・12月・3月の四半期ごとに採択発表を行いました。採択された後は各事業者が交付申請を行い、1か月ほどで交付決定です。
ものづくり補助金の最新情報
2021年12月20日に、令和3年度補正予算が政府案どおり成立したと発表されました。中小企業庁が作成した補正予算の資料によると、デジタル化やグリーンエネルギーの活用により、生産性を引き上げようとする企業への支援を拡充する見込みです。具体的には、通常枠・回復型賃上げ・雇用拡大枠・デジタル枠・グリーン枠・募集枠の見直しが行われており、今後ますますものづくり補助金を受けられる企業が増えるでしょう。主な変更点を以下にまとめました。
- ■従業員規模に応じた補助上限額の設定
- 賃金引き上げを行う事業者支援を強化。補助上限額を一律1,000万円から、従業員数に応じた金額に見直し。上限額は750~1,250万円になる予定。
- ■補助対象事業者の見直し・拡充
- 対象事業者に「資本金10億円未満の特定事業者」を追加。これにより中小企業だけでなく、中堅企業も要件を満たす可能性が高まる。
- ■回復型賃上げ・雇用拡大枠の新設
- 業績が厳しい事業者に向けて新たな枠を創設。通常の要件に加えて、前年度の事業年度の課税所得が0の事業者が支援対象となる。
- ■デジタル枠の新設
- DX(デジタル・トランスフォーメーション)に資する製品・サービスの開発や、デジタル技術を活用した生産プロセスの改善を行う事業者が対象。
- ■グリーン枠の新設
- 温室効果ガスの排出削減に資する製品・サービスの開発や、炭素生産性向上を伴う生産プロセスの改善などを行う事業者が対象。
2023年度の情報は、発表され次第更新します。
参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業
令和3年度補正予算の概要|中小企業庁
ものづくり補助金の申請方法と注意点
補助金の申請は、現在インターネットを介した電子申請に一本化されています。ものづくり補助金のWebサイトから電子申請システムページへログインし、必要事項の入力と書類を添付したうえで、データ送信・申請できます。手順はシンプルですが、申請に必要な添付書類の準備に大きな手間がかかるのです。そのため、事前に自社の要件や注意点を知っておくとよいでしょう。
ものづくり補助金の申請にあたって確認しておくべき点は以下のとおりです。
- ■GビズIDプライムアカウントの取得が必要
- GビズIDとは、ひとつのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできる認証システムです。電子申請システムにログインするにあたり、事前にGビズIDを取得しておく必要があります。
- ■申請しても採択されない場合がある
- これまでの採択結果をみると、ものづくり補助金の採択率は30%から50%程度です。申請したら必ずもらえる補助金ではないこと、また数多くの事業者のなかから採択されるためには、書類作りが重要であることを理解しておきましょう。
- ■補助事業期間が決まっている
- ものづくり補助金の場合、交付決定から最大10か月間の間に支出された経費が補助金の対象となります。補助事業期間の前後の支出については補助金が下りないため、応募前にスケジュールを確認しておきましょう。
- ■採択された後の諸手続きに手間がかかる
- 採択を受けたら、すぐに補助金が下りるわけではありません。交付申請手続きを行い、中間監査や実績報告を経て補助金を受けた後、さらに定期的に事業化状況報告を行います。補助金が下りるまでに時間がかかるため、資金繰りに注意しましょう。
ものづくり補助金の採択を受けるためのポイント
申請書類に手間がかかるうえに、採択率も決して高くはないため難しいと感じる方も多いでしょう。ここでは、採択率を上げるための書類作成のコツを解説します。
市場のニーズと規模を客観的な数値で示す
補助金を活用する事業がいかに将来性があり、ビジネスの拡大を見込めるかを具体的に示すことが重要です。そのためには、市場のニーズや規模、販路拡大の見込みを客観的な数値で説明しましょう。客観的な数値は、公的な統計データをもとにするのが一般的ですが、それだけでは不十分です。
例えば、補助事業が新製品開発の場合、既存顧客の生の声を取り上げ、実際の要望や課題を具体的に記載します。顧客の声を定量的に示すことができれば、新製品の売上や利益を推測しやすくなり、事業効果を客観的な数値で提示可能です。市場ニーズとともに自社の顧客ニーズも把握・分析し、そこから得られる数値も上手に活用しましょう。
加点項目にもれなく対応する
ものづくり補助金では申請書の内容に関係なく、加点要素となる項目があります。競争率が高く、他社との差別化が難しいものづくり補助金で採択を受けるためには、加点項目に漏れなく対応することは必須です。2022年現在の加点項目は以下のとおりです。
- ■成長性加点
- 有効期間内に経営革新計画を申請し、承認を受けていると加点されます。経営革新計画とは、事業者にとって新しい商品や生産方法など、新しい取り組みをはじめた際に申請できます。経営革新計画の作成から認定までには時間がかかるため、ものづくり補助金と同時申請にならないよう余裕をもって準備しましょう。ものづくり補助金と同時に申請の必要はありませんが、経営革新計画の作成から認定までには時間がかかるため、余裕をもって準備しましょう。
- ■政策加点
- これは小規模事業者、または創業から5年以内の事業者が対象となります。当てはまる場合申請などの手続きは不要で加点されます。
- ■災害等加点
- 有効期間内に事業継続⼒強化計画の認定を取得していることが条件です。事業継続⼒強化計画とは、自然災害や新型コロナウイルスのようなリスクに対し、事前に対策を計画している事業者に対し認定される制度です。経営革新計画に比べて短期間で作成・申請が可能なため加点を得やすいでしょう。
- ■賃上げ加点
- 補助金の要件に給与支給額の引き上げも含まれていますが、基準を大幅に超えると段階的に加点される仕組みです。賃上げ加点は個人事業主や、家族経営などの小規模事業者であれば比較的対応しやすいでしょう。
なお、度々要件や添付書類の変更が公表されています。応募を検討している方は最新情報の確認を心がけましょう。
革新性をアピールする
加点要素に対応したとしても、多くの事業者が最低限加点要素は抑えてくることが想定されるため、ものづくり補助金の採択を受けられるとは限りません。ここでは要件のひとつとなる「革新性の高さ」がアピールできるポイントを紹介します。
一般的には、以下のような要素を適切に組み合わせながら、革新性の高さを訴求します。
- ●自社が現時点で実施している事業の新規性・独自性をアピールする。
- ●自社が展開している事業の地域密着性・その地域での必要性・社会への貢献度をアピールする。
- ●自社が導入しようとする設備やITツールの新規性・独自性をアピールする。
- ●自社がこれからはじめる事業の新規性・独自性をアピールする。
採択される可能性を高めるためには、ストーリー性も重要です。一般的に、以下のようなストーリー性を申請書のなかで組み立てられれば、審査員に訴求しやすく採択率は高まるでしょう。
- 現状の事業は好調である
- ▼
- 社会的な課題を解決するために、新規事業を検討している
- ▼
- 新規事業を展開するためには、〇〇という課題がある
- ▼
- 〇〇を解決すれば、新規事業を展開できるので、さらに業績が伸びる
事業効果を数値やグラフでわかりやすく示す
事業効果の説明には、客観的な根拠となる数値や、ひと目でわかるようなグラフや図を活用し、説得力のある資料を作成しましょう。例えば、生産性の向上や既存製品の品質向上などを目的にシステム導入する場合、導入後の目標値を具体的に提示します。そして同時に、「なぜその目標値なのか」も説明しましょう。業界知識のない審査員も納得しやすいように、明確でわかりやすい資料の作成が重要です。
専門家に依頼する
採択率が半数前後のものづくり補助金の採択を受けるために、一番悩むのが書類の作成です。自身で作成する場合は数週間から数か月かかるため、多くの企業でコンサルティング会社や専門家に依頼しています。専門家には、中小企業診断士や税理士・行政書士・公認会計士などがあり、申請代行に特別な資格は必要ないため、実績が豊富で信頼できる専門家を頼りましょう。
ものづくり補助金を利用したITツールの導入事例
ものづくり補助金の採択に成功した設備投資の中心は、工作機械が占めています。しかし、生産性や業務効率の向上を目的に、ITツールを導入する企業も決して少なくはありません。ここでは、ものづくり補助金を利用したITツールの導入事例を紹介します。
IoTを活用した生産性向上
社員数30名弱のある製造業では、半導体装置向けの金属加工が全受注量の約4割を占めていましたが、リーマンショック以降、急激な需要の減少に直面しました。その状況下で、同社の技術力に着目した画像診断装置メーカーから、高精度の複雑な部品の製造依頼が舞い込みます。成長市場への新規参入につながるとあって受注を検討しましたが、多段階の加工が必要となり、生産工程におけるボトルネックの発生が懸念されました。
これを解決するために生産管理システムを導入し、IoT技術を活用して負荷状況等を監視できる仕組みを実現。その結果、生産機械の稼働状況や加工情報、生産負荷をリアルタイムに監視できるようになり、多品種の生産進捗状況の把握も可能になりました。
クラウド・カメラ・IT端末の活用による介護サービスの向上
社員数およそ30名のある介護事業者では、介護スタッフによるきめ細かな介護が好評でした。しかし、夜間の介護施設の巡回や紙ベースでの介護記録等が、介護スタッフの負担になっていました。
業務負担を軽減するためにカメラを設置して、介護スタッフと入居者の家族がリアルタイムで介護状況を確認できるようにしたのです。同時にクラウドサービスを利用し、スタッフの介護記録のデジタル化を実現しました。これにより、介護スタッフの生産性は劇的に向上したのです。
業務のデジタル化による紙文書削減と生産性向上
社員数15名のある製造業者は、鋼材購入から切断・鍛造・熱処理・検査・配送までを、社内で手掛ける一貫生産体制を強みとしていました。しかし、個別受注生産の見積作成を、熟練技能者の経験と勘に頼っていました。受発注記録や見積もりなどが紙で保管され、在庫は担当者が目視で確認する状況だったため、生産性は極めて悪かったようです。
これを改善するために、受注管理・工程管理・在庫管理の各システムの導入を決断します。現状の受注状況を見える化し、余力管理を実現。受注後の納期回答を、誰もが正確に回答できるようになりました。見積作成納期や在庫管理の手間も削減し、生産性や品質の向上を実現したのです。
システム開発でものづくり補助金の採択を受けるポイント
ものづくり補助金を利用してシステムを開発・導入するためには、どのような点に気をつけたらよいのでしょうか。採択を受ける際のポイントについて解説します。
生産性向上につながるITツールを選ぶ
システム開発やツールの導入にものづくり補助金を活用したい場合、要件にある「革新的サービスの開発」に重点を置き、申請するのがおすすめです。ただし、数多くの申請から採択を受けるためには、システム開発によって自社の体制や技術にどのような効果をもたらしたのか、今後どのような成長が期待できるのかを、明確に説明しなくてはなりません。
通常のシステム導入と同様に、自社の課題の洗い出しと、課題解決につながるソリューションの明確化といったプロセスを踏むことで、生産性向上につながる理由の説得力が上がります。
経営層を巻き込んだ申請書作成体制の確立
ものづくり補助金の申請書には、会社がおかれている経営状況を分析し、今後展開する事業内容にもとづき、「ITツールを活用した補助事業が必要になる」といったストーリーが必要です。財務分析も求められ、少なくとも2期分の決算書が必要です。情報システムの担当者だけで、作成できる内容ではありません。
外部の専門家に依頼する場合でも、経営状況のヒアリングなどは経営層に対し直接行う必要があります。ものづくり補助金は資金面の補助を通じて、経営層にこそ大きな恩恵を与えます。現場任せにせず、経営層が積極的に申請書作成に関わってください。
自社の業務内容やパートナーとの関係性の洗い出し
前述のように、ものづくり補助金には革新性が強く求められます。自社が当たり前のように展開している事業内容や仕事の進め方のなかに、ほかの会社では模倣が難しい革新性が潜んでいることは少なくありません。ものづくり補助金の申請書作成をきっかけに、自社の事業内容を棚卸しして整理しておくとよいでしょう。
革新性の訴求対象は、自社が展開している事業内容に限定されるわけではありません。提供している製品、協力関係にあるパートナー、導入しようとしているITツールなど、複数要素から多角的に分析する必要があります。申請書作成をスムーズに進めるためにも、事業の中に潜む革新性を洗い出しておきましょう。
ポイントをおさえて申請を検討しよう
ものづくり補助金は、手厚い補助金が受けられるので、中小企業の生産性向上の強い味方です。補助金を活用して、ITツールなどの導入を検討してみてはいかがでしょうか。申請書の作成は、専門家に相談するのがおすすめです。自社の生産性向上の一歩を、補助金の検討から進めてみましょう。