RPAガバナンスの重要性
ガバナンス(governance)を日本語に訳すと「統治」「管理」「支配」を意味します。RPAガバナンスとは、RPA運用の安全性を確保しつつ、有効活用するための仕組みです。
詳細については後述しますが、RPAガバナンスを蔑ろにすると、導入の目的や目標を達成できなかったり、不正やインシデントを招いたりと多くの課題が発生します。それらを防ぐためにはルールや体制を作り、現場が好き勝手にRPAを利用している状況を改善しなければなりません。
ただし安全性を追求するあまり業務が非効率化したのでは、RPA導入の意味がありません。単なる使い方のガイドラインに終始するのではなく、安全性の確保と導入効果の最大化を実現するのがRPAガバナンスの目指すところといえます。
以下、RPAガバナンスの考え方一例です。
- ■例)RPAによる業務時間の削減
- 経営者が「月○時間削減」と目標を掲げた際、その目標値が達成困難なものだったらどうでしょうか。現場では無理に効率を求め、本来RPAを適用すべきでない業務にまで適用し始める恐れがあります。だからといって、目標値が低すぎると業務は効率化しません。
この場合、ちょうどよい目標値を設定して現場に適切なRPA利用を促すのが、優れたRPAガバナンスと考えられます。
RPAを導入する企業は年々増え、広くRPAの普及が進むとともに、課題も顕在化しています。課題解決につながる運用ルールの作成や秩序ある体制の整備が、今後も求められるでしょう。なお、これからRPA導入を検討している方には、以下記事がおすすめです。特徴や価格がひと目で比較検討できます。
RPAガバナンス構築のポイント
RPAガバナンスの構築には、どのようなポイントを意識すればよいのでしょうか。
導入目的や目標の明確化
RPAガバナンスとは「RPA導入効果を最大化すること」が目的の一つです。そのためにもまずは自社のRPA導入の目的、達成したい目標を明確化しましょう。RPA導入で解決したい課題や求める効果を明らかにし、可能な限り具体的な数値を設定します。また同時に、導入後のリスク対応についても勘案する必要があります。
それにより、「どの部門の何の業務にどのようなRPAを適用するのか」「RPA導入を禁止する業務の検討や設定」などのガイドラインが決めやすくなるでしょう。
なお、一般的にRPA活用で効果が得られやすいのは、データ化されている情報を扱う業務やルールが明確な業務、手順が確立していて繰り返し行われる業務とされています。逆に個人情報を扱う業務などは注意が必要です。
RPAの業務選定については、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が公開している「RPA 導入実践ガイドブック」内にも記載があります。必要に応じて参考にしてください。
参考:RPA 導入実践ガイドブック|政府CIOポータル
責任の所在や部門間連携の明確化
RPAガバナンスのもうひとつの目的「安全性の確保」のためにも、システム障害などトラブル発生時の対応や責任の所在について明確化し、ガイドラインに盛り込んでおきましょう。また、全社での推進はどの部署が中心となりどのように進めていくのか、現場部門の主導なのか情報システム部門が行うのかなど、管理や統括体制についても整えておく必要があります。
いずれにしても部門間連携が整っているほど、業務効率化のスピードや問題への対応はスムーズになるでしょう。RPA運用のブラックボックス化や野良ロボットの抑止としても有効です。
RPA人材の育成
一方、ルールを決めても社員が遵守できるとは限りません。したがって、リスク認識を醸成するための社員教育の機会を設けることが不可欠です。自社でセミナーを開催するほか、RPAベンダーが提供するセミナーを利用するのもよいでしょう。
特に統制を担う経営者やRPAロボットの開発者は、率先してRPAへの理解を深め、リスクを認識したうえで開発や導入を進める必要があります。RPAを安全性かつ有効活用するために、RPA人材育成の環境を整備しましょう。
RPAのインフラ環境も考慮
導入するRPAツールがサーバ型かデスクトップ型かなど、提供形態によってもセキュリティの強弱や管理手法には違いが生じます。運用ルールやガイドラインの策定の際には、ロボットの権限設定やID管理などの機能、既存システムへとの連携や影響なども考慮しておくと、より効果的なガバナンスが実現するでしょう。
なお、RPAツールの種類による違いを解説した記事はこちらです。
RPA導入におけるリスクや課題
RPAの導入により起こりうる課題やリスクについて解説します。安全性を高め、効果を最大化するためにも、問題解決につながるルールやマニュアルを作成し、ガバナンスの構築を実現させましょう。
運用の無秩序化・属人化
RPAは現場の業務を効率化するためのものです。したがって、社内でRPAを導入すると、各現場ではそれぞれの業務に用いられるRPAロボットが次々と開発されます。しかし、ルールを設けずに開発し続けると、どの部門で何の業務にどのようなRPAロボットが使われているのか企業全体で把握できなくなるでしょう。
一時的な業務効率化や利益を得て満足するかもしれませんが、後々大きな問題につながる恐れがあります。例えば、RPAロボットの管理者が退職や異動でいなくなったときに、そのRPAロボットがどのように業務を遂行しているのかわからなくなります。後任者は業務を把握できず、問題が生じた際の対処が困難になるでしょう。
例外処理への誤対応
RPAはすべての業務に対応できるわけではありません。単純な業務なら遂行できますが、例外的な状況への対応は困難です。RPAを設計する段階で例外処理への対応を決められますが、事前にすべての例外を想定するのは非現実的です。したがって、例外処理が多い業務には安易にRPAを適用すべきではありません。
ところが、現場では業務の効率化を急ぐあまり、不適切な業務にRPAを適用してしまうことがあります。その結果、ミスや業務停止が生じていることに誰も気づけず被害を生み出すケースも存在します。RPAの有効活用には適切な業務選定が非常に重要です。
インシデントや不正への未対応
RPAロボットは、自然災害やシステム障害などのきっかけで正常に稼働しなくなることがあります。RPAロボットが担っていた業務は完全な停滞を強いられてしまうでしょう。そのような事態に備えるには、バックアップ体制を整えておかなければなりません。しかし、企業全体でルールを作らずに現場に任せきりにしていると、十分なバックアップ体制が構築できない可能性があります。
一方、RPAロボットを不正利用されるリスクも考えなければなりません。例えば、社員がRPAロボットを悪用して社内の機密情報を盗みだす危険性もはらんでいます。そのため、ロボット開発時に異常発生時の処理やセキュリティ対策を施したり、RPAを使用する側のリスク認識や権限管理なども重要です。
RPAガバナンスを構築し導入効果を最大化しよう
RPAの活用を現場任せにしていると多くの問題が発生します。それらを防ぐにはルールや体制を作り、現場が好き勝手にRPAを利用している状況を改善しなければなりません。その活動こそがRPAガバナンスです。RPAを安全に運用し、導入効果を最大化するためにも、ぜひRPAガバナンスの構築ポイントを役立ててください。