中小企業こそRPA導入が必要な理由
大企業を含め、各企業がRPA導入を進める背景には大きく分けて「少子高齢化による人手不足」と「長時間労働見直しによる業務効率化」が挙げられます。
さらに中小企業の場合は以下3つの要因により、RPA導入の必要性が高まっています。
慢性的な人手不足
会社規模や業種にかかわらず中小企業の人手不足は深刻な問題です。平成29年5月8日に中小企業基盤整備機構が発表した「人手不足に関する中小企業への影響と対応状況」によると「人手不足を感じている」と回答した中小企業は7割以上にものぼります。
しかし中小企業の人手不足問題はさらなる大きな課題を抱えています。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、多くの中小企業では業績悪化に伴い、例年通りの採用が難しい側面が否めません。これらの課題を解消する施策の一つとして、RPAに注目が高まっている背景があります。
参考:中小企業アンケート調査報告「人手不足に関する中小企業への影響と対応状況」|中小企業基盤整備機構 広報統括室
ノウハウ・ナレッジが蓄積されづらい
中小企業は大企業比べ従業員数が少ないことから、一人で複数の業務を兼任することが珍しくなく、業務が属人化しやすい傾向にあります。さらに人手不足の背景から、普段の業務に追われ、担当者が持つノウハウ・ナレッジの「見える化・共有化」ができていないケースが少なくありません。
そのため担当者が離職するたびに業務が停滞し、業務効率がさらに低下しやすい状況下にあります。
大企業に比べ労働生産性が低い
中小企業庁が発表した2021年度版「中小企業白書」によると、大企業における従業員一人当たりの付加価値額(労働生産性)は中小企業の約2.3倍にもなります。
企業規模により大きく差が生まれるのは当然のことでしょう。しかし注目すべきは、2019年のリーマンショックの影響で大企業の労働生産性は一旦落ち込むものの、2019年時点では付加価値額(労働生産性)は300万円ほど回復している点です。対して中小企業は長らく横這い傾向が続いており、大企業との差は徐々に拡大傾向にあることがわかります。
参考:2021年度版「中小企業白書」|中小企業庁
中小企業におけるRPA導入率の推移
株式会社MM総研の調査によると、中堅・中小企業におけるRPA導入率の推移は以下のとおりです。
中堅・中小企業のグラフを見ると、2019年1月から2019年11月にかけてわずかに「導入済み」が減っているものの、「検討中」は増加傾向にあり、「未導入」は減少の一途をたどっています。大局的に見れば、中小企業におけるRPAの導入率は増加し続けているといえるでしょう。
出典:RPA国内利用動向調査2020 プレスリリース|株式会社MM総研
中小企業がRPAを導入するメリット
RPAに対し、大企業が利用するものという印象を抱いている人は多いでしょう。しかし、中小企業での導入にも多くのメリットがあります。代表的なメリットを2つ見てみましょう。
コストの削減
RPAは単純作業を肩代わりするITツールです。したがって、単純作業を人力で行う場合と比べ、人件費が安くなります。
人材を一人確保するには膨大なコストがかかります。給与はもちろんですが、採用活動から育成までの費用も侮れません。仮にその人材が退職した場合、もう一度同じコストをかけて新しい人材を確保する必要があります。
一方、RPAならその心配はありません。導入や初期設定、メンテナンスにコストはかかりますが、雇用・育成するよりは安く済みます。
生産性の向上
RPAの導入は、さまざまな観点から生産性の向上をもたらします。
まず、長時間労働の是正に有効です。社員は、機械でもできる単調な作業を繰り返すために残業をする必要から解放されます。たとえ一つひとつの単純作業が小規模なものであっても、多くの作業を自動化すれば膨大な作業時間を短縮できるでしょう。
さらにRPAで定型業務を自動化することで、クリエイティブを要する業務や戦略・企画立案などのコア業務に社員が集中でき、労働生産性の向上を促せます。
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中小企業におけるRPAの導入事例
続いて、中小企業におけるRPAの導入事例を2つ紹介します。
食品メーカーのRPA導入事例
ある食品メーカーは年間数十~数百時間程度の単純作業時間を短縮したいと考えました。しかし、コストが高額で導入に踏み切れません。
そこで同社は社内でRPAを内製する決断をし、社員を教育しました。オンライン講座を利用して約2~3週間をかけて社員を育成したといいます。結果として、単純作業に要する時間が短縮。1つの作業あたりで短縮できる時間は短いものの、小規模なRPAをローコストで内製できるため、メリットのほうが大きくなりました。
旗の製造・販売企業のRPA導入事例
旗を製造・販売するある企業は、社員の異動に伴い生じた作業をRPAで処理したいと考えていました。本来は新たな人材を雇用するつもりでしたが、求人を出しても応募がなかったためです。
そこで、受発注処理にRPAを導入します。その結果、欠員によって生じた作業時間のうち、6~8割をRPAでカバーできるようになったと言います。
中小企業におけるRPA導入のリスクと対策
RPAを正しく利用すれば、コスト削減や生産性向上といったメリットを得られるでしょう。しかし、あらたなシステムやソフトウェア導入にはある程度のリスクはつきものです。
RPAを中小企業で運用する場合、どんなリスクが考えられるでしょうか。想定されるリスクと対策を解説します。
システム障害や誤作動のリスクと対策
故障や停電によるシステム障害や設定ミスによる誤作動も想定されるリスクです。誤作動や障害が発生することで、業務停止による被害も生じてしまいます。
対策としては、障害対応の方針・ルールを定めたうえで運用することが重要です。また最低限のバックアップを行い、復旧できる環境を整えておきましょう。
情報漏えいのリスクと対策
RPAは実行端末の実行ファイル内にあらかじめID・パスワードが組み込まれています。万が一ID・パスワードが外部に漏えいすれば、外部の人間が不正アクセスし、システムの改ざんや情報の盗み出す恐れがあるのです。
対策としては、厳格な使用権限を設定し、簡単にアクセスできないようにしましょう。さらに外部からの不正アクセスを防ぐためには通信データや機密情報は暗号化することをおすすめします。
中小企業がRPAを導入する際の注意ポイント
最後に、中小企業がRPAを導入する際の注意ポイントを4つ紹介します。
スモールスタートを意識する
最初から大規模なRPA導入を目指すと、問題が発生した際に業務が停滞する可能性があります。そのため、まずはスモールスタートを意識しましょう。
部署やチームなどの小規模なグループの中で導入を始めます。また、対象業務を全面的にRPAに任せるのではなく、そのなかの一部から適用を始めていきましょう。小規模な導入に成功したら、そのノウハウを活かしてほかの業務へも適用を拡大していきましょう。
低コストなRPAを導入する
中小企業がRPAを導入する際に意識しなければならないのが費用です。大企業と比べ、自動化できる作業量は少ないため、メリットも小さくなります。したがって、RPAの導入・運用コストがメリットより大きくならないように気をつけなければなりません。先述した食品メーカーの事例のように、RPAを内製するとローコストで済むでしょう。
費用対効果が高い業務にRPAを適用する
RPAは、単純作業で定型的な業務に導入すると効果が上がるといわれています。なかでも定量化効果として大きな指標となるのが「削減できた人件費」です。そのためRPA導入により最も人件費削減が期待できる業務を定め、RPA導入をおすすめします。
野良ロボットの発生を抑制する
野良ロボットとは、管理が行き届いていないRPAツールのことです。野良ロボットを放置し続けると、誤った処理を継続してしまったり、正常に動作せずに業務が止まってしまったり、さまざまな問題を引き起こします。特にデスクトップ型のRPAの場合、なし崩し的に導入していては、野良ロボットの発生を許しかねません。責任者を決めて、RPAの運用ルールを厳格化し、会社側が管理することが重要です。
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RPAツールの失敗しない選び方
RPAツールを選ぶ際は、導入形態や種類、運用のしやすさに注目しましょう。
クラウド型かオンプレミス型か
RPAツールの導入形態は「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類にわけられます。
- ■クラウド型
- インターネット上のクラウド環境にソフトウェアロボットを導入し、Webブラウザ上での作業を自動化するRPAツール。導入コストは抑えられるが、自動化できる範囲はWebブラウザ上に限定される。
- ■オンプレミス型
- 自社サーバにシステムを構築して業務効率化を図るRPAツール。自動化できる作業範囲が広くカスタマイズ可能だが、導入コストが高くなる。
デスクトップ型かサーバ型か
RPAツールの種類は「デスクトップ型」と「サーバ型」の2種類にわけられます。デジタルレイバーと呼ばれるRPAツールがどの「場」で稼働するかが主な違いです。
- デスクトップ型
- PCにソフトウェアをインストールするだけで自動化が可能。スモールスタートしたい企業におすすめ。
- サーバ型
- 自社のサーバ内でロボットを稼働させ、業務を横断した一括管理が可能。大量のデータが管理できるため、今後大規模展開したい企業におすすめ。
操作・メンテナンスしやすいか
RPAツールは主に非エンジニアの現場社員が使用します。そのためプログラミングなどの専門知識がなくてもスムーズに使用できるものかどうかを必ず確認しましょう。
同時にメンテナンス性に優れた製品はエラーが出た場合も自前で対処できるため、運用がしやすくRPAツールが社内でも浸透しやすくなります。
サポート体制が充実しているか
RPA導入後は、本格的に活用できるまでさまざまな課題に直面します。問い合わせ窓口やサポート体制が整備されているかどうかを確認しましょう。導入前後にどのようなサービスが受けられるかは、ツール選びの重要なポイントでもあります。
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中小企業においてもRPAを導入し、業務の自動化を実現!
RPAは大企業で使われるものという印象がありますが、中小企業での導入率も増加傾向にあります。単純作業をRPAに代行させることで人件費をはじめとしたコストが減少し、生産性の向上も見込めます。RPA導入で業務の効率化を実現しましょう。