法人決算は自分でできる?
結論からいうと、法人決算の手続きは自力で行うことは決して不可能ではありません。売上規模が数億円、従業員が10名以上といった会社規模になるとさすがに専門知識がないと厳しくなりますが、ごく小規模な企業の法人税計算であれば自力で行うことも問題ありません。
そもそも法人決算とは、一会計期間の経営成績と期末の財務状況を可視化することで、正確な税金を把握や株主への報告を行う目的があります。法人決算のゴールは、「期日までに税務署に対して法人税の申告を行い、必要な法人税を収めること」です。最終的には、以下のような書類を完成させて税務署に提出する必要があります。
- ●決算報告書
- ●勘定科目内訳書
- ●事業概況説明書
- ●法人税申告書
2つ目の勘定科目内訳書や、3つ目の事業概況説明書は、基本的には会計ソフトが自動的に作成してくれますので問題はありません。
重要なのは決算報告書の作成と、法人税申告書の作成です。「まずは決算報告書を完成させ、決算報告書の内容から法人税申告書を作成する」という2段階の流れを理解しておきましょう。法人税申告の期日は「決算日から数え2ヶ月以内」のため、この期日に間に合うように処理を進めていきましょう。
法人決算を行うために必要な準備書類
法人決算の手続きをスタートする前に、以下のような準備から始めましょう。
取引帳票と証ひょう書類
決算処理の大前提として、期中の取引を何らかの形で記録している必要があります。3月末決算の法人であれば、昨年の4月1日〜3月31日までに行った取引を帳簿に記載しているはずです。
帳簿の内容が事実に基づいていることを証明するために、領収書や請求書といった「証ひょう書類」はすべてもらさず保管されている必要があります。
その他の契約関連の書類
証ひょう書類の他にも、外部関係者や従業員との契約内容を確認できる書類を準備しておきましょう。具体的には、以下のようなものを必要に応じて準備してください。
- ■銀行残高の証明書
- ■借入金の返済予定表
- ■オフィスの賃貸借契約書
- ■従業員の賃金台帳
- ■期末時点における在庫商品の棚卸一覧表
- ■自動車や備品などの固定資産の内容がわかるもの
会計ソフトの導入
上で説明した「帳簿」は手書きでも問題ありませんが、近年では会計ソフトを使うのが一般的になっています。会計ソフトを使えば、難しい経理の知識がない人であっても、ソフトの指示通りに入力作業を行っていくだけで法人税の申告書を作成することが可能です。
もちろん、できれば決算書の作成〜法人税の申告までの一連の作業の意味を正しく理解しながら処理を進めるのが理想的でしょう。しかし、期日まで余裕がない場合には会計ソフトの力を借りながらまずは処理を完了するのを優先するのが適切と言えます。
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法人決算の手続きの流れ
準備書類について理解したところで、いよいよ法人決算の手続きの流れについてみていきましょう。法人決算の手続きは、以下のような手順で進んでいきます。
- ■期中の経理処理の確認
- ■決算整理前試算表の作成
- ■決算整理仕訳
- ■決算書の作成
- ■法人税申告書の作成
- ■申告納税の手続き
それぞれの項目について、順番に解説していきます。
期中の経理処理の確認
まずは期中に行った経理処理が正しく行われているかをチェックしていきます。請求書や領収書といった証ひょう書類の内容から、帳簿(会計ソフト)への入力が正しく行われているかどうか、1件ずつ確認していきます。
間違いが発見された場合には、後の「決算整理仕訳」で修正処理を行いますので、間違いの部分をリストアップしておきましょう。期中の取引数が少ない場合は1年分をまとめてチェックしても大きな問題はありませんが、可能であれば毎月チェックを行っておくのが適切です。
決算整理前試算表の作成
期中の経理処理が正しく行われていることが確認できたら、ここまでの帳簿の記録を試算表として印刷します。この段階での試算表のことを「決算整理前試算表」と呼びます。その名の通り、次で見る「決算整理仕訳を入れる前の試算表」という意味です。
決算整理仕訳
決算整理前試算表が完成したら、決算独自の処理を入れていきます。決算独自の処理とは、「決算整理仕訳」といわれるもので、以下のような処理が必要です。
- ■売上原価の計算
- ■現金や銀行残高の過不足解消
- ■費用と収益の繰延べと見越し
- ■減価償却費の計算
- ■有価証券の評価替え
- ■引当金の計上など
各項目の意味についてはここでは詳述しませんが、ごく大まかに言えば、これらは記録されている収益と費用を、「1年間」という期間に正しく対応するように調整する作業といえます。
例えば、売上の締切日が20日となっているのであれば、最終月の21日〜末日分の売上高については、期中処理の段階では計上未済となってしまっています。このような事態を避けるために、翌年度になってから得意先から送られてくる請求書を見て、最終月21日〜末日分の売上高を日割で計算し、当期分の売上高に含めるといった処理を行うのです。
こうした処理のことを決算整理と呼び、決算整理を帳簿に記載する処理のことを「決算整理仕訳」と呼んでいるわけです。
決算報告書の作成
決算整理仕訳の入力がすべて完了したら、決算報告書の作成を行うことができます。
決算報告書とは、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の3つのことです。もちろん、この時点ではまだ法人税の計算が完了していませんから、決算報告書は完全には完成していませんが、損益計算書の「税引き前利益」までは確定できます。
この税引き前利益の金額をもとに、次の法人税申告書を作成していくことになります。
法人税申告書の作成
法人税申告書は、その名の通り法人税の計算を行うための書類です。
法人税の計算は、上で見た「損益計算書上の税引き前利益の金額」に、法人税の計算上は除外すべき項目と、プラスすべき項目を付加していき、最終的に「所得額」を計算することで行います。
所得額に税率をかければ法人税額を計算できます。なお、ここでの「除外すべき項目」のことを「減算」とよび、「プラスすべき項目」は「加算」と呼んでいます。法人税の計算までの流れを計算式にすると、以下のようになります。
- 所得額=税引き前利益+加算−減算
- 法人税額=所得額×法人税率
当然ながら、所得額が大きくなるほど法人税の負担額は大きくなります。そのため、法人税の計算を行う上では「減算項目をいかに増やし、加算項目をいかに減らすか」といった視点で計算を進めていくことが重要になります。
法人税申告書は複数枚の「別表」で構成されており、上のような加減算の処理は「別表四」という書類と、「別表五」という書類上で行なっていいきます。これらの処理を行なった結果として、法人税申告書の表紙になる「別表一」が完成します。法人税額の計算が完了したら、その金額を決算報告書に反映させます。
会計ソフトを使う場合、科目内訳書や事業概況説明書もほぼ自動的に作成されているはずですから、これらをすべて印刷しましょう。
申告納税の手続き
ここまでで法人税の計算は完了していますので、いよいよこの計算結果を税務署の窓口に持っていきます。持っていく書類は、以下の4つです。
- ■決算報告書
- ■勘定科目内訳書
- ■事業概況説明書
- ■法人税申告書
税務署の窓口で職員の方が印鑑を押してくれると思いますので、控え用に決算報告書や申告書のコピーを持っていき、そちらにも税務署印をもらうようにしましょう。なお、税金は納付書を使って税務署窓口や金融機関、コンビニなどで納めます。銀行引き落としで納税する振替納税も利用できますので、状況に応じて選択してください。
法人決算を理解して効率的に行おう!
今回は、個人事業から法人化したタイミングの経営者の方向けに、法人決算の大まかな手続きの流れと注意点を解説しました。本文でもみたように、期中の処理が正しく行われており、証拠書類がしっかりと保管されているなら、法人決算の手続きはそれほど大変ではありません。
会計ソフトを使えば、手書きで決算書や法人税の申告書を作成するのと比較して、はるかに簡単に決算処理を行うことが可能になります。ぜひ導入を検討してみてください。