
スループット会計とは
スループット会計とは、製造業向けの原価管理手法に、経営全体を見渡す視点が取り入れられたものです。
スループット会計は、スループットの最大化を目的とします。スループットとは、販売によって得られるお金のことで、実際の売上から直接材料費を差し引いたものです。
スループット=実際の売上-直接材料費
スループット会計は、内容を踏まえるとスループット計算と呼ぶほうが適切という意見もあります。会計は利益やコストを製品に配賦するのが目的なのに対し、スループット会計は利益の向上が目的であるためです。そのため、利益に関わらない部分は厳密な計算はしません。
スループット会計と原価計算の違い
スループット会計と原価計算の違いを3つの視点から説明します。
計算方法
従来の原価管理では、生産すれば売れるという前提のもと、生産から原価を引くことで利益を算出していました。しかし、昨今の市場ではこの前提が通用しません。そのため、スループット会計ではスループット(売上-直接材料費)から業務費用を引いたものが利益とされます。
- ■スループット会計
- 利益=スループット(売上-直接材料費)-業務費用
- ■従来の原価計算
- 利益=生産-原価
在庫
スループット会計では、企業が販売するつもりの資材のみを在庫とします。従来の方法では加工速度が向上するほど在庫あたりの人件費や労務費が安くなると考えていましたが、スループット会計では考慮しません。
- ■スループット会計
- ・資材費
- ・資材の加工進捗度が進んでも価値は付加しない
- ■従来の原価計算
- ・資産
- ・資材の加工進捗度が進むにつれ、付加価値が増加
業務費用
在庫をスループットに変換するために要する費用のことです。従来の方法と違い、直接労務費と間接労務費を区別せず、すべての労務費を業務費用に含めます。
- ■スループット会計
- 在庫を除くすべての支出額を業務費用とする
- ■従来の原価計算
- 直接労務費や製造間接費を区別して、科目ごとの金額を算出する
利益を高めるために必要な3つのこと
スループット会計において、利益を高めるにはどうすればよいのでしょうか。
- ■売上-資材費=スループット
- ■スループット-業務費用=利益
上記の計算式の関係から、利益を増やすにはスループットを増やすか業務費用を減らさなければなりません。以下で詳しく解説します。
1.スループットを増やす
スループットを増やす方法のひとつは売上の増大です。企業にとってもっとも基本的な成長で、コストカットと違い上限がありません。企業の活力が増し、資金効率が向上します。
もうひとつの方法は、資材費を削ることです。外部からの仕入れ値を抑えたり、内製化を図ったりして削減しましょう。ただし、スループット会計における利益は、スループットから業務費用を差し引いたものです。スループットが増大しても、同じだけ業務費用が増えたのでは意味がないため注意しましょう。
2.在庫を減らす
スループット会計における在庫には、資材や加工途中の製品が含まれます。しかし、従来の原価管理と異なり、資材は加工によって価値が増加しません。販売されるときまで、「資材購入価格」を資材・製品の価値とみなします。
つまり、在庫の価値は基本的に資材費に含まれます。スループットは売上から資材費を差し引いたものであるため、在庫を減らせば利益は増大するでしょう。余計な資材を買わず、作った製品は余さず売ることが、資材費の低減(スループット増大)をもたらします。
また、資材費を下げる方法として在庫の低減が重要なのは、在庫が多いと経営効率が下がるためです。加工途中の在庫は、特定の製品になる過程にあるため、ほかの製品を作る資材として利用できません。これでは顧客の要望に対する柔軟性を失います。
3.業務費用を減らす
スループット会計における業務費用は、在庫をスループットに変換するために要する費用です。そして、「スループット-業務費用=利益」であるため、業務費用の低減は利益増大に直結します。反対に、スループットをいくら増やしても業務費用が増えれば利益は増えません。
スループット増大を図る際には、いかに業務費用の増大を抑えるかが鍵です。新たに業務費用をかけるのではなく、すでに自社が保有する資産や能力を有効活用することが大切です。
スループット会計を用いて利益の最大化を図ろう
スループット会計とは、経営全体の最適化を目指す原価管理手法で、従来の原価管理とは計算方法や対象が異なります。スループット会計において利益を最大化するためには「スループットの増大」「在庫・業務費用の削減」が必要です。
従来の原価管理の手法だけでなく、スループット会計を用いて利益の向上を目指してはいかがでしょうか。
