立替経費とは
立替経費とは、会社が業務をする上で必要な経費(費用、コスト)について従業員があらかじめ負担して支払うことを指します。本来会社が負担すべき経費を従業員が代わりに立て替えて負担していますので、精算するために社内の手続きが必要です。
経費の立替にあたっては、仮払との違い、課税対象になるか、経費予算の存在を理解しておくと、スムーズな業務につながります。
経費の立替と仮払との違い
立替経費は、上司の指示や事前の了解を得て業務に必要な物品を購入する場合や、旅費・交通費といった移動や出張に伴い必要な諸費用をあらかじめ出費する際に生じます。従業員の出費(持ち出し)が先行して後で精算される点で、仮払とは手順が異なります。
たとえば、次のようなケースが立替経費となります。
- ■上司に頼まれて近くの店舗で消耗品を購入し、費用は従業員が立て替えた
- ■部署で使うために必要な専門書籍を従業員の負担で購入し、社内閲覧用としてストックした
- ■出張に伴い旅費交通費をいったん従業員負担で出費し、出張先から戻り後精算した
一方で仮払は、いくら必要なのかまだ分からない今後予定される経費について、従業員からの事前申請にもとづいて概算額を会社から本人に渡して、経費が実際に発生した後で金額の確定と過不足額を精算するやり方です。金額確定によって先に渡した概算額が余る結果となれば会社に返金、足りなければ追加で支払われます。
- 立替の場合
- 従業員の立替 → 精算手続き → 支払
- 仮払の場合
- 概算額の支払 → 従業員の出費 → 仮払精算(過不足額の精算)手続き
立替経費は課税対象?
立替経費は従業員が立て替えた経費を精算して支払済みの額が従業員の元に戻ってくる「実費精算」が基本ですので、所得税の課税対象ではありません。実費精算される立替経費は会社が取引先に支払う他の経費と同じように、会社の経費として処理されます。
だからといって、いくらでもよいわけではなく、高額すぎる経費は所得税の課税対象となることがあります。曖昧になりがちな立替経費の金額に関するルールを適切に定めるために、ぜひ以下の記事で課税対象となる可能性のある範囲についての理解を深めてください。
経費の使いすぎには注意!予算の設定も効果あり
1回あたりの立替経費はたとえ少額だったとしても、従業員1人1人が自分の経費の額を気にせず使いすぎれば、会社全体の経費がかさんでしまい経営が悪化する要因にもなりかねません。特に従業員の立替が先に行われる立替経費は、多くのケースで後になってから会社が精算額を知ることになります。
社内規程やマニュアルで、役職や経費の費目に応じた金額の幅や上限金額を設定することが使いすぎ防止の観点から有効です。前述のように、課税対象とならないためにも、金額の範囲を明確にしておくことも効果的です。
また、会社全体や各部署で月ごとや年間の経費の予算(目標値や目安)を決めておき、定期的に経費の実績と対比しながら経費を管理することも経費の使いすぎ抑止になります。
立替経費精算の手順
立替経費はどのような手順で精算するのでしょうか。立替経費精算の流れをつかみましょう。細かい点ですが、支払時の振込手数料の負担をなるべく少なくする方法を選択する意識を持つことも、コスト感覚を養う意味で大切なところです。
1.従業員が経費を支出する
従業員が消耗品、図書の購入や雑費の支出、出張や営業先への移動に伴う旅費・交通費といった経費を支出します。
2.領収書を受け取る
領収書を必要とする業務の場合は、通常、会社を宛名とする領収書を会社の経費を立て替えた証しとして受け取ります。
3.領収書を添付して申請書を作成し、管理者に承認を得る
経費を立て替えた従業員が会社指定の経費精算書を作成し、会社が宛名となっている領収書を添付して、管理者に提出のうえ承認を得ます。内容に不備があれば申請者に差し戻します。
4.経理が内容を確認し、経理処理(仕訳)する
経理が管理者承認済みの経費精算書を確認し、問題がなければ経理も承認して経理処理(仕訳)します。内容や添付書類の不備があれば、内容確認のために申請者に質問するか、差し戻します。
5.従業員に精算金額が支払われる
社内ルールに沿って毎月の指定日や給料日に合わせて、経理や財務から精算金額が支払われます。支払いは基本的に振込で行われます。経理では、支払に合わせて経費精算を完了するための経理処理(仕訳)を行います。
立替経費を振込で支払う場合、会社から従業員に支払う振込手数料は通常会社負担となります。立替経費の精算額だけを振り込むと別に振込手数料がかかりますが、給与と一緒に振り込めば手数料負担が少なくてすみます。
立替経費の仕訳
立替経費は経理処理によって会計システムを通じて決算情報につながりますので、経理側で正しく処理する必要があります。
仮払の場合は、従業員に概算額を渡すタイミングで、仮払金/現金預金という仕訳を行い、現金預金で仮払いした事実を反映させますが、立替経費の場合は通常、立替後の精算時点から仕訳がスタートします。
1.従業員の立替時
【仕訳なし】
会社の経費が生じるタイミングは、本来会社が負担すべき経費を従業員が代わりに立て替えたこの時点です。しかし、経理は経費精算書や領収書が手元にくるまで従業員の立替時点を把握できませんので、通常、この時点で仕訳は行われません。
2.立替精算時
【消耗品費/未払金】
精算する経費の内容に合わせた費用科目(勘定科目)と、立替払いをした従業員に対する未払金を計上します。ここでは費用科目を消耗品費としましたが、ほかにも旅費・交通費、交際費、事務用品費、図書費などが立替経費の勘定科目として考えられます。
会社としての経費は従業員の立替時に発生していますが、立替経費精算の社内ルールが守られていれば、精算手続きは遅滞なく行われるはずですので、従業員が立て替えた年度内に処理されることを踏まえ、基本的に立替精算をした時(日)に仕訳を計上します。
3.従業員への支払時
【未払金/現金預金】
従業員に対する未払金を取り崩して現金預金で支払った仕訳を計上します。仕訳の計上日は社内ルールに沿った毎月の指定日や給料日とすることが多いですが、同月内の処理として、月末の日付や月末に経理処理する会社もあります。
立替経費は「実費精算」が原則ですので、高額すぎる経費でなければ、所得税の課税対象にはなりません。精算確定後に振込などで従業員が受け取る立替経費の精算額は、通常なら所得にも社会保険の対象にもなりませんので、経理は支払の際にこれらの計算の対象外(非課税)となるよう処理します。
給与明細の記載上も対象外(非課税)と分かるように記載し、立替経費の欄を設けることや備考欄を活用します。
給与計算ソフトを導入済みの会社の場合、ソフトによっては、課税や社会保険の計算対象外とする処理の失念を防止するために、支給欄で調整するのではなく控除項目のマイナスとする処理を推奨している場合もあります。
立替経費精算に必要な書類や領収書の管理
立替経費精算を行う上で欠かせない経費精算書や経費申請の際に添付する領収書の管理について紹介します。
立替経費精算書・経費精算書
従業員が立て替えた経費を精算するための書類です。立替といっても、消耗品や図書の購入と出張旅費とでは経費の性格が違いますので、出張旅費などでは出張旅費精算書・旅費精算書といった様式の異なる書類を用意するのが一般的です。
精算書の書き間違いや不備が多い会社では、ミスが起こりくいように記入例や書き方のマニュアルを別に用意しておくことをおすすめします。
領収書
本来会社が負担すべき経費を従業員がいったん立て替えたことの証になるものです。
「支払日」「支払先」「支払内容」「金額」は立替経費精算書への記載項目にもなりますので、領収書の受取時に記載内容に漏れがないかを確認します。通常、宛名は会社名を書いてもらいます。「株式会社」の記載も省略せず、前株(株式会社○○)か後株(○○株式会社)かも間違いのないように気を付けましょう。
後で困らないように、必要に応じて経理に書き方の事前確認や相談を行っておくのが無難です。
電子帳簿保存法への対応で立替経費精算がスムーズに
電子帳簿保存法に対応する会社では、適用のための要件が設けられているものの、紙の領収書の電子化、スマートフォンの撮影による領収書データの保存、電子データでのやり取りを有効に活用した立替経費精算が可能となっています。近年の法改正の度に利用者にとってより利便性の高い内容に変わってきています。
電子帳簿保存法に対応すると何が便利になる?
社外からのアクセスが可能なシステムを導入していれば、外出先からログインして、社外で受け取った紙の領収書をスマートフォンで撮影し、電子データとして保存できます。さらに、立替経費申請に必要な項目をシステム上に入力し、どこからでも経費申請を行えます。
通常、このような機能を備えているシステムなら、システム上で管理職や経理による確認から承認まで行えますので、従来よりも申請から決裁までがスムーズに進むようになります。
電子帳簿保存法は法改正によって要件の緩和が進んでいる最中ですので、今後さらなる緩和が望まれますが、改正の度に確実に利便性が高まっています。
電子帳簿保存法に対応するには
電子帳簿保存法に対応できれば、紙の領収書を保管する場所の確保からの解放や経理業務の効率化を目指すことが可能です。対応には大きく次の準備が必要です。
税務署長の事前承認
電子保存を開始する日の3か月前の日までに申請書を提出して、税務署長の事前承認を得る必要があります。例えば、翌年の1月1日から適用を受けるためには、今年の9月30日までに申請します。
対応可能なシステムの導入
電子帳簿保存法に対応した経費精算システムの導入が必要です。スマートフォンで撮影した領収書の電子データを高画質で保存できる、タイムスタンプ(※)機能があるなど、電子保存に適したシステムを導入しなければなりません。
※タイムスタンプとは、電子データの存在が認められるように、日時や時刻を記したスタンプのことです。
規程の作成と運用
電子帳簿保存法にのっとった正しい事務処理がされるための社内ルールとして規程を定めたうえで運用することが求められます。
電子帳簿保存法改正でさらに便利に
電子帳簿保存法は2020年10月より改正法が施行されました。領収書を電子保存するための要件が緩和されました。
大きな改正点は次の2点です。いずれも、電子取引を利用した領収書の電子保存がしやすくなる改正内容となっています。
電子データ(PDFなど)で受け取った領収書
領収書を発行する側のタイムスタンプが付与されていれば、受け取る側のタイムスタンプは不要になるという要件の緩和がされました。
クラウドサービスなどを利用した電子取引で受け取った電子データの保存
受け取る側がデータを自由に改変できない、クラウドサービスなどを利用した電子取引で受け取った電子データ(たとえば、クレジットカード、交通系ICカード、QRコード決済などの利用明細データ)を領収書代わりにそのまま保存できるようになりました。
タイムスタンプは不要ですので手間が省け、キャッシュレス決済による利用データを取り込めるシステムがあると経理業務の効率化にもつながります。
参考:電子帳簿保存法関係|国税庁
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立替精算の課題
立替経費精算の仕組みが備わっていても、運用は個々の能力や資質にかかっていること、社内の連携が取れていることが円滑な業務の前提となっているため、そうなっていない場合に次のような課題や問題点が浮かび上がります。
立替経費で起こりやすいミス
立替経費では属人的なミスが起こりやすく、経費精算に慣れていない従業員や、精算機会の少ない従業員の場合は同じミスを繰り返す恐れがあります。
以下は、立替経費で起こりやすいミスの例です。
- ■従業員が経費を立て替えた際に領収書の受け取りを忘れる
- ■立替経費を申請する従業員自身が領収書を紛失する
- ■立替経費精算書に記載する金額の計算を誤る
- ■立替経費精算書の記載内容と添付する領収書の記載内容が整合しない
- ■立替経費の申請期限を知らないか、申請することを忘れている
- ■管理者の承認を得ないまま経理に立替経費精算書が回ってくる
経理担当者の管理負担
立替経費では、立替経費精算書と領収書などの添付書類を確認し、経理処理や支払業務までを行う経理(財務)担当者の負担が大きくなりがちです。
管理負担が大きくなる要因として次のようなことが挙げられます。
- ■毎月、立替経費の締め切り日をアナウンスする必要がある
- ■提出期限を守らない従業員に対して催促しなければならない
- ■立替経費精算書と領収書の整合性の確認が必要
- ■立替経費金額の再計算をする手間と時間がかかる
- ■立替経費発生件数に応じて支払業務(支払のための手続き)が増える
- ■立替経費申請を誤らないための人材教育に割く時間と労力が必要
- ■領収書や立替経費精算書の適切な保管と管理に気を付けなければならない
立替精算をなくすメリット
立替経費精算の仕組みをなくすことによって次のメリットがあります。
立替経費精算に割いていた時間とコストを違う業務に充てられる
これまで立替経費精算に割いていた分の時間や労力を、より生産性や付加価値の高い業務に向かわせることができます。立替経費精算のために従業員、管理者、経理担当者が必要とする時間を会社のコストとすれば、その分が浮く計算となります。総じて、ミスや手間、負担の軽減にもつながります。
不正な申請の排除
従業員の申請に依存し、主に紙の領収書に頼る立替経費精算では、不正のリスクが消えることはありません。立替経費精算自体がなくなれば、このようなリスクを限りなく減らせるでしょう。
本社の一元管理が可能
拠点や従業員数が多い会社の場合、各拠点や部署で立替経費の精算が完了して、一定期間ごとの報告や集計を通じて初めて本社でも情報の把握が可能というケースがあります。
こうした場合、経費が発生しているタイミングと本社が知るタイミングにはどうしても時間差が生まれます。立替経費精算をなくすことで、情報の本社一元管理が可能となり、全社的な経費の正確かつ迅速な把握につながり経営管理がしやすくなります。
立替精算を楽にする方法
立替経費精算をなくすための方法を含めて、立替経費精算を楽にするためのいくつかの方法を紹介します。
法人用クレジットカードを使う
法人で加入したクレジットカードを複数枚用意して、出張などの立替経費精算が比較的多い従業員を中心に、法人カードをあらかじめ持たせておきます。
部署に複数枚を預けて、部署の管理のもと所属部署の数人で共有しながら、使う用事がある度に使用する手段もあります。精算業務にかかる手間が省けるだけでなく、経理側で利用実績をいち早く追えますので管理の面からも優れています。
外部に委託するかシェアードサービスを活用する
立替経費精算業務の一部またはすべてを外部やグループ内のシェアードサービスセンター(会社)に委託します。委託する分新たなコストが生じますが、該当する業務に特化しているため業務効率がよく、社内のリソースをより高効率の業務に振り分けたい場合や、業務負担の軽減を図りたい場合に向いています。
経費精算システムを導入する
立替経費精算の結果をもって給与計算ソフトなど他のソフトウェアとの連携、仕訳をはじめとする経理データの生成や決算業務との連携が可能なものであれば、本社の経理担当者の業務効率と精度が各段に上がります。
クラウド型のシステムを導入すれば、外出先からIDとパスワードでどこからでもアクセスが可能になり、直行先からの立替経費申請、管理者の承認などもスムーズに行えます。データのバックアップが自動で行われますのでデータの損失を回避でき、システムによる情報一元化に伴い、情報漏えいのリスクを減らすことや、セキュリティ対策も講じやすくなります。
経費精算システムのラインナップの中では、従業員が「操作しやすい」製品が人気の上位を占めています。
電子帳簿保存法に対応する
電子帳簿保存法の改正によって、より領収書の電子保存がしやすくなり、立替経費精算の効率化に向けて追い風となっています。電子帳簿保存法に対応する経費精算システムを活用すれば、立替経費精算業務全体の効率化を実現し、精度を上げることが可能です。
立替経費精算の負担を少なく、業務をより効率的に
今回は、立替経費の精算方法、効率化のためのポイント、改正された電子帳簿保存法との関係などについて解説しました。立替経費精算は多くの会社で行われる業務の一つですが、なかなか手間や負担が軽減されず、改善を図りたいと思いながらも困っている方が多いのではないでしょうか。
立替経費精算の仕組みを残しながらでも、経費精算システムの活用や電子帳簿保存法への対応を行うだけで、効率化や精度の向上を図ることは可能です。現在の立替経費精算の業務にかかる時間や労力の節約を考えれば、費用対効果の面からシステム導入のメリットが大きい場合も多いです。
検討する際は、ぜひ複数のシステムをさまざまな点から比較して、自社に合ったものを選択して導入しましょう。