経費精算を期限までに行うべき理由
経費精算は単に手続きを終えればよいわけではありません。”いつ”までにという期限があります。では、なぜ期限までに経費精算を行う必要があるのでしょうか。
経費が発生するタイミングの正確な情報をつかむ
会社の経費がいつ、いくらくらい発生しているかをつかむのは経営管理の上で重要です。経費の使いすぎや無駄な経費の放置は会社の経営を悪化させる要因になります。その時々の正確な経費を把握して今後の経営のための管理やコントロールができるように、経費が発生するタイミングから遅れずに経費精算を行わなければなりません。
経理処理や決算スケジュールへの影響を少なくする
経費精算の申請や提出が遅い人のペースに合わせると、経費精算を待つ間に経理処理が遅れ、決算スケジュールも遅くなっていきます。
一方、決算は外部に報告するために行われますので、普通は会社の遅れを待ってくれるはずなく「経費精算が遅れたので・・・」という言い訳が通用するはずもありません。待たされた挙句、決算のタイムリミットに間に合わせる対応を迫られる経理担当者の負担と、経理処理や決算スケジュールへの影響を少なくするために期限を定めます。
未精算のリスクを減らす
経費精算は本来会社が負担すべき経費について、立替や仮払をした従業員との間で精算するための手続きです。未清算のまま放置されていたとしても、従業員からすれば精算してもらえる権利がすぐに消えるわけではなく、法律上は時効が成立するまで権利が保証されています。
会社は従業員の怠慢を理由に未精算の責任を従業員に負わせられず、かといって、経費ひとつで従業員と法的な権利を争うために時間を費やすのは得策とはいえません。なるべくすべての精算が会社のルールのもとで期限内に完結されれば、未精算の対応に振り回されずにすみます。
会社上の期限は1か月が目安
会社の期限には規程やマニュアルといった社内ルールを整備して対応します。経費精算の期限として特に意識したいのは次のタイミングです。
- ■月(締め日、月末、翌月初の数日以内など)
- ■四半期(3か月。主に四半期の決算を行っている会社が対象)
- ■半期(6か月。主に半期(中間)の決算を行っている会社が対象)
- ■年度(期末日)
このうち、会社で定める期限は通常、月(1か月)を目安とします。毎月15日や月末といった会社所定の日、翌月初の数日以内といった期間を定めますが、これらの期限をルールとして周知するために、規程やマニュアルに期限を明記します。
規程やマニュアルには期限を明記
就業規則、旅費規程、経費精算規程(マニュアル)などの経費精算に関係する各種の規程やマニュアルに、たとえば「毎月〇日までに」「領収書を受領した翌日から〇日以内に」といった精算日(期間)や精算期限を明記します。
必要に応じて経費精算の期限に関する賞罰の項目を設け、期限を守らない場合の罰則(始末書など)を通じて期限に拘束力を持たせるのも、ルールを守る意識と動機付けのために有効となる場合があります。
決算のタイミングに合わせて、四半期(3か月)、半期(6か月)、年度単位での期限を許容することも考えられます。しかし期限がゆるいほど、精算漏れや失念のリスク、精算時期の集中で経理担当者の業務負荷がかかりますので、決しておすすめできません。
社内周知はしつこいくらい徹底的に
経費精算の期限は、ルールが設けられている事実よりも期限を守る意識の方が重要です。
文章だらけの規程やマニュアルに目を通さない従業員もいますので、たとえば図示や矢印を使って経費精算の手順を示すワークフローを作成するのも有効です。
ほかにも、経理担当者への提出期限を月末に設定した場合に、管理職の承認はその〇日前まで、さらに申請はその〇日前までに、といった具合に段階的な期限を設定して工夫すれば、従業員の締め切り日までのこまめな意識づけと、経理担当者の余裕につながる環境を整えられるでしょう。
社内周知の基本は、全員が理解するまで、守るまで徹底的に継続することです。ルール理解のために動画やeラーニングコンテンツを積極的に活用する例も増えています。
法律上の期限は年度内が基本
多くの会社で決算日の翌日から2か月以内に提出しなければならない確定申告書は、対象となる事業年度(通常1年間)の決算結果をもとに作成します。確定申告を作成するスケジュールに間に合っていて、同じ年度内の経費として処理されているようでしたら法律上は特に問題ありません。
極端な例ですが、3月期決算会社で、年初の4月に発生した経費は翌年の3月まで続く同じ年度内に経費精算を済ませていれば認められるのが法律上の期限の考え方です。一方で、3月期決算会社で期末の3月に発生した経費を同じ年の6月に精算した場合は、年度をまたいでいるため経費精算を法律上認めるのが難しくなります。
法律上の権利の消滅は原則5年
会社の経理処理を考えると法律上は年度内を期限と考えますが、従業員側からみると経費精算を受ける権利自体は消滅時効を迎えるまでは消えません。消滅時効は2020年4月1日施行の改正民法による新しい規定の適用を受けますが、基本的に経費精算の消滅時効については改正前から変わらず5年のままとなっています。
参考:民法| e-Gov法令検索
期限を過ぎてしまったら
経費精算の期限には大きく分けて、会社の期限と法律上の期限の2つの考え方があります。経費精算の期限を過ぎてしまった従業員がいる場合、会社の期限と法律上の期限の考え方をふまえて期限からの経過期間によって対応が分かれます。
会社の期限に遅れたらすぐに報告してもらう
会社の期限に遅れたら、ルール違反による罰則の有無はさておき、すぐに経理担当者に報告しなければなりません。月をまたぐ場合、四半期や半期をまたぐ場合、年度をまたぐ場合のそれぞれで対応が異なります。
月またぎの場合は基本的に翌月分の処理となる
月またぎとは、たとえば5月に精算しなければならない経費を従業員がすっかり忘れてしまい6月の精算となってしまったような場合です。会社の期限は過ぎていますので、月次処理を伴う会社では月次決算がすでに確定していることが多く、原則として当月の処理は諦めます。
しかし、月をまたぐ程度であれば翌月分の処理として経費精算を受けられます。立替経費精算や、仮払の経費精算で支払を伴う際の支払い手続きも、通常は1か月遅れの次の月に回されます。
月次決算を行う会社の場合、経理担当者の立場からすると当月分の経費を翌月分に回すだけでも各月の経費の額に歪みが生じると感じ、すでに確定した月次決算の修正を真剣に考えるものです。そんな些細なことで、と思われるかもしれませんが、それほど会計や決算は正しい期間で処理することが重要です。
経費精算の期限について、たかが1か月くらいと軽んじずに、全員が会社のためにルールが存在すると考えて行動するのが大切です。
四半期や半期またぎの場合は年度内ならセーフ
年度をまたぐほどの長期の遅れではありませんが、月をまたぐ場合と異なり四半期や半期という期の区切りを過ぎていて、本来は過去の四半期や半期の経費にしなければならないものです。厳密に言えば過去の決算修正が必要ですが、1人の経費精算や領収書数枚程度の経費精算額ですと少額になりやすいので、年度内であれば期限後の処理も容認されます。
年度またぎの(決算期をまたぐ)場合は経費精算が難しい
会社の期限のルールを大きく逸脱し、年度をまたぐ程なら経費精算は難しくなります。ただし、年度またぎの(決算期をまたぐ)場合でも、年度を過ぎてすぐに行われる決算や確定申告の作業中に間に合うようであれば、ぎりぎり年度内の処理として含められる余地も残されますので、経理担当者の判断で対応を決定します。
法律上の期限はより厳格なので注意する
年度またぎの(決算期をまたぐ)場合で、すでに確定申告書を提出した後であれば、税法上認められる期限を過ぎているため、経費精算自体が難しくなります。
一方で、経理処理は別として、経費精算を受ける権利を持つ従業員と会社との関係においては民法上の消滅時効(5年)の適用を受ける余地が残されます。消滅時効を過ぎると従業員が経費精算を受ける権利が消滅します。
これらの法律上の期限に対する経理処理の考え方について、会計では、いわゆる遡及適用や過年度の決算修正を行うケースを除くと、稀ですが過年度に本来計上すべきであった経費を発見した期(たとえば当期)に過年度の損益修正として以下のように仕訳する場合があります。
税法上の概念である損金は否定されますが、あくまで会社の経費と認識して従業員に精算金を払うと決断する場合に行う仕訳です。
- 過年度損益修正損/(従業員に対する)未払金
- ※少額のときは過年度損益修正損ではなく、雑損失の勘定科目にする場合もあります。未払金は従業員に支払う時点で、未払金/現金預金、として未払金を取崩して現金預金で精算した仕訳を追加で計上します。
参考:法人税法| e-Gov法令検索
期限切れの支払い拒否は可能か
経費精算の期限を過ぎてから申請が来た場合に支払いをしなくてよいと判断してよいか迷うことがあるかもしれません。
会社からすれば規程やマニュアルで期限を定めているし、期限を過ぎた本人が悪いので支払う必要はないと考えるでしょう。しかし、経費精算する本人が本来会社の経費にするのが明らかな経費を負担したのでしたら、経費精算を受ける権利自体が正当なものであれば民法上の消滅時効を迎えるまでは保証されると考えるのが自然です。
経理処理できるか否かは別にして、通常、法律は社内ルールに勝りますので、会社が期限を過ぎた事実をもって一方的な支払拒否や、支払をしないのは原則認められません。少なくとも、月またぎの場合や、年度内に処理できるにもかかわらず精算されないことはあってはなりません。
これらの場合、会社から期限を過ぎた従業員に対しては経費精算の支払拒否などの強硬な手段で臨むのではなく、規程やマニュアルで設けた罰則規定や人事評価上のマイナス点としてカウントするなどの対応が無難です。
ルールが守られない主な要因
経費精算は全員がルールのもとに行動して効果を発揮します。以下に示すようにルールや仕組み自体に問題を抱える場合や、守るべきルールに対する各従業員の意識が低い場合は、会社が意図したようにルールが守られませんので、せっかくの制度が台無しになってしまいます。
ルールを守る意識が低い
経費精算のルールがあっても効果的に機能しない大抵のケースでは、社内の大半の従業員がルールを守る意識を欠いていて、ルールが守られない状態が放置されています。ルールを守る意識が低い会社にはたとえば次のような特徴がみられます。
- ■ルールがあっても、その存在が知られていないか社内に浸透していない
- ■ルール作成部署の周知不足(周知の機会が少ない、周知が一度きり)
- ■ルールが古く更新されないまま相当の年数が経過している
- ■例外が多い(期限に特例がある、特定の部署に例外が認められる)
- ■リーダーや管理職がいい加減で、自らがルールを守らない
- ■社風の課題(さまざまな業務の進捗が遅い、書類の管理が雑、誤りを改善する文化がない、誤っていても何も指摘されない)
- ■ルール作成部署の社内での立場が低い
手続きが面倒だと逆効果
経費精算の期限にルールは必要ですが、シンプルで誰でも対応できるものでないと逆効果です。ルールが多すぎる、複雑すぎると何を守ればよいのかがかえって分かりづらくなります。たとえば、次のような場合には逆効果となる(ルールが守られない)おそれがあります。
- ■紙による回覧が必要なので手続きのためだけに会社に戻らなくてはならない
- ■申請や決裁に押印が必要なので手間と時間がかかる
- ■決裁にたどり着くまでの承認ルートが長く申請する気にならない
- ■経費の項目ごと(旅費・消耗品など)にルールが違いすぎて覚えられない
- ■経費精算書の様式が複雑で必須の記載事項が多いため書類に不備が出やすい
- ■期限に厳しすぎて働き方(フレックス・在宅など)に応じた対応になっていない
- ■ルールが多すぎ、複雑すぎて作成者や作成部署しか理解できない
手続きが面倒と感じられる場合はシステムの見直しをしてみるのもよいでしょう。経費精算システムの比較をしたい方は以下より資料請求が可能です。
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ルールが守られないことで起こる弊害
経費精算の期限のルールが守られないと、結果として会社自身の損失につながりかねません。たかがルール、されどルールですので、ルールが守られない状況が続き、以下の事態を招かないように注意しなければなりません。
決算が信用されない
経費は経理処理を通じて決算情報に反映されますので、経費精算の期限が守られた正しい期間の経費が毎回集計されるべきです。ところが、期限のルールがきちんと守られないと、経費が決算期に対応しないことも起こりうるのです。場合によって、次のように外部の関係者からの信用を大きく損ねるおそれがあります。
決算情報の不信
決算期ごとの業績を集計する際は経費の額を含めて利益を計算しますが、経費が本来あるべき期限に遅れて集計されてしまうと経費と利益が正しい期間で対応しません。決算情報の信頼性が低下し、不信にまでつながる可能性が高まります。
社会的信用力の低下
経費精算の期限すら守れないのであれば、他の多くについても管理がずさんだと思われても仕方がありません。経費精算一つでそこまで影響するとはいえませんが、極端な言い方をすれば、経費精算一つでも社会的信用を失うおそれもあるので気を払わなければなりません。
税務調査での印象を悪くする可能性がある
経費の額は税額を求めるための所得に影響する大切な項目の一つです。期限やルールを守れない会社だとわかれば、税務調査での心証もあまりよくありません。
たとえ会社がそのように思っていなかったとしても、経費の経理処理の時期を意図的にずらしているのではないか、と疑念を抱かれないように、年度内に処理されているのはもちろんですが、なるべく月またぎも起こらないように期限どおりの精算を目指しましょう。
従業員と会社との信頼関係にも影響する
期限のルールが守られないまま放置するのは、会社が従業員に対して隙を見せることになります。期限を守れない従業員側に原因があったとしても、そのような状況を見過ごした会社側にも責任があると後で言われないために、期限のルールを逸脱しそうな行為に厳しく接しなければなりません。
ルールに甘すぎると不正が起きやすくなります。これは経費精算に限られませんので、経費精算にルーズなために他の業務での不正を誘発しないようにするのが経営管理上も重要です。
無駄な業務と無駄なコストが生じてしまう
期限を守らない従業員のために追加の対応をしなければならないので、経費精算の期限のルールが守られないほど経理担当者の負担が増します。必要のない業務が増えれば経理担当者の所属部署や経費精算に関わる当事者はその間本来の業務ができません。会社の生産性は低下し、無駄な業務のために無駄なコストが生じます。
期限管理に効果的な対策
経費精算の期限やルールが守られないと会社にとって大きな損失につながります。ならば、最初から期限の管理にあまり時間を割かなくてもよい仕組みを作ればよいはずです。
最低限の導入コストは必要ですが、経費精算業務そのものをなくすか経費精算業務の負担を減らせればミスの防止や管理負担の軽減にもつながり、導入に踏み切る方が安上がりになる場合も多いのではないでしょうか。
経費精算業務をなくす
経費精算業務自体をなくしてしまえば、経費精算の期限を管理するためのコストや時間の大幅な削減が期待できます。経費精算業務をなくすポピュラーな方法として、キャッシュレスに対応するなどが挙げられます。
キャッシュレスに対応する
たとえば法人用クレジットカードを発行して経費精算業務が多い部署や従業員に配布します。経費精算業務の手間がなくなる効果が期待できる、期限が遅れる心配をしなくてすむようになる、すぐに利用実績を本社から追えるなどを考慮すれば、導入の手間よりも導入後のメリットの方が大きいかもしれません。
このような方法が浸透すれば、これまで各拠点で行っていた経費精算業務を本社での一元管理に順次移行するのも可能になります。業務の一元管理は効率化の観点からのみならず、本社と各拠点間のタイムラグを解消し、情報の一元化にもつながります。
経費精算業務の負荷を減らす
多くの会社では経費精算業務自体をすぐになくすのは難しいでしょう。そこでおすすめしたいのが経費精算業務の負担を減らすことです。
なかでも、経費精算システムの導入は検討に値します。仕組みを今よりもシンプルにして、仕組みの一部をほかに任せて自分たちがやるべき業務に専念するのが、人手不足を解消するためにも、生産性の向上のためにもマストになってきています。
最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応がトレンドになりつつありますので、ますます業務負担の軽減策が注目されていくでしょう。
経費精算システムを導入する
経費精算システムの導入は経費精算全体の効率化を実現するために有効ですが、期限の管理にも有効な手段といえます。特に、電子帳簿保存法に対応するクラウド型システムを導入すれば、外出先からでもIDとパスワードでアクセスできるようになりますので、たとえば次のような点で経費精算の期限の管理に貢献します。
- ■領収書の電子保存が可能となり領収書を受領次第すぐに申請準備ができる
- ■承認ルートが設定でき、かつ、電子承認のため、経費精算書への押印や紙出力は原則不要
- ■承認者が外出先にいても承認できるので期限までのタイムラグを限りなく取り除ける
経費精算システムのラインナップの中では、従業員が「操作しやすい」製品が人気の上位を占めています。スマホで利用できるものやタブレットで使用できるもの、クラウド型で安価なものなどさまざまな製品があるので、導入にあたっては自社に合った製品を選べるかどうかが重要なポイントです。
社内啓蒙活動が期限を守る近道に
経費精算の期限を守るためには、期限を定めたルールを全員がよく理解し、ルールにもとづいた行動をとることに尽きます。次のような地道な啓蒙活動を続けるのが、経費精算の期限を守るための近道になります。
- ■経費精算の期限を定めた規程とマニュアルの新設・改訂時に社内説明会を開催する
- ■年に数回程度は社内説明会を開催してルールを周知する
- ■経費精算の期限を守るのがいかに大切かを説いた動画を社内コンテンツに加える
- ■新人や中途採用時研修に経費精算方法を説明するためのコマを設ける
- ■毎月一定の時期に社内システム上の掲示板やメールなどで全従業員に期限を通知する
まとめ
今回は、経費精算の期限が何のためにあって、会社の期限や法律上の期限それぞれに応じた期限の考え方やルールへの対応のあり方をみてきました。さらに、経費精算の期限管理のために効果的だと思われる策についても紹介しました。
経費精算の期限は単に日付の問題では終わらず、期限を守れないと会社全体の管理面の甘さを指摘されるほど大きな問題に発展するおそれもある重要なものです。それだけに、ただの期限だからと甘く見ずに、経費精算システムの導入による経費精算業務の負担軽減などを軸に今後の対策をしっかりと講じるのが優良な会社への一歩となります。
現状の経費精算フローに課題がありそうな方は、まずは経費精算システムの比較のために資料請求がおすすめです。