賃金台帳とは何を記録する帳簿か
賃金台帳は、給与計算の過程と結果を労働者ごとに記録し、事業場に備え置く帳簿です。よく似た書類に給与明細がありますが、根拠となる法律も目的も異なります。ここでは賃金台帳の法的な位置づけと、作成が必要になる範囲を確認します。
労働基準法が定める賃金台帳の役割
賃金台帳は、労働基準法第108条に基づき、使用者が事業場ごとに作成し、賃金を支払うたびに遅滞なく記入することが義務づけられている帳簿です。法律では「調製する」と表現されますが、労働者ごとの給与計算の記録を整えて備えるという意味です。支払った賃金の額だけでなく、計算の基礎となった労働日数や労働時間数まで残すため、賃金が法律どおりに支払われているかを客観的に確認できます。
作成や記入を怠った場合、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。労働基準監督署の調査で確認される代表的な書類の一つであり、雇用関係の助成金の申請や、未払い賃金をめぐる争いが起きた際にも根拠資料として使われます。日々の給与計算を正確に残しておくことが、結果として企業を守ります。
給与明細との違いと使い分け
給与明細は、所得税法第231条により、賃金を支払う際に労働者本人へ交付することが義務づけられている書類です。対象は本人一人分の一回分の支給内容にとどまります。これに対し賃金台帳は、事業主が自ら保管し、労働者ごとに複数の支給期間の記録をまとめて残す帳簿です。交付する相手がいるかどうか、そして保管の義務があるかどうかが大きな違いです。
記載する内容も同じではありません。給与明細は支給額と控除額、差引支給額が中心ですが、賃金台帳は労働日数や労働時間数、時間外労働時間数といった計算の基礎まで含みます。そのため給与明細の控えをそのまま賃金台帳の代わりとするのは適切ではありません。必要事項がすべて記載され労働者ごとに整理されていれば、独自の様式でも差し支えありません。
作成が必要な事業場と対象になる労働者
賃金台帳は事業場ごとに作成します。本社で一つ作ればよいのではなく、支店や店舗、工場といった単位で備えます。労働者を一人でも雇っていれば、会社の規模や業種を問わず作成義務が生じます。パートやアルバイト、契約社員、日雇いで働く人も含め、雇用形態にかかわらずすべての労働者が対象です。
役員は原則として労働者にあたらないため対象外ですが、使用人兼務役員のように従業員としての立場を併せ持つ場合は、その部分の賃金を記録します。なお労働基準法施行規則第54条は、一か月を超えて使用されない日雇いの人には賃金計算期間の記入を、管理監督者などには労働時間数や時間外労働時間数の記入を求めていません。ただし管理監督者にも深夜割増賃金の支払いは必要で、深夜労働の時間数は残すのが安全です。
賃金台帳に記載する10の項目
賃金台帳の記載事項は、労働基準法施行規則第54条で定められています。条文では8つに区分されていますが、時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数をそれぞれ分けると、実務上は10項目として整理できます。記載漏れを防ぐためにも、必要な項目をあらかじめ確認しておきましょう。
基本情報と労働時間に関する8項目
基本情報と労働時間に関する項目は、氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数の8つです。誰に対して、どの期間・労働時間をもとに賃金を支払ったのかが確認できるよう、労働者ごとに記録します。
特に、時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数は、割増賃金を正しく計算するための重要な情報です。それぞれ区別して記録し、出勤簿やタイムカードなどの勤怠記録と一致するように管理しましょう。勤怠データと賃金台帳を連動させておくことで、集計ミスや転記ミスの防止につながります。
賃金の内訳と控除額に関する2項目
残る2項目は、基本給・手当その他の賃金の種類ごとの金額と、賃金の一部を控除した場合の金額です。基本給のほか、役職手当や通勤手当、時間外割増賃金など、支給した賃金は種類ごとに金額を記録します。
控除についても、社会保険料や雇用保険料、所得税、住民税など、内容がわかるように記載します。賃金台帳の様式は、常用労働者については様式第20号、日々雇い入れられる労働者については様式第21号が定められています。必要事項を確認する際はこれらの様式を参考にするとよいでしょう。
られています。必要な項目を満たしていれば、自社の給与体系に合わせた様式で作成しても問題ありません。賃金台帳の保存期間と保存のしかた
賃金台帳は作成して終わりではなく、一定期間の保存まで含めて義務とされています。保存期間は法改正で見直された経緯があり、現在は経過措置が適用されている状態です。ここでは期間の考え方と、電子データで保存する場合の条件を確認します。
保存期間は5年、当分の間は3年
労働基準法第109条は、賃金台帳などの記録を5年間保存しなければならないと定めています。ただし同法の附則により、当分の間は3年間とする経過措置が置かれており、実務上は3年間の保存で法令上の義務を満たす扱いが続いています。2020年4月の改正で3年から5年へ延長されたものの、経過措置により当面は従来どおりの運用が認められていると整理できます。
起算日は書類の種類ごとに決められており、賃金台帳については最後の記入をした日が起点です。労働者の退職後も、最後の記入日から数えて期間が満了するまでは処分できません。賃金の請求権の消滅時効も労働基準法第115条で5年、附則により当分の間は3年とされています。保存年限を社内規程で明文化しておくと運用が安定します。
電子データで保存する場合の要件
賃金台帳は紙で保存しなければならないわけではなく、一定の条件を満たせば電磁的記録、つまり電子データでの作成と保存も認められています。給与計算ソフトで出力したデータをそのまま保管する形が代表的で、印刷や保管のコストを抑えられる点が利点です。事業場が複数ある企業でも、事業場ごとに区分したうえで本社からまとめて管理しやすくなります。
電子データで保存する場合は、法令で定められた記載事項がすべて記録されていること、労働基準監督官の調査などの際に必要な部分を直ちに画面に表示し印刷できること、データの改変や消失を防ぐ措置が講じられていることなどが求められます。クラウドで管理する場合は、アクセス権限の設定やバックアップ体制も併せて整えます。
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法定三帳簿としてまとめて管理する
賃金台帳は単独で存在する書類ではなく、労働者名簿および出勤簿と合わせて法定三帳簿と呼ばれます。三つはそれぞれ記録する内容が異なりますが、労働基準監督署の調査では一体で確認されます。ここでは残る二つの帳簿の位置づけを押さえます。
労働者名簿に記載する事項
労働者名簿は、労働基準法第107条により事業場ごとに作成が義務づけられている帳簿です。同条は氏名、生年月日、履歴を記入事項としています。労働基準法施行規則第53条はさらに、性別、住所、業務の種類、雇入れの年月日、退職の年月日とその事由、死亡した場合の年月日と原因を定めています。常時30人未満の労働者を使用する事業では、従事する業務の種類の記入を要しません。
様式第19号が定められていますが、必要事項を満たしていれば自社の様式でも構いません。日々雇い入れられる人は労働者名簿の作成対象から外れる点が、賃金台帳と異なります。住所や氏名が変わった場合は遅滞なく修正する必要があるため、入退社や住所変更の手続きと連動させて更新する仕組みをつくっておくと、記載内容の古さを防げます。
出勤簿に求められる労働時間の記録
出勤簿は、労働者が実際に働いた日と時間を記録する帳簿です。労働基準法に「出勤簿」という名称の条文があるわけではありませんが、賃金台帳の労働時間欄を裏づける資料であり、労働時間の記録として保存の対象になると解されています。タイムカード、ICカードの打刻記録、パソコンの使用時間の記録など、客観的な方法で残すことが求められます。
記録する内容は一般に、出勤日、始業と終業の時刻、休憩時間、労働時間数のほか、時間外労働や休日労働、深夜労働の時間数です。労働安全衛生法では労働時間の状況を把握する義務が定められ、管理監督者や裁量労働制の対象者も確認の対象です。出勤簿の数字がそのまま賃金台帳へ引き継がれるため、両者を切り離さずに管理することが正確な給与計算の土台です。
賃金台帳の作成でつまずく点と対策
賃金台帳は毎月発生する定型業務でありながら、記載漏れや集計ミスが起こりやすい書類でもあります。手作業が多いほど誤りの余地は広がります。ここではよくある不備の傾向と、業務の負担を抑えながら正確性を高める方法を紹介します。
記載漏れと様式の不備を防ぐ
実務でよく見られる不備は、労働時間数の欄が空欄のままになっている、手当が種類ごとに分かれておらず合計額だけ記載されている、パートやアルバイトの分が作成されていない、といったものです。給与明細の控えを綴じただけで賃金台帳としているケースも見受けられますが、必要項目が欠けていれば要件を満たしません。
対策としては、記載すべき10項目を一覧にしたチェックリストを作り、給与計算の締め処理と同じタイミングで確認する流れを組み込むことが効果的です。事業場が複数ある場合は、様式と記入ルールを本社で統一し、各拠点の担当者が同じ基準で作成できるようにします。担当者が交代しても品質が落ちないよう、手順書として残しておくことも有効です。
システムで作成と保存を自動化する
労務管理システムや勤怠管理システムを使うと、打刻データから労働時間を集計し、給与計算の結果と合わせて賃金台帳を自動で出力できます。出勤簿と賃金台帳の数字が同じデータから作られるため、転記ミスや集計の食い違いが起こりにくくなります。労働者名簿を含めた法定三帳簿を一つの画面で管理できる製品もあります。
製品を選ぶ際は、法定の記載事項を満たした様式で出力できるか、法改正に合わせた更新が提供されるか、電子保存の要件に対応した権限設定やバックアップがあるかを確認します。既存の給与計算ソフトとの連携可否や、事業場ごとの出力に対応しているかも重要な観点です。自社の雇用形態や拠点数に合うかどうかを基準に比較検討を進めましょう。
従業員情報と帳票作成を担う労務システム
賃金台帳は日々の従業員情報や手続きの記録と地続きです。従業員情報の管理と帳票作成に対応する製品を紹介します。
人事労務freee
- 労務手続きからマイナンバー、給与計算を一元化
- 勤怠、給与とも一気通貫で業務効率化
- マイナンバーの収集、保管、利用、破棄までがクラウド上で完結
フリー株式会社が提供する「人事労務freee」は、給与計算と労務手続きをクラウド上で一元化する労務管理システムです。従業員情報を登録しておけば、勤怠の打刻データと合わせて給与計算を行い、給与明細の発行まで同じ画面で進められます。労働者名簿や賃金台帳といった法定三帳簿の作成にも対応し、入退社手続きやマイナンバー管理、年末調整、電子申請も扱えます。従業員自身が情報を入力する運用にすれば、担当者の転記作業を減らせます。
ハーモス労務給与
- 労務・給与業務がすべてシステム内で完結
- 大量の給与計算・社会保険手続きを一括処理
- 従業員が直接入力できる柔軟なフォーム設計
株式会社ビズリーチが提供する「ハーモス労務給与」は、労務手続きと給与業務をひとつのシステムで完結させるクラウドサービスです。給与計算を一括で実行でき、給与明細はWeb上で一斉に発行できます。賃金台帳をはじめとする法定三帳簿の出力にも対応し、社会保険の届出や電子申請、年末調整の申告書配布と提出管理も同じ基盤で進められます。従業員が個人情報を自分で入力・更新できるため、住所変更の反映漏れを防ぎやすくなります。
e-AMANO人事届出サービス (アマノ株式会社)
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まとめ
賃金台帳は、労働基準法第108条に基づき事業場ごとに作成が義務づけられた法定帳簿で、氏名や労働時間数、賃金の内訳など10の項目を記載します。保存期間は法律上5年、経過措置により当分の間は3年とされ、要件を満たせば電子データでの保存も可能です。労働者名簿や出勤簿と合わせた法定三帳簿として一体で管理すると、記載漏れや数字の食い違いを防げます。システムの活用も視野に入れ、正確な記録が残る体制を整えましょう。

