労災とは
労災とは労働災害の略で、業務上従業員が怪我や病気にかかることです。以下の2種類に大別されます。
- 業務災害
- 業務に従事している最中に発生する災害
- 通勤災害
- 通勤中に発生する災害
そして、労災が発生した際には必ず企業が補償を行うように労働基準法で定められています。しかし、大きな労災が発生した際、そのすべてを企業が補償するのは困難です。
そこで、労災保険という制度が存在します。これは国が作った公的な制度で、企業が納付する保険金を元に、労災の補償を行うものです。
事業主は従業員が1人でもいれば労災保険に加入する義務があります。たとえその1人がアルバイトやパートなどの非正規労働者でも例外ではありません。
労災発生時にまず会社がすべき対応
続いては、労災発生時の一般的な対応の流れを見てみましょう。
- 【業務災害】
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- 1.労災指定病院に行かせる
- 被災者を労災指定病院に行かせます。それが難しい場合は通常の病院でも構いませんが、その場合は労災であることを必ず病院に伝えます。また、健康保険証を使わないよう注意しましょう。
- 2.療養補償給付についての書類提出
- 治療を受けたのが労災指定病院の場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」、それ以外の病院なら「療養補償給付たる費用請求書(様式第7号)」を作成・提出します。
- 3.労働者死傷病報告の提出
- 労働基準監督署に「労働者死傷病報告(様式第23号)」を提出します。
- 【通勤災害】
- 1.労災指定病院に行かせる
- 2.療養補償給付についての書類提出
「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」を病院に提出します。この書類には通勤経路など労災の状況を記載します。
労災発生時における会社の義務
労災発生時には、企業はどのような義務を負うのでしょうか。
手続きにおける助力・証明義務
基本的に、労災保険の手続きは被災者本人が行うものです。しかし、重篤な怪我や病気を負っている被災者がすべて自力で行うのは困難です。したがって、企業は被災者が行う手続きを支援しなければなりません。
特に、労災発生に関する各種証明には企業の助力が不可欠です。保険の請求書には労災が起きた日時や状況などを記載する必要がありますが、これは事業主が押印し、内容に間違いがないことを証明しなければなりません。
休業中3日目までの賃金補償義務
被災者が労災によって休業を余儀なくされた場合、労災保険から休業期間中の賃金が保証されます。しかし、これは休業4日目以降からしか補償されません。このままでは、被災者は最初の3日間分の賃金を損失してしまいます。
そこで、企業にはその3日間の賃金を保証する義務が課せられています。最低でも、平均賃金の6割以上を3日分補償しなければなりません。従業員に不安を与えないため、6割ではなく10割補償する企業も多いです。
ちなみに、この3日分の賃金は、賃金としてではなく補償金として支給します。したがって、従業員の所得税の課税対象にはなりません。税金関連手続きで区別すべきポイントであるため注意しておきましょう。
労働者死傷病報告書の提出義務
前述した労働者死傷病報告の提出は、被災者ではなく会社の責任です。以下の場合には必ず労働基準監督署長に提出しなければなりません。
- ■労災によって労働者が負傷し、死亡または休業した
- ■労働者が就業中に負傷し、死亡または休業した
- ■事業場内あるいはその附属建設物内で労働者が負傷し、死亡または休業した
- ■事業の附属寄宿舎内で労働者が負傷し、死亡または休業した
労災によって生じた休業が4日未満であれば急ぐ必要はありませんが、被災者が死亡あるいは4日以上休業する場合は遅滞なく提出しなければなりません。一般的には労災発生後1~2週間が提出期限とされています。労災保険を請求するかどうかに関係なく提出が必要です。
ちなみに、提出した労働者死傷病報告書は労働災害統計の作成などに活用されます。この分析結果は労災発生防止策の検討に利用されるため、社会にとって重要な書類と言えるでしょう。
労災認定された場合における会社側のデメリット
労災は本来発生してはいけないものです。したがって、発生後に適切に対応したとしても、企業はある程度のデメリットを被ることになります。では、代表的なデメリットを2つ見ていきましょう。
労災保険の給付を請求すると保険料が上がる可能性がある
労災保険にはメリット制と呼ばれる制度があります。簡単に表現すると、労災発生率が高い(労災保険によって享受するメリットが大きい)企業ほど、納付する保険料が増加する制度です。たとえば、同じ建設業でも危険な作業を機械で自動化している企業と、人力で対応している企業では、後者のほうが保険料が大きくなります。
このメリット制があるため、労災保険の給付を請求すると保険料が高くなることがあります。労災発生率が高い企業として認定されてしまうからです。
ただし、ほんの数回給付を請求したくらいでは、大きな変化はありません。また、メリット制は基本的に大企業を対象としているため、中小企業が影響を受けることは稀です。
労働基準監督署により立入検査される可能性がある
労災が発生すると、労働基準監督署の立入検査が実施されることがあります。これは、労災が発生する原因を見つけ出し、それを排除することで労災発生率を低下させるのが目的です。労働基準監督署の検査により重大な法律違反が発見された場合は、書類送検されることになります。
このリスクを避けるため、労働基準監督署に労働者死傷病報告書を提出しない企業も存在します。しかし、これは労災隠しとしてより大きな罰則を受ける原因となるため、絶対にやってはいけません。
また、立入検査によって自社の労働環境に潜む問題点を発見してもらえれば、業務の安全性や質を高めることにつながります。リスクではなくチャンスとして前向きに捉えましょう。
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労災発生時における注意点
最後に、労災発生時の注意点を2つ紹介します。
療養中における労働者の解雇には制限がある
労災によって休業している労働者は、原則として休業期間中とその後30日以内には解雇してはいけません。従業員の過失によって生じた労災でも例外ではないため気をつけましょう。
ただし、以下のいずれかを満たす場合は例外的に解雇できます。
- ■企業が打切補償として1200日分の給与を支払った
- ■従業員が休業中に定年を迎え、定年退職となった
- ■やむを得ない理由により、事業を継続できなくなった
- ■従業員が労災保険から傷病補償年金の支払いを受けている
また、労災が発生しても、従業員が1日も休業していないのであればこの制限は適用されません。さらに、この制限はあくまで業務災害に適用されるものであり、企業に責任がない通勤災害には関係ありません。
労災隠しはペナルティが課される
労災隠しとは、労働者死傷病報告書を提出しない、あるいは嘘の内容を記載して提出することです。従業員が訴えて明るみに出る場合があります。
すでに何度か触れましたが、労災隠しは違法行為であるため絶対にやってはいけません。メリット制による保険料の増加や立入検査のリスクを恐れて労災隠しを行う企業も存在しますが、余計に大きなペナルティを招くだけです。
労働安全衛生法では、労災隠しには50万円以下の罰金が規定されています。また、労災自体が発生していなくても、従業員がいるにもかかわらず労災保険に加入していない場合は、労働基準監督署の指導を受けることになります。さらに、未加入の状態で労災が生じた場合、その補償に要した費用を企業が負担しなければなりません。
見つかったときに甚大なペナルティを受けることになるのですから、初めから誠実な態度で臨みましょう。
労災が発生したら、迅速かつ丁寧な対応を!
労災とは通勤途中あるいは業務の遂行中に従業員が負傷することです。企業は労災発生時に以下の義務を負います。
- ■手続きの助力
- ■休業3日目までの賃金補償
- ■労働者死傷病報告書の提出
また、労災認定されると以下のデメリットがありえます。
さらに、労災発生時の注意点は以下です。
- ■療養中の解雇は制限される
- ■労災隠しは犯罪になる
以上を踏まえ、労災に適切な対応を行いましょう。