労務管理とは
労務管理とは、従業員の労働状況や福利厚生を管理する業務のことです。労働条件や勤怠、給与、社会保険など、労務に関するあらゆる事項を管理し、人事管理と同様に従業員管理も行うことで、生産性の向上とリスク回避を実現します。
人事管理との違いは「管理対象」
人事管理は個人、労務管理は組織を管理する点が異なります。人事管理の業務対象は、人材育成や昇格など従業員1人ひとりという単位です。一方、労務管理は労働条件や就業規則など、組織として従業員を管理します。
以下で人事管理との違いを詳しく紹介していますので、参考にしてください。
労務管理を行う目的は生産性向上とリスク回避
生産性向上のためには、給与や労働環境を管理しなければなりません。社内の人材を有効活用するために、従業員が給与や環境に満足して働けるようにすることが大切です。
また、社内のトラブルなどのリスク回避も労務管理の目的です。企業の社会的責任として就業規則や法令遵守を徹底させ、労災や健康状態の管理を行いましょう。労務管理研修などを行うことも有効でしょう。
労務管理の業務内容
労務管理の業務は次のようなものが対象です。
- ●労働契約の締結
- ●労働条件の管理
- ●就業規則の管理
- ●保険手続き
- ●勤怠管理
- ●給与計算
- ●健康管理
- ●職場改善
さっそく詳しく見ていきましょう。
労働契約を締結する
労働契約とは、従業員と会社が雇用関係を結ぶ際に締結する契約です。これを締結する際には、労働契約法によって定められた以下の5原則に従わなければいけません。
- ●対等な立場で合意する
- ●均衡を考慮する
- ●仕事と生活の調和を考慮する
- ●信義に従い誠実に行動する
- ●権利を乱用しない
また、採用時には労働条件通知書を交付する必要があります。これは、就業時間や賃金など、契約に必要な情報を記した書類です。具体的な記載事項は労働基準法で定められています。
労働条件を変更・管理する
労働条件を変更・管理する際は、労働契約を締結する際と同様に従業員の合意が必要になります。ただし、昇給など変更に伴う不利益が考えにくい場合は、暗黙のうちに合意を得たと見なせるケースもあるため注意しましょう。
逆に、給与の減額など従業員の不利益につながる変更をする場合は、必ず本人の合意を確認しなければなりません。合意があったとしても、労働基準法に反した労働条件を適用することはできません。
就業規則などを作成・変更する
常時10人以上の従業員がいる企業では、就業規則の作成が義務付けられています。労働基準監督署に届け出たうえで、従業員に周知しなければなりません。周知の方法としては、ネットワーク上でパソコンから閲覧できるようにするなどが一般的です。
記載事項は労働基準法によって、絶対的記載事項と相対的記載事項、任意記載事項に分類されていますので、しっかり確認しましょう。
絶対的記載事項は必ず記載しなければならない内容で、賃金や退職に関する項目を含みます。一方、相対的記載事項は何らかの制度があるなら記載しなければならない項目です。賞与や災害補償などが含まれます。任意記載事項は休職や異動など、企業によってさまざまです。
また、記載内容は労務業務の実態や法改正に応じて変更しなければなりません。従業員に不利益となる変更を行う際には、同意が必要です。
社会保険手続きや労働保険手続きをする
社会保険とは、健康保険や国民年金など、生活上のさまざまなリスクに備えて加入する保険の総称です。一方、労働保険は労災保険や雇用保険など、労働に関する保険を指します。従業員の採用時や退職時、育休を取得した際などにこれらの申請・変更手続きが必要になります。
社会保険は、「正社員の4分の3以上の時間勤務している」などの要件を満たした従業員が加入対象です。採用日から5日以内に、年金事務所または健康保険組合に、健康保険と厚生年金保険の加入を申請しなければなりません。
労働保険も、要件を満たす従業員は加入手続きを行う必要があります。採用日から翌月10日までに、管轄のハローワークに提出しなければなりません。ただし、労災保険だけは会社が全額負担するため、採用時の手続きは不要です。
これらの業務を円滑化するツールとして、労務管理システムを活用してもよいでしょう。
勤怠管理をする
勤怠管理とは、企業が従業員の勤務状況を把握・管理することです。ICカードやタイムカードを利用し、日々の勤務時間を記録します。適正な給与支払いだけでなく、従業員の健康を守るうえでも重要です。長時間労働の傾向が見られる場合は、業務の見直しが必要です。
また、勤怠管理のデータは適切に管理しなければなりません。事業場ごとに台帳を作成し、賃金支払いに必要な事項をその都度記入することが、労働基準法で義務付けられているためです。
勤怠管理システムや就業管理システムなどのツールを使うと、これらの業務を円滑化できます。
給与・賞与の計算をする
給与は、支給額から控除額を差し引いて算出します。支給額は、基本給と残業代からなります。勤怠管理情報を基に、これらを正確に求めましょう。支払いの記録は、台帳として保管することが義務付けられています。
控除額は、社会保険や所得税のような保険料・税金が対象となります。控除した分は税務署や年金事務所に適切に納付する必要があります。
賞与は就業規則や賞与規定に基づいて算出します。まず企業が支給する賞与の総額が決められ、それを従業員に分配するというステップを踏むのが一般的です。どのように分配するかは、従業員の業績や人事考課の内容によって左右されます。
給与計算システムなどのITツールを用いることで、効率的に計算できるでしょう。
健康管理をする
企業の生産性を高めるためにも、従業員の健康管理は欠かせません。労働基準法や労働安全衛生法でも、企業が従業員の健康を守る安全衛生管理は義務として定められています。
パートやアルバイトを除く、常時勤務している従業員には、健康診断を受けさせなければなりません。さらに、近年は、メンタルヘルスへの関心が高まりつつあります。2015年12月から、50人以上の従業員がいる企業は、ストレスチェックが義務化されました。
労災認定や損害賠償責任のリスクを回避するためにも、従業員の健康を守れる環境を整えなければなりません。スムーズな健康管理のために、健康管理システムなどのITツールを導入してもよいでしょう。
職場環境を改善する
労働者が働きやすいように、環境整備を行うことも重要な業務です。職場環境の改善は、主に以下のような内容を含みます。
- ●長時間労働の抑制
- ●安全と健康の確保
- ●仕事と生活の両立
- ●ハラスメントの防止
- ●高年齢者の活躍促進
- ●障害者の雇用継続
- ●女性の活躍推進
例えば、長時間労働の抑制には、業務の分担体制を見直すなどの対策が求められます。ハラスメント対策であれば、企業が対応方針を周知し、従業員が相談できる環境づくりが必要になるでしょう。
一口に職場環境の改善といっても、改善すべきポイントは企業によって異なります。自社が抱えている、あるいは兆候が見られる問題点を洗い出すところから始めましょう。
労務の業務内容について詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
労務管理を行う際の注意点
労務管理を行ううえで気をつけるべきポイントを3つ紹介します。
法令や法律を遵守する
遵守すべき法令・法律は、労働基準法や労働組合法、マイナンバー法など多岐に渡ります。知らず知らずのうちにこれらの労働法に違反することがないよう、深い理解が求められます。
また、一度理解すればよいというものではありません。これらの法は現状に応じて改正されます。改正内容を把握し、就業規則や労働条件もそれに合わせて変更しなければ、違反していることになります。
これらの専門資格を取得するのも有効です。例えば、マイナンバー法であればマイナンバー実務検定という資格が存在します。資格取得を目指して勉強することで、労務管理者としてスキルアップできるでしょう。
常に改善する意識を持つ
職場の環境は常に変化しています。そのため、それに応じて常に最適な職場環境への改善を目指すことが大切です。例えば、ハラスメントは近年注目され始めた問題です。これまで以上にハラスメント対策に気を配り、発生防止に努めなければなりません。
また、残業時間を減らすための施策も時代と共に変化しています。適切な業務の分配や人材の確保だけでなく、ITツールを駆使した自動化も注目されています。
今後も、問題点・解決策ともに変化し続けていくでしょう。そのような流れに適応しながら最適な職場環境を追求することが、企業の生産性向上につながります。
厳重に情報管理をする
情報管理の重要性は年々増してきています。従来は紙の書類がメインでしたが、現在では電子データの管理にも注意しなければなりません。セキュリティ体制を整え、社内外からの攻撃に備える必要があります。
さらに、マイナンバーが登場したことで従業員の個人情報管理の重要性が増しています。マイナンバー法ではその取扱い方法が詳細に定められており、それに即した扱いをしなければなりません。
効率的に労務管理を行う方法
労務管理はやるべきことが多く、業務効率化が求められます。そこで、効率的に労務管理を行う方法を紹介していきます。
専門家に依頼する
自社内の力だけで業務をこなすのが難しいと感じたら、専門家に依頼するのも1つの方法です。そもそも労務管理の対象は幅広いため、少数の労務管理担当者だけで管理するのは容易ではありません。特に、人事管理と労務管理を兼任している場合は、業務対象は膨大な範囲に渡ります。
労務管理システムの導入を検討する
人事管理システムや勤怠管理システムなど、多くのITツールが存在します。これらを有効活用することで、業務負担が大幅に軽減するでしょう。
単純作業ほど自動化しやすいです。例えば、給与計算システムであれば、必要な条件を入力すれば自動で給与を算出してくれます。これらの作業をシステムに任せられれば、担当者は職場環境改善案を練るなど、創造的な仕事に労力を費やせるでしょう。
早速、自社にあった労務管理システム導入を検討している方や、ツール選定をしたいと思った方は以下の記事を参考にしてください。
労務管理に関する資格
労務管理を効率的に行う方法として資格を取得する方法もあります。実際に労務管理に関連した資格を5つ紹介しますのでぜひ参考にしてください。
業務全般の知識が身につく「労務管理士」
多岐に渡る労務管理の分野について、総合的な知識を持っていることを示す資格です。この資格を取得するうえで重視されるのは、労働基準法の基礎知識と、実践で必要な知識を持っていることです。具体的な取得方法は、以下の4つとなります。
- ■公開認定講座
- 全国の主要都市で開催されている講座を受け、試験に合格することで取得できます。
- ■通信講座
- 通信形式で講座を受講し、試験に合格することで取得できます。
- ■Web資格認定講座
- Webで受けられる通信講座です。試験もWeb上で受けられます。
- ■書類審査
- 労務管理士からの推薦と3年以上の実務経験があれば、講座と試験を受けなくても取得できます。
書類審査以外は、20歳以上であれば学歴や職業、国籍を問わず誰でも受けられます。
労働条件・環境改善のスキルが身につく「衛生管理者」
健康障害や労災の防止を目的として、社内の衛生環境を管理するための資格です。労務管理士とは違い、衛生管理者免許は国家資格です。常時50人以上の従業員がいる職場では、必ず選任しなければなりません。
主な仕事は、職場環境の管理や衛生教育の実施、従業員の健康管理などです。職場を巡回し、設備や業務内容に衛生的な問題がある際は、すぐに対処しなければなりません。
一定以上の学歴と、労働衛生に関する実務経験がある人のみ資格を取得できます。全国7か所の安全衛生技術センターで、定期的に試験が行われています。
手続き関係の専門知識が身につく「社会保険労務士(社労士)」
社会保険労務士法に基づく国家資格です。社会保険の申請書類作成や申請代行など、労務手続きに関する知識が身につきます。他社の手続きを代行できるようになるため、企業にいると重宝される存在となるでしょう。
また、資格を取得すると、社会保険労務士名簿に登録され、都道府県社会保険労務士会の一員になれるのも特徴です。
試験は一定の学歴や実務経験を持つ人が受けられます。毎年4月中旬から5月末まで試験の申し込みが受け付けられ、8月頃に試験が行われます。
マイナンバー管理で役立つ「マイナンバー実務検定」
マイナンバー制度やマイナンバー法への理解があることを示す民間資格です。1~3級が存在するため、自身のレベルに合わせて受験できます。
一定以上の級に合格すると、講習会を受けられるのが特徴です。3級は日常生活レベルの知識を問うものなので、労務管理業務に役立てるには2級以上を目指しましょう。試験は定期的に全国の指定場所で行われており、年齢や国籍を問わず受験できます。
キャリアアップにつながる「ビジネス・キャリア検定試験」
業務の遂行能力を測定する試験で、略して「ビジキャリ」と呼ばれる知名度の高い資格です。8分野43試験の中から、自分の職種に適合するものを選んで受験できます。試験分野は以下の8種類です。
- ●人事・人材開発・労務管理
- ●経理・財務管理
- ●営業・マーケティング
- ●生産管理
- ●企業法務・総務
- ●ロジスティクス
- ●経営情報システム
- ●経営戦略
有名な試験のため、対外的に能力を示すうえでも有効でしょう。受験資格はなく、毎年2回試験が実施されています。
まとめ
労務管理とは従業員を管理することで、主に次のような業務が対象です。
- ●労働契約の締結
- ●労働条件の管理
- ●就業規則の管理
- ●保険手続き
- ●勤怠管理
- ●給与計算
- ●健康管理
- ●職場改善
法令遵守やプライバシー保護に留意しながら業務を進めましょう。また、専門家への依頼やITシステムの利用で業務を円滑化できます。キャリアアップするうえでは、資格取得も有効です。ぜひ、労務管理への理解を深め、業務に役立ててください。