労働基準法は労働者を保護するための法律
労働基準法とは労働条件に関して、雇用する側が最低限守らなければいけない基準を定めたものです。労働者を統一的に保護することが目的であるため、たとえ双方に合意があったとしても使用者は労働基準法を遵守する義務があります。
労働基準法には、労働条件に関するルールのほか、労働基準法違反となる行為を行った場合の罰則規定が設けられています。
なお労働基準法の対象となる労働者は、アルバイトや正社員などの雇用形態にかかわらず日本国内で営まれる事業に従事している者です。海外勤務の従業員や、請負契約・委任契約の場合は労働基準法の適用外とされていますが、契約の形式によらず実態で判断されます。
参考:労働基準法|e-Gov法令検索
代表的な違反行為と労働基準法違反の罰則
労働基準法違反とは、どのような行為を指すのでしょうか。罰則とあわせて詳しく紹介します。
1.労働・残業時間の違反
労働基準法では、労働者の勤務時間を1日8時間・週40時間までと規定しています。しかし36協定を締結している場合のみ、この時間を超過して残業が可能です。つまり労働者が残業について納得し、協定で定めた範囲でしか残業は認められません。
ところが、36協定で合意された範囲を超えている場合や、そもそも36協定を結ばずに残業を行っているケースがあります。これは明確な法律違反であり、6か月以下の懲役あるいは30万円以下の罰金が科されます。
2.休憩時間の違反
労働基準法において、労働時間が6時間を超過する場合は45分、8時間を超過する場合は60分以上の休憩を与えるよう定められています。これに違反すると、6か月以下の懲役あるいは30万円以下の罰金が科されます。
休憩時間の違反は、労働時間・残業時間の違反ほど多くありません。ただ、それは違反自体が少ないのではなく、休憩時間の違反程度で訴える労働者がいないだけです。法律違反であることは間違いないため、適切に休憩時間をとりましょう。
ちなみに、休憩時間というのは従業員が完全に職務から解放される時間のことです。休憩時間も電話待ちなどで職場を離れられないのであれば、休憩時間とは認められません。
また、休憩時間を与えるのは労働時間の途中と決まっています。例えば、連続で8時間働いた後、帰宅までに1時間の休憩をとるような方法は認められないため気をつけましょう。
3.休日・有給に関する違反
雇用者は労働者に対し、週1日以上の法定休日を与えなければなりません。違反すると、6か月以下の懲役あるいは30万円以下の罰金が科されます。
法定休日とは、企業が労働者に週1日あるいは4週間に4日以上与えることが義務付けられている休日です。法定休日をとらず、代わりに有給で休むことは違法なため気をつけましょう。
ただし、残業と同様に36協定で雇用者と労働者の間で合意を形成しているのであれば、週7日働いてもよいことになっています。
4.残業代・休日手当・深夜手当の違反
残業代・休日手当・深夜手当は必ず支払わなければなりません。違反すると、6か月以下の懲役あるいは30万円以下の罰金が科されます。
ところが、多くの企業が労働者に残業代を満額与えていません。この場合、労働者は雇用者に未払い分の残業代を請求する権利を得ます。請求されると企業は労働基準法違反の罰則とあわせて、一度に莫大な額のお金を支払わなければならないため手当の計算や支払いを徹底しましょう。
また、2020年4月の民法改正をうけ、未払い残業代を請求する権利の時効期間が2年から3年に伸ばされたことも要注意です。将来的には民法の賃金債権の基準にあわせて5年とされる可能性もあるといわれています。長時間労働をよしとする風潮は少なくなってきているため、労務管理や残業制度の見直しをするのもよいでしょう。
5.給料の支払いの違反
給与の金額が基準値を下回っていたり、あらかじめ指定された給料日に給料を全額支給していなければ労働基準法違反になります。給与の支払いについての違反行為と罰則は以下のとおりです。
- ■働いた分の給料が支払われない
- 50万円以下の罰金
- ■給料が各地域で定められている最低賃金を下回っている
- 50万円以下の罰金
- ■給料日に全額の支払いが完了しない
- 30万円以下の罰金
特に注意しなければならないのは3つ目「給料日に全額の支払いが完了しない」ことです。最終的には全額払うつもりでも、支払いの先延ばしや、給料日を過ぎての分割払いは認められません。
6.労災に関する違反
仕事中あるいは通勤中に労働者が怪我をしたり病気にかかったりすることを労働災害(労災)といいます。労働者が労災に遭ったら、雇用者は療養・休業費用を負担しなければなりません。一方、労働者が死亡した場合は遺族補償や葬祭料を支払う必要があります。これらに違反すると6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されます。
また、上記のほかにも労働基準監督署への報告など、労災が発生するとさまざまな義務が生じることにも留意しましょう。その義務を怠ると「労災隠し」として刑事罰が与えられる可能性があります。
7.労働条件・就業規則に関する違反
労働者が入社する際には、雇用者側は労働条件や就業規則の内容について通知しなければなりません。これに違反すると30万円以下の罰金が科されます。具体的には以下の状態が法律違反に該当します。
- ■入社時に労働条件の説明をしない
- ■入社後に勝手に労働条件を変更している
- ■就業規則を作成していない
- ■作成した就業規則を労働基準監督署に届け出ていない
- ■就業規則を誰もが確認できる場所に掲げていない
8.妊娠・出産に関する違反
労働基準法では妊娠や出産に関して、雇用者に以下の義務が定められています。違反すると6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されます。
- ■労働者が産前産後休暇を求めた場合、認めなければならない
- ■妊産婦が残業をしないといった場合、認めなければならない
- ■生後満1年未満の子どもを育てる女性が育児時間を求めた場合、与えなければならない
9.一方的な解雇に関する違反
労働基準法では、解雇について以下のことが定められています。
- ■解雇の30日以上前から、解雇について労働者に知らせておかなければならない
- ■上記を満たさなかった場合、30日分の賃金を支払わなければならない
この両方に違反した場合は、6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されます。
10.差別に関する違反
使用者の性別や国籍、信条、社会的身分を理由に、賃金などの雇用条件に差をつけることは禁止されています。違反した場合は6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されます。
11.労働の強制に関する違反
脅迫や監禁によって意思に反した強制労働をさせることも当然に違反とされています。そのなかには、例えば使用者が退職したいといっているのに辞めさせない行為なども含まれる場合があります。
ほかにも、借金をカタに労働させることや、前に貸していた分を給料から一方的に控除することなども禁止です。
強制労働は労働基準法のなかで最も罰則が重く、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金が科されます。
労働基準法違反が発覚したら?
労働基準法違反をした場合、以下の理由で発覚することがあります。
- ■労働者による管轄労働基準監督署への通報
- ■労働者による都道府県労働局の総合労働相談コーナーへの相談
発覚後は労働基準監督官が企業に立入調査を行います。帳簿や書類の提出を求められたり、従業員への尋問を行ったりします。このとき調査の拒否や虚偽の陳述を行うと30万円以下の罰金が科されるため注意しましょう。
違反行為であると認められると是正勧告がなされます。この勧告は行政指導であるため法的拘束力はありませんが、従わないと違反行為を継続していることになるため、逮捕されたり罰金を支払ったりする可能性が高まるでしょう。
違反状態が改善されなかった場合、逮捕や起訴といった刑事手続きが行われます。送検される場合には、厚生労働省のWebサイトに企業名が公表されます。社会的信頼を大きく損なうことになるため、是正勧告を受けたら速やかに対応するのがよいでしょう。
労働基準法違反による公表事例
厚生労働省のWebサイトで公表された事例をいくつか抜粋しました。データは令和2年9月から一年間の公表分ですが、給与の未払いや36協定の労働時間を超過した時間外労働による送検が目立っていました。また実際には企業名も表示されてしまいます。送検に至るまえに対処しましょう。
所在地 |
公表日 |
違反法案 |
事案概要 |
福岡県久留米市 |
令和3年8月3日 |
労働基準法第32条 |
36協定の延長時間を超える時間外・休日労働 |
三重県鈴鹿市 |
令和3年8月5日 |
労働基準法第62条 |
18歳未満の年少者に対する危険な業務 |
北海道苫小牧市 |
令和3年6月15日 |
労働基準法第32条 |
36協定未締結・不届出での時間外労働 |
福島県郡山市 |
令和3年6月11日 |
労働基準法第24条 |
12か月間の定期賃金未払い |
沖縄県那覇市 |
令和3年3月9日 |
労働基準法第15条 |
労働契約締結時に書面に労働条件を明示しなかった |
大阪府大阪市 |
令和3年3月3日 |
労働基準法第75条 |
労災保険を使わせず治療費の全額負担をしなかった |
山形県山形市 |
令和3年2月18日 |
労働基準法第20条 |
解雇予告をせず解雇、解雇予告手当の未支給 |
新潟県南魚沼市 |
令和2年10月7日 |
労働基準法第101条 |
労働基準監督官に虚偽の書類を提出 |
労働基準法違反にならないための対策は?
労働基準法違反で企業が注意したいのは、知らぬ間に違反してしまうことです。実際に、明らかな違反が行われているにもかかわらず、雇用者も労働者も気づいていないケースは多いです。これは、いつか違反が発覚して大きな損失を被るリスクが潜んでいることを意味します。
このようなリスクを排除するには、労務管理を徹底しなければなりません。しかし、さまざまな業務に追われる中で完璧な労務管理を行うのは難しいでしょう。
そこで活用したいのが労務管理システムです。これは入退社時の手続きや書類作成、給与計算などを行えるITツールです。労務管理に伴う雑務をツールで効率化すれば、労働基準法違反にならない体制作りに注力できるでしょう。
労働基準法に違反しないよう労務管理を適切に行おう
違反が発覚すると懲役や罰金刑を受けるほか、企業名を公表されて社会的信頼を損ないます。労務管理を徹底し、労働基準法を遵守しましょう。