労務費とは?人件費との違い
労務費とは人件費の一つです。人件費は、企業の中で給与や賞与として従業員に支払われる経費を指しますが、何にかかる人件費であるのかによって、会計上定義を分けて費用計上します。
会計処理における人件費は以下の3つに分けられます。
- 労務費・・・製造に直接かかわる費用
- 販売費・・・販売に直接かかわる費用
- 一般管理費・・・会社全般の管理にかかわる費用
労務費とは
労務費とは、人件費の中でも製品を生産するときにかかる労働力の原価を指します。労務費には主に製造に携わった従業員の賃金や給与が含まれるため、「製造にかかわる人件費」と考えるとわかりやすいでしょう。
労務費は、主に原価計算や経理・会計業務で使用され、製品を作る工程のある製造業や建設業で発生します。一方、小売・販売などの業種では販売費がメインとなるためあまり発生しない傾向があります。
労務費の内訳
労務費に含まれるものを以下に挙げます。
- ■従業員の給与
- 製造部にかかわる従業員の給与で、正社員と派遣社員の賃金
- ■アルバイトなどの雑給
- アルバイトやパートタイムなど時給で働く人の賃金
- ■従業員賞与手当
- 従業員の賞与(ボーナス)や各種手当(家賃補助、通勤交通費、家族手当など)
- ■退職給与
- 退職金支払いに備えてある程度金額を積み立てている費用
- ■法定福利費用
- 健康保険や雇用保険などの保険金
また、労務費は「直接労務費」と「間接労務費」に分けられます。
次に、分類と計算方法を解説していきます。
労務費の計算方法
労務費は「直接労務費」と「間接労務費」に分けられ、計算には正しい手順を踏む必要があります。どのように労務費を計算すればよいか見ていきましょう。
直接労務費と間接労務費に分ける
労務費は製造過程で直接製造にかかわる労務費である「直接労務費」と、直接労務費に含まれないすべての労務費用である「間接労務」が存在します。
労務費用を計算するには、まず労務費を分類します。
- ■直接労務費
- 製造の中で加工・組み立てなどに直接かかわる従業員を「直接工」と呼びます。この直接工の賃金が直接労務費の大部分を占めます。直接工が間接作業を行うこともありますが、直接作業以外は直接労務費に該当しません。
- 労務費を計算する際に、直接工のすべての時間を直接労務費として計算すると、正確な数値が算出できなくなります。
- ■間接労務費
- 間接労務費において大きな割合を占めるのが、間接工の人件費です。機械の修繕や清掃を行う従業員を間接工と呼び、間接工の賃金が間接労務費になります。
- また、間接工の賃金以外に事務部門への給与なども該当します。
直接労務費の計算
直接労務費は1時間あたりの賃金(賃率)と作業時間を掛けて算出します。賃率を求める理由は、ひとりの従業員が複数の製品の製造に携わることが多いためです。一つの製品にしか携わっていなければ計算は簡単ですが、兼任している場合がほとんどです。
▼直接労務費の計算式
- 直接労務費=賃率×製品を製造した際の時間
- 直接労務費の賃率=直接工の賃金÷直接作業の総時間
- 賃率=基本賃金+加給金÷総就業時間
直接労務費を求める際は、直接工が間接作業を行っていることも忘れてはなりません。正確に直接労務費を計算するためにも、製品ごとの直接作業時間を記録しておきましょう。
間接労務費の計算
間接労務費は、直接労務費に該当しない労務費をすべて合計することで算出可能です。もしくは、労務費から直接労務費を引く方法もあります。
▼間接労務費の計算式
間接労務費=労務費-直接労務費
なお、間接労務費に該当するものは以下のとおりです。
- ■直接工の間接作業賃金
- 直接工が機械のメンテナンスや製品を運搬した場合の間接作業に対する賃金
- ■間接工の賃金
- 間接作業を行う従業員の賃金
- ■手持賃金
- 直接工・間接工関係なく、業務時間中に作業できなかったときの遊休時間に発生する賃金
- ■休業賃金
- 休業の際に発生する有給休暇・休業手当といった賃金
- ■給料
- 製造に関する監督者や事務職員に支払われる賃金
- ■従業員賞与手当
- 従業員に支払われる賞与や通勤手当といった各種手当
- ■退職給与引当金繰入額
- 将来従業員が退職する際に備えている退職給与引当金の繰入額
- 福利費
- 健康保険料や厚生年金といった社会保険料の会社負担分
また、製造部門に従事している従業員が研究開発を行うようなケースでは、研究開発の割合が少ないとされ、業務上全額を労務費として計算されるケースがあります。
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労務費率とは?建設業における労災保険料計算で用いる比率
ここで、「労務比率」についても触れておきましょう。建設業における労務比率とは、請負金額に占める労務費の割合のことです。労災保険料を計算する際は、労務費率に請負金額を乗じて得た額を賃金総額とします。労務費率は、工事の事業内容によって細かく決まっており、その比率に応じて計算しなければなりません。
建設業における労災保険料計算で用いられる
労災保険料を計算する際は、「労災費率×請負金額」で賃金総額を算出します。
建設業の場合、1次・2次請負という具合に下請負人に雇用される労働者の数が多くなりやすく、賃金総額が求めにくいです。そのため、建設業では、保険料の納付義務がある元請負人は適切な労災保険料を計算するのが困難になります。
そこで、厚生労働省は徴収法施行規則第11条第3項にて、「労務費率に請負金額を乗じて得た額を賃金総額とすること」を認めています。労務費率は工事の事業内容によって細かく決まっており、その比率に応じて計算しなければなりません。
工事内容の労務費率
- 機械装置の組立てまたは据付けの事業:38%
- 鉄道または軌道新設事業:24%
- 建築事業(既設建築物設備工事業を除く。):23%
- 既設建築物設備工事業:23%
- 道路新設事業:19%
- 舗装工事業:17%
- 水力発電施設、ずい道等新設事業:19%
- その他の建設事業:24%
参照:労務費率表|厚生労働省
厚生労働省が定期的に比率を更新
労務費率は、人件費や資材が高騰することによる賃金総額の減少といったように、経済情勢の影響を受けやすいです。したがって、適切な労災保険料を計算するために、労務費率は定期的に見直されて更新されます。
この労務費率の見直しをするために、3年に1度「労務費率調査」を実施し、建設事業における賃金の実態を調べています。この調査はすべての建設事業者が対象ではなく、一定期間内の請負金額が500万円以上の事業者のみが対象です。
厚生労働省は、実際の建設事業の請負金額と賃金総額の割合の調査結果をもとに、労務費率を定めています。
労務管理システムなら煩わしい計算がスムーズに
労務費と人件費は、よく混同されがちですが、厳密には異なります。労務費は製造や建設といった特定の業種における人件費であり、きちんとその違いを理解しておかなければ、人件費を過大に計上してしまったり、利益を過小評価してしまったりなど、経営判断を誤るおそれがあります。
労務管理システムなら、労務費の計算に必要な計算式が組み込まれているので、簡単な入力作業だけで正しい計算ができるうえ、労災保険や雇用保険に関する書類作成を補助する機能などもあり効率的です。システム導入には費用がかかりますが、労務・経理など担当部署の人件費を考えれば、コストメリットは大きいかもしれません。
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