急成長するRPA市場
近年、働き方改革やテレワークなど多様化するワークスタイルへの対応や人手不足解消のために、RPA(Robotic Process Automation)の導入が浸透しつつあります。ICT市場調査コンサルティングのMM総研が発表した2021年1月の調査によると、2022年度末までには、年商50億円以上の大・中規模企業では50%、年商50億円未満の中・小規模企業では28%の導入率が予想されています。
しかし、RPAは簡単に運用でき作業の自動化および業務効率化が実現するものと期待して導入したものの、実際には思わぬ課題が生じる場合もあります。やみくもにRPA導入を決めるのではなく、具体的な課題点を把握したうえで失敗を回避しましょう。
参考:
情報通信統計データベース|RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)|総務省
RPA導入企業が活用を本格化、AI-OCR導入も約2割 |株式会社MM総研
RPAの導入・運用時に発生しやすい課題
RPA導入に伴って生じがちな課題点について、失敗例を交えて紹介します。
1.自動化する対象業務の選定が難しい
RPAを導入して業務の効率化を目指したいものの、どの業務への活用が最適なのかわからず頭を悩ませるケースも多くあります。
RPAを適用できるのは主に単純な定型業務ですが、すべてに適用すべきかといえば、そうとは限りません。なぜなら、ある程度の量がある業務でなければ、RPAの導入や管理に要するコストがメリットを上回るからです。少量の定型業務をいくつも手作業で行うのがもっとも非効率的とされているにもかかわらず、RPAで自動化させるとコストばかり膨らむケースもありえるでしょう。
また、本来自動化する必要のない業務までRPA化の対象にしてしまい「十分な効果が得られなかった」または「作業効率が逆に悪くなった」という失敗例も多いため、業務選定は難しい課題といえます。
原因
RPA導入の目的があいまいで、業務選定がブレているかもしれません。また、RPAロボットの作業領域を理解しておらず、自動化できる業務や範囲を正確に把握できていない場合もあるでしょう。
解決策
まずは、RPA導入の目的や解決したい課題が何かを明確化し、達成目標を設定しましょう。指針があれば、選定に迷った際にも業務の優先順位がつけやすくなります。
なお業務選定時のポイントは以下のとおりです。
- ■RPAによる自動化に適した業務かどうか
- RPAで自動化できる業務とは、パソコン上で処理される手順やルールが決まった単純な定型作業です。ルール変更が頻繁だったり、人の判断を要したりする業務は不向きでしょう。また、ある程度の業務量も必要です。
- ■導入効果が見込める業務かどうか
- 自社で掲げた課題解決や目標達成に紐づく業務かどうか精査しましょう。業務選定の際には現場社員にもヒアリングを行い、課題や自動化に対してニーズがあるのかの確認も大切です。
- ■システム障害発生時のリスクと効率化のバランス
- システムにトラブルはつきものです。万が一RPAが業務停止した場合の影響の大きさも考慮して、自動化する業務を選びましょう。
RPA導入における業務整理や選定は、手間も時間もかかるものです。RPAツールを扱うベンダーのなかには、業務分析や可視化といったサービスを提供している会社もあります。スピード性を求め、より精度の高い業務選定を望むのであれば、利用してみるのも一つの手ではないでしょうか。
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2.現場に開発スキルがない、RPAエンジニアの不足
RPAの設定には、プログラミング一般に対する基本的な知識が必要です。そのため、RPAエンジニアや最低限の知識をもった社員がいないと初期設定すら難しく、RPAが真価を発揮できないケースも少なくありません。エラーやトラブル発生時に、迅速かつ適切な対応がとれない恐れもあるでしょう。また現場で開発できたものの、開発担当者が異動や退職してしまい、その後の更新や再設定が行えなくなったという失敗例もあります。開発や運用における人材の不足は、中小企業において直面しやすい課題の一つです。
原因
中小企業の場合、システムエンジニアやプログラマなどの専門知識をもつ担当者が少ない、もしくは兼任している場合もあります。また、現場におけるITリテラシーの個人差も要因となりえるでしょう。
解決策
コンサルティング企業やベンダーに、開発を一括依頼する方法が考えられます。しかし運用フェーズに入り更新作業やトラブルなどが生じた際に、ノウハウがないため自社で迅速に対応できないといったデメリットもあります。
RPAを長期的に活用していきたいと考えるのであれば、RPAの経験者を採用するのがおすすめです。またコストはかかりますが、教育や研修などを支援している導入コンサルティングを利用する方法もあります。ほかにもエンジニア不要を謳った、開発やメンテナンスが簡便なツールを選択するといった方法も挙げられます。
3.社内への未浸透
RPAを導入する際、小規模な業務への適用からはじめますが、後に社内全体に浸透させられないケースも珍しくありません。RPAは複数のシステムにまたがり、大規模に活用してこそ真価を発揮します。各現場で小規模な業務に適用するだけでは、十分なメリットを得られません。
原因
RPAの導入効果が知られていない、ITリテラシーが低く管理や活用が不十分といったことが原因として考えられます。
解決策
スモールスタートで得られた知見や成功事例を積み上げ社内で共有することで、RPAに興味をもってもらい横展開させましょう。また、RPAの操作マニュアルを作成したり、ベンダーによる研修などを開催したりして、RPAを全員が活用できる体制を整える必要があります。なお、ツールによっては対応できる業務規模に制限があるため、全社展開を見越している場合はツール選定にも気をつけましょう。
4.セキュリティ事故の可能性
ネットワークにつながったクラウド型のRPAの場合、不正アクセスや情報漏えい、ロボットの乗っ取りや設定ミスなど、セキュリティ事故を起こす可能性もあります。
原因
ロボットを過信して、重要なデータに触れる作業までもRPA化し、権限を付与している場合があります。機密性の高いデータを扱う作業のRPA化は、サイバー攻撃や誤作動、乗っ取りなどによる情報漏えいと隣りあわせであることを忘れてはいけません。
解決策
ID・パスワード、RPAが使用するファイルそのものを暗号化しましょう。また、ログの取得により、誤作動や乗っ取りなどに気づきやすくなります。
さらにアップデートを常に最新状態にしておくことも大切です。RPAのセキュリティを守る対策チームを作り、定期的なRPAのチェックを行いましょう。
5.トラブルで業務停止
ITシステムであるRPAは、システム連携に不具合がでたりキャパオーバーになってサーバがダウンしたりする可能性があります。システム障害やバグが発生した場合は、業務が停止することはもちろん、作業データが失われることもあるでしょう。また、誤作動を起こしたり、予想だにしない動きをする野良ロボが発生したという失敗事例もあります。
原因
サーバの能力以上の作業を設定している可能性があります。RPAに相性のよい作業を把握しておらず、複雑で不向きな作業を組み込もうとした場合、エラーが多発するでしょう。
解決策
RPA化させたい作業の洗い出しと、その作業にマッチしたシステム選びが大切です。また、作業指示の前にテストを行ったり、定期的にメンテナンスを行ったりして、RPAの作業状況を日ごろからチェックしておきましょう。
RPAの課題のなかには、適切なツールやサービスを利用することで解決できるものも少なくありません。最新の人気製品から検討してみたい、という方はこちらのランキングも参考にしてください。
RPA導入における課題解決のポイント
ここからは、RPAの導入や運用でつまずかないためのポイントを紹介します。
RPAツール・ベンダーの慎重な選定
自動化する業務を選定したあとは、最適な特徴を備えたRPAツールを選びましょう。一口にRPAといっても向き不向きがあるため、製品選びを間違えると適用対象の業務に対応しない場合もあります。
また、デスクトップ型・クラウド型・オンプレミス型といった提供形態の違いについても知っておきましょう。デスクトップ型はパソコン内で稼働するもので、小規模な利用に最適です。クラウド型はローコストですが、やや自由度に欠ける傾向にあります。オンプレミス型は自社サーバで管理するタイプのため、コストが高い分大規模な活用に向いています。それぞれ長所と短所があるため、自社の利用形態や業務規模に適したものを選びましょう。
加えて、ベンダーのサポート体制や対応業務の範囲についても必ず確認が必要です。開発や導入のサポートだけを行ってほしいのか、導入後の運用までをアウトソーシングしたいのかなど、自社の希望を明確にして適切なサポートを受けられるようにしましょう。なおRPAツールやサービスの比較検討には、以下の記事がおすすめです。
運用に向けたルール作り
RPAに限らず、新しいシステムを社内に導入する際に、従業員はメリットよりも運用に伴う負担の増加を意識します。したがって、できるだけその心理的なハードルを下げることが肝要です。
よって、具体的に何をどうすればよいのかを明記した運用ルール作りが欠かせません。例として、以下のような点について決めておきましょう。
- ■どのようなステップで業務に適用するのか
- ■誰がメンテナンスを行うのか
- ■RPAに関する社員教育はどのように実施するのか
- ■トラブル発生時の窓口はどこにするのか
- ■セキュリティに関するルールをどうするのか
RPAの運用ルール策定については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
RPAで起こりうる課題を解決し、運用で成果を上げよう!
RPAを導入すると定型業務が自動化し、従業員は人間の判断が必要な業務に注力できます。しかし一見便利なRPAでも、業務選定や人員不足、社内浸透などの面で課題があり、導入時にその原因と解決策を把握しておく必要があります。以上を踏まえ、自社に最適なツールを選定し、RPA導入を成功に導きましょう。