企業会計原則とは
まず企業会計原則とはどのようなものか、その概要を見ていきましょう。
財務諸表が適正かを判断する基準
財務諸表は企業の利害関係者(株主、金融機関、ほか社債権者など)に対し、業績を明示するために作成する書類です。しかし財務諸表の作成ルールや基準が各企業で異なれば、利害関係者は正しい業績を把握できません。そこで会計の普遍的なルールとして、昭和24年に大蔵省(当時)の企業会計制度対策調査会が「企業会計原則」を公表しました。法律ではないので法的拘束力を持ちませんが、以下の理由から従うべきものという位置づけになっていますので覚えておきましょう。
会社法第431条には、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」とあり、企業会計原則はその「公正妥当な慣行」に該当します。よって企業会計原則に従って会計管理を行うべきとされているのです。社会のグローバル化により新たな基準が次々と策定されつつありますが、この企業会計原則が企業会計の基本というスタンスに変わりはありません。公認会計士が会計監査をする際にも、財務諸表が適正か判断するための基準として、この会計原則を拠り所としています。
参考:会社法
一般原則含む3つの構成からなる
次に、企業会計原則の構成を見ていきましょう。以下の3部で成立しています。
- 【一般原則】
- 企業会計における理念や指針。7つの原則(後述)で構成され、損益計算書原則と貸借対照表原則の上位に位置づけられる。
- 【損益計算書原則】
- 損益計算書における収益・費用の計上方法や表示方法について記載。収益・費用の発生については、発生時点で計上する「発生主義」を原則とする。ただし収益のうち売上高については、出荷基準や検収基準といった販売の実現にもとづいて計上する「実現主義」を原則とする。
- 【貸借対照表原則】
- 貸借対照表における資産・負債・資本の計上方法や表示方法について記載。
また、企業会計原則には上記以外に注解も含まれ、その中で「重要性の原則」が規定されています。これは、重要性が低いものについては簡易的な会計処理を行ってもよいという原則です。
7つの一般原則とは
続いて、一般原則を構成する7つの原則について詳しく見ていきましょう。
1.真実性の原則
企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。
真実性の原則とは、財務諸表の内容が真実でなければならないという原則です。
これ以外の原則に忠実でも、内容が虚偽であれば意味がありません。そのため、真実性の原則は7つの一般原則の中でも特に重要性の高いものとされています。情報改ざんなどのない、正確な財務諸表の作成が求められています。
2.正規の簿記の原則
企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
この原則では、すべての取引において、正規の方法で簿記を行うことが規定されています。
「正規の簿記」とは、一般的に複式簿記(一つの取引で借方と貸方の両面から記載する方法)のこと。複式簿記は網羅性・立証性・秩序性を備えており、正規の簿記として認められています。
なお、網羅性・立証性・秩序性の意味はそれぞれ以下のとおりです。
- ■網羅性
- すべての取引が漏れなく記録されていること
- ■立証性
- すべての取引について客観的な立証が可能であること
- ■秩序性
- すべての取引が継続的・体系的に記録されていること
複式簿記・単式簿記について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
3.資本取引・損益取引区分の原則
資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。
この原則は、資本取引と損益取引の区分を規定しています。
資本取引(資本を変動させる取引)と損益取引(利益を変動させる取引)は本来、まったく異なる性質のもの。また、資本剰余金(株主が出資した金額のうち、資本金に組み込まれなかった剰余金)と利益剰余金(利益のうち配当に回らなかった剰余金)も同様です。両者を混同してしまえば、利害関係者が企業の財政状態や経営成績などの情報を正確に把握できません。
この原則は企業財務の健全性を保つうえでも重要です。原則に忠実に従うことで、利益隠しなどを防止できるでしょう。
4.明瞭性の原則
企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。
この原則では、会計事実を明瞭に表示し、利害関係者の誤解を招くような表現を行わないことを定めています。
例えば勘定科目は独自に作成しても構いませんが、わかりにくい名称だったり説明がなかったりすると、利害関係者には理解できません。社内では共通の認識があっても、社外の人物に見せる書類である以上は明瞭に表現する必要があるでしょう。
また注解では、財務諸表に注記することとして以下を挙げています。
- ■重要な会計方針
- 財政状態や経営成績を正しく提示するための会計処理原則、手続き、表示方法など
- ■重要な後発事象
- 火災などによる損害の発生、多額の増減資、会社の合併、係争事件の発生、主要取引先の倒産など
5.継続性の原則
企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。
会計処理や手続きの方法は、一度採用したものを使い続けなければならないという原則です。
例えば複数の会計処理方法がある場合、その方法を毎期変更すれば期間ごとの比較が難しく、企業側での利益操作も可能になります。これでは利害関係者に混乱や不信感を与えてしまうでしょう。そのため、会計方針は継続して適用しなければなりません。
ただし、正当な理由がある場合は変更が可能です。会計処理の原則や手続きに重要な変更があった場合は、その旨を財務諸表に注記しましょう。
6.保守主義の原則
企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
財務上で企業に不利益をもたらす可能性がある事象は、慎重な判断にもとづいて会計処理を行わなければならないという原則です。
例えば、売掛金が貸し倒れとなる可能性が非常に高い場合には、確定前の損失処理が求められます。早い段階での損失処理により、企業の経営状態を利害関係者に対して健全に示せるでしょう。ただし度が過ぎると実態と会計処理の間に乖離が生じ、「真実性の原則」に反してしまうため注意が必要です。
7.単一性の原則
株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。
これは複数の会計帳簿の作成を禁止する原則です。
財務諸表は税務申告用、金融機関用、株主用など、提出先や目的などに応じて複数のパターンで作成されます。しかしその場合でも、もととなる会計帳簿は1つにし、計算方法や表示方法も同じでなければなりません。
企業会計原則を守らなかった場合
企業会計原則はあくまで原則であり、法律ではありません。したがって先述のとおり法的拘束力はなく、企業会計原則に背くことによる罰則はありません。
しかし、会社法や金融商品取引法では公正妥当な方法で企業会計を行うことが義務付けられています。そして、企業会計原則はその公正妥当な方法に該当する、というのが一般的な認識です。
金融商品取引法に違反した場合は厳しい刑事罰や行政処分、罰金などを課せられるため、企業会計原則の順守は不可欠といっても過言ではないでしょう。
参考:金融商品取引法
円滑な会計管理を行う方法
これまで述べてきたように、外部の利害関係者に対する報告としての財務会計は、企業の今後を左右する重要な業務です。財務諸表は企業会計原則にのっとり、ミスのない正確なものを作成しなければなりません。
また、企業の会計業務には財務会計だけでなく、社内向けの管理会計も含まれます。予算や目標などの具体的な情報は、経営戦略を練るうえで必須のものといえるでしょう。しかし日々の経理業務に加え、これらの業務も人力でミスなく行うには多大な労力と時間が必要です。
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企業会計原則に従い、日々の事務処理を行おう!
企業会計原則とは財務諸表が適正かどうかを判断するための基準で、一般原則・損益計算書原則・賃借対照表原則からなります。
また、一般原則は以下の7原則からなります。
- 1.真実性の原則
- 2.正規の簿記の原則
- 3.資本取引・損益取引区分の原則
- 4.明瞭性の原則
- 5.継続性の原則
- 6.保守主義の原則
- 7.単一性の原則
企業会計原則を守り、適正な会計処理を行いましょう。