領収書は印鑑なしでも有効
結論からいえば、経費精算の際に提出する領収書に印鑑が押されていなくとも、領収書としての要件を満たしていれば有効です。領収書を受け取る際、相手の店舗や企業が印鑑を押す行為は領収書の効力に影響しません。しかし印鑑がもつ意味や果たす役割が大きいので、実社会の多くの場面で必要とされてきました。
領収書に印鑑を押す理由
領収書に印鑑を押す理由として挙げられるのは、次のようなことです。
- ■印鑑を押すと信用力が高まる
- ■押印が文化として定着している
- ■代金を確かに受領したという領収印や確認印の役割を果たす
- ■会社印や担当者印で発行者や担当者を明確にする
公的な書類への押印を含め、日本ではこれまで実務の多くで印鑑が用いられてきました。そのため印鑑への信頼度が高く、押印された書類の証明力は強いと感じる人も多いのが現状です。領収書発行側のマニュアルや、受け取り側(経費精算側)の企業ルールで押印が義務付けられているケースもあります。
領収書の印鑑によくみられるケース別の対応
それではここで、領収書の印鑑にまつわるさまざまなケースを具体的に見てみましょう。おおよそ次のようなケースが考えられます。
印鑑が認印
企業でよく使用されるのは「丸印」と「角印」で、それぞれ以下のような特徴があります。
- ■丸印とは
- 丸い印影。法務局に登録されており、代表者印、会社実印ともよばれる。企業名・役職名が記載され、企業間契約など重要な場面で使用される。
- ■角印とは
- 四角い印影。企業の認印で、社印ともよばれる。企業名が記載され、請求書や領収書、納品書などに使用される。
領収書の効力には印鑑の有無が影響しませんので、認印が押印されていても問題はありません。また同様の理由から、実印でなければならない決まりもありません。
印鑑が電子データ
スキャナなどで取り込んだ実際の印影のデータが印刷されているケースです。PDFなどのデータで領収書が作成されている場合に見られることがあります。こちらも法的な問題はありません。
印鑑ではなくサイン
消耗品などを店舗で購入した際によくあるのが、領収書に担当者がサインをするケース。この対応も有効です。サインがフルネームであれば法律上は署名にあたり、効力は強いといえるでしょう。
担当者印のみ押印
領収書としての要件を満たす内容であれば、発行側の担当者印のみの押印でも有効です。押印担当者を明確にするため、発行側のルールとして担当者印の押印を義務付けるケースが多くみられます。
印鑑が押されていない
印鑑は領収書の法的効力に影響しないため、経費精算側の企業ルールとして印鑑のある領収書を求めていなければ、経費精算時にそのまま提出しても差し支えはありません。
印鑑が想定外の場所に押されている
通常、角印は企業名や所在地の最後の文字に印影の中心が重なるように押印します。丸印では文字に重ならないようにして文字の右側の余白に押すのが一般的です。しかし印鑑を押す場所に決まりはありませんので、どこに押してあっても経費精算には影響しません。
印鑑はなくとも問題ないがあれば安心
ここまで見てきたように、印鑑は領収書の効力には影響しません。しかし印鑑はあったほうが責任の所在が明確になり、相手に対して丁寧な印象も与えます。
領収書には偽造リスクも付きまといます。発行側では自社の偽造された領収書が出回らないように、受け取り側では偽造された領収書にもとづく経費精算が行われないように留意する必要があります。印鑑はこのような偽造リスクを低減する一つの手段としても有効といえるでしょう。
収入印紙の消印は必須
領収書に印鑑が押されていなくともよいことは先述しましたが、必ず押されていなければならない箇所はあります。収入印紙の消印です。
金銭のやり取りのある契約にともない作成される領収書などには「印紙税」という国税が課せられ、必ず納付しなければなりません。納税のためには領収書に収入印紙を貼り、印紙と領収書にまたがる消印も押す必要があります。これを怠れば過怠税が課されてしまいます。
ただし収入印紙と消印が必要となるのは、記載金額が(税抜)5万円以上の場合なので覚えておきましょう。5万円未満は非課税なので、収入印紙は必要ありません。
もし収入印紙や消印がなかったとしても、受け取り側のリスクはありません。印紙税や過怠税を納めるのは領収書の発行側だからです。また納税にまつわるものなので、収入印紙に不備があっても領収書自体が無効になることはありません。
参考:印紙税|国税庁
参考:印紙税法
領収書に記載しなければならない項目
経費精算をするうえで欠かせない領収書には、法令の要件を満たし、かつ企業のルールに沿った記載が求められます。具体的にはどのような記載があればよいか、以下で詳しく見ていきましょう。
法令に沿った対応で万全を期す
消費税法とこれに関連する国税庁の見解が、法令が求めている領収書記載項目の頼りになります。法令が求める領収書の記載事項は次のとおりです。
- 1.書類の作成者(領収書の発行側)の氏名または名称
- 2.取引年月日
- 3.取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 4.税率ごとに区分して合計した税込対価の額
- 5.書類の交付を受ける事業者(領収書の受け取り側)の氏名または名称
つまり1.誰と、2.いつ、3.何を、4.いくらで取引したかを明確にし、加えて5.経費精算する側の取引だと証明できるのが記載事項を満たした領収書といえるでしょう。
正確な領収書は、仕入税額控除(※)を行ううえでも重要です。税務上問題のない領収書が必要になるためです。また税務調査の際にも、領収書が万全ならば正確な証拠になりえるでしょう。領収書の作成や受け取りの際には、記載事項をしっかりと確認する必要があります。
※仕入税額控除とは:納付する消費税額を計算する際、納税額から仕入れにかかった消費税分を控除すること
参考:No.6625 請求書等の記載事項や発行のしかた|国税庁
参考:消費税法
社内の経理処理で必要な記載事項を守る
経費精算側の企業では経理処理の観点も踏まえて、社内規程やマニュアルでより厳格な事項を設ける場合があります。その一つが印鑑の有無です。しかし世の中の押印廃止の流れを受け、押印を要件にしない企業も増える可能性はあるでしょう。
それでは、印鑑以外はどうでしょうか。経理処理の便宜上、社内ルールでは例えば次の事項に関して記載要件を設ける場合があります。具体的に見ていきましょう。
タイトル
領収書や受領書など、経費の支出による代金の領収を指すタイトル(書類の名称)を付します。承認や経理処理をする上長や経理担当者が「領収書」と認識でき、社内管理上まとめやすくなるメリットがあるでしょう。
但し書
経費の費目のうち、どの費目に該当するか(例:消耗品購入代金として、書籍代として、食事代として)を判断するためです。「〇名分の食事代として」のように対象人数まで記載するよう指示する企業もあります。
宛名
原則として、宛名の企業名は「株式会社」を省略しません。前株(株式会社○○)、後株(○○株式会社)の別も正確にして、領収書の発行側に記載してもらいます。経費を支出した本人ではなく、経費を本来負担すべき企業が宛名になります。
宛名が空欄になっている場合
例えば飲食に関する領収書などでは、宛名がない状態のものを受け取ることもあるでしょう。これは飲食業、小売業(スーパーやコンビニなど)、旅客運送業(公共交通機関やタクシーなど)、旅行業、駐車場業が発行する領収書に関しては例外として、宛先がなくともよいと法律で定められているためです。
しかしあまりにも高額な場合などは、宛名は記入してもらったほうがよいでしょう。先述のとおり、税務調査の際に正確な証拠になりえるからです。
また法律で問題がなくとも、社内規程では宛名が必須となっているかもしれません。その場合、未記入では精算されないでしょう。かといって、自分で宛名を書いてしまっては書類の偽造にあたります。宛名に関しては社内規程もよく確認し、必要であれば受け取りの際に記入してもらいましょう。
領収書のタイプが異なる場合の対処法
領収書の発行システムは日々進化しており、領収書のタイプも多様化しています。一般的な紙の領収書以外には、例えばどのようなものがあるでしょうか。以下で詳しく解説します。
レシートタイプの場合
コンビニエンスストアなどではPOSレジからレシートタイプで出力し、担当者が押印した領収書を受け取るのが一般的でしょう。このタイプのものは通常の領収書と同じく、法令や社内ルールの要件を満たすかぎり有効な領収書になります。
それでは単なる「レシート」の場合はどうでしょうか。レシートには通常、宛名はありませんが、先述のとおり小売業や飲食業、タクシーなどの利用では宛名の記載を求められないため問題ありません。そのため他の要件を満たしていれば、領収書と同様に扱われます。レシートには購入品名などが詳細に記載されているため、信頼性の高い証拠書類になりえるでしょう。
電子データで受け取る領収書の場合
これは領収書をPDF形式でやりとりする場合などを指します。メール添付などの方法で領収書を受け取ることがあるでしょう。このように電子データで領収書を受け取る機会は増えつつあります。
要件を満たせば領収書の印刷は不要
領収書の発行側か受け取り側でタイムスタンプ(※)が付与され、データを検索できる状態で保存するといった保存要件を満たしていれば、出力した書面を保存する必要はありません。別途書面での領収書の受け取りも不要です。
※タイムスタンプとは:電子データの存在が認められるように日時や時刻を記したスタンプのこと
今後はシステム対応が基本
働き方改革の推進や感染症対策でテレワークが普及したこともあり、領収書などのやり取りも電子化が進んでいます。印鑑も電子化され、電子データの領収書へ電子印鑑を押すという事例が増えてきました。
電子帳簿保存法に対応したシステムを備える企業にとっては、2020年10月の改正電子帳簿保存法の施行が追い風に。電子取引を利用した領収書の電子保存がしやすくなりました。
以下の記事では電子帳簿保存法の改正内容や、スマートフォンでの経費精算など改正により効率化された点について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
領収書のタイプ別に企業のルールを整理
領収書のタイプが増えると、従来の社内規程やマニュアルのまますべての領収書にルールを適用するのが難しくなります。手書き、レシートタイプ、電子領収書などタイプ別に各領収書の必要記載事項をまとめ、それぞれの経費精算に進む流れをフローチャートで整理する必要があるでしょう。
領収書への理解を深め、正しく経費精算を行おう
この記事では印鑑の必要性や、領収書に記載すべき内容を中心に解説しました。押印がなくとも領収書の効力は失われませんが、責任の所在を明らかにし、偽造リスクも防止するには印鑑があると安心です。近年では領収書と印鑑の電子化も進んでおり、電子帳簿保存法の改正に対応した経費精算システムも多くあります。自社に最適なシステムを選択・活用して、経費精算業務のさらなる効率化を目指しましょう。