安全在庫とは
はじめに、安全在庫の意味を解説します。
欠品を防ぐために必要な在庫量のこと
安全在庫とは、不確定な要素によって欠品が生じないために、通常必要な在庫に加えて最低限保持しておく在庫のことです。安全在庫が無いと、欠品が生じ販売機会を損失しやすくなります。したがって、常に安全在庫は保持できるように努めなければなりません。
どのくらいの在庫が必要かは、そのときの市場や取引先の状況によって異なります。その変動を踏まえたうえで、これだけ多めにあれば問題ないと言える量が安全在庫です。
JIS規格では、安全在庫は「需要変動又は補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫」と定義されています。
適正在庫を決めるための一要素
安全在庫だけでは適正在庫は決められません。なぜなら、安全在庫はあくまで欠品を避けることを目的に計算される量だからです。安全在庫を設定すれば在庫の下限値は決まりますが、上限値は決まっていないので余剰在庫になる恐れもあります。
適正在庫は在庫の下限値と上限値を決めるので、その際に安全在庫が参考になります。適正在庫を決めるための具体的な要素は以下の4つです。
- ■発注頻度
- ■リードタイム
- ■安全在庫
- ■1日の在庫使用(見込み)量
そもそも適正在庫について知りたいという方は、以下の記事をご覧ください。
安全在庫を持つメリット
安全在庫を維持することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
余剰在庫によるムダを削減できる
企業は欠品を避けるために在庫を抱え込む傾向にあります。安全在庫を設定することで欠品しない最低限の在庫量がわかるので、余剰在庫を回避できます。余剰在庫がなくなると、以下のような無駄を省けます。
- 保管スペース
- 倉庫が一杯になり、新たな倉庫を借りると費用がかかります。仮に新しく倉庫を借りなくても、費用を支払って得たスペースを無駄遣いすることは潜在的な損失となります。
- 生産性
- 倉庫内に在庫が多いと、目的の在庫を探し出すのに無駄な時間がかかります。在庫の発送や加工ラインに投入するまでの時間が長くなり、生産性が下がります。また、作業に時間がかかる分、人件費も無駄に発生するでしょう。
販売機会の損失を防げる
安全在庫を確保しておけば、欠品を防止できるので販売機会を逃さずに済みます。欠品によって失われるのは、単に商品を販売して得られる利益だけではありません。商品を購入できることを期待していた顧客からの信頼を失うことになります。欠品は一時的な損失ではなく、長期にわたって不利益をもたらすリスクだと考えましょう。
キャッシュフローを改善できる
在庫を販売することで現金化できるので、余剰在庫を抱えていればキャッシュフローが悪化してしまいます。健全な経営にはキャッシュフローを考慮することも必要で、在庫を調整しなければなりません。
安全在庫を設定すると余剰在庫を避けられるので、キャッシュフローは改善されます。また、余剰在庫がなければ無理にセールで在庫を減らすということもなくなり、利益を確保できるでしょう。
安全在庫量の計算方法
安全在庫量は以下の計算式で求められます。
「安全係数」×「使用量の標準偏差」×「√(「発注リードタイム」+「発注間隔」)」
では、それぞれの項について見ていきましょう。
1.安全係数の設定
欠品を許容できる割合を欠品許容率と呼びます。たとえば、欠品許容率が5%であれば、100回中5回は欠品しても許容できるという意味です。安全在庫を算出するには、この欠品許容率を考慮しなければなりません。
しかし、欠品許容率はそのままでは計算式に当てはめられません。そこで、以下の表を基に安全係数という指標に置き換えて使います。
- 【欠品許容率⇒安全係数】
- ■0.1%⇒3.10
- ■1%⇒2.33
- ■2%⇒2.06
- ■5%⇒1.65
- ■10%⇒1.29
- ■20%⇒0.85
- ■30%⇒0.53
また、安全係数はExcelを使って欠品許容率から算出することも可能です。以下の関数を使いましょう。
安全係数=NORMSINV(1-欠品許容率)
2.標準偏差の算出
安全在庫を求めるには需要の変動を予測しなければなりません。しかし、正確に需要を把握することは困難です。
そこで、過去の在庫使用量の標準偏差を利用します。これが需要のばらつきの大きさを示すわけです。標準偏差を手計算で算出するのは大変ですが、ExcelでSTDEV関数を使えば簡単です。できるだけ多くのデータを基に算出したほうが、現実的な数値を得られます。
3.リードタイムの算出
リードタイムとは、発注や加工、納品などにかかる時間のことです。安全在庫の算出においては発注リードタイムを使います。
安全在庫を算出する計算式には、「√(「発注リードタイム」+「発注間隔」)」という項がありました。この中の「発注リードタイム」は、在庫を注文してからそれが実際に届くまでの時間のことです。「発注間隔」とは1度発注してから次に発注するまでの期間のことです。
たとえば、10月1日に発注し、10月7日に届いたら発注リードタイムは6日です。そして、次の発注が10月11日なら、発注間隔は10日です。ただし、発注点発注のように不定期に発注する場合は、発注間隔は0日として扱います。
安全在庫の計算式では上記の数値の平方根が必要です。ExcelのSQRT関数で算出できます。
4.安全在庫の算出
以下の条件における安全在庫の算出例を見てみましょう。
- ■欠品許容率=5%(安全係数=1.65)
- ■使用量の標準偏差=10個
- ■発注リードタイム=6日
- ■発注間隔=10日
- ■安全在庫=1.65×10×√(10+6)=66個
したがって、66個の安全在庫を保持しておけば、95%の確率で欠品を回避できることになります。この例では整数になりましたが、小数点以下が出た場合は切り上げましょう。たとえば、65.2個となった場合、この数の在庫を用意することは不可能なため、切り上げて66個とします。
\ 在庫管理システム の製品を調べて比較 /
製品をまとめて資料請求!
資料請求フォームはこちら
安全在庫を設定する際の注意点
続いて、安全在庫を設定する際の注意点を見ていきましょう。
欠品を完全に防げるとは限らない
どれほど欠品許容率を低くしても、欠品を完全に防ぐことはできません。
たとえ欠品許容率=0.1%としても、1000回に1回は欠品が生じる可能性があります。そして、欠品許容率を低くすればするほど、多くの在庫を抱えなければなりません。それでは、むしろ余剰在庫のほうが問題となるでしょう。
したがって、現実的には年に数回、あるいは数年に1回程度の欠品を許容しなければなりません。たとえば、欠品許容率=5%として計算した安全在庫を維持した場合、20回の発注につき1度は欠品が生じます。
つまり、毎月発注しているのであれば、20か月に1度は欠品するということです。
標準偏差が適切であるとは限らない
安全在庫の算出の鍵を握るのは、在庫使用量の標準偏差です。これは在庫使用量が正規分布に従っているという前提をもとに算出されます。つまり、使用量に極端なばらつきがないことを仮定しているのです。
そのため、季節ものの商品のように需要のばらつきが激しい場合は、適切な標準偏差を算出できません。そういった商品は常に一定の在庫を持っていても仕方がないため、そもそも安全在庫を算出する意味がないといえます。
そのような不都合を避けるために、在庫使用量が正規分布になっているか確認しましょう。ヒストグラムを作成してデータの形を見れば確認できます。統計学的に正規分布と言えるかどうか検定する方法もありますが、実務上はそこまでの厳密性は求められません。
安全在庫を設定し、自社の業務を最適化しよう!
安全在庫とは、欠品を避けるため保持すべき在庫量のことです。適正在庫を決める要因の1つでもあります。安全在庫のメリットは以下のとおり。
- ■余剰在庫の無駄を排除
- ■販売機会の損失を防止
- ■キャッシュフロー改善
また、安全在庫の設定時には以下のことに注意しましょう。
- ■欠品を完全に防げるとは限らない
- ■在庫使用量が正規分布になっていなければ使えない
以上を踏まえ、適切な安全在庫を設定しましょう。