
近年の小売業界の動向
小売業は流通のもっとも川下に位置し、仕入れた商品を顧客に販売する事業です。ホームセンター、百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、家電量販店などが代表例です。小売業界は規模が大きく、日本の中核産業の一つといえます。
2024年4月に経済産業省が発表した資料によると、2023年の商業全体における販売額は、前年比1.6%増の594兆500億円となっています。そのうち小売業の販売額は、5.9%増の163兆340億円でした。百貨店やドラッグストア、コンビニエンスストア、スーパーの販売額が増加する一方、家電大型専門店やホームセンターの商品販売数は減少しています。
参考:2023年⼩売業販売を振り返る|経済産業省⼤⾂官房調査統計グループ 経済解析室
小売業界における在庫管理の重要性
近年、小売業界では消費者ニーズの多様化やEC市場の拡大が進み、在庫管理の重要性がますます高まっています。従来の店舗中心の販売から、オムニチャネル戦略やリアルタイムの在庫確認が求められる時代へと変化しています。
さらに、競争が激化するなか、適正在庫の確保や在庫ロスの最小化が企業の利益に直結する課題となっています。例えば、過剰在庫によるコスト増や欠品による販売機会損失は、どの小売業者にとっても深刻な問題です。
そのため、効率的な在庫管理を実現するためのシステム導入や自動化の重要性が増しています。特に中小規模の小売業にとって、在庫の「見える化」や迅速なデータ活用は今後の競争力の鍵となるでしょう。
小売業界における在庫管理の課題
ここでは、小売業が抱える在庫管理の課題を業態別に解説します。
業態 | 主な課題 | 詳細 |
---|---|---|
スーパーマーケット | ・賞味期限管理 ・季節商品の需要予測 ・商品回転率の管理 | ・生鮮食品や冷凍食品は特に賞味期限が短く、廃棄ロスが発生しやすい ・季節や地域特有の消費動向を正確に予測しないと、過剰在庫や欠品が発生する ・商品の回転率が高いため、在庫補充の頻度が多く効率物流との連携が必要 |
コンビニエンストア | ・少量の多品種の管理 ・24時間営業の在庫更新 ・地域密着型の商品展開 | ・小規模な店舗でありながら多品種の商品を扱うため、スペースの効率的な利用が求められる ・24時間営業のため、欠品になることなく適切なタイミングでの在庫更新が必要 ・地域や時間帯に応じた商品構成が求められるため、細やかな在庫調整が必要 |
ドラッグストア | ・医薬品の管理 ・消費者の季節需要対応 ・異なるカテゴリの商品管理 | ・一部の商品は法規制にもといた適切な在庫管理が求められる ・花粉症やインフルエンザなど、季節ごとに需要が急増する商品の在庫確保が必要 ・医薬品や化粧品、日用品など、カテゴリごとに異なる管理手法が求められる |
ホームセンター | ・大型商品のスペース管理 ・需要変動の大きさ ・多岐にわたる商品カテゴリの管理 | ・家具や家電などの大型商品が多く、倉庫や店舗スペースの効率的な利用が必要 ・DIY商品や季節商品など、需要が特定の時期に集中する ・園芸用品や建材、ペット用品など、多岐にわたる商品カテゴリの効率的な管理が必要 |
100円ショップ | ・低価格商品でのコスト管理 ・多品種少量の在庫管理 ・商品サイクルの短さ | ・低単価の商品が多いため、在庫の持ちすぎが利益を圧迫する ・数万点以上の多種多様な商品の在庫を効率よく管理する必要がある ・流行や季節に応じて頻繁に商品が入れ替わるため、適切な在庫調整が必要 |
ディスカウントショップ | ・大量仕入れの管理 ・多様な商品カテゴリの管理 ・競争力の維持 | ・一括仕入れや大量仕入れを行うため、在庫過剰によって保管コストが増加しやすい ・食品や日用品、家電、衣料品など、多岐にわたる商品カテゴリの効率的な管理が必要 ・他店より低価格を維持するために、在庫管理の徹底や効率的な仕入れが必要 |
百貨店・デパート | ・高額商品の在庫管理 ・季節商品の管理 ・低回転商品への対応 | ・高価格帯の商品が多く、在庫過剰が大きなリスクにつながる ・ ファッションやギフト商品など、季節やイベントに依存する商品が多い ・一部の商品は回転率が低いため、在庫期間が長期化しやすい |
これらの課題を解決するためには、業態ごとの特性に応じた在庫管理システムや運用方法の導入が重要です。システム導入やリプレイスを検討している方は、以下のボタンより一括資料請求をご利用ください。
小売業界における在庫管理システムの活用効果
在庫管理システムの導入は、小売業が抱えるさまざまな課題を解決し、業務の効率化や正確性の向上に大きく寄与します。以下で、具体的な導入効果について解説します。
適切な仕入れ量を算出できる
小売店は一般的に利益率が低いため、過剰によるコスト増加や欠品による機会損失を防ぐことが重要です。在庫管理システムは、過去の販売データや季節的な需要変動、市場トレンドを分析し、高精度で需要を予測します。これにより、過剰在庫や欠品を防ぎ、効率的な仕入れ計画を実現。例えば、夏場の需要が高い商品を過去データから特定し、計画的に仕入れることで無駄を削減します。
適正在庫を維持する方法については、こちらの記事をご覧ください。
在庫を見える化できる
在庫管理システムは、POSシステムやハンディターミナルと連携し、リアルタイムに在庫状況を把握可能です。これにより、以下のメリットが得られます。
- ●商品の過不足や不良在庫(売れ残り商品)を早期に特定し、適切な対応を実施
- ●在庫回転率の分析により、売れ筋商品と死筋商品を明確化
- ●ABC分析を活用し、商品の重要度に応じた効率的な在庫管理
例えば、売上の大半を占める売れ筋商品に注力しつつ、回転率の低い商品(死筋商品)については値下げや販売計画の見直しを行うことで、在庫の最適化が図れます。在庫データにもとづいた戦略的な商品管理が実現し、収益性の向上が期待できます。
在庫回転率やABC分析について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
実在庫と理論在庫の差異を解消できる
在庫管理の正確性を高めるには、実在庫(実際の在庫数)と理論在庫(システム上の在庫数)の一致が欠かせません。実在庫と理論在庫が不一致となる主な原因には、記録ミスや返品処理の遅れ、試供品の未記録などがあります。これらの課題を解決するために、以下のようなルール化が有効です。
- ●返品時のバーコードスキャンによる即時登録
- ●試供品や不良品をカテゴリ別に管理
- ●従業員向けの作業手順トレーニング
さらに、在庫管理システムの自動化機能を活用すれば、データ精度の向上と業務効率化が実現します。
棚卸業務を効率化できる
棚卸機能を備えた在庫管理システムの利用によって、在庫データの収集や更新を迅速かつ正確に行えます。従来の手作業による棚卸と比べて、作業時間を大幅に短縮できるだけでなく、入力ミスやデータ不整合のリスクを軽減します。さらに、ハンディターミナルの使用によって、商品バーコードをスキャンするだけで在庫数を自動的にシステムに反映可能です。棚卸機能やハンディターミナル連携により、以下のメリットが得られます。
- ●作業者による手動入力の負担を軽減
- ●棚卸作業中にリアルタイムで在庫情報を更新
- ●店舗や倉庫全体の在庫状況を即座に把握
例えば、大型店舗や複数店舗を運営している場合、棚卸作業の効率化は特に重要です。ハンディターミナルの導入によって、従業員が少人数でも短時間で正確な棚卸を完了でき、業務全体の効率化を図れます。棚卸への理解を深めたい方は、以下の記事をご覧ください。
在庫ロスを削減できる
食品を扱う小売店では、賞味期限切れによる廃棄が在庫ロスの大きな要因です。在庫管理システムは、次のような機能でロスを削減します。
- ●賞味期限管理機能:賞味期限が近い商品を自動的にリストアップし、優先販売を促進
- ●ロット管理機能:商品のロット単位で在庫を管理し、期限が近い商品を効率的に追跡
- ●アラート通知機能:賞味期限が迫った商品について、従業員に早期対応を促す通知を送信
これらの機能により廃棄コストを削減し、計画的な在庫運用を実現できます。在庫ロスの詳細については以下の記事を参考にしてください。
カスタマイズで取引慣行にも対応できる
小売業には、返品や消化仕入れ(販売後に商品の仕入れが発生する取引形態)など、業界特有の取引慣行があります。独自の業務プロセスに対応するためには、在庫管理システムのカスタマイズが非常に有効です。例えば、以下のような機能をカスタマイズして導入できます。
- ■返品処理の自動化
- 返品された商品の状態を確認後、システムが自動的に在庫データを更新。不良品や再販可能品を効率的に仕分ける。
- ■消化仕入れ対応
- 販売データと連動し、実際に販売された分だけ仕入れをシステム上で自動記録。仕入れ業務の手間を削減する。
- ■業務フローの最適化
- 特定の販売パターンや取引ルールにあわせてシステムを設定し、手作業を最小限に抑える。
自社業務にあわせたカスタマイズにより、柔軟で効率的な在庫管理が実現します。
以下の記事では、おすすめの在庫管理システムを紹介しています。機能や価格がひと目でわかる製品比較表も掲載しているので、導入を検討する際の参考にしてください。
小売業界の在庫管理システム導入例
次に、小売業における在庫管理システムの導入例を紹介します。ITトレンドに掲載中の「アラジンオフィス」に寄せられた口コミのなかから、「卸売・小売業・商業(商社を含む)」のユーザーをピックアップしました。
- ■卸・店舗の一元管理ができ効率化につながった
- 卸・店舗の一元管理が可能になり、作業別(仕入れ・マーケティング・営業・受注・出荷・経理)、ブランド別、取引先別などでデータを閲覧できるようになりました。エクセルを活用していた頃は手作業で集計していましたが、現在ではほぼ自動化され15分ほどで作業が終了しています。
参考:業務の効率化により、本来の業務に集中できる アラジンオフィス|ITトレンド - ■在庫確認や商品手配が効率化、データ活用もしやすい
- 各店舗における在庫状況の確認が容易になり、商品手配も効率化されました。汎用集計では、さまざまな形式でデータ抽出が行え、資料作成に役立っています。また、使いこなせるようになるまでは、サポート体制が充実しているので安心です。
参考:様々なデータ抽出が可能で資料作成、分析に大活躍 アラジンオフィス|ITトレンド - ■多店舗や倉庫の在庫管理やレジの管理が簡単にできるようになった
- 複数の店舗を管理するにあたって、各店舗の在庫状況や売上などが簡単にわかるようになりました。これまでは店舗間で在庫の発注や補填などのやりとりをしていましたが、システム導入後は本社からまとめて発注できるようになり在庫不足が減りました。
参考:他店舗や倉庫などの在庫管理やレジの管理が簡単にできるように アラジンオフィス|ITトレンド
在庫管理システム導入後の運用ポイント
在庫管理システムの導入効果を最大限に引き出し、店舗運営をさらに効率化するためには、以下の5つのポイントを意識しましょう。
定期的な在庫データの確認と調整
小売業では、商品の回転率や人気商品の販売状況が日々変化します。 在庫管理システムのデータを定期的に確認し、商品の一時在庫や滞留在庫を把握しましょう。生成されるレポートを活用し、適正在庫のための調整を行います。
従業員のシステム活用スキルの向上
小売業では、従業員全員が在庫管理に関わる場合も多いため、システムの操作方法や基本的な在庫管理知識の共有が大切です。特に、小規模店舗ではシステム活用の習熟度が業務効率を左右するため、以下を中心に従業員の活用スキルを向上させましょう。
- ●商品の入受け取り処理の正確な操作
- ●売上データを活用した在庫補充の判断
- ●売上データと連動した在庫管理の仕組みへの理解
在庫管理と販売データの連携
在庫管理システムを単独で運用するのではなく、POSシステムなど販売データと連携させることで、より正確な需要予測が可能になります。不足が見込まれる商品の発注を自動化し、欠品を防ぎましょう。また、販売傾向のデータをもとにすれば、販促計画や特売品の在庫調整などもスムーズに行えます。
商品カテゴリごとの在庫管理を最適化
小売業では、商品カテゴリごとに特性が異なるため、システム上でカテゴリごとの在庫管理ルールを設定します。これにより、商品特性に応じた在庫管理が可能になり、無駄を削減できます。管理ルールは以下を参考に設定してください。
- ●日用品や食品など回転率が高い商品:即時補充の設定をする
- ●季節商品や高額商品:必要予測にもとづいた慎重な仕入れ設定をする
顧客サービス向上のための活用
在庫管理システムは顧客対応への利用も可能です。 例えば、顧客からの「この商品は在庫がありますか?」などの質問に対して、即座に在庫状況を確認して正確な回答を行うことで、顧客満足度が向上します。また、システムの在庫データをECサイトと連携すれば、店舗とオンラインの在庫を一元管理し、オムニチャネル対応を実現できます。
まとめ
収益率を向上し、競争力を強化するには在庫管理システムの存在が欠かせないでしょう。在庫リスクは低減させるべきですが、売り切れによる機会損失も避けなければなりません。適正在庫を把握し、コントロールするためには、小売業界の特性も考慮する必要があります。
ITトレンドでは小売業界向けの在庫管理システムをはじめ、業界を問わず利用できる柔軟性の高い製品を数多く取り扱っています。自社にあったシステムがどれなのかを判断するためにも、まずは資料請求をしてみてはいかがでしょうか。
