働き方改革法のポイント6つ
働き方改革法では具体的にどのような点が定められたのでしょうか。
1.残業時間の上限規制
働き方改革法が成立するまでは、残業時間に上限はありませんでした。36協定には残業時間の上限についての規定がないためです。また、厚生労働省は残業時間の目安を告示していましたが、これは法的拘束力を持ちませんでした。つまり、残業代の支払いさえしていれば、従業員を無制限に働かせられたのです。
これが長時間労働の温床になっているとして、働き方改革法では上限が設けられています。原則として月45時間・年360時間のいずれかを超過してはいけないことになりました。繁忙期には月100時間未満・年720時間以内に上限を緩めることはできますが、それでも無制限ではありません。これらの上限を超過した場合、刑事罰を受ける可能性があるため気をつけましょう。
2.同一労働・同一賃金の原則
厚生労働省のガイドライン案や最高裁の判決では、これまでも同一労働・同一賃金は原則として示されてきました。しかし、法律としては定められていなかったため、正規・非正規雇用者の間に賃金の格差が生じていました。
そこで、働き方改革法では同一労働・同一賃金を明文化。合理的な根拠がある場合を除き、雇用形態が違っても労働内容や責任の範囲が同一であれば、賃金も同一にしなければなりません。
ここで言う同一賃金とは、基本給を同額にすることだけを示すのではありません。各種手当や昇給、ボーナスなどの待遇も同一にする必要があります。
3.有給休暇取得の義務化
従来、有給休暇は従業員が自身の希望に基づいて申請し、取得するものでした。有給休暇を取得する権利は企業から付与されますが、その権利を行使するかどうかは従業員本人に委ねられていたのです。ところが、これでは権利があるのに取得せず終いになるケースが多くありました。
そこで、働き方改革法では、企業が従業員に有給休暇を取得させる義務を負うことになりました。1年間に10日以上の有給休暇を付与された従業員には、必ず5日以上の有給休暇を取得させなければなりません。従業員本人の希望がなければ、企業側が時期を指定して取得させることも可能です。
これに違反した場合、企業は対象の従業員1人につき30万円以下の罰金を課せられます。
4.高度プロフェッショナル制度の創設
高度プロフェッショナル制度とは、特定高度専門業務従事者には労働基準法の労働時間規定を適用しないとする制度です。
特定高度専門業務従事者とは、高度な知識を用いて業務に従事し、1,075万円以上の年収を獲得している人物を言います。ここで言う「高度な知識を用いる業務」には、19種の業務が指定されています。代表的な例を見てみましょう。
- ■研究開発業務
- ■アナリスト業務
- ■コンサルタント業務
- ■取材・編集業務
- ■弁護士・公認会計士などの士業
高度プロフェッショナル制度は、高度な知識を持つ人が柔軟な働き方で業務に従事することを目的としています。たとえば、研究職の人が充分な成果を出すには、1日8時間といった制約があるより、思う存分研究に没頭できる環境のほうが良いでしょう。
この制度を適用すると、残業代は支払われません。その代わり成果のみで評価されるため、優秀な人材ほど高評価されやすくなります。
5.3ヵ月のフレックスタイム制
始業・終業時刻を自由に決められる働き方のことをフレックスタイム制と言います。労働基準法で定められている1日8時間、1週間40時間という枠を超えて働くことも可能です。
たとえば、従来であれば月曜日には6時間、火曜日には10時間働いた場合、火曜日の2時間分は残業と見なされました。しかし、フレックスタイム制であれば、清算期間内における労働時間が所定労働時間を超えなければ残業とは見なしません。清算期間を1週間としたとき、その週の労働時間が40時間以内でさえあれば、特定の曜日に何時間働いても良いのです。
ところが、従来は清算期間が最長1ヵ月でした。これでは、5月を丸々休んで6・7月で埋め合わせるといったことは不可能です。そこで、現在では最長の清算期間が3ヵ月に変更されています。子育てや介護と仕事を両立する人が、より働きやすい環境になったと言えます。
6.中小企業における割増賃金支払いの対象拡大
残業代は以下の計算式で計算されます。
割増率は原則として1.25です。つまり、1時間当たりの残業代は、通常時給を25%アップさせたものと言えます。一方、月の残業時間が60時間を超過した場合は、割増率を最低でも50%にする必要があります。
残業が月60時間を超えた場合に割増率を50%以上にするという決まりは、これまで大企業にのみ適用されてきました。中小企業にとって負担が大きいルールだからです。しかし、働き方改革法の成立により、2023年4月からは中小企業でも60時間以上の残業には割増率50%が適用されることになりました。
働き方改革への対応方法
働き方改革法に対応するには、具体的にどのような取り組みをすれば良いのでしょうか。実践しやすいことを中心に紹介します。
業務を効率化して長時間の残業を減らす
働き方改革の根底には、長時間労働を減らして従業員の負担を減らそうという考えがあります。しかし、労働時間だけ減らしてもその分業務が遅れたのでは、経営を維持できません。
そこで必要になるのが業務の効率化です。労働時間を減らし、人手が減っても業務を進められるよう、業務プロセスを見直す必要があります。自社の業務に無駄がないか見直してみましょう。
また、人材配置を見直すのも有効です。従業員のスキルと業務の相性次第で業務効率は大きく変わります。従業員のスキルや経験、適性を洗い出して人材配置を再検討してみましょう。スキルが足りないのであれば、研修などでスキルアップさせる手もあります。
そのほか、機械化で効率化する方法もあります。誰でもできる単純な業務を自動化すれば、空いた人手を有効活用できるようになるでしょう。
労働環境を整備して多様な働き方を可能にする
いくら柔軟な働き方を掲げても、それを実現できる環境がなければ意味がありません。たとえば、場所を選ばず働きたいと考えても、テレワークが可能な環境がなければ実現困難でしょう。
したがって、従業員の多様な働き方を可能にするには、まず環境整備から始める必要があります。テレワークを例に挙げるなら、遠隔地から業務に必要なシステムやデータにアクセスできる環境が必要です。また、従業員同士が円滑にコミュニケーションを取れるように、チャットやビデオ会議などのITツールも求められるでしょう。
それらのツールを用意したうえで、ルール作りも進めなければなりません。情報漏洩リスクや勤怠管理の難しさなど、新しい問題も生じるからです。ツールと規則の両面から環境を整備していきましょう。
労働時間を正確に把握する
企業には従業員の労働時間を把握する義務があります。かつては給与計算などに伴う付随的な義務でしたが、労働安全衛生法の改正により現在では労働時間の把握そのものが義務となっています。
特に、管理監督者や裁量労働制で働く人には注意が必要です。これまでは「みなし」で給与が計算されており、具体的な労働時間が把握されていないケースが多くありました。しかし、現在ではこれらの従業員の労働時間も、過労防止などの理由で把握しなければならなくなっています。
正確に労働時間を把握するには、そのための体制整備が不可欠です。たとえば、自己申告やエクセルによる管理では、正確な把握は困難でしょう。一方、職場への入退室やパソコンの電源を元に自動で打刻される勤怠管理システムなどがあれば把握は容易になります。自社に適したツールを導入しましょう。
利用できる助成金をチェックする
働き方改革に取り組むには多くの資金が必要になります。そこで活用したいのが助成金制度です。働き方改革のために使ったお金の一部を助成してもらえます。
具体的にどのような助成金制度があるのかは、厚生労働省のHPなどで確認できます。制度は変更されたり新しいものが作られたりするため、自社で利用できる制度がないかこまめに確認するのが理想的です。ここでは、代表的な助成金制度を2つ紹介します。
- 【働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)】
- テレワークの導入を支援する目的で、厚生労働省によって設けられた助成金制度です。特定の取り組みをすれば、その費用の一部を補助してもらえます。
- 【キャリアアップ助成金】
- 非正規雇用者のキャリアアップを支援する目的で、厚生労働省によって設けられた助成金制度です。正社員化や処遇改善などを実施した場合、その費用の一部を補助してもらえます。
労務管理をスムーズに行う方法
働き方改革に伴って労務管理も複雑になります。では、円滑に労務管理を行うにはどうすれば良いのでしょうか。2つの方法を紹介します。
- 【労務管理セミナーへの参加】
- セミナーに参加することで、働き方改革に関する労務管理の知識を学習できます。最低限守るべき法知識から、自社で働き方改革に取り組む実践的方法まで習得可能です。1から手探りで模索するより、既存の手法を学ぶほうが効率的に実践できるでしょう。
- 【労務管理システムの導入】
- 労務管理業務は、労働時間の把握から各種保険の管理、給与管理など多岐に渡ります。そのすべてをこなそうとしても、手が回らないことがあるでしょう。そこで有効なのが労務管理システムの活用です。有給取得状況の管理や勤怠データを基にした健康管理など、働き方改革を支援する機能を多く備えています。
効率的な労務管理で働き方改革に取り組もう!
働き方改革法のポイントは以下の6つです。
- ■残業時間の上限
- ■同一労働・同一賃金の原則
- ■有給休暇取得の義務化
- ■高度プロフェッショナル制度
- ■3ヵ月のフレックスタイム制
- ■中小企業における残業代割増率の猶予撤廃
また、働き方改革への対応方法は以下のとおりです。
- ■業務効率化
- ■労働環境整備
- ■労働時間の把握
- ■助成金の利用
以上を踏まえ、働き方改革に取り組みましょう。