試用期間とは
試用期間とはどのような期間なのでしょうか。概要と特徴をそれぞれ見ていきましょう。
従業員の適性を判断するために設定する期間
試用期間とは、本採用を前提に従業員の勤務態度を見ながらその資質や適性を企業が判断する期間です。
スキルや特性、性格といった従業員の資質・適性は、数回の面接や適性検査だけでは見抜くことが難しいです。そこで、数ケ月程度の期間を設け、本採用するかを判断します。試用期間は正規労働者だけでなく、パート・アルバイト採用時にも用いられます。
研修期間との違い:目的が採用判断か教育か
研修期間とは、業務遂行に必要な知識やスキル、ビジネスマナーを学ぶ期間のことです。実際の職場や研修施設を利用して行われます。つまり、従業員の教育が目的の期間です。
一方、試用期間は企業が求める人材かどうかをチェックします。業務を通して勤務態度や人柄、知識やスキルの有無を判断・評価します。つまり、求職者の採用可否決定が目的の期間です。
試用期間の長さと延長する際の手続き
試用期間の長さについては法律で明示されていません。したがって、期間の長さは企業によって異なり、基本的には1~6ケ月、最長で1年までとするケースが多いです。
しかし、試用期間が1年を超えるなど、期間が長すぎると民法第90条の「公序良俗違反」に抵触する可能性が高いため注意してください。また、試用期間を設けるときは、就業規則や労働契約書にその旨を明記しましょう。
もし試用期間内に従業員の採用を判断できなかった場合は、期間の延長も可能です。その際は延長理由や期間、そして解雇を前提とした延長ではない旨を記した「延長通知」を書面で従業員に交付しましょう。延長理由には改善のためのアドバイスを加えると良いです。
なお、試用期間を延長する際は、必ず従業員の同意を得てください。従業員が納得していないのに強制したり、「適性をもう少し見たいから」といった理由で延長を繰り返したりしてはいけません。
参考:民法民法第90条|電子政府の総合窓口(e-Gov)
試用期間における従業員の待遇
試用期間中における従業員の労務管理はどのようにすれば良いのでしょうか。気を付けるべきポイントを2つ紹介します。
給与の支払い義務がある
試用期間中であっても企業は従業員へ給与を支払わなければいけません。その額は企業によって異なり、本採用の給与より下回るケースも見られます。
本採用後の給与より低い額を支給する場合、その平均賃金が、都道府県が設定する最低賃金より低くないか確認しなければいけません。もし、最低賃金より低い場合は法令違反になるためです。
最低賃金より平均賃金が上回っていれば、本採用より低い額の給与を支給しても問題ありません。
以下は平均賃金の算出方法です。
- ■平均賃金=試用期間中の給与額÷試用期間中の勤務時間
ただし、最低賃金法第7条では、一定の条件をクリアした場合にのみ、試用期間中に支払う給与額が最低賃金を下回ることを特例的に認めています。特例を受けるには、労働基準監督署に「減額の特例許可申請書」を提出し、許可を得なければいけません。そして、特例が認められた場合も最低賃金より20%までの減額幅である必要があります。
参考:最低賃金法第7条|電子政府の総合窓口(e-Gov)
福利厚生は特例を除き必要である
企業は、試用期間内であっても従業員を社会保険へ加入させなければいけません。しかし、下記の特例に該当する従業員は加入させなくても問題ありません。
- ■期間限定の臨時雇用者(2ケ月以内)
- ■日雇い労働者(1ケ月以内)
- ■季節労働者(4ケ月以内)
- ■臨時的な事業所に雇用される者(6ケ月以内)
- ■所在地が一定でない事業所に雇用される者
- ■船員保険の被保険者
- ■国保組合の事業所に雇用される者
- ■短時間労働者(同事業所で同業務に従事する従業員と比べて、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が3/4未満)
なお、上記の特例に該当する場合でも、労災保険への加入は義務化されています。
試用期間中の解雇
試用期間中の解雇は可能なのでしょうか。解雇時の注意点を2つ見ていきましょう。
合理的な理由があれば可能である
試用期間中の場合、企業は従業員を本採用後と比べると広範囲かつ自由に解雇できます。ただし、従業員も他の企業へ就職できる機会を失っているため、社会通念上相当と考えられる理由がない場合の解雇は認められません。解雇するには下記のような合理的な理由が必要です。
- ■勤務態度が非常に悪い
- ■遅刻、欠勤を繰り返す
- ■従業員が自身の履歴に関し、重大な虚偽の申告を行っていた
解雇後、従業員とのトラブルを避けるためにも解雇事由の証拠を記録し、保管しておきましょう。
解雇の手続きは期間で分かれる
解雇の判断に至った場合、試用期間の経過日数で手続き方法が異なります。14日以内と、それ以降に解雇するケースに分け、それぞれ見ていきましょう。
試用開始から14日以内:予告なしの解雇が可能
労働基準法第21条の規定では、試用開始から14日以内であれば解雇の予告や手当の支給は不要と認めています。しかし、この場合も社会通念上相当と認められる理由が必要です。14日という短期間で、従業員の資質や適性を判断するのは難しいです。
労働基準法で定められているからと相応の理由なく従業員を解雇すると「解雇権の濫用」と見なされ、その決定が無効になるケースがあります。
参考:労働基準法第21条|電子政府の総合窓口(e-Gov)
試用開始から14日以降:予告や手当が必要
試用開始から14日以降の解雇は、通常の解雇手続きが必要です。従業員に対し、最低でも30日前には解雇予告をしなけければいけません。予告なしに解雇する場合は、解雇日までの日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。
たとえば、当日解雇は30日分、15日後に解雇する場合は15日分以上の解雇予告手当を従業員に支払います。
試用期間の設定・運用をする際の注意点
試用期間を設定・運用する際は、どのような点に気を付ければ良いのでしょうか。3つの注意点を紹介します。
労働条件の引き下げには同意が必要となる
試用期間の完了後、採用を見送るまではいかないものの、従業員のスキルが自社の求めるレベルでないため給与の減額を検討するケースがあります。
給与を減額するときは、従業員にその旨を伝え、同意を得なくてはいけません。試用期間・本採用後の労働契約は同一であり、契約の途中に企業の独断で労働条件を引き下げると法律に抵触します。試用期間が終わり、本採用となるタイミングであっても認められません。
また、給与の減額に同意しないのを理由とする採用拒否や、採用と引き換えに減額に応じるよう従業員へ同意を強要するのは法令違法です。
割増賃金の支給や有給休暇の付与を行う
試用期間中の従業員に対し、残業や休日・深夜出勤などの時間外労働を命じたときは、正規労働者と同様に割増賃金を支払う必要があります。労働基準法が定める割増率の算出方法に基づき、適切な賃金を従業員に支払いましょう。
加えて、試用期間中の勤務実績も有給休暇付与の条件に該当し、反映されます。有給休暇の取得条件が労働基準法第39条に明記されています。付与条件の1つである「雇用日を起算とする6ケ月間の継続勤務」は、試用期間中も対象です。試用期間中だから日数はカウントしない、ということがないようにしましょう。
参考:労働基準法第39条|電子政府の総合窓口(e-Gov)
従業員に改善のチャンスを与える
従業員を本採用につなげるためにも、企業は人材の育成に努めてください。定期的に従業員と面談し、評価・改善を繰り返しましょう。従業員のスキルや知識が求める水準に足らず、適性に欠けるとしても指導や教育を十分に行ってください。
それでも、自社の求めるレベルに到達せず、解雇の決断を余儀なくされる場合は従業員の弁明を聞くなど、話し合いの場を設けましょう。従業員に教育や弁明の機会を与えないまま解雇すると、のちに不当解雇で訴えられる可能性があります。
試用期間中にトラブルが発生しないよう対策しよう
試用期間は勤務態度を見て従業員の採用を判断する期間です。1~6ケ月が一般的ですが、同意を得れば延長が可能です。企業には給与の支払いや福利厚生への加入義務が発生します。試用期間の設定・運用時の注意点は以下のとおりです。
- ■労働条件の引き下げ時は同意が必須
- ■割増賃金
- ■有給休暇の適切な付与
- ■従業員へチャンスを与える
以上を踏まえ、試用期間中の従業員とのトラブル防止に努めましょう。