パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)とは?
パワハラ防止法とは、どのような法律なのでしょうか。その概要と成立に至る背景、いつから施行になるのかを見ていきましょう。
企業がパワハラ防止に取り組むことを義務化した法律
「労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が正式名称である「労働施策総合推進法」において、パワハラ関連の条文が新たに追加されました。追加された条文を一般的に「パワハラ防止法」と呼んでいます。
厚生労働省は、法律の施行前にパワハラとは何かを定義し、その防止措置を指針として定めました。この指針では、パワハラ防止法の対象者は正規社員だけでなく、パート社員や派遣社員などを含む全ての労働者としています。
参照:労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について|北海道労働局
パワハラと定義される要件は3つ
職場内でパワハラと見なす要件は以下のとおりです。
- ■優越的な関係を背景に行われること
- ■業務上、必要かつ相当な範囲を超えた言動によること
- ■就業環境を害すこと、あるいは身体的・精神的な苦痛を与えること
職場は、企業内とは限りません。雇用者が業務を遂行する場所すべてを職場と見なします。
なお、優越的な関係とは、上司・部下に限られません。専門知識や経験の有無を背景とした優位性も含みます。たとえば、就業経験の長い社員が経験の浅い上司に対し、高圧的な態度をとる場合も、優越的な関係に該当する可能性が高いです。
パワハラ被害が顕著になったことで成立した
パワハラ防止法施行の背景には、パワハラが持つリスクの大きさが挙げられるでしょう。パワハラは被害者だけでなく、加害者や管理する組織のそれぞれに影響を及ぼします。
被害者は精神的に追い詰められ、最悪の場合、過労死や生きる希望を見失い過労自殺などの事件を起こしています。加害者は社内の居場所や信用を失い、組織は管理責任の追及やイメージダウンの低下を招くでしょう。
つまり、行き過ぎた指導や言動が多方面に与えるリスクは想像以上に大きいものであり、国としても看過できない状況が成立の背景にあるのです。
施行日は大企業と中小企業で異なる
パワハラ防止法が施行される時期は、大企業と中小企業で異なります。
大企業は2020年6月1日から、パワハラに対して必要な措置を講じることが義務化されます。中小企業は2022年4月1日からですが、同年の3月31日までの間は努力義務期間です。
参照:パワーハラスメント対策について|厚生労働省 東京労働局
参照:「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化|厚生労働省 東京労働局
判断が難しい?パワハラと指導の境界線
どういった行為・言動がパワハラであり、そうでないかの判断は難しいです。そこで、厚生労働省はパワハラと指導の境界線を行為・言動別に6つに分類し、指針で示しています。
パワハラに該当する行動は以下のとおりです。
- 1.身体的な攻撃
- 殴ったり、蹴ったり、物を投げつけたりすることで、身体的な危害を与える
- 2.精神的な攻撃
- 名誉棄損や侮辱、暴言、脅迫まがいの言い回しなどにより、精神的な苦痛を与える
- 3.人間関係からの切り離し
- 仲間外れや無視、隔離
- 4.過大な要求
- 遂行不可能な業務や業務に関係ない雑務の強要
- 5.過小な要求
- 仕事を与えない、能力や経験からかけ離れた程度の低い仕事をさせる
- 6.個の侵害
- プライベートに過度に立ち入る、プライバシーの侵害
1・2・3は、業務上必要のない行為ばがりでパワハラと判断しやすいです。しかし、4・5・6については、パワハラかそうでないか判断が難しいです。
個人の認識の違いで判断に差が生じるので、職場内で認識の統一を行う必要があるでしょう。
参照:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省
パワハラ防止法によって企業に課される義務は?
パワハラ防止法により、企業に課される4つの義務を紹介します。
パワハラ防止方針の周知・啓発
パワハラを許さない企業方針を社員へ示しましょう。組織一丸となるには、社長や経営層といったトップダウンによる声かけが効果的です。
加害者に対する対処方針や内容、被害者に対する補償内容を決定し、就業規則に明記します。パワハラ行為を繰り返し、聞き入れられない場合は懲戒処分とし、解雇もありうことも就業規則に定めておきましょう。
労働組合がある企業は、協議を行います。研修や企業ホームページ、社内報などを活用し、その旨を周知し、啓発活動を行いましょう。
中でも研修の実施は非常に効果的です。定期的な実施により、パワハラ防止への意識付けが可能です。研修の際は、管理監督者と一般社員の研修は別途行いましょう。自社内での研修実施が難しいときは、弁護士や社会保険労務士といった専門家へ講師を依頼するのもおすすめです。
パワハラに対する相談体制を整備
パワハラを受けていても、それがパワハラなのか分からず、家族や同僚に相談できずに一人で問題を抱え込む人が中にはいるものです。そのような状況が続くと、心の病気を引き起こしやすく、退職という選択肢を選びかねません。貴重な人材を失わないためにも、パワハラを早期発見し、適切に対処できる窓口を創設しましょう。
相談窓口の担当者を社員から選定する際は、対応方法や知り得た情報を口外しないなど、事前研修を必ず行ってください。自社内での対応が困難なときは、外部への委託も可能です。他のハラスメントも含めて一体的に対応できる体制の整備が望まれます。
さらに、定期的にパワハラに関するアンケートを実施するのも良いでしょう。匿名でアンケートを実施すれば、パワハラの実態を掴みやすいです。結果を参考にして、社員のニーズに即した施策を打てます。また、アンケートは社員の声を反映する手段だけでなく、パワハラを防止する抑止力としての効果も期待できるでしょう。
パワハラが起きた後の迅速かつ適切な対応
パワハラの発生を企業が把握するのは、被害者からの相談や目撃者など第三者からの通報などです。
相談後の対応は以下のとおりです。
- 1.調査
- 事実関係の確認を速やかに行います。加害者への確認は被害者の了承後、中立的な立場で調査を行ってください。第三者への聞き取りの際は、他の社員に知られないよう細心の注意を払うことが大切です。
- 2.被害者への対応
- 被害者と話し合って休暇や定期的な相談、配置転換など、適切な対応をとってください。継続的なフォローも大切です。
- 3.加害者への対応
- 調査結果に基づき、加害者へ注意、配置転換、懲戒解雇など、適切な処分を行います。
- 4.再発防止への取り組み
- パワハラの事実が認められないときは、その旨を被害者へ説明します。この際、結果だけでなく、パワハラを確認できない理由も含め、被害者が納得するまで丁寧に説明してください。そして、加害者のどのような言動に問題があったのかを明確にし、今後このような事態が行らないよう再発防止に臨みます。
その他に求められる対応
パワハラの対応には細心の注意が必要です。なぜなら、相談受付時やパワハラに関する事実確認の調査を行う際は、被害者・加害者・目撃者など第三者それぞれのプライバシーを考慮しなければいけないからです。
情報が外部に漏れてしまうと、二次・三次被害を招きかねません。そのため、相談の際はプライバシーを厳守し、情報が外部へ漏れないようにしてください。事実確認の調査を行う際は、ほかの社員に情報が漏れないよう留意することが大切です。
また、パワハラを上司や同僚に相談したことで、逆に相談相手から嫌がらせを受けてしまう「セカンドハラスメント」の発生も考慮すべきです。セカンドハラスメントが起きると被害者は嫌がらせを恐れ、相談しにくくなります。こうなると社内だけでの対応は難しく、外部機関を巻き込んだ社内・社外一体となった対応が求められるでしょう。
パワハラ防止法を違反したときの罰則は?
パワハラ防止法を違反しても罰則はありませんが、加害者・企業のそれぞれが責任を問われるケースがあります。
加害者は、刑事・民事責任に該当すれば処罰され、損害賠償責任を問われる可能性が高いです。
一方、企業は安全配慮義務を負うので、パワハラの発生を知りながら適切な対応をしなかった場合は民法に定める「職場環境配慮義務違反」や「債務不履行」に該当する可能性があります。その際は不法行為責任や損害賠償責任を問われてしまいます。
パワハラを防いで職場での円滑なコミュニケーションを
パワハラ防止法とは、企業の防止措置を義務化する法律です。施行日は大企業・中小企業で違います。
6つの行動をパワハラと定め、それに基づく企業責務は以下のとおりです。
- ■パワハラ防止方針の周知、啓発
- ■相談窓口の設置
- ■パワハラ発生後の適切な対応
- ■当事者のプライバシー配慮
法律に違反しても罰則はありませんが、加害者・企業が責任を問われる可能性が高いです。施行に伴い、パワハラのない健全な職場環境を構築しましょう。