グループウェア導入の背景
まずは、グループウェアを導入した中小企業の概要や、導入を決意するに至る課題について確認しておきましょう。
企業概要
T社は、従業員の頑張りに応じた成果型の報酬制度や、地元に根差した地域密着型の事業展開に特徴がある不動産仲介業です。利幅の大きい不動産仲介を主力事業としながらも、注文型の戸建て住宅の建設事業にも乗り出しました。売上は順調に増加しており、今後も商圏の拡大や従業員の増員など、積極的な事業展開を検討しています。
グループウェア導入に至るまでの課題
グループウェア導入の背景には、急拡大する売上に、現場の効率化や経営管理が追いついていないことがありました。
不動産を扱うという業務の都合上、ただでさえ紙の書類が多いうえに、成果主義を採用しているため個人管理になりやすく、会社の情報資産が私物化している懸念がありました。上司の決裁が必要なケースでも、物件成約のスピードを重視して、後付けで決裁を回す行為も常態化。コンプライアンス上の問題も顕在化していました。
成果主義を重視し、従業員の昇給・昇格の条件が不明確になっているといった課題もあったのですが、このような人事面の問題は社会保険労務士と相談しながら解消することができました。そのため、T社は、現場に任せっきりで統制ができていなかった、現場業務の課題解決に乗り出したのです。
ベンダー選定にあたり重視したこと
T社は、統制が行き届いていない現場の業務を改善するために、グループウェアをプラットフォームとして活用する方針を固めました。そして、課題を確実に解決するために、以下のような機能を重視することにしました。
ワークフローの条件分岐設定およびインターフェース
最も重視した機能がワークフローです。形骸化している承認プロセスを解決しないことには、業務改善が前に進まないと考えたからです。ワークフローシステムの導入も検討しましたが、システムの運用に不慣れなT社は、複数のシステムの乱立を避け、グループウェアの機能にあるワークフローを重視しました。
T社の承認プロセスでは、金額や条件に応じて承認者が変わったり、承認者不在時のルールが定められたりしていました。こうした条件分岐を、そのまま設定できるワークフローを導入することにしました。
もう一つ、ワークフロー機能で重視したのが、画面インターフェースです。いくら高機能のワークフローでも、現場の従業員が使いこなせなければ意味がありません。そこで、従来通りの紙の書類をそのまま画面に再現できる機能や、承認すると陰影が表示される機能を重視しました。
モバイル性能
T社の従業員は、物件がある現場での作業の比率が50%を占めるなど、外出先での業務が多いという特徴がありました。従業員にノートパソコンやスマホを貸与していましたが、実質的に、モバイルワークができる環境は整備されておらず、かさばる紙の書類を持ち運んでいるのが実情となっていました。
そこで、モバイル機器でも、見やすいインターフェースで業務ができるグループウェアを重視したのです。
社内のペーパーレスを促進できるかどうか
T社の業務における紙の書類の多さは深刻で、デスクの上に積み上げられた書類で作業スペースが確保できないほどでした。
紙の書類の全てをなくす完全ペーパーレス化は難しいと感じていたため、ワークフローの導入時には、文書管理機能の操作性を重視しました。そして、決まりを定めて従業員にペーパーレスを強制するのではなく、ペーパーレスを自主的に進めるための環境整備を優先したのです。
具体的な機能としては、Webブラウザで文書管理ができる容易さと、ドラッグ&ドロップで文書をハンドリングできる操作性を重要視しました。ペーパーレスのメリットは、現場で働く従業員にこそ、多くの恩恵をもたらします。文書管理に優れたグループウェアの導入により、少しずつでもペーパーレスが普及していくと、T社では考えました。
グループウェア導入後の効果
グループウェアは、すでに普及が進んでいるシステムなので、さまざまな製品やサービスが乱立しています。しかし、T社では解決するべき課題と、実現するべき機能が明確になっていたので、複数の製品を比較して、自社に最適なものを選定できました。そして、以下のような効果をあげたのです。
より充実した顧客サービスを提供するための意識の変化
外出先での業務が多いT社では、グループウェアを活用してコミュニケーションをとったり、情報閲覧ができるようになったりすることで、モバイルワークが一気に普及しました。すると、顧客に対し、迅速な見積提示や類似する物件の写真を使った提案など、従業員から顧客サービスを充実させるための要望が多数寄せられるようになったのです。
従来であれば、顧客サービスを充実させるための仕組みもシステムも備わっていなかったため、こうした現場従業員からの声が届くことはありませんでした。グループウェアというプラットフォームが整備されてからは、よりよい顧客サービスを提供するという従業員の意識の変化が見られるようになりました。
ペーパーレス化の実現
ワークフローの仕組みが整備され、外出先でも情報が閲覧できるようになったことで、少しずつペーパーレス化も進んでいます。個人レベルのペーパーレス化から、グループや組織におけるペーパーレス化へと、従業員の視点も変わっていきました。
そこで、ペーパーレス化を推進するためのプロジェクトチームが立ち上がります。文書の分類や管理方法を定め、組織的なルール作りに乗り出したのです。膨大な文書の中から、優先度の高いものを選定し、具体的なペーパーレスの仕組み作りが始まっています。
働き方改革に対するプラットフォームの提供
業務の効率化により、T社では残業の抑制やモバイルワークの促進など、すこしずつ働き方改革が進められていました。そんな中、新型コロナウィルスの拡大がT社にも深刻な影響を与えます。
在宅勤務の導入が検討されたT社において、中心的な役割を果たしたのがグループウェアでした。すでに、使い慣れているため、特に混乱なく在宅勤務への移行を進めることができました。そして、在宅勤務を実現するために、さらなるペーパーレス化が促進されるという、よい流れが生まれるようになりました。
組織力を高めるためにグループワーク導入しよう
グループウェアは、組織的な業務を効率よくおこなうためにかかせないツールですが、企業における仕事のやり方や課題に応じて、真に役立つグループウェアを導入することは決して簡単ではありません。それでも、複数の機能を統合的に提供してくれるグループウェアは、中小企業にこそ多くの恩恵を与えてくれるのも事実です。
組織の力を強め、企業の競争力を高めるために、グループウェアは業務の中心を担ってくれるでしょう。