在庫と黒字倒産の関連性
黒字は必ずしも経営が順調であることを意味しません。在庫が多いと、黒字なのに経営難に陥ることがあります。その仕組みを見ていきましょう。
在庫が多ければ帳簿上の利益が増える
会計上では在庫は資産として考えます。そして、在庫を仕入れる際の出費は仕入の段階では計上せず、売上につながった際に始めて計上します。つまり、在庫を仕入れると、出費は生じないけれど在庫そのものとしての資産は増えるということです。このメカニズムを利用すれば、本当は赤字なのに在庫を増やすことで黒字にすることが可能です。
しかし、帳簿上は黒字になっても、実際に利益が上がっているわけではありません。むしろ、黒字にするために在庫を増やしているため、無駄な買い物をしていることになります。これが続いて取り返しの付かないところまで行くと黒字倒産に至ります。
在庫は販売されないと費用にならない
確かに在庫は企業にとって資産です。1万円を支払って得た在庫は1万円あるいはそれ以上の価値があるでしょう。しかし、これはあくまで在庫としての資産であって、現金ではありません。つまり、いくら在庫があっても社員に給与を支払ったり、新たな設備を購入したりできないということです。
したがって、在庫を大量に抱えていると、黒字ではあるけれど使えるお金が少ない状況に陥ります。在庫を売れば現金は得られますが、売りたいと思った時にすぐに売れるわけではありません。
この状況が続くと、いざ現金が必要になったときに支払えなくなります。どうしても支払わなければならないのであれば、借金をするしかありません。このように在庫の増大はキャッシュフローの悪化を招きます。
黒字倒産する主な原因
黒字倒産しないためには、過剰在庫を抱えないことが大切です。では、そもそもなぜ過剰在庫を抱えることになるのでしょうか。
ずさんな在庫管理体制
在庫管理が適切にできていないことが過剰在庫につながります。なぜなら、在庫の状況が管理できていなければ、何をどのくらい仕入れるべきか分からないからです。
多くの企業は、在庫の不足によって販売機会を損失することをおそれます。そのため、常に余裕を持って在庫を保持しておこうと考えます。もちろん、それが適正な量であれば問題ありません。しかし、何がいくつ倉庫にあるのか把握しないままこれを続ければ、気づいたときには過剰在庫が生じている可能性があります。
販売機会の損失は企業にとってリスクですが、在庫を抱えることもまたリスクです。手元から現金が失われるうえ、倉庫のスペースや従業員の雇用に余分な費用がかかります。このことをよく理解し、必要最小限の在庫に抑える管理体制を整える必要があります。
収益性の管理不足
在庫が多少余っていても、それが売れる予定のある商品であれば問題はありません。ところが、販売できる見込みのない(収益性が低い)在庫が溜まっているとすれば、それは過剰在庫です。
商品の収益性を判断する指標として交叉比率があります。これは以下の式で算出されます。
交叉比率=粗利率×在庫回転数(在庫回転数=年間売上高÷年間の平均在庫金額)
例として、以下の条件で交叉比率を計算してみましょう。
- 年間売上高
- 100万円
- 年間の平均在庫金額
- 20万円
- 粗利率
- 30%
交叉比率=30%×100万円÷20万円=150%
交叉比率が高い商品ほど企業の収益に貢献しているといえます。一般的に、交叉比率が200%を超えると収益性が高い商品、100%を下回ると収益性が低い商品と見なされます。各商品の交叉比率を算出し、100%を下回る商品の在庫がたくさんあったら見直しが必要です。
過剰在庫による黒字倒産を起こさないための対策
では、過剰在庫による黒字倒産を起こさないためにはどうすればよいのでしょうか。2つの対策を解説します。
キャッシュの管理を適切に行う
会計上では在庫は資産として扱われます。しかし、在庫としての資産が多くてもキャッシュがなければ意味がありません。したがって、キャッシュの管理を適切に行う必要があります。たとえば、決算時にはキャッシュフロー計算書を作成しましょう。これにより現金の動きを明らかにできます。
また、資金繰り表を作成して現金の出入りをコントロールしましょう。資金繰り表があれば、手元の現金が少ない際にそのことを自覚させられるため、仕入れを抑制できます。
さらに、交叉比率が適正な値に維持できるよう工夫しましょう。計算式から分かるとおり、交叉比率は年間の平均在庫金額を減らせば向上します。つまり、交叉比率の改善を目指せば在庫を抑える動きにつながるということです。
適正在庫を維持する
在庫管理の観点からも、過剰在庫が生じないような体制作りが必要です。たとえば、発注方法を見直すとよいでしょう。発注方式には定期発注方式と定量発注方式があり、それぞれ以下の特徴を持ちます。
- 定期発注方式
- 一定期間ごとに発注する。発注量はその都度計算する。
- 定量発注方式
- 在庫が一定量まで減ったら発注する。
定量発注方式は簡便な反面、在庫を過剰に抱えやすい傾向にあります。需要の変動や発注量の計算にかかる手間などを総合的に考慮して、適切な方式を選択しましょう。
また、発注量を最適化するために需要予測も必要です。過去にいつ何がどのくらい売れたのかデータを集め、それを元に需要を予測しましょう。勘や経験に頼って発注量を決めている人も多いですが、データに基づいて客観的に考えることも大切です。需要予測用のITツールの活用も視野に入れるとよいでしょう。
黒字倒産について理解し、適切に在庫を管理しよう!
過剰在庫を抱えると黒字倒産するおそれがあります。帳簿上では在庫は資産と見なされますが、実際には販売しなければ現金は得られないからです。過剰在庫を抱えてしまう原因は以下のとおりです。
これらの問題を解決するには、以下の工夫が必要です。
- ■キャッシュの管理を適切に行う
- ■適正在庫を維持する
以上を踏まえて最適な在庫を保ち、黒字倒産のリスクを軽減しましょう。