日本の製造業の動向
1980年代、日本の製造業は「ジャパン・アズ・ナンバー1」と称され、世界に君臨するほどの勢いがありました。しかし、バブルの崩壊で打撃を受け、2000年前後にはグローバル化の潮流によって海外生産へとシフトします。
とはいえ、すべての製造業が競争力を失ったわけではありません。自動車産業は世界有数の力を持ち、工作機械も日本ならではの品質を誇ります。国内での研究開発と品質、海外の低コストな生産を組み合わせる国際分業で、「ものづくり」に優位性を見出している企業もあります。
製造業の在庫管理の特徴
同じ製造業であっても、生産形態が異なる場合があります。製造業における在庫管理の基本事項を改めて確認しましょう。
生産形態:組立・加工製造とプロセス製造
製造業の生産形態は組立・加工製造とプロセス製造の2パターンに分類できます。組立・加工製造は部品を組み立てて生産する形態で、機械や自動車がこれに分類されます。 プロセス製造は原料を化学変化させて生産する形態で、薬品や石油精製などがこれに分類されます。
生産工程の影響を受ける在庫管理も組立・加工製造とプロセス製造に分かれ、利用されるパッケージもいずれかに適しています。
在庫の種類:部品・原材料/仕掛品/完成品
製造業の在庫は3つに分類できます。
- 素材
- 組立・加工製造では部品が在庫になり、プロセス製造では原料が在庫となる
- 仕掛品
- 製造途中の在庫をさす
- 完成品
- 文字どおり完成された製品で、これは出荷されるまで在庫となる
製造業の在庫管理における課題
製造業特有の在庫管理の課題は、調達リードタイムの長い部品や原材料が欠品した場合、納品までの期間が一気に長期化してしまうことです。
注文を受けたときに、すぐに出荷できるように完成品をある程度在庫しておく必要があるので、「在庫を抱えるデメリットはない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、過剰な在庫は保管効率やキャッシュフローの悪化や不良在庫の発生を招く原因にもなります。
欠品を出さず、品質劣化が起きない程度に完成品や仕掛品を保管しておく必要があり、実現するためには綿密な生産計画や徹底した在庫管理が必要になるのです。
製造業における在庫管理の3ステップ
日本の製造業従事者は品質や精度に関しては高い意識を持っていますが、在庫管理には関心が薄い場合があります。一般に在庫管理は次の手順で行います。
1.適正在庫を明確にする
過去数年間の製品出荷量から適正在庫を明確にします。ここで注意を要するのは在庫を持たないのがベストではないということです。品切れを起こさず、お客様や市場に迷惑をかけない範囲の在庫を確保しなければなりません。
適正在庫について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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2.在庫数量を見える化する
現在どの在庫がどれだけあるかを明確にします。これを在庫のモニタリングともいいます。現状のモニタリングのみではなく、向こう3ヵ月間など一定期間のモニタリングも必要となります。見える化の機能を搭載している製品は多くあり、これを最大のメリットとして訴えている製品もあります。
3.過不足を予想しながら在庫数維持を目指す
適正在庫を切ったらアラートを出す、あるいは過剰になったらアラートを出す仕組みを整えましょう。在庫の見える化同様、たとえば3ヵ月先までの需要を予測して、アラートを出す仕組みになっていれば、過不足なく在庫数を維持できます。在庫管理システムにはこの機能を搭載している製品も多くあります。
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製造業における適正在庫を維持するためのポイント
製造業が適正在庫を維持するためには、下記のポイントに注意が必要です。1つずつ確認していきましょう。
- ・部品・原材料は適正量を意識して仕入れる
- ・生産~販売のプロセスの中で在庫管理を位置づける
部品・原材料は適正量を意識して仕入れる
製品を製造する元となる部品や原材料は計画的に仕入れているでしょうか。欠品や生産ラインのストップを恐れるあまりに、必要以上の仕入れを行っているとキャッシュフローが悪化することになります。部品や原材料は、それ単体では売り物にはならず完成品まで加工することで初めて売上に繋がるものです。
特に製造業の場合は、仕入れ~生産・加工~販売までの利益を生み出すまでのプロセスが長いため、適正な仕入れ量を見極めることが大切です。また新製品への切り替えなどで従来使用していた部品の在庫がムダになる可能性も考えられるでしょう。
生産~販売のプロセスの中で在庫管理を位置づける
在庫を扱う業種は製造業以外にも、小売業や通販、倉庫業など多く存在します。製造業とその他業種との決定的な違いは、生産~加工~販売の一連の流れの中で在庫管理を行う必要がある、という点です。
生産管理が不十分だと、過剰生産となり在庫が溢れてしまうこともあり、販売管理に問題があれば、今後の売上予測を誤り欠品してしまうこともあり得ます。SCM(サプライチェーンマネジメント)という概念もありますが、在庫管理は生産管理や販売管理と切り離して考えるのではなく、製造業における全てのプロセスに関係があるものだと位置づけて最適化を考えることが重要です。
適正な在庫管理を行うためのツール
在庫管理を行う方法はどのような方法があるのでしょうか。主な方法を2つ紹介します。
エクセルを利用する
エクセルを利用して在庫管理を行っている方も多いのではないでしょうか。Web上には、在庫管理を行うためのエクセルテンプレートを紹介しているものもあります。しかし、エクセルを利用しているとはいえ人によるミスは多く、正確性やリアルタイム性が課題となっています。
エクセルによる在庫管理について詳しく知りたい方はこちらの記事を参照ください。
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在庫管理システムを利用する
在庫管理システムとは在庫の期限や位置情報、入出庫の情報をまとめて管理することができます。バーコードで管理することもできるので入力の手間やミスの軽減が可能です。他システムとの連携もできて適切な在庫量を保つことができます。
在庫管理システムの機能については以下をチェックしてみてください。
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製造業の在庫管理システム導入例
製造業における在庫管理システムの過去の様々な導入事例から典型的なモデルケースを想定してみましたので参考にしてください。組立・加工製造とプロセス製造、2つのケースを紹介します。
在庫金額3割削減を実現[組立・加工製造]
光学系の電子機器製作所A社の導入事例。同社では在庫過剰が経営上の課題となっており、解決策を求めていました。そこで、在庫管理システムを構築し、在庫のモニタリングを開始、現状や3ヵ月先までの在庫状況をリアルタイムに確認できるようになりました。在庫切れが予想されるとアラームが発せられ、仕入れと製造を開始します。
このシステムにより、同社では1年ほどで在庫金額の3割削減を実現しました。また、在庫管理を標準化することで、カンと経験に頼っていた仕入れ計画を誰でも立案できるようにしました。
在庫の見える化とドリルダウン[プロセス製造]
電子部品に使用される樹脂メーカーB社のシステム構築事例。化学品は原料に不明な点が多く、熟練の担当者でなければ適切な在庫の確保が困難でした。このため、しばしば過剰在庫や在庫切れを起こしており、在庫管理の手法を模索していました。
そこで、パッケージを購入し、開発事業者からアドバイスを受けて在庫管理システムを構築。原材料の見える化と、製品から原料をドリルダウンする仕組みを実現しました。半年ほどで効果が現れ、在庫量20%減に成功しています。
在庫管理は製造業の競争力強化の源泉となる
作れば売れる時代ではなく、必要とされるものをいかに適量生産していくかが問われるようになっています。在庫管理は企業の競争力に直結し、経営を左右するのです。在庫管理システムなどITの力を生かして競争力を強化しましょう。