薬局業界の動向が在庫管理に与える影響
薬局業界は日本では珍しい成長産業の1分野で、出店と拡大により売上高が順調に伸びてきました。しかし、その伸び率にも鈍化が見られ、飽和状態の中で生き残りをかけた競争が激化していくと予想されます。
薬局業界が成長してきた背景には大胆なM&A戦略がありました。既存の薬局を買収してチェーン店化していくのです。街からは古くからの薬局が姿を消し、多店舗展開している大型店の進出が目立っています。
それも地方によって覇者が異なり、業界の主導権を握る企業がありません。今後もM&Aを繰り返すことで、いずれ業界を牽引するリーダーが現れるかもしれません。
このような状況の中、競争が激化しており、適正在庫の必要性がさらに高まっています。規制緩和により、インターネットやコンビニなど他産業からの参入も見られ、これも競争に拍車をかけています。かつては利益率の高さからどんぶり勘定が見られましたが、きめ細かな管理が必須となっています。
薬局業の在庫管理の課題
薬局業における課題とは、何なのでしょうか。おもな2つの課題を紹介します。
需要が少ない医薬品も仕入れなければならない
薬局は在庫不足を理由にお客様から求められる調剤を拒否することはできません。お客様のために、ある程度の在庫量を確保しておかなければならないのです。在庫の不足で調剤に時間がかかるようでは、店舗の評判も下がります。
売れ筋だから大量に確保する、死に筋だから仕入れをストップするというような、他の業種の常識が通用しません。地域の健康を支える薬局にとって、在庫管理は重要な責務です。
不動在庫が経営を圧迫する
欠品が許されないとはいえ、過剰な在庫は利益率を圧迫します。薬品には期限があり、一定期間を経過した薬は廃棄しなければなりません。廃棄期限が迫っているからといって、他業種のようにバーゲンセールを展開することもできません。1箱数万円にもおよぶ薬品の廃棄は、経営を圧迫します。
薬局業における在庫管理のコツ
在庫が多すぎることもコストを切迫し、少なすぎることも機会損失に繋がります。では、一体どのように在庫管理を行えばよいのでしょうか。ここからは調剤薬局が在庫管理をする上でのコツを解説していきます。
薬価の高い医薬品の発注点を優先して決める
薬価の高い医薬品は薬局全体の在庫金額を増大させる原因となります。
まずは、在庫の中で薬価の高いものから優先順位を高く設定し、過去の1年間ほどのデータからこれらの薬の出入りの状況を確認しましょう。続いて薬局で常にキープしておくべき適正在庫数はいくつなのか、発注点(在庫数がこの数値を下回ったら新たに発注する)はどのくらいにするかを決定していきましょう。
薬価の高いものから在庫管理を始めることで、比較的早くに在庫管理の意義を感じることができ、継続的な取り組みに繋がりやすいでしょう。
発注点にさらに詳しく知りたいという方は、こちらの記事をご覧ください。
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メンバー全員のコスト意識を高める
在庫管理を特定の1人だけで担当していませんか。薬局における在庫管理はメンバー全員で取り組むことが大切です。例えば発注担当に薬価が高く在庫金額を増大させる可能性のある医薬品についてや、不動在庫の廃棄にかかるコストを共有することが必要になってくるでしょう。
その他定期的に会議で在庫管理の状況を共有したり、連絡ノートのような手段でメンバーの在庫管理のコストに対する意識を高める努力が必要です。可能であればメンバー全員が持ち回りで在庫管理に携わることができるとベストでしょう。
出入りの頻度ごとに在庫管理の対策方法を考える
薬局で取り扱う医薬品は、主に定期的に出入りのある薬と突発的に出入りが発生する薬に分けられます。それぞれ取るべき必対策が異なるため確認していきましょう。
定期的に出入りが発生する薬は在庫管理の基本を徹底する
定期的に出入りが発生する薬については、需要予測や発注のタイミングが掴みやすく比較的在庫管理がしやすいと考えられます。だからこそ情報の共有漏れを無くすなど、在庫管理の基本や当たり前のことを完璧に実施していくことが重要になってくるのです。ABC分析などの在庫管理の手法を用いて定期的な見直しを行い、常に最適化することを心がけましょう。
ABC分析についてはこちらの記事をチェックしてみてください。
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突発的に出入りが発生する薬は患者さんへのヒアリングを実施する
突発的に出入りが発生する薬については、処方されることが少ない薬の処方箋を持ってくる患者さんであったり、90日分などの大量の処方によるものが原因と言えます。
対策としては、珍しい薬や大量の薬を必要とする処方箋を持参する特定の患者さんに対して、差し支えのない範囲でヒアリングを行いましょう。来局する周期や医師とのやり取りが分かれば、ある程度当たりをつけて発注ができるようになります。
在庫管理システムで薬局業を効率化しよう
薬局業界専用の在庫管理システムであれば、在庫の状況の把握や発注の管理のような手間な作業を一括で行うことができます。薬局業界に特化した点をいくつかご紹介します。
薬局間での医薬品の譲受・譲渡に対応している
グループ化が著しく進み、ここにおいても在庫管理のシステム化が求められるようになっています。目に見える自分の店舗の在庫のみならず、近隣のグループ店の在庫を見える化することで、緊急の際の在庫のやり取りが可能となります。本部が全店舗の在庫を管理して、発注を一元化する機能を搭載し、スケールメリットを出せるシステムもあります。
厳密な期限管理機能を搭載している
医薬品は人体に影響を与えるため、取り扱いには十分な注意が必要です。薬局は薬品の販売量を登録し、正確な在庫情報を維持しなければなりません。在庫管理の精度は、調剤の精度の高さに比例します。また、在庫している薬品の情報を表示して、廃棄期限や調剤を支援する機能を搭載している製品もあります。
以下の記事では、業界や特徴別の在庫管理システムの紹介を行っています。興味のある方は是非チェックしてみてください。
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薬局業の在庫管理導入事例 −在庫期間の短縮で利益率向上ー
薬局在庫管理システムをイメージしやすいよう導入事例を紹介します。
関東近県で200店舗ほどを展開しているドラッグストアA社。多店舗経営のため、本部と薬局を結ぶネットワークを構築し、在庫管理をシステム化しました。従来在庫は薬剤師が管理しており、多忙な調剤業務の中、大きな負担となっていました。
しかし、システム化により煩雑な在庫管理業務から開放。作業効率が2倍以上にアップしたと報告しています。チェーン全体の在庫回転日数も50日から30日に短縮し、同社の利益率の向上に大きく貢献しています。
システム導入を視野に入れながら在庫管理を考える
薬局業界の在庫管理は他業界のノウハウや常識が通用しない場合も多く、非常に難しいものです。今回ご紹介した在庫管理のコツを実践しつつ、業界に特化した在庫管理システムの導入も積極的に検討してみましょう。システムによっては無料トライアルや導入コストが低いものもあるため、まずは試してみることが大切です。