労働契約法とは
労働契約法とは、労働契約が労働者と使用者の合意によって締結・変更されることで、両者の良好な関係を目指す法律です。ここで言う労働者とは、使用者に使用されて賃金を支払われ、労働する人のことです。
第1条から第5条までは労働契約法の基本が記されています。簡単にまとめると、労働契約は労働者と使用者が対等な立場で結ぶものであり、使用者は労働者にさまざまな配慮が必要との旨が書かれています。
一方、第6条から第20条に記されているのは契約の締結や変更などに関する具体的なルールです。労働契約の締結や変更に関しては、これらの条文に書かれていることを守らなければなりません。
ここで注意したいのは、労働契約法は2012年に改正されていることです。有期労働契約に関して新たなルールが作られました。この改正内容を知らないせいで労働契約法違反にならないよう気をつけましょう。
労働契約法でつまずきやすいポイント3点
改正労働契約法において初心者がつまずきがちなのはどのようなポイントなのでしょうか。3つの点をわかりやすく解説します。
1.無期労働契約への転換
2013年4月1日以降に以降に締結された有期労働契約において、通算5年以上反復更新された場合、労働者は無期労働契約を申し込めるようになりました。
たとえば、2014年4月1日に3年間の有期労働契約を結んだ場合、2017年3月31日には契約は終了しています。しかし、再度3年間の有期労働契約を結ぶと、通算で6年働くことになります。このとき、労働者は2度目の有期労働契約期間中に、無期労働契約を申し込むことが可能です。
ここで言う有期労働者とは主にパートやアルバイト、契約社員、派遣社員のことです。そのほか、準社員や嘱託、臨時社員、非常勤などが該当することもあります。
ちなみに、誤解されがちですが、無期労働契約とは正社員になることではありません。あくまで期限がないというだけで、労働形態はケースバイケースです。
メリット:意欲的で能力がある社員の確保ができる
無期労働契約への転換は、企業にとって優れた人材を確保しやすくなるメリットがあります。通算5年以上働いている従業員は、正社員でなくても業務に精通している可能性が高いです。
したがって、その人材を手放さず確実に確保できることは企業にとって利益となります。また、その場しのぎ的に有期労働契約をして、契約の都度従業員を育成するよりも、長期的な視点で人材活用計画を立てられるようになるでしょう。
一方、先述したとおり無期労働契約は必ずしも正社員にすることではありません。雇用形態はアルバイトのまま、無期労働契約に変えることも可能です。その結果、安定しつつも自由度の高い雇用形態が実現するため、クリエイターなどの働き方に制約がある人材も雇いやすくなります。
デメリット:人員調整がしづらい、コストがかかる
メリットと同時にデメリットもあります。その代表例が、人員調整が難しくなることです。
有期労働契約であれば、期限が満了すればその従業員を解雇できます。これは、経営が傾いた際などのリスクヘッジとなるでしょう。無期労働契約になると安易に解雇できないため、人件費が経営を圧迫するおそれがあります。
また、無期労働契約の従業員が増えると就業規則などの整備が必要になります。これに時間や労力を奪われることも企業にとっては負担となるでしょう。
2.「雇止め法理」の法定化
雇止めとは、契約期間の終了に伴って雇用を止めることです。たとえば、2014年4月1日に3年間の有期労働契約を結んだ場合、2017年3月31日を境に雇用を止めることを指します。契約を途中で打ち切るわけではないため、解雇には該当しません。
そして、雇止め法理とは「合理的な理由がない雇止めは無効」というルールです。これまでは裁判の判例上でこのルールが守られてきましたが、改正労働契約法では条文として定められています。
具体的には、以下の2つのうちどちらかに該当する場合は雇止め法理を守らなければなりません。
- ■過去に有期労働契約が反復されており、雇止めが無期労働契約における解雇とほぼ同一
- ■労働者が反復契約を期待する合理的理由がある
上記のいずれかを満たし、労働者を解雇することが社会的に不当であると判断されれば、企業は必ず契約更新をする必要があります。
3.不合理な労働条件の禁止
同じ使用者の下で働いている有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件は、正当な理由がない限り同一でなければならないとする決まりです。これは労働時間や休日に関する狭義の労働条件のみならず、教育訓練や各種手当など、あらゆる労働条件に適用されます。
両者の労働条件に差がある場合、以下の観点を元にそれが正当か否かが判断されます。
- ■職務内容(業務内容や責任の程度)
- ■職務の内容・配置に関する変更の範囲
- ■その他の事情
特に、通勤手当や安全管理、食堂の利用について条件の相違を強いることは、特別な理由がない限りは認められません。
労働契約法改正における注意点
最後に、労働契約法改正における注意点を2つ紹介します。
定年後の再雇用者の特例認定
これまで解説してきたように、同一の使用者の下で通算5年を超えて有期契約労働に従事してきた従業員は、無期労働契約を申請する権利を獲得します。
しかし、これにはいくつかの例外があります。その1つが定年後の再雇用です。使用者が適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けている場合、定年後に再雇用された従業員は無期労働契約を申請できません。
この特例を適用する場合、雇用契約書作成時には以下の点に注意しましょう。
- 対象者を明示する
- 無期転換権を獲得できない従業員を明示する
- 内容を明示する
- 対象の従業員に無期転換権が生じないことを明示する
- 書面に明示する
- 雇用契約書や労働条件通知書に記載する
具体的には、「有期雇用特別措置法により、定年後再雇用される期間においては無期転換権が生じない」などと記載します。
無期転換希望者への対応方針の決定
無期転換希望者が現れた場合、企業が取り得る対応は以下の3つです。
- 希望者全員の無期転換
- 人手不足が深刻な昨今、この方針を採用する企業は多いです。
- 転換回避
- 人件費増大などを避けるために無期転換を防ぐ方針もあります。ただし、雇止め法理が法定化されているため注意が必要です。
- 従業員の選別
- 一定の基準に基づき、無期転換する従業員とそうでない従業員を選別します。
これらの方針のうち、自社がどれを採用するのかをあらかじめ決めておかなければなりません。転換を回避したい場合は以下の方法があります。
- 雇止め
- 雇止め法理に注意しながら契約を5年で打ち切る
- 特例
- 高齢者と高度専門職員にのみ有効
- 合意
- 更新条件として転換権放棄を強いる場合を除き、合意を得られれば雇止め可能
- 積極的な雇用
- 当該法律とは関係なく無期雇用する
積極的に雇用すれば、キャリアアップ助成金などを受けられるため事業主にとってもメリットがあります。
ポイントを押さえて労働契約法をしっかり理解しよう
労働契約法とは、労働者と使用者が対等な立場で労働契約を締結・変更することを目指す法律です。2012年に改正され、以下の内容が追加されました。
- ■無期労働契約への転換
- ■「雇止め法理」の法定化
- ■不合理な労働条件の禁止
また、労働契約法改正について企業は以下の点に注意しましょう。
- ■定年後の再雇用には特例が認められる
- ■無期転換希望者への対応方針は事前に決めておく
以上を踏まえ、法律を守って経営しましょう。