中小企業における採用活動の現状・課題
株式会社リクルートの発表によると、2021年3月卒業予定の大卒求人倍率は1.53倍です。前年の1.83倍より0.3ポイントも低下しています。新型コロナウイルスの影響により、多くの企業が採用人数を減らすことになりました。
従業員規模300人未満の企業でも、求人倍率が大きく低下しています。2020年卒における求人倍率が8.62倍だったのに対し、2021年では3.40倍になっています。
コロナの影響で中小企業が採用人数を減らしたほか、学生が大企業から中小企業へと希望を移したのが要因です。コロナ禍がもたらす不安が、学生たちを早めに内定が出る中小企業へ促しました。したがって、かなりの売り手市場であった2020年卒の採用に比べると、2021年は採用しやすいと言えます。
しかし、それでも中小企業の求人倍率は1倍よりもはるかに高く、採用活動で苦戦を強いられるのは間違いありません。その理由を詳しく見ていきましょう。
参照:第37回 ワークス大卒求人倍率調査(2021年卒)|リクルートワークス研究所
中小企業が採用活動に苦戦する要因
中小企業が採用活動に苦戦する代表的な要因は以下の3つです。
知名度の低さ
求職者が求人に応募する際には、まずその企業のことを知り採用条件を見てエントリーするかどうかを判断します。有名な大手企業であれば、どのような会社かイメージが持ちやすいため応募しやすいでしょう。一方、中小企業の場合は、その会社の事業内容をなかなか知る機会がないので、不利になります。
また、勤務条件よりも会社の認知度を重視する求職者も一定数存在します。このような求職者に自社の魅力を知ってもらうために、中小企業はアピールしていく必要があります。
人手不足
採用活動における人事採用担当者の業務負担は非常に大きくなります。例えば、応募者からの問い合わせ対応以外にも、説明会・面接などの日程調整、出稿している求人広告の打ち合わせなどがあります。
中小企業の場合、大手企業と比較すると採用担当に割ける人数が少ないため、業務が追いつかないことが多々あるでしょう。そのため、応募者への対応が遅くなり、結果として声をかけたときには優秀な人材が他社に流れてしまったということもあるのではないでしょうか。
特に、複数の企業から内定を貰っている人材は内定者に対するフォローが手厚い企業を最終的に選びやすく、対応が後手になってしまうと辞退につながる場合もあります。
予算不足
大企業と中小企業では採用活動に費やせるコストが異なります。株式会社マイナビの調査によると、上場企業では約1,531.8万円、非上場企業では約371.5万円となっており、この採用コストの差が中小企業の悩みの種となっています。
主な採用コストは以下のとおりです。
- 【外部コスト】
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- ■求人広告費
- ■システム使用料
- ■採用サイト・採用ページの制作費
- ■入社案内やリーフレットなどの作成費
- ■書類などの発送料
- 【内部コスト】
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- ■会社説明会や選考会等会場のレンタル料
- ■求職者の交通費
- ■内定後の交通費・飲食費・宿泊費
- ■学校訪問などの交通費
上記の採用コストを積極的に投じられる企業の方が、採用活動で有利なのは間違いありません。中小企業は予算が少ない分、効率的な戦略を立てる必要があります。
参照:新卒採用の予算について|マイナビ
中小企業が採用を成功させるポイント
では、中小企業が採用を成功させるにはどうすれば良いのでしょうか。
1.SNSやWebサイトを利用して知名度を高める
まずは、知名度を高めるためにWebサイトやSNSを活用して、求職者が自社のことを知る機会を増やすことが大切です。現在では、求職者のほとんどがインターネットを通じて求人検索をしたり、企業について調べたりします。
魅力的な企業情報や採用サイトがあれば求職者は応募しやすくなるでしょう。また、近年では、TwitterやInstagramなどを有効活用している企業も増えました。これは新卒採用の対象となる学生など若い世代が多く利用しており、自社を知ってもらえる機会になるからです。それでは、掲載したほうが良い媒体は何があるのでしょうか。
ホームページ(公式サイト)
求職者は、まず間違いなく応募しようとしている企業ホームページの採用ページを確認します。自社のホームページを持っているかどうかは、その際非常に重要になります。求職者は自社がどのような事業をおこなっているのか、規模感はどうか、どのような会社なのかという情報を集めようとします。
自社採用サイト
採用計画として一定人数以上を集めたい場合は、専用の採用サイトを持つことも重要です。ホームページ内の採用ページとは別に採用サイトを持つことによって、専用の導線を作ることができます。また、効率的に応募を受け付けることができます。
Instagram
特に20代の若手を採用したいと考えている企業はInstagramを運用しておくことは強みになるでしょう。メールや応募フォームからでは問い合わせしづらいと感じている20代も、SNSなら比較的抵抗なくやり取りをおこなってくれます。
Twitter
こちらも若年層へのアプローチを行うために重要なツールとなります。Instagramに比べ、文字でのやり取りがメインの媒体となりますので、情報発信のハードルも少し下がります。
また、最近ではLINEを利用した採用活動をおこなっている企業も増えています。LINEでの採用活動に関しては下記の記事でまとめておりますので、そちらもご確認ください。
2.アプローチ方法を工夫する
中小企業が大手の就職サイトに求人広告を出稿しても、他の企業の広告に埋もれ、ほとんど求職者の目に留まらずじまいになることがあります。これではどれほど募集要項が優れていても意味がありません。
そこで、中小企業が求職者と接点を持つ方法として、近年は以下のような方法も採用されるようになりました。
- ダイレクトリクルーティング
- 求職者による応募を待つのではなく、企業側から人材を探す形式です。
- 人材紹介
- エージェントなどから人材の紹介を受けます。
- 中小企業向け合同説明会
- 中小企業が集まり、参加者に説明会を実施します。
- 学内の就職説明会への出展
- 学生に直接魅力を伝えられます。
- リファラル採用
- 自社の従業員から友人・知人などを紹介してもらう形式です。
- SNS採用
- SNSを活用して望ましい人材に直接アプローチします。
- インターンシップ
- 短期的な業務体験を通じ、関心を深めてもらいます。
3.採用エリアを拡大する
地方の学生は関東の求職者に比べて、大企業への志向が少ないと言われています。また、求人倍率が低いために、求職者の内定辞退率が低い傾向もあります。したがって、関東で採用活動に苦戦しているのなら、採用エリアを拡大するのも良いでしょう。
一昔前は、遠方の求職者を採用するのは困難でした。交通費がかかるうえ、日程調整も大変です。もともと採用コストに割り当てられる予算が少ない中小企業が、これらに対応するのは非現実的な場合がありました。
ところが、今ではWeb面接という手段があります。新型コロナウイルスの影響もあり、こうしたオンライン上での就活が一般的になりつつあります。ITシステムを駆使すれば面接以外の採用業務も効率化が見込めるでしょう。
4.ターゲットと採用計画を明確にする
採用活動を効率化するために重要なのは、採用ターゲットを明確にすることです。どのような求職者を採用したいか明確にすることで、自社にマッチした人員を採用しやすくなります。また、そのターゲットに合った採用戦略を実施できるため、無駄を省いて採用プロセスを短縮できるでしょう。
採用ターゲットを決めるときは、自社が求める人物像を明確にします。例えば、新しいアイデアを生み出す人なのか、規則やルールをしっかり守る人なのかなど、経営方針や将来のビジョンもふまえて考えましょう。
5.採用活動開始時期を早める
新卒採用の場合は、就職活動に積極的で優秀な学生ほど早い段階から行動しています。採用活動を開始するタイミングが遅ければ、大手企業はもちろん採用活動の開始時期が早い中小企業にも人材が流れてしまう可能性が高くなります。
知名度が低い中小企業が効果的に採用活動をするためには、出会える求職者の数を増やすことが大切です。そのため、採用スケジュールをできるだけ早くし、自社にマッチした求職者と出会えるチャンスを増やしましょう。
ちなみに、早い学生は前年の夏からインターンシップに参加し始めます。3月に入って採用広報が解禁されると就職情報が出され、3~5月は会社説明会への参加やエントリーシートの記入などが行われます。経団連加盟の大手企業は6月から選考が解禁されますが、4~5月の段階で内定が出ている学生も少なくありません。
こうした流れに乗り遅れないように採用活動を開始する必要があります。
6.内定者のフォローを手厚くする
新卒採用の場合、企業が内定を出してから実際に入社するまでに長い期間があります。学生は初めて社会に出ることになるため、その期間中に不安や悩みを抱えやすく、否定的な考え方を持つケースも多いです。また、早期に内定が出た学生は、就職活動を続けてより条件が良い会社を目指すことも少なくありません。
こうした理由により、内定者に対するフォローが不足すれば、内定を辞退する可能性があります。以下のようなフォローで内定辞退を防ぎましょう。
- 座談会・懇親会
- 社内の多くの人物と接点を持つことで、学生は入社後の姿をイメージしやすくなります。ただし、社員が学生に与える印象が悪いと意欲を下げるリスクもあります。
- 面談
- 座談会・懇親会と違い少人数で行います。大人数の環境よりもお互いを深く理解できるでしょう。
- 研修
- 新しい環境に飛び込む不安を軽減するために、入社前に研修を実施するのも良いでしょう。ただしあまりハードにすると逆効果です。
中小企業における採用の成功事例
続いて、中小企業における採用の成功事例を紹介します。
ある企業は初めての新卒採用に取り組んだ際、母集団形成に苦戦しました。認知度が低いために応募が集まらなかったのです。また、ビジネスモデルが難解で、学生に伝わりづらいのも課題でした。
そこで、人材紹介サービスの利用を決意。さらに、図やイラストを用いたパンフレットで分かりやすく事業を説明し、会社見学も実施しました。結果として、理想的な人材を採用できたと言います。
建設業を営むある企業は、ハローワークで人材を募集していましたが、10年間で応募はほぼ皆無でした。悩んだ同社は地元の求人誌に情報を掲載しましたが、それでも応募はありませんでした。
そこで、新しい方法として無料の採用ツールを活用。するとすぐに応募があり、応募者は非常に熱意ある方だったため、とんとん拍子で採用に至ったと言います。
中小企業の採用を効率化する方法
採用業務に人手を割けない中小企業ほど、採用管理システムを導入し採用業務の効率を高めることが効果的です。
採用管理システムを利用すれば、応募者の情報を一元管理し部署内で共有できます。そのため、応募者からの問い合わせに対応しやすいでしょう。Webサイトと連携させることで、求職者が採用サイト上で説明会や面接の予約を行えるため、日程調整などの手間も不要になります。
さらに人材のデータを分析することで、自社に適しているかどうかの傾向を把握しやすくなります。結果として採用のミスマッチを減らし、入社後の早期退職も防げるでしょう。
採用活動を見直し、中小企業にも優秀な人材の呼び込みを!
中小企業は大企業と比べると採用活動に苦戦する傾向があります。しかし、戦略を練れば効果的に良質な人材を確保できます。
以下のポイントに留意しましょう。
- ■SNSや採用サイトの活用
- ■アプローチ方法の工夫
- ■採用エリアの拡大
- ■ターゲットと採用計画の明確化
- ■採用活動開始の早期化
- ■内定者フォローへの注力
上記を意識し、理想の人材を確保した中小企業の成功事例もあります。例に倣って効果的な施策を実施しましょう。