
業務の属人化とは
属人化とは、業務の進め方や内容などを特定の人しか把握していない状態のことです。属人的な業務が多いと、担当者の退職・異動時に業務が停滞し、品質や生産性の低下を招きます。
属人性の高い業務を放置すると、組織全体の柔軟性が失われ、事業拡大や業務改善の妨げにもなります。そのため、業務の標準化を進め、ノウハウを蓄積・共有する仕組みを整えることが重要です。
属人化とスペシャリストの違い
属人化とスペシャリストの存在は、しばしば混同されがちですが、両者には明確な違いがあります。属人化は特定の業務や知識が一人の従業員に依存する状態を指します。
一方で、スペシャリストは高度な専門知識をもちながらも、ノウハウを周囲と共有し、組織全体の成長に貢献できる人材です。スペシャリストはその専門性を活かして、革新や問題解決の重要な役割をはたしています。
業務が属人化する原因
なぜ、業務の属人化が発生してしまうのでしょうか。属人化する原因を解説します。

業務の専門性が高い
専門性の高い業務は、知識の共有が困難なため属人化しやすい傾向にあります。特に、咄嗟の対応が求められるような業務は、画一的な手順や方法を定めるのが容易ではありません。
一度特定の人物に業務を任せると、同じ人物が継続して担当する場合が多くなるでしょう。結果、特定の担当者だけが専門技術に熟達し、ほかの人は身につける機会が減少します。
業務負担が大きく教育の余裕がない
マニュアル化できない高度な知識や技術を共有するには、従業員の教育が必要です。特に技術継承は、指導する側も受ける側も時間的・体力的余裕がなければなりません。
目の前の担当業務だけで手一杯の状態だと、教育する時間を捻出できないままとなり、属人化に拍車をかけます。属人化を解消するには、まずは業務改善に取り組みましょう。時間的余裕が生まれることで負の連鎖からの脱却が期待できます。
自らの地位や立場を守る意図
業務の属人化は、担当者がいなくなった際に代わりを務められる人物がいないため、企業にとっては問題です。しかし属人化した業務に携わる従業員のなかには、属人化をむしろ歓迎している人もいます。
自分よりも技術や知識に詳しい人がいなければ、ミスの隠蔽行為も可能です。自分の代わりがいないことで自身のポジションを保てると考えるため、担当者にとって好都合と感じる要因となります。
リモートワークによる情報共有不足
リモートワークはメンバーが離れた場所で仕事をするため、コミュニケーション不足が起こりやすい環境です。コミュニケーションが不足すると、必然的に業務の情報共有も少なくなり、属人化を加速させる原因になります。
同じオフィスフロアにいれば、目の届くところに同僚や上司がいて、相談ごとや業務の振り分けなども気軽にできます。しかし、リモートでは相手の状況が見えにくいため自分一人で対応することを選んでしまうでしょう。
属人化による弊害とリスク
属人化は多くの組織で見られる問題で、多くの弊害や問題を抱えています。具体例を交え、属人化による弊害とリスクを深く掘り下げてみましょう。
長時間労働につながりやすい
属人化された業務は、特定の個人に過度な負担が集中し、結果として長時間労働につながることがあります。特定のスキルや知識をもつ個人が業務の全責任を担うため、その人の労働時間が過剰になりがちです。
例えば、特定のシステムを熟知する従業員が、すべての問い合わせやトラブル対応を担うと、業務負荷が集中し長時間労働につながる可能性があります。業務負荷が大きいと、従業員の健康問題やモチベーションの低下を招く可能性もあります。
何をやっているかが不透明になる
特定の個人に業務が依存すると、作業内容や進捗が不透明になり、チームの連携や効率が低下します。
例えば、販売データの分析を一人で担当していると、分析方法やデータの解釈が共有されず、意思決定が属人的になります。また、独自の方法で顧客データを管理している場合、ほかのメンバーが活用しにくくなり、業務の非効率化を招く可能性があります。
ミスやトラブルを見つけられる人がいない
属人化した業務では、限られた人しか内容を把握していないため、ミスやトラブルの発見や対応が遅れることがあります。例えば、システムトラブルが発生しても、担当者が不在だとほかのメンバーが対応できず、解決に時間がかかるでしょう。
さらに、チェック体制が不十分な場合、ミスの発見が遅れるだけでなく、隠蔽されるリスクも高まります。
退職によるダメージが大きい
特定の個人に業務が集中している場合、その人が退職すると業務に大きな穴が開きます。後任者の育成や業務の引き継ぎが困難であり、組織全体の運営に影響を与えることもあるでしょう。
例えば、一人の営業担当が重要なクライアントを管理していると、退職時に情報や関係構築の詳細が失われてしまいます。引き継ぎが困難になり、サービスの質が低下する可能性があります。
工数管理ができない
属人化された業務は工数の見積もりや管理が困難です。業務が特定の個人の経験や判断に依存しているため、正確な工数評価や効率化の取り組みが難しくなります。
どのくらいの作業感でどのくらいの工数が発生するかが不透明だと、もし仮にサボっていたとしても周囲は気づかず、全体的な生産性も低下してしまうでしょう。
業務の成果を評価できる人がいない
特定の個人に依存する業務は、その成果を適切に評価できる人が不足する傾向があります。業務の専門性が高いほど、評価するための知識や経験をもつ人が限られ、公正な評価が難しくなるでしょう。
例えば、ある特殊な技術をもつエンジニアがいる場合、その技術に関する深い理解をもつ人がほかにいないと、そのエンジニアの業務成果の適切な評価が困難になるといったことが考えられます。
サービスの品質担保や改善が難しい
属人化された業務では、サービスの品質を一貫して担保することが難しくなります。なぜなら、特定の個人の知識や経験に依存しているため、サービスの改善やイノベーションが起こりにくい状況にあるからです。
特定の従業員のみが顧客対応のノウハウをもっている場合、その従業員が不在のときにサービスの品質が一貫せず、顧客からの信頼を損なうこともあるでしょう。また、ノウハウの共有がなければ、業務の改善や革新が進まず、競争力の低下にもつながります。
属人化の解消方法
属人化の対になる言葉として「標準化」があります。標準化は誰でも業務が遂行できる状態を指します。業務の標準化ができている組織では、急な欠勤や異動、離職が生じた場合にも問題なく代行や引き継ぎが可能です。ここでは業務標準化や属人化の排除につながる5つの方法を紹介します。

業務責任の分散
特定の人に業務が集中すると、情報が共有されにくくなり、意見も出にくいため、属人化が進みやすくなります。まずは、属人化している業務を洗い出し、責任範囲を明確にしましょう。
そのうえで、可能な限り部下に権限を委譲するか、複数人で業務を担当する体制を整えることが重要です。例えば、長期休暇時の引き継ぎを仕組み化し、ほかの従業員が代行できるよう情報共有を徹底します。これにより、業務の属人化を防ぎ、組織全体の安定性が向上します。
業務プロセスのシンプル化
属人化は、複雑な業務ほど発生しやすい傾向があります。そのため、業務の流れを見直し、簡素化することが解決策の一つです。複雑な業務工程を分解し、省略できる業務はないか見直しましょう。あわせて作業量や難易度に偏りはないかなども確認すれば、従業員の業務負担の均一化にもつながり、業務平準化が期待できます。
業務に使用するツールの数を必要最低限にするのも効果的です。なくても困らないツールは省いたうえで、余計な作業を取り除き、最低限のシンプルな業務フローを構築しましょう。
業務マニュアルの作成
誰が担当しても一定の品質を担保できるように、業務マニュアルを作成しましょう。担当者が不在でも、マニュアルがあれば対応可能な状態にします。マニュアル作成時は、まず業務フローを洗い出し、業務の流れや担当者の役割を可視化します。そのなかで属人化している業務ごとにマニュアルを作成しましょう。
マニュアルを作成する過程で従業員が意見を出し合い、ノウハウが共有されることも属人化の解消に寄与します。
従業員の意識改革
属人化を解消するためには、社内の風通しをよくし連帯感を生み出すことも大切です。企業側は、属人化によるリスクを従業員に周知し、情報共有の重要性を伝えることが求められます。また、ナレッジ共有や業務引き継ぎの取り組みを評価する制度を導入すれば、社員の意識向上につながります。
情報共有の文化が根付いていない場合や、業務が忙しくて共有の時間を確保できない場合は、ITツールの活用を検討するのも一つの方法です。
ITツールの活用
属人化解消には、ITツールの活用も有効です。例えば、タスク管理ツールは業務進捗の管理が簡単にできます。コミュニケーションツールは、リモートワークにおけるメンバー間のスムーズな情報共有を支援するでしょう。ほかにもFAQツールや社内wikiツールなど、属人化解消に役立つITツールは多数存在します。
ITツールに頼らない属人化排除もムリではありませんが、持続するにはかなりの時間と労力が必要です。ITツールを用いて、パワーを注ぐべき業務に集中できる体制を整えると、効率よく属人化解消が進むでしょう。
技術やノウハウの共有を効率化するナレッジマネジメントツールは、以下のボタンより一括資料請求が可能です。
属人化解消にはITツール活用がおすすめ
属人化解消に役立つITツールはさまざまな種類があります。そのなかでも、特にマニュアル作成ツールやナレッジマネジメントシステムの活用がおすすめです。メリットを踏まえつつ各ツールについて解説します。
マニュアル作成ツール
手順書や動画マニュアルなどを簡単に効率よく作成できるのが、マニュアル作成ツールです。テンプレートを利用すればゼロからマニュアルを作成する必要がなく、クオリティも担保されます。実際の手順を繰り返し確認できる動画マニュアルなどは、専門性が高く属人化しやすい業務にも適しているでしょう。
マニュアル作成ツールに興味がある方は、ぜひ以下の記事も参考にしてください。
ナレッジマネジメントツール
属人化した知識やノウハウを組織全体で共有し、業務や事業の円滑化をサポートするのがナレッジマネジメントシステムです。
主な機能は、マニュアルなどのファイル検索機能です。業務で行き詰まった際に、文書内のキーワードなどで検索をかけ、求めている情報に素早くアクセスできます。ほかにもマニュアル作成機能や、従業員同士のコミュニケーション機能など便利な機能があります。
機能についてより知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
ナレッジマネジメントシステムを活用した属人化解消の事例
ナレッジマネジメントシステムを導入して、属人化を解消した企業の事例を紹介します。どのような業務の属人化に悩み、どのようなITツールを活用したのか、製品導入を検討する際の参考にしてください。
個人のナレッジを融合し、開発業務のスマート化を推進
九電テクノシステムズ株式会社の技術開発本部様では、社員のナレッジが共有されず、過去の知見を活かせないため類似案件でも重複作業が発生していました。さらに、以前導入していたナレッジツールは操作が煩雑で、資料検索に時間がかかり、活用率が低いという課題もありました。
そこで、新たなナレッジ管理ツール「Knowledge Explorer」を導入。検索時間が従来の2分から数秒に短縮され、他部署との情報共有がスムーズになったことで、設計時間の短縮や資料の精度向上につながりました。また、PUSH通知機能を活用し、新入社員のレポート作成支援にも貢献。属人化を解消し、ナレッジの有効活用による開発業務の効率化と品質向上を実現しました。
参考:Knowledge Explorerとは?価格や機能・使い方を解説|ITトレンド
必要な情報を迅速に届ける仕組みを構築
日世株式会社様では、事業拡大のために先人の知識・経験を後進に継承する仕組みの構築が課題でした。個人の知識に依存した伝承では非効率なため、過去のナレッジを蓄積し、必要な人に迅速に届けるシステムの導入が求められていました。
そこでナレッジ管理システム「Knowledge Explorer」を導入。企画書作成時に関連資料が瞬時に一覧表示され、これまで活用が難しかった過去の資料もスムーズに検索可能に。さらに、PUSH通知機能により、若手社員が過去の重要資料を認識できる環境を整備し、必要な情報を迅速に届ける仕組みを実現しました。
参考:Knowledge Explorerとは?価格や機能・使い方を解説|ITトレンド
人気のナレッジマネジメントツールを知りたいという方は、以下のボタンから最新ランキングをご覧ください。
属人化を解消する際に気をつけるポイント
属人化の解消は、一度の施策で終わるものではなく、継続的な取り組みが必要です。放置すると新たな属人化が生まれる可能性があるため、PDCAサイクルを回しながら改善を続けることが重要です。
例えば、一度作成したマニュアルも、業務の変化に合わせて更新しなければ形骸化してしまいます。管理者と従業員が協力して定期的に見直すことで、最新の業務フローを維持し、標準化を徹底できます。
まとめ
業務が属人化すると、担当者が急に不在となった際に、業務が停滞するリスクが生じます。ナレッジマネジメントシステムやマニュアル作成ツールなどITシステムを利用することで、リスク対策と知識の共有・標準化が可能です。企業全体のナレッジとして蓄積されたものは財産となり、業績拡大にもつながっていくでしょう。
なお、ナレッジマネジメントシステムの導入に興味がある方には、効率よく情報収集できる一括資料請求がおすすめです。
