属人化とは
属人化とは、業務の進め方が特定の人にしか分からなくなることです。特定の人が長く担当者を務めると、業務が属人化します。
一般的に、属人化は望ましくないものとされています。業務担当者が異動や離職によって職場を離れた場合、代わりに業務を務められる人がいなくなるからです。新たに担当者になった人は何もノウハウがない段階から試行錯誤を重ねなければならず、効率的ではありません。
反対に、マニュアルなどを作って属人化を解消することを標準化と言います。誰でも業務を遂行できる状態であるため、急な異動や離職が生じても心配はありません。
属人化が発生してしまう原因
続いて、業務が属人化する原因を紹介します。
業務が専門的であるため
専門性の高い業務は属人化が生じやすい傾向にあります。マニュアル化によって共有するのが難しいためです。特に、咄嗟の対応が求められるような業務は、画一的な手順や方法を定めるのが困難です。
一度特定の人物に業務を任せるようになると、その後もその人に任せがちです。結果、その人だけが専門技術に熟達し、ほかの人は身につける機会がないまま過ごすことになります。
業務に忙殺されているため
マニュアル化できない高度な知識を共有するには、従業員を教育する必要があります。しかし、その余裕がない職場は多いでしょう。
技術を共有するには、教えられるほどその技術に熟達した人物に時間的・体力的余裕がなければなりません。しかし、技術を教えられる従業員は、その技術を要する業務に忙殺されがちです。
つまり、属人化しているせいで技術を共有する余裕がなくなり、それが属人化に拍車をかけているのです。属人化を解消するには、まずこの負の連鎖から脱却する必要があります。
自らの地位を守るため
業務の属人化は、企業にとっては問題です。現在の担当者がいなくなった際に、代わりを務められる人物がいなくて困るからです。
しかし、これはあくまで企業目線での解釈に過ぎません。属人化している業務に携わっている従業員本人は、むしろその状況を歓迎している可能性があります。なぜなら、自分の代わりがいないということは、自分の地位が安定していることを意味するためです。
また、自分のほかにその技術や知識に詳しい人がいなければ、自分のミスがばれにくいのも彼らにとってメリットです。
属人化のメリット
属人化と聞くと、それだけで解消しなければならない課題のように感じられるかもしれません。しかし、これはすべてのケースに当てはまるわけではありません。
個性を発揮すべき業務での属人化は、むしろメリットをもたらします。たとえば、ほかの人には思いつかない独自のアイデアが、新たな商品やサービスの開発に結びつく事例は多いでしょう。
また、接客業における咄嗟の対応も同様です。求められるのはその場その場に適した対応であるため、マニュアルで完全に統一するのは不可能です。基本的な考え方や理念は共有できますが、それ以上のことは従業員個人に委ねられます。
そのほか、標準化できる業務でも属人化のメリットはあります。属人化とは、その従業員が自分で行う業務を最適化することだからです。代わりが務まる人が1人もいないのは問題ですが、そうでないのなら熟練した人物に任せた方が効率的です。
属人化のデメリット
最初に述べたように、属人化は一般的に解消すべき問題と考えられています。その理由であるデメリットを見ていきましょう。
長期的にみて業務効率が低下しやすい
短期的に見れば、属人化によって業務は効率化します。もっとも熟練した人が担当するからです。ところが、長期的に見ればむしろ業務効率は低下します。
もし、その担当者が出張や病気で不在になれば、その業務が完全に停滞するでしょう。また、急に退職されてしまえばどうしようもありません。また1からノウハウを構築していかなければならなくなります。
業務品質が不安定になりやすい
属人化している業務の詳細は、その担当者にしか分かりません。つまり、その担当者が質の良い業務を行っているのか外部からは判断できないということです。周囲の従業員はもちろん、上司でさえその担当者を評価できません。
また、担当者が不在になってほかの従業員が代わりを務めなくてはいけなくなった場合、適切にできているのか評価できません。どのような状態が「適切にできている状態」なのかさえ分からないからです。
このような状態では問題が発生しても見つけるのが遅れ、発見したときには大幅なやり直しを迫られるリスクがあります。実際に問題が生じる前に属人化を解消して備えましょう。
社内の風通しが悪くなりやすい
業務を行ううえで、社内の風通しの良さは重要な要素です。コミュニケーションが活発であれば、何か問題が起きた際にすぐに気づいて対処できます。また、社内の雰囲気が良いと、従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
ところが、属人化は社内の風通しを悪くします。属人化している業務はほかの人から分からず、意見を言えないからです。その結果、非効率な点やミスが明るみに出るのが遅れるうえ、社内の雰囲気も悪化します。
属人化を解消する方法
属人化にはメリットとデメリットの両方がありますが、一般的にデメリットの方が大きいとされています。そこで、次は属人化の解消方法を見ていきましょう。
仕事の責任を分散する
仕事の責任が特定の人物に集中していると属人化が起きやすくなります。ほかの従業員には権限がなく、その業務に手出しできないからです。
そのため、仕事の責任を分散させると属人化を解消できます。複数人がその業務についての権限・責任を持つことで、特定の人物がいなくなっても問題ない体制を築けます。
ある企業はこの考えを進めて、全社員に毎年一定期間、会社と完全に連絡を絶つ休暇制度を設けました。全社員は毎年1週間以上会社と関わらない休暇を持つことになり、その休暇前に引継ぎを行わなければなりません。
つまり、休みを設けることで強制的に引継ぎの機会を発生させ、属人化を解消しているのです。この事例では、当該の休暇制度により引継ぎ方法が確立され、1つの業務に複数人が責任意識を持てるようになったと言います。
業務の仕組みを簡素化する
属人化は、ある程度複雑な業務でしか発生しません。誰が見ても分かるようなシンプルな業務であれば、特定の人にしか分からない状況は生まれないからです。
したがって、業務の仕組みを簡素化すれば属人化を解消できると考えられます。余計な作業を取り除き、最低限の作業のみで業務フローを構築しましょう。
たとえば、業務に使うツールの数は極力少なくしましょう。複数のツールを上手に使い分けることも大切ですが、属人化を図るのであれば、もっと簡潔な仕組みが理想的です。単一のツールを使い、使用する機能もできるだけ絞ってシンプルな業務フローを目指しましょう。
業務マニュアルを作成する
どの従業員が担当しても一定の品質を担保できるように、業務マニュアルを作成しましょう。たとえ担当者がいなくなっても、マニュアルがあればある程度対応可能な状態にしておくのが理想的です。
マニュアル作成時には1から業務フローを洗い出します。そして、属人化している各業務について個別にマニュアルを作成します。初心者に手取り足取り教えるつもりで作成しましょう。
ただし、読むだけですべてが分かるようなマニュアルを、初めから目指す必要はありません。分かりづらい点をほかの従業員に指摘してもらいながら、ブラッシュアップしていきましょう。
ちなみに、マニュアル作成のメリットは、完成品としてのマニュアルが得られることだけではありません。マニュアルを作成する過程で従業員が意見を出し合い、ノウハウが共有されることも属人化の解消に寄与します。
ナレッジを蓄積・活用する
特定の従業員だけが持つ知識は、そのままでは企業が持つ知識とは言えません。その従業員がいなくなれば失われるうえ、ほかの従業員には活用できないからです。このままでは企業に知識が蓄積されません。
そこで活用したいツールが、ナレッジマネジメントシステムです。これは、従業員が持つ知識を社内で共有するITツールです。
たとえば、マニュアルの検索機能を備えています。業務を遂行するうえで行き詰まったとき、ナレッジマネジメントシステムでマニュアルを検索できます。こうしてすぐに求めている情報にアクセスできれば業務が捗るでしょう。
これが、本当の意味で社内で知識を共有できている状態です。この状態を作れれば業務の属人化も解消されるでしょう。
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属人化を解消する際に気を付けるポイント
属人化の解消は一度実施して終わりではありません。放置していればまたすぐに属人化が進みます。属人化の解消は継続的に取り組むべき課題なのです。
そこで意識すべきなのがPDCAサイクルです。属人化の解消に向けた取り組みを行動に移すだけでなく、そこから反省点を見つけ出し、次につなげましょう。
たとえば、一度完成したマニュアルには注意が必要です。知識がなくても業務を遂行できるように作ったつもりでも、実際には無意識のうちに知識を必要としているかもしれません。業務に精通している人がマニュアルを作るとこのようになりがちです。
これでは、別の人が担当した際に正しく業務をこなせない可能性があります。マニュアルに基づいて多くの従業員に作業をしてもらい、分かりづらい場所などをヒアリングし、解消していきましょう。
業務の属人化を解消し、働きやすい環境整備を!
業務が属人化すると、担当者が急に職場を離れた際に、誰もその業務を担当できないリスクが生じます。以下の取り組みを実施し、属人化を解消しましょう。
- ■1つの仕事に対する責任の分散
- ■業務の簡素化
- ■業務マニュアルの作成
- ■ナレッジマネジメントツールの活用
また、属人化の解消は継続的に取り組むことが大切です。以上を踏まえて働きやすい環境を整えましょう。