「暗黙知」と「形式知」とは
暗黙知は、個人が経験を通じて身に付けた知識やスキルで、言葉や文章では表現しづらいものを指します。例として、長年の経験から培われた職人の技術や、研究者の直感的な洞察などが挙げらます。これらの知識は、他者に情報共有するのが難しく、個人の内面に留まりがちです。
一方、形式知は言語化や文書化が可能な知識のことを指し、マニュアルや手順書、公式なドキュメントなどで他者に共有できます。例えば、操作マニュアルや研究報告書などが形式知に該当します。形式知は共有や伝達が容易で、組織全体の知識として蓄積可能です。
「暗黙知」と「形式知」の違いと相互関係
暗黙知と形式知には、他者への共有のしやすさに明確な違いがあります。暗黙知は個人の経験や知識の中でも、言葉や文章で伝えるのが難しいものです。これに対して形式知は、主観的な知識を文章や図を使って言語化し、他者が理解しやすいようにマニュアルやテキストとして共有されるものです。このような違いがありますが、暗黙知は形式知に変換できます。
では、暗黙知と形式知の相互関係について、より具体的にイメージがつかめるよう車の運転を例に考えてみましょう。
初めて車に乗る際、ハンドルの切り方やブレーキのかけ方などの基本的な操作は口頭やマニュアルで教わります。これは聞いたり読んだりすれば誰でも意味を理解できる「形式知」です。
しかし運転方法を知っても、すぐ運転できるようにはなりません。何度も練習してコツを掴み、最終的には、個人の感覚で運転できるようになります。しかしそれを誰かに教えるのは難しいでしょう。この個人の感覚というのが「暗黙知」です。
暗黙知と形式知は互いに補完的な関係にあります。暗黙知を形式知に転換することで、その知識を組織全体で共有し、活用できるようになります。逆に、形式知を個々の従業員が実践することで、新たな暗黙知を生み出すこともあります。この相互作用により、組織のナレッジマネジメントはより効果的になり、組織の成長や革新につながります。
暗黙知を放置していると起こること
個人が経験を通じて身に付けた知識やスキル(暗黙知)を、個人が活かせているのであれば問題ないのではないかと思う方もいるでしょう。しかし、暗黙知を放置していると企業へのデメリットが生じる可能性があります。ここでは、暗黙知を放置することで発生しうる問題を紹介します。
業務が属人化しやすい
暗黙知が個人に依存したままだと、その人がいないと対応できない業務が発生するリスクがあります。例えば、特定の従業員しか知らない顧客対応のノウハウがある場合、その従業員が不在の時間は問題解決が難しくなる可能性があるでしょう。
企業全体の成長が停滞する
企業において従業員がスキルアップをするためには、従来はひたすら経験を積んだり上司の技術を見て学んでいました。しかし、もし競合企業が暗黙知を形式化し、社員の成長スピードを上げることに成功した場合、従来の手法に囚われている企業は、ついていくことができず取り残されてしまうでしょう。個人のスキルの伸長は企業全体の成長にも影響を与えます。
ナレッジの活用ができなくなる
暗黙知が形式知に変換されないと、重要なナレッジが組織内で活用される機会を逃します。例えば、熟練工の技術や営業職のベテランがもつ交渉術などが後継者に伝承されず、その価値が活用されないまま退職によって失われてしまう可能性があります。
適切な人事評価ができなくなる
暗黙知が個人のなかに閉じ込められると、従業員の貢献度を適切に評価するのが難しくなります。例えば、ある従業員がもつ特殊なスキルや知識が明確に評価されない場合、その従業員のモチベーションや職場全体の公平な評価体系に影響を与える場合もあります。
暗黙知を形式知に変換するメリット
暗黙知を放置することで、属人化や事業停滞などのデメリットが生じます。では、暗黙知を形式知に変換し企業内での知識共有を促進することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは暗黙知を形式知化することの利点について解説します。
業務の質を全体的に向上できる
優秀な従業員の思考や技術を形式知化して共有できれば、従業員全体の業務の質があがります。これは生産性の向上や業務効率化につながり、企業の利益拡大に役立つでしょう。
また、ノウハウや知識がデータベースやナレッジマネジメントツールに蓄積されれば、すべての従業員がいつでもその知識を得られる環境が構築できます。すでに知識をもつベテランの従業員が後輩からの質問に時間を取られることもありません。さらにナレッジも検索しやすくなり、不明点がすぐに解決できます。
属人化を防げる
上述のとおり、暗黙知のまま一定の業務が行われていると、いわゆる「業務の属人化」が発生します。しかしマニュアル化やナレッジ共有ツールなどで暗黙知が形式知化していれば、担当者の急な退職や休みにもほかの従業員が対応できます。
暗黙知の形式知化は、担当者の不在による業務効率の低下を防ぐのはもちろん、将来知識や技術が企業から失われるのを防ぐことにもつながるでしょう。
従業員の教育が迅速に行える
暗黙知をマニュアルやノウハウ動画などに形式知化すると、若手従業員の教育コストを抑え、より迅速に人材育成ができます。近年OJTをサポートするeラーニングが注目されているのもこうした理由からです。研修にかける時間や場所代を抑えられるほか、日程調整など人事担当者の工数削減にもつながります。
これまでは、上司の背中を見て学ぶといった曖昧な教育法で伝授されてきたスキルが可視化され、業務におけるコツや考え方を初期から効率的に学べるでしょう。
暗黙知の形式知化にはナレッジマネジメントが重要
自社内にある暗黙知の形式化を促進するには、ナレッジマネジメントの実施がおすすめです。ナレッジマネジメントは、企業内で生まれる知識を組織的に管理し、活用するプロセスです。暗黙知を形式知に転換し共有することで、企業の知識基盤が強化されます。
例えばナレッジマネジメントによって熟練技術者の技術や経験(暗黙知)を形式知化し、新入社員の教育マテリアルとして活用可能にすることで、企業は組織全体のスキルアップとイノベーションの促進を実現できます。
ナレッジマネジメントを効率的に実施し、メリットを最大限に享受するには、専用ツールの活用が有効です。ナレッジマネジメントツールは社内の知識収集や共有を効率化する機能を豊富に搭載しています。以下でおすすめのナレッジマネジメントツールをランキングで紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
ナレッジマネジメントを効果的に行う方法
ナレッジマネジメントを効果的に実践していくためには「SECI(セキ)」「場(Ba)」「知識資産」「ナレッジリーダーシップ」の4つの基本要素を理解する必要があります。それぞれの基本的要素を詳しく解説します。
暗黙知を形式知に変換するSECI(セキ)モデルを活用する
ナレッジマネジメントは、SECIモデルと呼ばれるフレームワークに沿って実践されるものです。SECIモデルでは共同化・表出化・結合化・内面化の4つのプロセスで暗黙知から形式知へと知識が転換し、さらにまた暗黙知へと変わるというスパイラル構造で考えられています。
- ■共同化
- 暗黙知を暗黙知として伝える段階。経験を共有することで第三者に暗黙知を落とし込み、創造します。
- ■表出化
- 暗黙知から形式知へと変化する段階。暗黙知を共有した後、それを言葉や図などで明確にします。
- ■結合化
- すでにある形式知と形式知を結びつける段階。結合化のプロセスにより、新しい知識が形成されます。このフェーズにより、従業員のもつ潜在的な暗黙知が組織財産として活かされます。
- ■内面化
- 形式知が暗黙知となる段階。形式知が従業員の知識として内面化され、新たな暗黙知へと変化します。そして再び共同化・表出化を繰り返して知識の向上へとつながります。
SECIモデルについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
場(Ba)のデザインを行う
ナレッジマネジメントの「場」とは、組織内で暗黙知や形式知が創造・共有・活用される場所を指します。ナレッジの収集・共有を促進するには、企業内で場を適切にデザインすることが大切です。場にはさまざまな形態があり、休憩スペースや会議室、または社内SNSなどが挙げられます。
暗黙知や形式知の知識に応じた適切な場を設け、SECIモデルの4つのフェーズにあわせた適切な場を作ることが、ナレッジマネジメント成功のポイントになるでしょう。
知識資産として継承する
ナレッジマネジメントを効果的に行うためには、知的資産を継承する以下の仕組み作りが重要です。
- ●企業理念を明確化し組織全体で共有する
- ●知識を提供するための仕組み作りを行う
- ●知識を継承できるような仕組み作りを行う
個人は、自身のもつ知識を共有することに消極的になりがちです。積極的に知識を共有してもらうための仕組みや、評価を可能とする体制の構築が大切でしょう。仕組み作りのためには、データベースやイントラネットを活用してインフラを整備します。
ナレッジリーダーシップで知識ビジョンを作る
ナレッジマネジメントで効果を出すにはナレッジリーダーが役割を認識し、SECIモデルに沿ったマネジメントを行う必要があります。ナレッジリーダーは知識ビジョンを作り、場を作って知識を活性化し、SECIモデルに沿ったプロセスをリードするためのリーダーシップを発揮しなければなりません。
まとめ
知識は企業にとって資産であり成長を続けるために必要なものです。しかし、暗黙知を形式知化を効率的に実施するのは、人力だけでは厳しい面もあります。そこでナレッジマネジメントツールを活用し、効率的に暗黙知を形式知化するのがおすすめです。自社の社内知識の収集・共有に課題を感じている企業は、この機会にナレッジマネジメントツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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