フレックスタイム制とは
フレックスタイム制は労働基準法改正により、1988年から導入されました。一定期間で定められた総労働時間内で始業・就業時間を労働者が決められる制度です。例えば「通勤ラッシュを避けて出社したい」など、従業員の希望に合わせた勤務ができます。
またフレックスタイム制にはコアタイムとフレキシブルタイムが設定されています。フレキシブルタイムとコアタイムの両方を組み合わせて取り入れている場合が多いです。
コアタイム
コアタイムは、1日の中で必ず出勤しなければならない時間帯を定めています。この時間帯は、企業と社員との間で結ばれる協定のもとに自由に設定可能です。例えば企業が10時~15時とした場合は、この5時間は必ず働かなければなりません。しかしそれ以外の時間は自由です。
参考:
フレックスタイム制の適正な導入のためです。|厚生労働省
フレキシブルタイム
労働者が自分の裁量で決められる時間帯のことです。定められたフレキシブルタイムの中から、働くべき時間を決めます。例えば6時~10時、16時~20時に設定されている場合は6時~10時の間でいつでも出勤が可能です。
フレックスタイム制は普及していない?
厚労省の調査によると、従業員1000人以上の企業でフレックスタイム制の普及率を調べたところ、平成17年は32.5%でしたが、令和2年度の時点で16.7%と減少傾向にあることがわかりました。このことはフレックスタイム制にデメリットがあることが影響しているでしょう。
参考:
厚生労働省
フレックスタイム制のデメリットは?
近年、柔軟な働き方の実現が図られています。フレックスタイム制もその中で注目されている概念であり、導入している企業も少なくありません。しかし、出退勤時刻の自由さゆえにデメリットが生じることもあります。代表的なデメリットを5つ見ていきましょう。
1.社員個人の生産性低下を招くおそれがある
人間は自由であるほうが元気に活動できると、多くの人が信じています。たしかに、窮屈な檻の中に閉じ込められているより、さまざまなことを自分で意思決定できるほうが、健康的に感じられるかもしれません。
しかし、あまりに自由だと生産性が低下することがあります。フレックスタイム制は、自分で自分をコントロールできる人にはよいですが、そうでない人は生活からメリハリが失われかねません。自己管理が苦手な人にとっては、ある程度外部から枠組みを与えられるほうが、規律をもって働けるのです。
2.社内での連携が取れなくなるおそれがある
フレックスタイム制を導入すると、社員が一堂に会する機会が大幅に減少します。その結果、情報共有が滞る可能性があります。
たとえば、午前10時までにチェックしてほしい書類があったとしましょう。しかし、チェックするスタッフが10時以降に出勤するようではとても間に合いません。メールなどで送って早めに見てもらう手もありますが、それではフレックスタイム制の自由度が損なわれます。
また、急な仕事が発生した際も大変です。担当者が不在であれば別の人が代理で担当しなければなりませんが、そうすると代理をした人の業務に遅延が生じるかもしれません。このような状況がたびたび発生すれば、社員はストレスを抱えるでしょう。
個人の自由度と集団としての連携性はトレードオフの関係にあります。一方を優先すれば、必ずもう一方が損なわれることを把握しておかなければなりません。
3.適切な顧客対応ができなくなるおそれがある
フレックスタイム制は社員個人にとっては自由で快適な働き方かもしれません。しかし、あくまで働く側の都合であり、顧客には関係のないことです。したがって、フレックスタイム制による担当者不在などが続けば、顧客満足度が低下するおそれがあります。
また、取引先などの協力企業と連携する際も支障が生じることがあります。協力企業がフレックスタイム制などの柔軟な働き方に理解があるとは限りません。仮に理解があったとしても、こちらの時間に合わせてもらうのは非現実的です。だからといってこちらが協力企業に合わせれば、結果的に元の就業時間と変わらず、フレックスタイム制は形骸化するでしょう。
4.光熱費などの経費が増える
大抵の場合、コストはまとめたほうが安くなります。たとえば、オンデマンドサービスは月単位ではなく年単位で契約するほうが安いケースがあります。また、1人ひとりが個別にアパートの部屋を借りるよりも、複数人で同居したほうが家賃は安く済むはずです。
企業がビジネスを営む際に発生する光熱費などの経費も同様です。フレックスタイム制では各々の出退勤時刻が異なるため、結果的に照明や空調などの総使用時間が長くなります。使う人数が同じであるにもかかわらずコストが増えるのはもったいないことです。特に、中小企業にとっては大きな負担となることがあります。
5.勤怠管理が煩雑になる
従来のように、出退勤時刻が固定されている就業スタイルでは勤怠管理が簡単でした。たとえば、定時を超えれば自動的に残業に切り替わります。毎日同じアルゴリズムで管理すればよいため、機械化も容易でした。
一方、フレックスタイム制では勤怠管理が煩雑になります。そもそも定時が決まっていないため、何時以降が残業になるのか判断が困難です。勤怠管理システムを新しいものに刷新しなければならないこともあります。
フレックスタイム制のメリットは?
先述のように、フレックスタイム制には多くのデメリットがあります。それにもかかわらず導入が進められているのは、メリットも大きいからです。
代表的なメリットを見ていきましょう。
ワークライフバランスの改善
これは企業ではなく社員にとってのメリットです。仕事だけでなくプライベートの時間も充実させることで幸福度が向上します。ただし、これによって社員のストレスが軽減し、生産性の向上や離職率の低下といった効果が得られれば、企業にとってもメリットになります。
仕事の効率化
業務や業界によっては、仕事の量が大きく変動することがあります。仕事の量が変われば、業務の遂行に必要な労働時間も変わるでしょう。そこで、フレックスタイム制であれば必要に応じて労働時間を増減できるため、残業が発生しづらく、コストの無駄がなくなります。
フレックスタイム制導入にあたって注意点
フレックスタイム制は、始業時刻と終業時刻を労働者にゆだねる制度であるため、両方の時刻を固定する、またはどちらか一方の固定ができません。仮に午前11時~午後3時とされている労働者に対して、毎朝9時のミーティングの命令ができないため注意しましょう。
また法廷労働時間を超えて労働させたい場合は、36協定を締結しましょう。フレックスタイム制が適用される場合も締結が必要です。
フレックスタイム制の導入で失敗しないためのポイントは?
フレックスタイム制のメリットを活かしつつ、デメリットを抑えるにはどうすればよいのでしょうか。
コアタイムを設ける
フレックスタイム制を、とにかく出退勤時刻を自由に決められる制度と捉えている人も多いでしょう。しかし、完全に自由にする必要はありません。特定の時間帯は必ず働くようにし、それ以外の時間帯は各人が自由に決めてよいといった、一定の制限を設けている企業も多いです。
必ず働く時間帯をコアタイム、社員が自由に決められる時間帯をフレキシブルタイムと呼びます。多くの場合、コアタイムは午前10時〜午後3時あたりに定められます。社員間での連携が必要な業務はコアタイムに行い、個人で行う作業はフレキシブルタイムを割り当てることで、円滑に業務が進むでしょう。
ちなみに、コアタイムなしのフレックスタイム制は「フルフレックス」「スーパーフレックス」などと呼ばれることもあります。大変自由度の高い制度ですが、前述したデメリットも顕著に現れるため、導入できる業種や業界は限られるでしょう。
適用範囲を明確にする
フレックスタイム制は、業界・業種によって向き・不向きがあります。たとえば、個人で作業する時間が長いエンジニアやデザイナーなどはフレックスタイム制が適しています。一方、法人営業などコミュニケーションが主体となる業務には、フレックスタイム制は向いていません。したがって、向き不向きを踏まえて適用範囲を明確にすることが大切です。ビジネスに支障が生じない範囲内でのみフレックスタイム制を導入しましょう。
ただし、フレックスタイム制の対象とならなかった社員にはフォローが必要です。なぜ対象とならなかったのか、もしフレックスタイム制を導入したらどのような不都合が生じるのかなどを説明し、納得してもらいましょう。
制度の管理がしやすい勤怠管理システムを使う
画一的な勤怠管理が難しいフレックスタイム制では、Excelなどを用いた手動での管理は大変でしょう。そこでおすすめなのが、フレックスタイム制に対応した勤怠管理システムの導入です。
近年の勤怠管理システムには、最初からフレックスタイム制への対応機能を備えた製品も少なくありません。労働時間の計算から残業代の算出まで、必要事項を入力すれば自動的に結果を出してくれます。そのほか、有給休暇の取得状況管理や、ICカード・生体認証を用いた打刻システムなど、柔軟な働き方を支援する機能が豊富に存在します。
勤怠管理システムの導入にはコストがかかるため、躊躇する人も多いでしょう。しかし、これによって柔軟な働き方や勤怠管理の効率化が実現すれば、コスト以上のメリットが返ってくるかもしれません。自社の場合はどの程度のメリットが得られそうなのか検討したうえで、勤怠管理システムの導入を考えてみましょう。
フレックスタイム制のデメリットを知り、導入を検討しよう
フレックスタイム制には以下のデメリットがあります。
- 社員個人の生産性低下を招く
- 社内での連携が取れなくなる
- 適切な顧客対応ができなくなる
- 光熱費などの経費が増える
- 勤怠管理が煩雑になる
上記のデメリットを取り除くには、以下の工夫を施しましょう。
- コアタイムを設ける
- 適用範囲を明確にする
- フレックスタイム制に対応した勤怠管理を導入する
この機会に導入を検討してはいかがでしょうか。