医療機関における勤怠管理の課題
医療機関特有の勤務形態や緊急対応などが障壁となり、適切な勤怠管理が実施できていないと悩むクリニックや病院は多いでしょう。ここでは医療機関における勤怠管理の課題とその原因について解説します。
客観的かつ正確な労働時間の把握が困難
医療機関ではさまざまな職種の人が勤務しています。日勤・夜勤・準夜勤・日直・宿直など、勤務形態や就業時間が異なるため勤怠管理は複雑化します。そのため柔軟に対応できる勤怠管理方法として、手書き日報やタイムカードを採用する病院は少なくありません。
しかし自己申告制の日報やタイムカードでは、正確な労働時間の把握は不可能です。勤務状況をリアルタイムで確認することが難しいため、過重労働の早期発見も困難でしょう。また日報やタイムカードを回収する手間に加え、勤怠時間の集計や給与計算に多大な労力を必要とします。
様式9やシフト作成の負担が大きい
医療機関の収入源となる診療報酬の要件を満たすように、人員配置しなければなりません。加えて宿直は週1回のみ、退勤から次の出勤まで一定の休息時間(勤務間インターバル)を設けるなどのルールがあるため、シフト作成には時間がかかるでしょう。
入院設備を備えたクリニックや病院では、様式9(入院基本料等の施設基準に係る届出書添付書類 )の提出が必須です。病棟で勤務した看護師の勤怠を正確に記録したうえで、その数や勤務時間を計算しなければならないため、作成には工数を要します。
参考:医療法に基づく人員配置標準について 資料2|厚生労働省
参考:医師の勤務間インターバルと代償休息について|厚生労働省
医療の2024年問題とは
2019年働き方改革関連法の改正により、年次有給休暇の取得義務化や、時間外労働の罰則化などが順次適用されました。しかし、医療業界においては過重労働が常態化していたため、5年の猶予が与えられました。2024年4月スタートの「医師の働き方改革」の概要は次のとおりです。
- ※適用される時間外労働の上限時間は医療機関の水準によって異なります
- ●勤務医の時間外労働の年間上限は、原則960時間とする(A水準:一般的な医療機関)
- ●都道府県の指定を受けた特定労務管理対象機関は、年間上限を1860時間とする
(B水準:救急医療機関、C水準:研修を行う医療機関)
- ●時間外・休日労働時間が月100時間以上になると見込まれる医師全員に対し、面接指導の義務付け(A・B・C水準すべてに該当)
- ●連続勤務時間制限と勤務間インターバルの確保(A水準においては努力義務だがB・C水準では義務化)
この法改正に対応するためには、手書きによる勤怠管理を廃止し、システムを用いた客観的な勤怠状況の記録が求められます。労働状況をタイムリーに把握することで、時間外労働の管理がスムーズになるでしょう。なお、医師の働き方改革の対象となるのは勤務医であり、事業主である開業医は該当しません。
参考:「医師の働き方改革」.jp|厚生労働省
参考:医師の勤務間インターバルの仕組みについて|厚生労働省
医療機関向け勤怠管理システムの種類
医師の働き方改革や医療機関ならではの勤怠管理の課題を解決するためには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。医療機関の規模や改善したい課題によって、適したシステムは異なります。ここでは勤怠管理システムを2つに大別し、それぞれの特徴や違いについて解説します。
クリニック向け(汎用型)
開業医が運営するクリニックの場合、看護師や一般職員の労働時間の把握、有給休暇の取得などは必須ですが、医師の働き方改革への対応は必須ではありません。また無床クリニックであれば、様式9の作成なども必要ないため、医療機関に特化した勤怠管理システムでなくても大きな支障はないでしょう。
特にタイムカードでの勤怠管理による集計やチェック工数の削減が導入目的の場合、一般的な勤怠管理システムでも十分に役目を果たせます。勤怠情報の集計機能により、残業時間や実働時間、総労働時間などをリアルタイムで確認できます。集計が自動化するため計算ミスを防ぎ工数削減なども実現するでしょう。有休管理機能を搭載した製品も多く、年5日の有給休暇取得をサポートします。
病院向け(特化型)
病院の場合、クリニックと比べて病床数が増え、医師や看護師の数も圧倒的に多くなります。24時間体制で患者に対応するため、医師の働き方改革に対応した機能が必要になるほか、様式9への対応が求められるでしょう。
そのため、医療機関向けに開発された特化型の勤怠管理システムを導入するのが望ましいです。特化型システムには、長時間労働を防止するアラート機能や、不正打刻や打刻漏れを回避する打刻機能、様式9出力機能などが備わっています。
医療機関向け勤怠管理システムの選び方
クリニックや病院向けの勤怠管理システムを選ぶ際のポイントを紹介します。製品によって搭載機能は異なるため、解決したい課題に優先順位をつけたうえで比較検討するようにしましょう。
勤務間インターバルや長時間労働へのアラート機能
医師の働き方改革により、B・C水準の医療機関においては勤務間インターバルの取得が義務化しました。そのため、勤務間インターバルを表示したりインターバル時間の不足を警告したりする機能があると便利です。
同様に、医師の過重労働を防ぐためにも、時間外労働の上限設定とアラート表示できる勤怠管理システムが望ましいでしょう。
自己研鑽や代償休息時間への対応
医師の労働時間を正確に把握するためには、宿日直や自己研鑽の時間も管理する必要があります。実働時間と自己研鑽時間、待機時間などを区別して管理できる勤怠管理システムだと、医師の実態に即した勤怠管理が可能になるでしょう。
また緊急業務により連続勤務時間制限を超過した、もしくは勤務間インターバルの確保が困難だった場合には、代償休息時間を付与しなければなりません。勤怠情報をもとに、必要な代償休息時間を算出する勤怠管理システムなどを利用すると効率がよいでしょう。
複数デバイスでの打刻機能
勤怠管理システムの打刻方法は種類が豊富です。ICカードや指紋認証を用いたタイムレコーダー打刻、Web打刻やスマホアプリ打刻、顔認証打刻などさまざまな手段をもつため、各職種や勤務形態に適した打刻方法を選択できます。多忙な医師向けに、ビーコンを活用した打刻不要の勤怠管理システムなども登場しています。
ほかにも打刻時にGPSによる位置情報取得が可能なものであれば、訪問看護先でも打刻でき不正打刻を防げるでしょう。医師の副業先の勤怠管理にも有用です。
シフトや様式9の作成機能
医療業界特化型の勤怠管理システムのなかには、常勤換算表や様式9、シフトの作成支援機能を備えたものもあります。
様式9に対応した勤怠管理システムの場合、勤怠情報から様式9作成に必要なデータを抽出したり、研修時間を勤務時間から控除したりする機能が備わっており、計算ミス防止や作成時間の大幅削減に寄与するでしょう。
人員配置基準や勤務表作成基準を踏まえ、スタッフの希望やスキルも考慮したうえでシフト表を自動作成できる製品もあります。
システム連携性
クリニック・病院における既存のシステム、特に給与計算システムや電子カルテとの連携が可能かを確認しておきましょう。データ入力やチェックの手間を大幅に削減し、業務効率化を後押しします。
操作性やベンダーのサポート体制
クリニックや病院はいうまでもなく多忙です。そのため医師や看護師、スタッフにとってわかりやすいシステムを選びましょう。勤怠管理システムのなかには、期間限定の無料トライアルが用意された製品もあります。実際に現場の職員が利用して、誰でも簡単に活用できるか、運用しやすいかを確認しましょう。操作方法や活用方法などのレクチャーに対応したベンダーだと安心です。
また勤務形態や就業ルールが複雑になると、それだけ勤怠管理システムの設定も手間がかかります。勤怠管理は給与計算やコンプライアンスにも大きな影響を与えるため、十分な設定支援が受けられるか事前に確認しておきましょう。
【比較表】クリニック・病院向けおすすめ勤怠管理システム
クリニックや病院などの医療機関で導入されているおすすめの勤怠管理システムや、業界に特化した製品を紹介します。実際に製品を導入したユーザーの口コミも紹介しているため、ぜひ機能性や操作性に関する忌憚のない意見も参考にしてください。
なお、まずは人気の勤怠管理システムや最近の人気傾向を知りたい、という方は最新のランキングも参考にしてください。 過去30日間で問い合わせが多かった勤怠管理システムを紹介しています。
クリニック向けの勤怠管理システム
クリニックでの導入実績をもつ勤怠管理システムをピックアップしました。気になる製品は資料請求リストに追加し、じっくり比較検討することをおすすめします。
《ジョブカン勤怠管理》のPOINT
- 基本プラン無料!2010年のサービス開始以来、値上げなし!
- ジョブカン給与計算や他シリーズ連携でさらに効率化!
- 導入実績100,000社以上! あらゆる業界、企業規模に対応可能!
ITトレンド年間ランキング2023(勤怠管理システム・就業管理システム)1位
株式会社DONUTSが提供する「ジョブカン勤怠管理」は、モバイル打刻に加えてGPS機能を利用しての打刻も可能なため、訪問介護先など出先でも出退勤の記録を行えます。また曜日ごとに配置したい人員数とシフトパターンを設定すれば、希望するシフトを自動作成できます。シフト申請や確認もスマホで行え、大幅な時間削減につながるでしょう。
提供形態 |
クラウド / SaaS / ASP |
サポート体制 |
電話・メール・チャット |
参考価格 |
月額200円~/人 無料プランあり |
無料トライアル |
◯(30日間) |
打刻の種類 |
ICカード/LINE/Slack/マイページ打刻(PC・タブレット)/モバイルGPS/指静脈認証/クリック打刻 |
改善してほしい点
医療
250名以上 500名未満
《タッチオンタイム》のPOINT
- 勤怠管理システム シェアNo.1 / 利用者数370万人突破!
- 働き方改革で義務化となる 有給休暇、残業時間の管理ができる!
- 初期費用0円、300円 /人の従量課金制で導入しやすい
ITトレンド年間ランキング2023(勤怠管理システム・就業管理システム)2位
株式会社デジジャパンが提供する「タッチオンタイム」は、病院やクリニックでの導入事例も多数あり、日勤・夜勤や3交替勤務などさまざまな勤務形態に対応できます。残業時間集計の自動化や超過アラート機能は、長時間労働の回避にも役立つでしょう。
提供形態 |
クラウド / SaaS / ASP / サービス |
サポート体制 |
オンラインヘルプ・電話 |
参考価格 |
月額300円/人 |
無料トライアル |
◯(30日間) |
打刻の種類 |
Touch On Timeレコーダー(指紋認証・ICカード認証・パスワード認証が可能)/静脈認証/指紋+静脈認証/ICカード認証/携帯電話・スマホ認証(GPS)/Webページ認証など |
《ハーモス勤怠 by IEYASU》のPOINT
- 無料から使える勤怠管理システム!価格で比べてみてください。
- 5万社以上が利用/評価ランキング第1位!
- 完全スマホ対応で、誰でもカンタンに使いこなせます。
IEYASU株式会社が提供する「ハーモス勤怠 by IEYASU」は、夜勤や宿直など、病院独自の勤務形態にも対応可能です。勤怠状況をグラフでわかりやすく可視化しリアルタイムに把握できるため、過重労働への対策としても有効でしょう。スマホアプリにも対応しており、打刻・届出申請・給与明細の確認などが可能です。
提供形態 |
クラウド / SaaS / ASP |
サポート体制 |
問い合わせフォーム |
参考価格 |
月額100円/人 無料プランあり |
無料トライアル |
〇(1か月) |
打刻の種類 |
PC/スマホ/ICカード/Slack/LINE /ICカード/LINE WORKS/QRコード |
《ジンジャー勤怠》のPOINT
- ジンジャー勤怠は法改正に自動で対応!
- 人事部の業務負荷改善や現場の打刻漏れも解決!
- 月末月初に発生しやすい抜け漏れへの対応工数&ストレスを解消!
jinjer株式会社が提供している「ジンジャー勤怠」は、スマホアプリやタブレットに対応し簡便な操作性を重視した勤怠管理システムです。設定した労働時間でのアラート機能など、医療機関の時間外労働の上限規制遵守に役立つ機能を搭載しています。シフトパターンは無制限で登録可能です。さらにアラート機能も超過時間の把握だけでなく、打刻漏れや連続勤務なども通知できます。
提供形態 |
クラウド / SaaS / ASP |
サポート体制 |
電話・メール・チャット |
参考価格 |
月額400円~/人 |
無料トライアル |
◯(1か月) |
打刻の種類 |
マイページ/タブレット/スマホアプリでの打刻(GPS機能含む)/ICカード/Chatwork・Slackなど |
改善してほしい点
医療
1,000名以上 5,000名未満
《CAERU勤怠》のPOINT
- 就業規則・給与規定などを詳細に設定可能
- マスター登録・CSVインポートによる簡単シフト管理
- ICカードタイムレコーダは無料でレンタル
株式会社ITZが提供する「かえる勤怠管理」は医療機関に特化したシステムが用意されています。AIによる予実管理機能や、往診・訪問介護時の弁当手配機能などが特徴的な製品です。そのほか、タイムレコーダーの無料レンタルを行っており、拠点ごとの定額課金制のためコストを抑えた導入・運用が可能です。
提供形態 |
クラウド / SaaS / ASP |
サポート体制 |
電話・メール |
参考価格 |
P‐Shift:月額5,000円/拠点 CAERU AI:月額7,500円/拠点 |
無料トライアル |
◯(30日間) |
打刻の種類 |
ICカード/モバイル端末(GPS機能含む)/FAX-OCR打刻 |
改善してほしい点
その他
250名以上 500名未満
より多くの勤怠管理システムを比較検討したい場合には、以下の記事もぜひ参考にしてください。
病院向けの勤怠管理システム
病院での利用に適した勤怠管理システムを紹介します。医師の働き方改革に対応した製品もあるので、ぜひ比較検討に役立ててください。
TimeWorks
株式会社WorkVision (FUYO LEAS GROUP)
《TimeWorks》のPOINT
- 累計2,000社以上(250名から45,000名規模)の導入実績
- 複雑な就業規則に標準対応できる設定機能と各種オプション機能
- ノウハウと経験を駆使した導入支援、サポートメニューが充実!
「TimeWorks」は株式会社WorkVision (旧社名:東芝ソリューション販売株式会社)が提供しており、医療テンプレートを用いた構築により、短期間でのシステム導入が実現します。医療機関向けの基本機能をもとに、オリジナル機能の追加も可能です。また、連続勤務時間制限や勤務間インターバル、代償休息などにも対応しているため、医師の働き方改革を遵守した運用もしやすいでしょう。
提供形態 |
オンプレミス / クラウド / SaaS |
サポート体制 |
ー |
参考価格 |
ー |
無料トライアル |
ー |
打刻の種類 |
Web/スマホ(GPS機能含む)/ICカード/静脈認証/パソコンログなど |
※"ー"の情報はITトレンド編集部で確認できなかった項目です。詳細は各企業にお問い合わせください。
改善してほしい点
医療
1,000名以上 5,000名未満
《TimePro-VG》のPOINT
- やるべきことをシステムが通知「クリックだけで業務が完了」
- 収集した勤怠データから労務リスクを警報「違反を未然に防止」
- 初めてのシステム導入も安心「専任SEが導入~運用までサポート」
「TimePro-VG」はアマノ株式会社が提供しており、大規模な病院での導入実績が豊富な勤怠管理システムです。安全衛生労働法や医師の働き方改革に対応しています。就業保守限定サービスでは、法律上の解釈や就業規則作成の相談も行っています。長時間労働をはじめ、社内規則や法令などルール違反発生前のアラートにより、労務リスクの防止につながるでしょう。
提供形態 |
オンプレミス / クラウド / パッケージソフト / SaaS / ASP |
サポート体制 |
専用サポートダイヤル・担当SE対応 |
参考価格 |
ー |
無料トライアル |
ー※無料デモあり |
打刻の種類 |
スマホ/パソコン/パソコンログなど |
※"ー"の情報はITトレンド編集部で確認できなかった項目です。詳細は各企業にお問い合わせください。
改善してほしい点
医療
750名以上 1,000名未満
CWS就業管理システム
インフォコム株式会社が提供する「CWS就業管理システム」は医療機関向けに作られており、交替制勤務などの医療機関特有の勤務形態に対応しています。電子カルテやオーダリングシステムの端末に相乗り・連携が可能です。職員情報データベースとしての活用もできます。
勤怠管理パック
株式会社リコー提供の「勤怠管理パック」は、勤怠管理のほか、シフト作成・給与計算・労働時間管理・関連帳票作成などの機能からなる業務改善ソリューションです。各業界に特化した製品があり、看護師の勤務計画や様式9の作成に対応した医療業界向けパッケージも用意されています。参考価格(1拠点・100名の場合)3,498,000円。
Vicsell 病院向け勤怠管理Ⅱ
株式会社SCP.SOFT提供の「Vicsell 病院向け勤怠管理Ⅱ」は、シフトや様式9の作成にも対応した勤怠管理システムです。給与計算ソフトとの連携が可能です。ほかにも電子カルテとのデータ連携や研修管理など、医療向けに特化したさまざまなオプションを提供しています。
Dr.JOY
Dr.JOY株式会社が提供する「Dr.JOY」は、医師の打刻忘れ防止に有効な勤怠管理システムです。院内にビーコン受信機を設置し、医師はビーコン発信機を身につけ勤務するだけで、適宜打刻が行われます。副業先の労務管理や勤務間インターバル・連続勤務時間制限などに対応した機能も搭載しています。
OLude
株式会社東計電算が提供する「OLude」は、医療業界向けのシフト・勤怠管理システムです。医師の働き方改革対応機能として自己研鑽時間やインターバル時間、代償休息時間などを表示するほか、医師の副業先の勤怠管理も可能です。シフト作成や常勤換算表作成機能も備えています。初期費用と月額費用が必要(詳細は要問い合わせ)です。
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医療機関向け勤怠管理システムで課題を解決しよう
多様な勤務形態の職員が在籍している医療機関では、勤怠管理が複雑になりがちです。医療機関向け勤怠管理システムを導入すれば、勤務状況をリアルタイムで把握でき、客観的かつ正確な労働時間の管理につながるでしょう。また、医師の働き方改革にもスムーズに対応可能です。そのほかシフトや様式9の自動作成機能を搭載した製品もあるので、さまざまな製品を比較して自院の課題や導入目的に適したものを導入しましょう。