労働安全衛生法とは?わかりやすく解説
労働安全衛生法とはどのような法律でしょうか。概要と制定された背景についてわかりやすく解説します。
労働者の安全確保や健康増進を形成するための法律
1972年に制定された労働安全衛生法とは、労働者の健康や安全の確保・快適な職場環境の構築を目的とした法律です。労働者が快適な環境で働けるように、労働災害防止基準や労働意欲の増進などについて定めています。労働者の安全と健康を守るのが目的なため、改正されることの多い法律です。
高度経済成長期に多発した労働災害を減らすために設立された
労働安全衛生法が制定された背景として、高度経済成長期に多発した労働災害が挙げられます。
高度経済成長期、企業の生産性を高めるために数多くの設備投資がなされ、現場の働き方も労働集約型にシフトしていきました。その結果、不慣れな機械を扱う従業員が増えて毎年6,000人の死亡者を出し、社会問題に発展しました。
このような労働災害を防止するために制定されたのが、労働安全衛生法です。施行されてから、10年ほどで労災件数が半分程度に減りました。
労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則との違い
労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則は、それぞれ労働者の健康や安全を守るためのものです。しかし、労働安全衛生法とは法的拘束力に違いがあります。
労働安全衛生法施行令は、憲法をベースに国会で制定された法律をもとに内閣がルールを定めた「政令」です。そのため法律として上位に位置する労働安全衛生法ほど、法的拘束力が強くありません。これは、法律をもとに行政省庁がルールを定めた「省令」にあたる労働安全衛生規則も同様です。
したがって、事業者は労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則を、労働安全衛生法と同様に遵守する必要があります。
労働安全衛生法の対象者
労働安全衛生法は、労働者と事業者を対象にしています。
事業者とは、事業を営み労働者を雇う人のことで、従業員を雇うほぼすべての企業法人や個人が含まれます。
対して労働者とは、労働を対価に事業者から賃金を支払われる人のことです。ただし、同居している親族のみ雇用している事業者のもとで働く労働者や、個人の家庭における家族から指揮命令を受けて働く家政婦などの「家事使用人」は含まれません。
労働安全衛生法に基づき、事業者が実施すべき内容
労働安全衛生法の内容をもとに、事業者にとって重要な内容をとりあげてわかりやすく解説します。
安全管理者や衛生管理者などの専任
労働安全衛生法では、一定の従業員数や業種に該当する企業に対し、安全衛生の中心となる以下のような管理者を置くことを定めています。
- 総括安全衛生管理者
- 安全管理者
- 衛生管理者
- 産業医
- 作業主任者
- 統括安全衛生責任者
- 安全衛生推進者(衛生推進者)
たとえば、常時50人以上の労働者を雇う事業所は、職場衛生に関する技術的な管理を担う「衛生管理者」と、労働者の健康管理を担う「産業医」の配置が必要です。
配置の条件は組織ごとに異なるため、事前に確認しておきましょう。
安全委員会や衛生委員会の設置
業種や労働者数に応じて、労働者の意見を反映させる安全委員会や衛生委員会・安全衛生委員会を設置する必要があります。
安全委員会は、職場の安全確保や労働災害被害の防止が目的の組織です。常時雇用する労働者数が50人以上で、かつ化学工業などの特定業種に設置義務があります。
衛生委員会は、労働者の健康被害防止が目的の組織です。常時雇用する労働者数が50人以上の事業所に設置義務があります。
安全衛生委員会は、安全委員会と衛生委員会を組み合わせた組織です。安全委員会と衛生委員会の設置が必要になったときに、ひとつにまとめた組織として代わりに設置できます。
安全衛生教育の実施
安全衛生教育とは、労働者が安全に職務を全うできるように教育することです。
労働安全衛生法では、労働者を新しく雇用したときや、労働者の業務内容を変更したときなどに、事業者が労働者の健康と安全を守るための教育を実施するように義務付けられています。
安全衛生教育には、設備メンテナンスなど職場環境の安全確保を目的とした「物的」な対策と、労働者の業務スキルを向上させるマニュアル作成などの「人的」な対策があります。
安全衛生教育に必要な資格や技能講習は多岐に渡るため、事前にどのような内容があるのか確認しましょう。
労働災害の防止措置
事業者は、労働災害が発生しないよう設備・器具に対する危険防止措置や、放射線・高温などに対する健康被害の防止措置を講じなければなりません。労働者の健康と安全を守る防止措置を怠った場合は、法律違反となり罰則が適用されます。ただし、事業者が講じた防止措置を労働者が適切に守らなかった場合は、労働者自身の責任となるケースもあります。
快適な職場環境づくり
労働安全衛生法では、事業者に対し、労働者が快適に働ける職場づくりを義務付けています。快適な職場環境づくりは、以下4つの視点で行うのが一般的です。
- 作業環境
- 作業方法
- 疲労回復支援施設
- 職場生活支援施設
「作業環境」では、労働者が作業中に不快感を持つことがないよう、明るさや騒音・臭いなどを適切にすることを目指します。
「作業方法」では、労働者の心身における健康を損ねるような業務の負担を軽減させることが目的です。
「疲労回復支援施設」では、労働者の疲れやストレスを解消するために、休憩室や仮眠室などの施設を設置します。
「職場生活支援施設」では、職場生活に不可欠なトイレなどの施設を快適に保つことが重要です。
健康診断の実施
事業者は、従業員数や事業規模に関わらず、労働者の健康診断を毎年1回実施する必要があります。また常時雇用している労働者数が50人以上の事業者は、健康診断の結果を労働基準監督署に報告し、5年間保管しなければなりません。
法的に義務付けられた健康診断は、以下の4種類です。
- ■一般健康診断
- 毎年定期的に実施されるものや雇用時や海外派遣時などに実施する
- ■特殊健康診断
- 危険な業務に従事する労働者に対して実施する
- ■じん肺健康診断
- 常時粉じん作業に従事する労働者に対して行う
- ■歯科検診
- 塩酸や硝酸などの危険物にさらされる現場に従事する労働者に対して行う
健康診断は、労働者の個人情報を扱うため、外部に漏れないよう慎重に実施しましょう。
労働安全衛生法を理解して、適切な措置を講じよう
労働安全衛生法は、労働者の安全を守るため制定された法律です。政令や省令よりも法的拘束力が強いため必ず遵守しましょう。事業者が遵守すべき項目は以下の通りです。
- 安全管理者や衛生管理者などの専任
- 安全委員会や衛生委員会の設置
- 安全衛生教育の実施
- 労働災害の防止措置
- 快適な職場環境づくり
- 健康診断の実施
労働安全衛生法を理解して、適切な措置を講じてください。