変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、一定期間内で労働時間を配分する制度です。具体的にどのような内容か、なぜ導入するのかをわかりやすく解説します。
労働時間を業務量にあわせて設定できる
変形労働時間制とは、一定期間において合計労働時間が上限を超えなければ、期間内で労働時間を柔軟に配分してもよいとする制度です。繁忙期と閑散期が明確であり、繁忙期に多く働く分、閑散期には労働時間を減らす形で導入されます。
原則として、労働基準法で定められている「1日8時間、週40時間」という労働時間の上限を超えてはいけません。超えた場合は残業代を支払う義務が生じます。しかし、変形労働時間制では特定の期間において週の平均労働時間が40時間以内であれば、1日に8時間を超えた労働時間でも残業になりません。
導入する目的
変形労働時間制を適用する目的は、業務内容にあわせた有効的な働き方のことです。一定の期間内で労働時間の柔軟な適用により、繁忙期・閑散期の激しい業界においてメリハリのある働き方が実現するでしょう。
例えば、月の半分は1日10時間ほど働いても、もう半分は労働時間を1日6時間とすれば、平均値は8時間です。変形労働時間を適用し法定労働時間の調整で、勤務時間が多い日も時間外労働として扱う必要はありません。
変形労働時間制における法定労働時間と残業時間の計算方法
変形労働時間制は適用する期間によって3種類に大別されます。適用期間ごとの法定労働時間と残業時間の計算方法を解説します。
1年単位
繁忙期・閑散期が季節に応じて変化する企業では、月をまたいだ労働時間配分ができる1年単位で変形労働時間制を適用する場合が多い傾向にあるでしょう。1年以内の週平均労働時間を40時間であれば、労働時間を柔軟に配分してよいとする制度です。導入の際には、変形労働時間制について労働者と使用者の間で労使協定を結び、書面を労働基準監督署に提出します。
ただし、週平均労働時間を40時間以下に抑えてさえいれば、1日や1週間あたりの労働時間を無制限に伸ばしてよいわけではありません。以下の制限を守り、労働者ni
休日や出勤日の休息時間を確保させる必要があります。
- 1年間における労働日数は280日以下
- 1週間の労働時間は52時間以下
- 1日の労働時間は10時間以下
- 連続稼働日数は6日以下
残業時間
1年単位の変形労働時間制では、割増賃金が発生する「残業時間」を以下の考え方で集計します。
- 【1日の基準】所定労働時間が8時間を超える場合
- 所定労働時間を超えた時間が残業時間
- 【1日の基準】所定労働時間が8時間以内の場合
- 8時間を超えた時間が残業時間
- 【1週間の基準】所定労働時間外1週間40時間を超える場合
- 所定労働時間を超えた時間が残業時間
- 【1週間の基準】所定労働時間外1週間40時間以内の場合
- 40時間を超えた時間が残業時間
さらに1年単位でも計算をします。1年単位の算出方法は以下のとおりです。
- 1年間が何週間か算出
- 365日(1年間)÷7日=52.14週
- 年間の上限時間を算出
- 52.14週×40時間≒2085時間
1年間の所定労働時間は、2085時間のため、超過した時間は残業時間とします。うるう年は2091時間です。
1か月単位
1か月間繁忙期と閑散期が発生する場合は、1か月単位の変形労働時間制が適用されます。1か月以内の週平均労働時間が40時間以内であれば、労働日や労働時間を柔軟に分配することが可能です。1年単位の変形労働時間制と異なり、労使協定の書面を労働基準監督署に提出することなく導入できます。また、1日あたりの労働時間も無制限です。
ただし、休日は1週間に1日あるいは4週間に4日確保しなければなりません。また、始業・終業時刻は事前に労使協定で決めておかねばならず、使用者の都合による任意の変更は不可能です。
残業時間
1か月単位の変形労働時間制では、残業時間の考え方は以下のとおりです。
- 【1日の基準】所定労働時間が8時間を超えた場合
- 所定労働時間を超えた時間が残業時間
- 【1日の基準】所定労働時間が8時間以内の場合
- 8時間を超えた時間が残業時間
- 【1週間の基準】所定労働時間外1週間40時間を超えた場合
- 所定労働時間を超えた時間が残業時間
- 【1週間の基準】所定労働時間外1週間40時間以内の場合
- 40時間を超えた時間が残業時間
- 【1か月の基準】
- 1か月の法定労働時間を超えた時間が残業時間
1か月の残業時間の算出では、1日や1週間の基準で算出された残業時間は除外します。
1週間単位
1週間単位の変形労働時間制は導入できる企業が限られます。以下の条件をどちらも満たす企業でなければなりません。
- 労働者が30人未満
- 小売業・旅館・飲食店などの接客サービス業界
天候などの不確定要素によって業務量が左右されがちなうえ、労働者が少なく、計画的な人員配置が困難な場合にのみ導入できる働き方です。労働時間には「1日あたり10時間」かつ「1週間あたり40時間」の上限があります。就業規則で事前に始業・終業時刻を定める義務はありません。その代わりに、労働日の前週までには労働者に対して書面でシフトを通知する必要があります。
残業時間
1週間単位の変形労働時間制では、残業時間の考え方は以下のとおりです。
- 【1日の基準】所定労働時間が8時間を超え
- 所定労働時間を超えた時間が残業時間
- 【1日の基準】所定労働時間が8時間以内
- 8時間を超えた時間が残業時間
- 【1週間の基準】
- 1週間の法定時間である40時間を超えた時間が残業時間
1週間の残業時間の算出では、1日の基準で算出された残業時間は除外します。
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変形労働時間制のメリット
変形労働時間制を適用した場合のメリットはどのようなものがあるのでしょうか。企業と従業員、それぞれの視点で紹介します。
【企業】残業代の削減
繁忙期に1日10時間労働をしても閑散期の労働時間を減らしているため、労働時間の帳尻があいます。状況に応じた働き方を提示できるため、毎日同じ所定労働時間の場合より、支払う残業代の削減が実現するでしょう。
【従業員】労働時間の削減
毎日同じ所定時間の場合、閑散期では仕事が少ないにもかかわらず会社にいなければいけません。しかし変形労働時間制では、仕事が少ない時期に労働時間が削減できます。繁忙期にはしっかり働き、閑散期には早めに帰宅し、ワークライフバランスが整いメリハリのある働き方につながるでしょう。
変形労働時間制のデメリット
一方、変形労働時間制のデメリットはどのようなことがあるでしょうか。企業と従業員、それぞれの視点で紹介します。
【企業】管理の手間がある
変形労働時間制の導入には、労働時間の配分や労組協定の締結が必要です。さらに従業員の説明や就業規則など、手続きに時間や手間がかかります。さらに、適用後は残業時間を計算するなど運用にも手間がかかるため、効率性の高い方法が求められるでしょう。
【従業員】収入額の減少
従来の繁忙期では支給されていた残業代が、変形労働時間制に変更されると支給額が減少する場合もあります。残業代は、1日8時間・週40時間を超える労働に対して時間外手当が上乗せされていますが、所定労働時間が増えると割り増し賃金が発生しません。残業時間の計算方法や導入目的など事前に説明しましょう。
変形労働時間制の導入手順
変形労働時間制を適用する際の手順を紹介します。
1.現状の労働時間を把握する
現状の勤務状況や繁忙期・閑散期の労働時間や残業代などを把握しましょう。年間で残業の多い月はいつか、1か月単位や1週間単位など期間を区切り調べる必要があります。また、残業代の多い時期を明確にするうえで、直近1年だけではなく毎年残業が増加するのかもあわせて確認しましょう。
2.労働時間や期間を制定する
現状の労働時間を把握したら、所定労働時間を残業が多い時期に増やし、残業のない時期は減らします。部署や部門により業務内容が異なる場合は、変形労働時間制を全社的に適用する必要はありません。変形労働時間制により、業務効率があがる部署から適用しましょう。「期間」「勤務時間」「対象者」を決めます。
3.就業規則を改定する
就業規則に詳細を明記し、従業員と共有する必要があります。就業規則には、以下を記載しましょう。
- 対象者
- 具体的に誰が適用を受けるのか、見た人が把握できるように明記しましょう。
- 対象期間
- 1か月単位の変形労働時間制では、毎月1日を起算日とし、月末日までを範囲とするとわかりやすいでしょう。
- 所定労働時間
- 対象期間の各労働日について所定労働時間を決めます。1日8時間を超過してもよいですが、対象期間の1か月以内で週平均労働時間が40時間を超えてはいけません。あわせて、始業・終業時刻や休憩時間も明記しましょう。
- 労使協定の有効期限
- 変形労働時間制の導入にあたって労使協定を締結する場合は、有効期限を設定しましょう。基本的には3年以内に設定します。
4.労使協定を締結する
就業規則に詳細を記載したら、従業員に知らせて内容を共有しましょう。口頭で伝えるだけでなく、わかりやすい位置に掲示したり、印刷物やデジタルデータとして配布したりし、周知を徹底することが大切です。変形労働時間制を導入する際には、企業と労働者で合意のうえで労使協定を締結しましょう。
5.労働基準監督署へ届け出る
就業規則の書面は管轄の労働基準監督署にも届け出なければなりません。2部用意し、郵送あるいは持参で届け出て受付印を得た後、1部は控えとして自社がもち、もう1部は労働基準監督署が保管します。ただし、従業員数が10名を超えない場合は、労働基準監督署への届け出は必要ありません。
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フレックスタイム制や裁量労働制との違い
フレックスタイム制は変形労働時間制の1種です。3か月以内の期間を清算期間として設定し、週平均労働時間が40時間以内であれば、1日の労働時間が8時間を超えても残業はないものとします。変形労働時間制では企業が始業・就業時間を定めますが、フレックスタイム制は労働者が設定します。
また、裁量労働制は勤務時間を労働者が決められる制度です。実際の労働時間に関係なく労使協定で定めた時間分の賃金が支払われます。変形労働時間制よりも自由度の高い働き方といえますが、残業という考え方がないため、割増賃金などの支払はありません。
勤怠管理システムで変形労働時間制などの働き方に対応しよう
変形労働時間制とは週平均労働時間が40時間を超えなければ、1日の労働時間が8時間を超えても残業にならない制度です。しかし、「残業にならない」という誤解により、変形労働時間制における正しい運用が理解されていないケースもあります。
近年では、変形労働時間制をはじめ、フレックスや裁量労働制など多様な働き方が求められます。煩雑になる勤怠管理を効率化するのは、勤怠管理システムです。法律にもとづいた残業代の計算や正確な労働時間の把握などが可能です。
なお、以下の記事ではおすすめの勤怠管理システムを項目別に徹底比較しています。機能や価格、無料トライアルの有無など製品の特徴がわかりやすくまとめられているため、導入検討の際にお役立てください。
変形労働時間制を理解し生産性の高い働き方を取り入れよう
変形労働時間制とは、繁忙期と閑散期で業務量が大幅に変動する場合に、効率よく働くための制度です。企業は支払う残業代を最小限に抑えながら、繁忙期に多くの労働力を獲得できます。
しかし、残業時間の考え方が従来の労働体系とは異なるため、残業代の過不足に関して労使間のトラブルが発生するおそれもあります。法律を遵守し、正確に管理をして生産性向上を目指しましょう。