派遣法改正の概要
派遣法(令和元年9月14日施行)改正の概要を見ていきましょう。
派遣労働者の待遇改善のために施行
派遣法は、2015年9月30日に大幅に改正されています。その目的は、正規労働者と派遣労働者の間にある待遇の差を埋めることです。派遣元と派遣先の両方において、格差是正措置が強化されました。
具体的な改正項目は以下のとおりです。
- ■派遣期間規制を変更
- ■均衡待遇確保のための措置を強化
- ■雇用安定措置を義務化
- ■派遣労働者のキャリアアップ推進を義務化
- ■労働者派遣事業を許可制へ変更
教育訓練の体制整備が必要
上述した改正項目のうち「派遣労働者のキャリアアップ推進を義務化」に関し、派遣元には教育訓練の体制整備が必要になりました。それまでは、派遣社員は正社員と比較して教育を受ける機会が少なかったからです。
派遣元は、派遣労働者本人の希望を聴取しながら、正社員を目指したり派遣社員のままキャリアアップしたりすることを支援する必要があります。たとえば、本人が描くキャリアパスに基づいた派遣先の選定や、資格取得支援などが求められるようになりました。
派遣法改正に伴う教育訓練の規定事項
続いて、派遣法改正に伴う教育訓練の規定事項を見ていきましょう。
キャリア形成を目的とした教育訓練計画の策定
派遣元企業は、派遣労働者のキャリア形成を目的とした教育訓練計画を策定しなければなりません。そして、その計画については以下のことが定められています。
- ■すべての派遣労働者を対象とすること
- ■有給かつ無償で行われること
- ■教育訓練の内容が派遣労働者のキャリアアップに資するものであること
- ■入職時の教育訓練もこれに含むこと
- ■無期雇用派遣労働者に対する教育訓練は長期的なキャリア形成を念頭に置くこと
時期・頻度・時間数等の厳守
教育訓練の時期・頻度・時間数などについては、以下のことが定められています。
- 【時期・頻度】
- 入職時の教育訓練は必須。また、キャリアの節目など、一定期間ごとに教育訓練を行わなければならない。
- 【時間数】
- フルタイムかつ1年以上の雇用見込みがある派遣労働者には、年に8時間以上の教育訓練を提供しなければならない。ただし、4年目以降であれば時間数を自由に決められる。
- また、派遣労働者が教育訓練を適切に受講できるよう、就業時間や賃金などに配慮しなければならない。
派遣法改正に伴う教育訓練の導入方法
次は、教育訓練の導入方法について見ていきましょう。
1.現状の把握・分析をする
教育訓練は、派遣労働者のキャリアアップに資するものでなければなりません。しかし、何がキャリアアップに資するものといえるかは、目的や目標によって異なります。
そして、目的や目標を定めるには、まず現状を把握しなければなりません。現状を把握せずに目標だけを定めても、形骸化する可能性が高いからです。
まず、派遣労働者が抱えている志向や派遣先の要望などを整理しましょう。そして、これらが叶えられていない原因を分析します。
2.目的・目標を明確にする
前のステップでは解決すべき問題を明らかにしました。次は、その問題を解決するためにどのような状態を目指すのか(何を身につけるべきか)を明確にしましょう。
具体的な目標は派遣労働者によってさまざまです。携わる業種や勤務年数などさまざまな要素を考慮し、段階的・体系的な教育訓練計画を立てましょう。
3.教育訓練計画を策定する
次は具体的な訓練を計画しましょう。訓練の内容から実施時間、評価基準、フィードバックの方法・頻度などを定めます。明確にした目的・目標に沿う計画になるよう注意しましょう。
訓練内容は、主に以下の2種類に大別されます。
- 【階層別訓練】
- 勤続年数などの階層によって派遣労働者を区分し実施する横割りの訓練。同じ役職や勤続年数の者など、各区分において職種を問わず求められる汎用性の高い能力を養う。
- 【職能別訓練】
- 部門の職種によって派遣労働者を区分する縦割りの教育訓練。対象の職務を行うのに必要な専門性の高い能力を養う。
4.教育方法を選択する
最後に、具体的な教育方法を設定しましょう。代表的な教育方法を3つ紹介します。
集合研修
学校での一般的な授業と同じように、受講者を集めて講師が講義などを行う方法です。以下のメリット・デメリットがあります。
- 【メリット】
-
- ■受講者のモチベーションアップを期待できる
- ■内部で完結する内容であれば低コスト
- ■講師が受講者の学習状況を把握しやすい
- ■1度にまとめて多くの受講者を教育できる
- ■受講者の疑問をその場で解決しやすい
- ■実践的な訓練も導入しやすい
- 【デメリット】
-
- ■会場や講師の手配にコストがかかる
- ■1度に実施できる時間が限られる
- ■受講者のスケジュール調整が難しい
- ■受講者個人個人に適した教育を提供しづらい
OJT
OJTは「On the Job Training」の略で、実際の仕事の中で技能を身につける形式の訓練のことです。単に仕事をこなすのではなく、スキルの習得を目的とし、それに適した流れで職務を遂行します。
派遣先でOJTが行われていることもありますが、必要になったその都度行うことが多いです。そのため、体系的な訓練としてはあまり実施されていません。したがって、派遣元企業は派遣先の協力のうえ、より計画的なOJTを実施する必要があります。
OJTのメリット・デメリットは以下のとおりです。
- 【メリット】
-
- ■実践的な技能を習得できる
- ■派遣先の協力があれば低コストで済む
- ■派遣先でのキャリアアップに直結しやすい
- 【デメリット】
-
- ■派遣先の協力を得るのが大変
- ■派遣先の主導となるため、計画的な実施や管理が困難
- ■派遣先から費用を要求されると高コスト
eラーニング
eラーニングとは「electronic learning」の略で、インターネットを介して学習コンテンツを学習者に提供する教育形態です。学習者はパソコンやスマートフォンでテキストや動画のコンテンツを視聴し、知識を身につけることになります。
eラーニングのメリット・デメリットは以下のとおりです。
- 【メリット】
-
- ■時間や場所を選ばずに学習できる
- ■個人個人に適した教育内容を提供しやすい
- ■一度体制を構築してしまえば低コスト
- ■学習の記録を残せるため、学習者の進捗状況などを管理しやすい
- 【デメリット】
-
- ■学習者に学習を促す仕組みが必要
- ■ITシステムの扱いに不慣れな人にはサポートが必要
- ■初めは機器やシステムなどの準備にコストがかかる
- ■一方通行であるため学習者の疑問を解決しづらい
教育訓練を実施するにあたっての注意点
教育訓練を実施する際、派遣元企業は以下の点に注意しましょう。
- 教育訓練の実効性
- 派遣労働者本人の意向に沿ったものにする
- 訓練費
- 無償かつ有給で行う
- 交通費
- 教育にかかる交通費が派遣先への交通費を上回る場合は派遣元が負担
- 受講機会の確保
- 派遣労働者が教育訓練を受講しやすいよう配慮する
- 訓練内容の周知
- 教育訓練の内容を受講者に周知する
- 管理台帳への記録
- 教育訓練の日時や内容を記録する
- さらなる訓練の実施
- 法律で義務付けられた以上の教育を行うことが望まれる
- 相談窓口の設置
- キャリアコンサルティングの知見を有するスタッフを用意する
また、派遣先企業にはできる限り派遣元企業の教育訓練に協力することが望まれます。
教育訓練を実施し、派遣労働法の改正に対応しよう!
派遣法の改正により、派遣元企業には派遣労働者に対する教育訓練が義務付けられています。派遣労働者の意向を踏まえ、キャリアアップに向けた適切な訓練を実施しましょう。
教育訓練の導入手順は以下のとおりです。
- 1.現状の把握・分析
- 2.目的・目標の明確化
- 3.教育訓練計画の策定
- 4.教育方法の選択(集合研修、OJT、eラーニングなど)
以上を踏まえ、適切な教育訓練を実施しましょう。