能力評価とは
能力評価とは、職務遂行に必要な能力を評価する手法のことです。具体的には、業務に必要な知識や技能などが評価の対象であり、それらをいかに効果的に発揮しているかを一定の基準で評価します。
業績評価・情意評価・行動評価との違い
人事評価制度における評価方法には、能力評価のほかに業績評価・情意評価・行動評価の3つがあげられます。これらの特徴からどのような違いがあるか見ていきましょう。
- ■能力評価
- 主にスキルや知識について評価する。企業によって評価する項目は異なるが、主に企画する能力、実行する能力、改善する能力によって評価される。
- ■業績評価
- 一定期間内の実績や目標達成率など、客観的な数値をもとに評価する。設定した目標の達成率、業務上の成果などが該当する。
- ■情意評価
- 勤務態度や業務に対する意欲を評価する。「態度評価」とも呼ばれる。数値化が困難なため、一般的に上司や部下、同僚からのコメントも取り入れて評価される。
- ■行動評価
- 成果をあげている従業員のスキルや行動特性を基準に、他の人を評価する。コンピテンシー評価ともいわれる。
能力評価が本人の持ち合わせる素質を評価するのに対して、業績評価や行動評価は成果を評価する点に大きな違いがあります。また、能力評価は評価者が一人でも人事評価を進められるのに対して、情意評価は複数名の評価者が必要です。
能力評価の項目一覧
能力評価ではどのような評価項目があるのか、一例をまとめました。
- 企画力:問題を解決するための段取りを組み立てる能力
- 実行力:プロジェクトを実際に遂行していく能力
- 改善力:問題点を発見し、改善していく能力
- 対人能力(交渉力):グループをまとめ、他者との折衝や交渉をする能力
- 判断力:現在の状況を正しく把握し、適切に対応していく能力
- 指導力:部下に対して、個々の能力や特性に応じた指導をしていく能力
- 折衝力:自分の考えなどを、他者に説明して納得させる能力
- 理解力:担当業務の目的や、上司の指示を理解する能力
- 知識力:業務遂行に必要な知識を有しているか
一般的には、こうした評価項目のなかから自社で必要な項目を選び出して職能要件書(職能資格基準書)を作成します。そのほか、厚生労働省が公表している「職業能力評価基準」では、56もの業種における知識・技術・職務遂行能力の目安を整理しているため、参考にするとよいでしょう。
参考:職業能力評価基準|厚生労働省
能力評価を実施するメリット
能力評価は、業務の成果ではなく個人の持つスキルを絶対評価で測るため、従業員の長期育成や意識向上に効果的です。そのほか、能力評価を実施するメリットについて詳しく解説します。
仕事の適応性が判断できる
業務で必要とされる能力と従業員のもつ能力に大きな乖離がある場合、不満やストレスの発生だけでなく、早期退職の原因となる可能性があります。しかしチーム単位の成果や能力で評価していると、個人の業務適応性は把握しきれません。
そこで、能力評価の実施により従業員の能力を把握できれば、業務内容と能力のミスマッチを防げるでしょう。人材の適材適所が実現されれば、業務効率化も期待できます。
人材育成の促進につながる
能力評価を取り入れると、個人の能力・スキルに関する評価基準が可視化されるため、「どうすれば評価を高められるか」を理解し、従業員自らスキルアップのために行動できます。
期待していた評価が得られれば、さらに意欲的に業務に取り組み、スキルアップも継続的に実践してくれるかもしれません。従業員の満足度の向上は、組織活性化にもつながるでしょう。
評価への納得度がモチベーションを高める
従業員にとって人事評価の評価軸や結果について根拠が不明確であると、モチベーションが低下したり、離職率を増加させるなどリスクがあります。しかし、能力評価は明確な評価基準が設定されるため、評価に納得しやすいのが利点です。従業員は目標達成に向けて、高いモチベーションをもって業務に取り組んでくれるでしょう。
能力評価を実施するデメリット
ここからは、能力評価を実施した際に起こりうるデメリットについて解説します。
評価に不満の出る可能性がある
日本ではいまだに年功序列の意識が根付いている企業も多くあります。そのため、年齢を重ねることで経験値やスキルが高まると考える人が能力評価を行えば、個人のもつ能力を年齢で測ってしまうリスクは否めません。これでは評価に不満が生じてしまうでしょう。
評価基準が曖昧になりがち
能力評価はある程度の基準はあるものの、明確な実績や数字などの具体的な評価基準が示されるわけではありません。そのため、評価者によって評価に偏りやバラつきが出る可能性は少なからずあります。そのため、社内で評価者を対象に認識統一のための指導・研修などを実施するとよいでしょう。
能力評価を正確に行うためのポイント
人事評価は、公平性と納得のいく評価が重要です。ここでは、メリット・デメリットを踏まえて、能力評価を効果的に行うためのポイントを解説します。
他の評価方法と組み合わせて人事評価を行う
公平な評価のためには、能力評価だけでは不十分といえます。なぜなら、従業員が素晴らしいスキルや能力をもっていたとしても、それをどの程度に業務に活かせているかは能力評価では明確にできないからです。評価に客観性をもたせるために360度評価、業績評価などの他の評価方法も取り入れましょう。
また、経営環境や経営戦略の変化に応じて、評価項目の見直しや評価内容の更新も適宜行いましょう。
人事評価エラーに気をつける
能力評価は絶対評価のため、評価者が無難な評価をしてしまう評価エラーの一つ「中心化傾向」が出やすい傾向にあります。また、一つの評価がほかの評価に影響を及ぼす「ハロー効果」などにも注意が必要です。必要に応じて評価者育成研修を行い、評価時の注意点を理解してもらうとよいでしょう。
人事評価に偏りが出てしまう「人事評価エラー」については、以下の記事で詳しく解説しているため、参考にしてください。
能力評価シートの記入例
能力評価を実施する際に用いる評価シートについて、書き方にお悩みの方も多いようです。そこで、評価する側とされる側(被評価者)に分けて、シートの記入例を紹介します。
被評価者の記入例
評価される本人が自己評価を記入する際には、評価の基準となる具体的な数値を用いて、目標とそれに向けたプロセスを明示しましょう。以下では、被評価者の記入例を2つ紹介します。
「昨年の実績よりも+10%の業務を行えた。これは自分自身の技術の向上と、社内連携をうまく行えたことによる成果といえる。」
「上半期では目標売上の40%しか達成できなかったが、下半期で目標を達成できた。しかし、顧客からの問い合わせやクレームが10件あったので、今後は顧客満足度の向上にも注力する必要がある。」
評価者のコメント記入例
評価者は、被評価者の能力が成績に結びついているかを見るために、日々の具体的な行動も把握したうえでコメントを書く必要があります。ここでは、評価者の記入例を2つ紹介します。
「上半期は売り上げが低迷しながらも、年間で売上目標を達成したことは高く評価できる。また、チーム内においてもリーダーシップを発揮しチームの結束力を上げ、部署の業績に大いに貢献してくれた。」
「契約件数、売り上げともに目標値の110%達成できたのは評価できるが、クレーム件数も増えており顧客対応に改善が必要と思われる。どうすれば顧客満足度を上げていけるかを、熟考して改善していってもらいたい。持ち前の明るさとガッツを生かせば乗り切れると期待している。」
なお、人事評価シートの詳しい書き方やポイントは以下の記事で紹介しています。あわせて参考にしてください。
能力評価の仕組みを理解して適切な人事評価を
人事評価制度において能力評価は、企業はもちろん従業員の成長においても非常に大切な評価項目です。能力評価の仕組みをしっかりと把握し、公平で適切な人事評価をしましょう。
なお、従業員のスキルの可視化や公平な判断、評価に課題を感じる場合には、人事評価システムの導入もおすすめです。人事評価で生じるデータを管理するシステムで、評価項目の詳細設定や評価管理などが行えます。コンピテンシー評価や360度評価などの評価制度にも対応できるため、課題解決に役立てられるでしょう。以下の記事では、人事評価システムについての知識や最新の製品を比較表形式で詳しく紹介しているので、あわせて参考にしてください。