人事評価エラーに注意する
人事評価は機械ではなく人間が行うため、どうしても評価の誤りが発生してしまいます。これを「人事評価エラー(評定誤差)」と呼びます。人事評価エラーにはさまざまな種類がありますが、基本的には評価者の主観が入ることによって発生します。
代表的な人事評価エラーを次にご説明します。人事評価エラーは評価者の無意識で発生するため完全に防ぐことは困難ですが、どのような人事評価エラーがあるのか事前に把握しておくことで、評価をする際にエラーに気付くことができるようになります。
- ハロー効果
- 評価対象者に突出した能力がある場合、そのほかの評価項目についても良い評価をしてしまう
- 親近感によるエラー
- 価対象者とプライベートでの付き合いがあったり、出身地や趣味など共通点がある場合に良い評価をしてしまう
- 先入観によるエラー
- 性別や年齢、学歴や見た目などの先入観によって良い評価をしたり、反対に悪い評価をしたりしてしまう
- 厳格化傾向
- どの評価対象者に対しても不当に厳しい評価をしてしまう
- 寛大化傾向
- どの評価対象者に対しても不当に甘い評価をしてしまう
- 中心化傾向
- どの評価対象者に対しても平均的な評価をしてしまう
- 逆算化傾向
- 結果ありきでその帳尻合わせのために評価をつけてしまう
- 論理的誤差
- 評価者が持つ独自の論理によって、評価をつけてしまうこと
- 対比誤差
- 評価者自身と比べ、被評価者の評価を行ってしまうこと
- 近接誤差
- 評価期間終盤の出来事が印象に残り、その影響が期間全体の評価に及んでしまうこと
- アンカリング
- 最初に提示された結果を無意識に基準としてしまうこと
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評価者研修を行う
社員の会社への貢献度を高めるという人事評価の目的を達成するためには、正しい評価を行うことが重要な課題です。不当な評価をしてしまえば、反対に社員のモチベーションを下げ離職者を増やす事態にもなりかねません。
正しい人事評価を行うためには、評価者自身が人事評価の目的を十分に理解し、人事評価エラーなど注意すべきポイントを心掛けている必要があります。そのために、社内の有識者や外部のサービスを利用して評価者研修を行うことが大切です。
人事評価エラーが起こる一因には、正しい評価手順を踏めていないことが考えられます。正しい手順を把握することによって、評価エラーを取り除くことにも繋がってきます。以下からは人事評価手順についての解説を行っていきます。
一般的な人事評価の方法
一般的な人事評価では上司が部下の、評価期間中の行動やその結果を評価します。人事評価は大まかに、「目標・ルール設定」「業務遂行」「評価」「フィードバック」のサイクルで実施します。1つのサイクルは半年や1年とする企業が多くなっています。
目標・ルール設定
まずは評価対象者が、評価期間中に達成すべき目標やルールを設定します。
目標やルールは評価期間が始まる前に設定しておきましょう。目標は組織の方針や目的に沿ったものである必要があります。また、評価者自身の立場や能力に見合ったものであることも重要です。設定した目標が組織の方向性と解離していないか、評価者の立場や能力に比べて難易度が高すぎないか、低すぎないかなどを上司とのレビューによって精査します。
次に目標・ルール設定を行う際のポイントを解説します。
数値目標と行動目標を設定する
目標は大きく、「数値目標」と「行動目標」の2種類を設定します。
- 数値目標
売上金額や契約数のように業務を行った結果に対して設定する目標です。
- 行動目標
「遅刻をしない」「納期を順守する」といったように業務に取り組む姿勢に対して設定する目標です。
具体化する
目標は、できる限り具体化する必要があります。
あいまいな目標を設定すると、評価者と評価対象者との関係性によって評価が甘くなったり、反対に不当に厳しいものになったりすることがあります。数値目標に対しては、「売上100万円」「契約数50件」といったように具体的な数字で目標を立てましょう。行動目標のように数値で評価することが難しい目標の場合でも、なにをすべきかをできるだけ詳細に定め評価者が評価に迷わないよう工夫することが大切です。
共有する
会社やチームの目的を達成するための目標は部署やチーム内で共有します。これにより、お互いに目標達成に向けて協力しあう体制を作り上げることができ、会社の目標達成を効率的に進めることができるほか、個人の目標達成により労力を注ぐことができるようになります。
業務遂行
目標・ルールを設定したらそれを目指して業務を開始します。
定期的な面談・報告を行う
評価期間は通常半年から1年と長期間に渡ります。その間、評価対象者本人が気づかないうちに目標から外れた行動をとってしまうこともあるでしょう。また思わぬトラブルで目標遂行が困難になってしまっていたり、反対に周囲の協力などによって想定していたよりも簡単に目標が達成できそうになっていたりと状況が大きく変化することが考えられます。
目標が達成不可能なものであったり、また努力なしに達成できるものであっては人事評価の効果は得られません。せっかく設定した目標が意味のないものにならないよう、状況に応じて目標を変更するなど柔軟な対応をすることが大切です。定期的に評価者と評価対象者との間で面談を実施したり、評価対象者が評価者に報告したりして、評価者が常に状況を把握できるようにするといいでしょう。
評価者は気付いたことを記録する
評価者は、結果だけでなくそこに至るプロセスなども評価対象とする必要があります。しかし長い評価期間の間、評価対象者がどのような行動をしていたのかなど細かいことまで覚えているのは困難です。また、どうしても期末の行動のみが印象に残り期初の行動については意識されません。そのため評価者は、評価対象者の行動で気付いた点があったらその都度記録しておきます。
評価
評価期間が終了したらいよいよ評価を行います。評価は通常、上司から部下へ一方向に行うものですが、近年では複数の評価者によって評価する多面評価(360度評価)という方法もよく用いられます。評価を行う上でのポイントを解説します。
絶対評価を行う
評価方法には主に「絶対評価」と「相対評価」の2種類があります。絶対評価は評価対象者の成績のみを見て評価を決定する方法であり、相対評価はほかの評価者の成績と比較して評価を決定する方法です。人事評価では、絶対評価の方法を用いるのが適しています。
相対評価の場合、評価対象者がいくら良い結果を出していたとしても、それより良い結果を出した社員がたくさんいれば高い評価をもらうことはできません。そのため、社員のモチベーション向上を目的として行う人事評価では絶対評価が適しているのです。
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結果だけでなくプロセスも評価する
人事評価では、結果だけでなくそこに至るプロセスも評価の対象とします。これによって、社員の行動指針を明確にすることができます。また、予期せぬ障害によって目標を達成することができなかった場合も、プロセスを評価することで社員を正当に評価することができ、社員のモチベーション向上にもつながります。
ただし、数値的に評価することのできる結果と違い、プロセスは評価が難しく評価者によって判断が別れがちです。そのため、プロセス評価を行う際は上司だけでなく同僚や関係者など複数のメンバーの意見を参考にするといいでしょう。
フィードバック
評価を付けたらそこで終わりではありません。評価結果を評価対象者に対してフィードバックし、良かった点はより伸ばし、至らなかった点を改善するために評価者と評価対象者との間で面談を実施します。評価対象者が評価結果を素直に受け入れ、対策を実施できるか否かはフィードバックの仕方にかかっていると言っても過言ではありません。効果的なフィードバックを行うためのポイントについて解説します。
問題点・改善点を明確に伝える
問題点や改善点を指摘されると、どうしても反発してしまうものです。評価対象者が指摘を理解し素直に受け入れることができるよう、問題点や改善点は明確に伝えることが大切です。
例えば「あの時のあの判断が誤りだった」といったように、実際に行動に基づいた指摘を行いましょう。こうすることで「しっかりと自分の行動をチェックし、事実に基づいて評価してくれている」と評価者とその評価結果に対する信頼性が高まります。
日頃からコミュニケーションを意識する
フィードバックの場では、評価者が一方的に改善策や今後の方針を提示するのではなく、評価対象者の意見や希望も取り入れながら話し合いを行っていきます。そこで評価対象者が自分の意見を自由に発言できるためには、日頃からのコミュニケーションが大切です。
近年、主流になっている人事評価方法
働き方の多様化や評価方法の変化に伴い、これまでの人事評価方法では正当な評価をすることが難しいケースも増えてきました。そこで近年は、さまざまな人事評価方法が登場しています。その一部をご紹介します。
リアルタイムフィードバック
通常評価期間完了後に行うフィードバックを、問題が発生したその場で行うのがリアルタイムフィードバックです。問題のある行動をその場で正すことができるため、問題の発生を未然に防ぐことができるほか、どこに問題があったのかを評価対象者が実感しやすく、行動の改善につながりやすいという特徴があります。また細目にフィードバックを行うことで評価者と評価対象者との間でコミュニケーションが活性化し、結束力の向上や離職率の低下といった効果も期待できます。
ノーレイティング
ノーレイティングとは、成績によって評価を「A評価、B評価、C評価」とランク付けする制度を廃止し、新たな評価制度を導入することです。ランク付けによる評価は本来、社員同士の競争意識を高めパフォーマンス向上に結び付けることを目的に実施されていました。しかしかえって社員のモチベーションや生産性を低下させる結果になるなど問題点が明らかになってきたのです。また競争ではなく協働を重視する企業が増えていることにより、ノーレイティングの傾向が高まっています。
360度評価
360度評価は主に管理職に対して用いられる評価方式で、上司と部下との1対1で行われる通常の人事評価と異なり、チームメンバーや顧客などさまざまな関係者によって評価が行われます。
さまざまな視点から評価されるため、それまで気付くことのできなかった自分の能力や至らない点に気づくことができます。また、一方的な評価では評価エラーが発生しがちですが、立場の異なる複数の人物によって評価することで評価内容の偏りが解消されるという効果もあります。さらに評価の匿名性が高まるため、普段なかなか伝えることのできない部下から上司への意見も発信しやすくなります。
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バリュー評価
実際の業績ではなく、いかに会社の価値観を理解し、行動することができたかを評価するのがバリュー評価です。
インターネットの発達により、誰もが世界中の情報を素早く手に入れることができるようになりました。そのため流行もめまぐるしく変化し、企業には常に新しい製品やサービスを提供することが求められています。こういった状況の中、企業が求める人材は、会社の方針や価値観を理解し自ら行動することのできる人物です。バリュー評価を導入することで社員一人一人の行動力を高める効果が期待できます。
コンピテンシー評価
業績が優れていたり業務態度が良い人物に共通する行動特性を理想のモデルとし、その行動特性にどれだけ近づくことができたかを評価するのがコンピテシー評価です。実際に成果を上げることのできた具体的な行動を目標として定めるため業績アップにつながりやすいといったメリットがあります。また評価対象が実際の行動になるため、評価があいまいになりにくく、評価対象者の納得感が得られやすいという特徴もあります。
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自社に合った方法で、正当な人事評価を行いましょう
人事評価にはさまざまな方法があります。人事評価を行う目的や、業種、就労形態により最適な評価方法は異なります。人事評価を行う目的は何なのか、その方法が自社のスタイルに合っているのかを考慮し、正しい人事評価を行いましょう。