人事評価を公開するメリット・デメリットとは
公開型の人事評価は「オープン主義評価」ともいわれます。評価結果だけでなく、評価基準・評価シート・評価手続きまで公開し、結果がどのように賃金や処遇に反映されるかを明らかにします。
公開型評価は、成果型賃金制度と結びついている場合がほとんどです。成果に応じて賃金の格差をつける以上、厳密な評価が行われなければ、社員は「自分の成果や実績が、評価に正しく反映されているのか」と不信感を抱くためです。
では、公開型評価にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
<公開>メリット:納得感やモチベーションUPにつながる
人事評価に対し、社員の納得性や信頼性が高まる点が最大のメリットでしょう。
評価の基準や評価に至る経緯が明示されるため、評価される社員は何が評価され、どこを改善すればよいのかがわかり、評価に納得しやすくなります。上司が評価を本人に伝える際、どのようなスキルを身に着け、どのように部署や会社に貢献してほしいのかを伝えれば、社員の人事評価制度への信頼も生まれモチベーションも上がるでしょう。また、評価のポイントから会社が求める人物像を理解でき、評価のフィードバックによって上司と現状認識や目標を共有できます。職務等級制度の運用にも効果的でしょう。
<公開>デメリット:評価者のスキルによっては不信感が生じる
評価の公開には社員の納得性・信頼性を高める目的のほか、人事評価を通じて社員の成長を促し、組織を活性化させる狙いもあります。
しかし、評価制度や人事制度に不備があったり、評価者のスキルが未熟だったりすると、うまく機能しない可能性が高まります。例えば、評価の結果が賃金や昇格、職務等級などに反映されなければ、よい評価を得た社員は「よい評価を得たのに、なぜだ」と不満をもつようになるでしょう。
また、評価者のスキルが未熟で基準に沿った評価ができない、十分なフィードバックができない場合は、かえって社員は評価に不信感を抱きます。評価を公開する場合には、社員の信頼を得られる制度の構築と評価者への教育が欠かせません。
以下の記事では、人事評価の不満を減少するためのポイントを詳しく解説しています。興味がある方はあわせてご覧ください。
人事評価を公開しないメリット・デメリットとは
年功序列の終身雇用が当たり前の時代は、評価を社員に公表する会社はほとんどありませんでした。社員は、ボーナスの額や昇進の早さなどで自分の評価を推し量るくらいでした。よほどのことがない限り社歴を重ねれば給与が上がり、ポストも与えられるため、評価を気にする必要がなかったためです。
非公開型の人事評価制度が悪いといっているわけではありません。会社によっては、評価を公開しないほうがよいケースもあります。ここからは、非公開型のメリット・デメリットを紹介します。
<非公開>メリット:挑戦的な業務にも取り組みやすい
人事評価はどうしても1年ごと・半期ごとなど、短期間での成果が対象になりがちです。このため、失敗を繰り返しながら長期的に取り組む仕事は、よい評価を得られにくくなってしまいます。
評価を公開しないことで、「短期的な評価は気にしなくてよい」というメッセージを社員に伝えられれば、社員は長期的で挑戦的な業務にも取り組みやすくなるでしょう。
また、どのような評価が下されるかわからないからこそ、社員に節度ある行動をとらせる可能性もあります。
<非公開>デメリット:評価に不満をもつ人も現れる
自身の評価や評価項目、評価方法が公開されないと、自分がどのように評価され、どうすればよい評価を得られるのかがわからず会社や上司に強い不満をもつ社員が一定数現れる可能性があります。不満を抱えた社員が強い発言力をもつと、他の社員のモチベーションや社内や部署内の雰囲気にまで悪影響を及ぼすでしょう。
人事評価の開示義務はある?
厚生労働省のまとめたガイドラインによると、従業員の人事評価や選考に関する個人情報は、基本的に非開示とされています。
本来個人情報の開示請求には応じる必要がありますが、「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼす恐れがある場合」は開示請求の拒否が認められています。人事評価の開示により、評価者との人間関係悪化や適切な評価ができなくなる恐れがあるためです。
一方で、人事評価の基準がきちんと設定されているのであれば、人事考課の公正さや納得感を持ってもらうためにも、基準を公開することは望ましいとされています。
参考:雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン:事例集 |厚生労働省
人事評価を公開するときの注意点
人事評価を公開するかしないかは、社内風土や人事・賃金制度との兼ね合いも十分考慮して判断しなければなりません。社風を大きく変え、成果を賃金に反映させる仕組みを導入したいのならば、成果を判断する基準と判断結果はオープンにする必要があります。
年功序列の終身雇用制度を維持していきたいと考えているのであれば、評価をオープンにする必要はないでしょう。
目標や認識を共有する努力を惜しまない
公開型の人事評価では本人へのフィードバックが必須です。口頭で評価について説明するにあたり、本人から評価に対する質問を受けることもあるでしょう。話し合いで重要なのは、評価項目や評価方法について説明し、会社や部署の現状・改善点について認識を揃え共通の目的意識をもつことです。
現状認識や目的意識は、評価の基準にも反映されていなくてはなりません。もちろん、評価者自身が会社の現状認識や目的意識を理解し、部下に説明する能力と熱意も必要です。そうした努力をしてはじめて社員は評価に納得し、目的意識や目標をもって仕事に臨めます。会社や部署での認識の共有が中途半端では、かえって評価への不満が社員の間でくすぶる結果となるでしょう。このような事態を防ぐために、目標管理制度を導入することも有効です。
評価者の教育と公開後のフィードバックは必須
評価のフィードバックは、評価者にとって負担が大きいですが、おろそかにすると、社員から評価に対する信頼を得られません。会社は評価者に対する教育だけでなく、支援体制も整えましょう。適切な評価を行うため人事制度設計や人事評価シートを見直したり、能力評価や業績評価など各評価項目の定期的な見直しも必要です。
人事評価の公開を適切に行うには人事評価システムがおすすめ
人事評価の公開を適切に行い最大限のメリットを得るためには、人事評価制度を適切に運用することが重要になります。人事評価制度を適切かつ効率的に運用するために、人事評価システムの導入がおすすめです。
人事評価システムとは、目標設定や自己評価、上司や同僚からの評価、フィードバックなど、一連の人事評価の中で生じるデータを管理するシステムです。人事評価業務の効率化に加え、評価過程なども管理できるためより精密で公平な評価が可能になります。
以下の記事では、人事評価システムのおすすめ製品をまとめて紹介しています。興味がある方はあわせてご覧ください。
公開型人事制度の特性を理解して活かそう
企業のグローバル化や、働き方・雇用制度の変化によって、多くの企業は人事制度の改革を迫られています。人事評価もその一つで、公開型評価の導入を考えている企業もあるでしょう。公開型評価はうまく運用すれば会社全体で認識を共有し、社員のモチベーションアップが期待できます。
しかし、制度設計や評価者の能力やスキルが不十分だと社員の不満を増幅しかねません。導入にあたっては、社風や導入の目的、社内への影響も考慮し、評価制度の構築や適切な運用を含めて検討しましょう。