テレワークの導入状況
テレワークは、総務省が推進する働き方改革のもとで、時間や場所に制限されない柔軟な働き方として注目を集めています。総務省の調査によると、令和2年時点で企業におけるテレワークの導入率は、前年度の20.2%から大幅に増加して47.5%に達しました。導入予定がある企業も含めると6割となり、年々増加傾向にあります。加えて新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、実際に令和3年に実施された調査では、在宅勤務・リモートワークが制度化された企業は、大企業で53.7%、中小企業で23.6%と企業規模で差があるものの、大幅に増加しました。
導入目的で一番多かったのは「非常時(感染症の流行など)の事業継続」で7割弱を占めており、感染症拡大によるテレワークの急増が背景にあることがよくわかります。
参考:令和2年通信利用動向調査の結果|総務省
参考:第14回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査|東京商工リサーチ
テレワーク導入の進め方7ステップ
テレワークはどのように導入すればいいのでしょうか。テレワークの導入プロセスは、導入の検討から導入後の評価まで7段階に分類できます。
テレワークの導入にあたっては、社内でプロジェクトチームを結成して体制を整えます。なお、労働人口の減少に対策するための「働き方改革」のもとで、総務省や厚労省が主体となったテレワークの導入支援がなされています。厚労省が公開しているテレワーク総合ポータルサイトには、テレワーク導入のプロセスが詳しく解説されているので参考にするとよいでしょう。
参考:テレワークの導入プロセス|厚労省
1.導入検討・経営判断・全体方針決定
テレワーク導入にあたってまず重要なのが、最終的に得たい効果を考えて導入の目的を明確にすることです。例えば生産性の向上や、人材の確保などが挙げられるでしょう。テレワークの導入自体が目的にならないように、テレワーク導入で自社が得たい効果は何なのかを整理しておきましょう。
またテレワーク導入の目的や意義については、経営トップから従業員へ説明・共有し、理解や協力を得られるように努めましょう。その後、テレワーク導入のガイドライン(ポリシー・基本方針)を策定します。ガイドラインに盛り込む内容は、一例として以下が挙げられます。
- ●導入目的
- ●導入範囲
- ●対象業務
- ●頻度
- ●導入コスト
2.推進体制の構築
次にテレワーク導入に向けた推進体制の構築に着手します。社内の各部署がテレワークの意義を理解し、導入が円滑に進むよう体制を整えましょう。
そのためには、テレワーク導入に関わる社内制度や施策を担当する部門メンバー中心に、プロジェクトチームを設置するのが有効です。経営企画部門、総務・人事部門、情報システム部門、そしてテレワーク導入の対象部門のメンバーなどで構成しましょう。
3.現状把握や導入課題の抽出
プロジェクトチームが発足したら、各部署の現状分析を行いましょう。確認しておきたいポイントは以下のとおりです。
- ●就業規則に関連する社内の制度(勤怠管理制度や給与や手当など)
- ●人事評価制度(目標管理制度、成果にもとづく評価制度など)
- ●ICT環境(テレワークに対応できるシステムかなど)
- ●業務時間や業務で使用する書類の形態(紙か電子かなど)
- ●労働組合がある場合は組合の考え方(労働組合がない場合には従業員の考え方)
- ●セキュリティや個人情報の取扱いルール
現状を把握しておかないと、現場に余計な混乱を生じさせたり非効率になったりする可能性があります。特に就業規則やテレワークにおける社員の評価制度は明確にしておかないと、トラブルの原因になるので、抜けもれなくチェックしましょう。
4.テレワークに関する社内ルール作り
現状を把握し、対象者や対象業務がはっきりした後は、テレワーク導入に向けた社内ルールの作成に移りましょう。定めるルールは以下のとおりです。
- ■テレワークの形態や頻度を決める
- 各部署や業務にあわせて「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィスワーク(施設利用型)」から選択する。導入初期段階ではまずトライアルとして週1~2日程度でスタートさせるのがおすすめ。
- 在宅勤務の場合、部分在宅と終日在宅勤務どちらにするのか、サテライトオフィスワークの場合は、自社専用か他社共用のシェアオフィスも認めるかなど、詳細についても詰めておく。
- ■勤怠管理を見直す
- 導入前に、就業規則にテレワーク勤務の規定を盛り込む。就業規定に直接規定を加える方法と、「テレワーク勤務規程」という個別の規程を定める方法があり、所定の手続きを踏まなくてはならないので注意。
- テレワークを利用する場合の申請や承認方法について、フローを決めておく。
- 始業・終業時刻の報告と記録の残し方についても具体的に決めておく。(メールやチャットツール、電話で報告する方法や、勤怠管理システムやエクセルを活用して労働時間を記録管理する方法など)
- ■電子化すべき紙文書を選定する
- テレワークでも見積書や稟議書の捺印・回覧ができるよう、電子化できる紙文書について優先順位をつけて選ぶ。ワークフローシステムの活用もおすすめ。
- ■テレワーク導入のための教育・研修を実施する
- 社内における認識のすり合わせや意識改革、スムーズな導入と業務遂行のためにも教育や研修は不可欠。テレワーカーだけでなく全社的に実施するのが望ましい。
5.ICT(情報通信技術)環境の整備
テレワークには、ICT環境の整備が不可欠です。テレワークに役立つツールやシステムを紹介しながら、ICT環境整備の進め方を解説します。
テレワークに役立つツール・システム
- ●ビジネスチャットや社内SNSなどのコミュニケーションツール
- ●PC画面やファイルを共有し、リアルタイムの共同作業ができるWeb会議システム
- ●労務管理をリモート化できる勤怠管理システム・労務管理システム
クラウドサービスならインターネット環境さえあれば利用できるため、多くの製品がテレワークに活用できるでしょう。チャットツールでの勤怠報告をもとに勤怠管理システムとデータ連携させ自動で情報を登録するなど、各システム同士の連携もできればより業務の効率化が叶います。テレワークの導入を機にシステムの見直しや再構築を図るとよいでしょう。
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また既存のIT資産を生かして、テレワーク用のICT環境を構築することも可能です。以下のいずれかの仕組みがあるか確認しましょう。
- ■リモートデスクトップ
- 遠隔でオフィス端末のデスクトップを操作。テレワーク端末へのデータ保存は不可。
- ■仮想デスクトップ
-
- オフィスのサーバから提供される仮想デスクトップを遠隔操作。テレワーク端末へのデータ保存は不可。
- ■クラウド型アプリケーション
- クラウド上で提供されるアプリケーションに、社内外からアクセスして操作。テレワーク端末へのデータ保存は選択できる。
- ■会社支給のPC
- 会社で使っているPCなどを持ち帰って利用。テレワーク端末へのデータ保存が可能。
リモートデスクトップや仮想デスクトップ、クラウド型アプリのいずれも情報通信ネットワークのセキュリティは確保されますが、初期費用を抑えられるのはリモートデスクトップやクラウド型アプリです。
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6.セキュリティ対策の実施
近年のサイバー攻撃被害の増加に伴い、テレワーク環境
下でも情報資産を守るための適切なセキュリティ対策が求められます。ここではテレワーク導入にあたって、企業が事前に準備できるセキュリティ対策について解説します。
- ■端末管理を徹底する
- MDMによるモバイル端末の一元管理、テレワーク用端末の支給
- ■セキュリティソフトを導入する
- IPS(侵入防止システム)・IDS(侵入検知システム)などの導入
- ■アクセス制御を行う
- ファイアウォールによるアクセス制御、IPアドレスの制限、不要ポートの閉鎖
- ■アカウント・認証管理を強化する
- 多要素認証の設定、パスワードの使いまわし禁止
- ■ログ管理を行う
- 不審なログに対するアラート設定
また、クラウドサービスの大規模障害が度々発生しています。複数環境にバックアップを保管しておく、よりセキュリティの高い製品を利用するなど、クラウドサービスの依存度に応じた対策が必要でしょう
参考:テレワークセキュリティガイドライン(第5版)|総務省
7.テレワークの導入・評価
最後に、導入による効果を測定する方法について2つ紹介します。
量的評価
定量評価項目には以下のようなものがあります。
- ●顧客対応(顧客対応回数、時間)
- ●情報処理(伝票などの処理件数、企画書の作成件数など)
- ●残業時間(テレワーク対象者とオフィス勤務社員で比較)
- ●オフィスコスト(賃貸料、電気代など)
- ●移動コスト(移動時間、通勤・出張コスト)
- ●情報通信コスト(情報システム保守費用、通信費用)
- ●人材確保(入社応募者数・質、離職率)
これらを評価の基準にして改善しましょう。
質的評価
定性評価項目には以下のものがあります。
- ●業務改善(知識・情報の共有など)
- ●成果・業績(業績評価の向上など)
- ●コミュニケーション(質や頻度)
- ●情報セキュリティ意識の徹底度
- ●業務の自律性
- ●働き方の質(仕事や働き方・会社に対する満足度、通勤疲労度)
- ●生活の質(ワーク・ライフ・バランスの実現)
これらを参考に、導入効果を見てみましょう。
テレワーク導入時の3つのポイント
テレワークを導入する際に気をつける点について紹介します。
1.システム導入時にセキュリティを確認する
ICT環境を整える際に情報通信システムを導入しますが、セキュリティを考慮しましょう。システムによって搭載されているセキュリティ機能が異なるので、自社のセキュリティポリシーとの適合性をチェックする必要があります。
2.テレワーク先の経費に関して取り決めをしておく
テレワーク先でかかる通信費や光熱費の負担に関しては原則会社負担ですが、事前に会社とテレワーカーとの間で取り決めを結びましょう。
また、そのような取り決めはテレワーカーだけでなく全社員に共有すべきです。なぜならテレワーカーとオフィスワーカーが共同作業する際に、認識のズレが起きる可能性も否めないからです。
3.助成金を申請する
中小企業の場合、テレワーク導入時に助成金を得られるケースがあります。テレワークの実施により、労働者の人材確保や雇用管理改善などの一定の効果をあげた中小企業事業主に対し支援を行う「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」や、ITツールを導入する企業向けのIT導入補助金などがあります。ぜひ有効活用しましょう。
参考:人材確保等支援助成金(テレワークコース)|厚生労働省
参考:IT導入補助金2021| 一般社団法人 サービスデザイン推進協議会
テレワークを導入して、業務効率化を!
今回は、テレワークの導入プロセスをまとめました。テレワークの推進は社内の複数部署が関係するため調整に時間を要することもありますが、目的を明確にしてスモールスタートで一部の部署から進めてみるのもよいでしょう。
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、テレワークは今後も普及していく見込みです。この機会にぜひテレワーク導入を検討しましょう。