ERP移行におけるニーズの変遷
ERPが登場したのは1990年代半ばのことです。当初は、ERPには既存システムの機能をすべて搭載していることが求められていました。ERPに移行することで、何か損なわれる機能があってはいけないという考え方が前提となっていました。
しかし、近年ではこの考え方が変わってきています。従来の機能を踏襲するよりも、これからの時代に求められる機能へのニーズが高まってきました。具体的には、「未来志向型」などと呼ばれており、企業の成長や今後遭遇しうるリスクに柔軟に対応できることが重視されつつあります。
ERP移行に求められる企業の変革意識
ERP移行で業務の改善を目指す際に意識したいのがDXです。DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」のことで、企業のビジネススタイルをデジタル思考型に変革することを指します。単にERP移行を実施しても、根本的な改善にはつながりません。企業文化そのものを見直し、積極的に業務を変革することが大切です。
また、この変革は2025年までに進めておく必要があります。2025年を境にIT人材の引退やサポート終了などに伴って、老朽化したシステムが大きな経済損失をもたらすと予想されているためです。現状を維持し続けることが困難な以上、新たなビジネススタイルへの適応を急がなければなりません。
ERP移行で失敗しないための実践ガイド
ERP移行を成功させるには、移行計画の立て方や製品選定、グループ全体での導入戦略など、実務レベルでの検討が不可欠です。このセクションでは、実際に企業が移行を進める際に役立つ具体的な進め方や注意点を紹介します。
全社統合型システムの構築を見据える
ERP移行は、単なるソフトウェア更新にとどまらず、全社的な情報統合を実現するチャンスでもあります。迅速な意思決定や業務の可視化を実現するには、部門や拠点ごとに分断されていた情報を統合し、一元的に管理できる体制づくりが重要です。また、子会社・グループ会社との連携を強化するうえでも、統合型システムの整備は大きな意味を持ちます。
とはいえ、本社の基幹システムをすぐに刷新するのが難しいケースもあります。そうした場合は、2層ERPという段階的な導入方法が有効です。2層ERPとは、本社には既存のERPを残しつつ、子会社・グループ会社にクラウド型ERPを導入して連携させる構成です。これにより、既存システムへの影響を抑えつつ、グループ全体の統合を図ることが可能です。
クラウドERPを活用した柔軟な展開
2層構成に限らず、全社的にクラウドERPへ刷新する選択肢もあります。クラウド型なら、システムの導入が比較的容易で、インフラ構築の手間もかからず、迅速な展開が可能です。また、遠隔地や複数拠点への導入にも柔軟に対応できる点が実務上の大きなメリットです。
さらに、クラウド型ERPは保守・運用面でも優れています。ハードウェアの管理やバージョンアップはベンダーが担うため、社内のITリソースを抑えながら、常に最新状態を維持できます。結果として、コスト面でも効率的で、運用負担を大幅に軽減できます。
以下の記事では、最新のおすすめクラウドERPについて比較紹介しています。
ERP移行時のデータ移行と変更管理のポイント
ERP移行では、既存の基幹システムからのデータ移行は避けて通れない重要なプロセスです。大量の業務データを新しいERP環境に正確かつ安全に引き継ぐためには、事前の準備と工程管理が欠かせません。また、システム入れ替え後の運用定着を見据えた変更管理ルールの構築も、失敗を防ぐうえで重要です。以下に、現場で実践すべき具体的なポイントを整理します。
- ●データの移行範囲と項目を事前に定義する
- ●不要・重複データを整理し、移行対象を精査する
- ●マスタデータの形式統一とクレンジングを実施する
- ●移行作業のテストと検証フローを複数回行う
- ●運用開始後の変更申請・承認ルールを設ける
- ●業務プロセス変更に伴う教育とマニュアル整備を実施する
以下の記事では、最新のおすすめERPを比較紹介しています。これらのポイントを踏まえたうえで、参考にしてみてください。
ERP移行で実現した業務改善の具体例
ここでは、従来の業務システムに課題を抱えていた企業が、ERP移行を通じて業務改善を実現した具体的な取り組みを紹介します。
医薬品の輸入販売を行う企業では、従来の業務システムが一部の利用者に最適化されすぎており、他の従業員が情報を活用しにくいという課題を抱えていました。その結果、経営判断が遅れる場面もあったといいます。こうした状況を改善するためにクラウド型の統一システムを導入したところ、営業・会計などの業務データを社内で横断的に活用できるようになり、全社的な業務効率化につながったとされています。
マーケティング系の企業では、顧客ニーズの多様化に既存システムが対応しきれず、情報連携が分断されているという問題がありました。これを受けて、組織全体の情報を一元管理できるクラウドERPを導入。結果的に、部門間でのデータ共有がスムーズになり、正確な情報に基づいた会議や意思決定が行えるようになったとされています。
ERP移行を成功させ、時代の変化に合わせた事業運営をしよう
従来のERPでは既存システムの機能を維持することが重要視されていました。しかし、近年は今後のビジネス環境に対応できる柔軟性が求められています。ERP移行に失敗しないためには以下の点に留意しましょう。
- ■統合型システムの構築
- ■クラウドERPの導入
また、システムの移行に伴って業務そのものを変革することも大切です。以上を踏まえ、時代に則した事業運営を目指しましょう。



