HRテックとは?
人事(HR)テクノロジーとは、採用・育成・評価・勤怠管理など人事業務全般をデジタル化し、効率化や高度化を支援する仕組みを指します。市場規模は拡大を続けており、IMARCグループの調査によれば、世界のHRテクノロジー市場は2024年に360億米ドルと評価され、2033年には696億米ドルへ達すると予測されています。2025年から2033年にかけての年平均成長率(CAGR)は7.6%と堅調な伸びを示しています。
参考:人事(HR)テクノロジー市場規模、シェア、トレンド、予測:アプリケーション、タイプ、最終用途産業、企業規模、地域別、2025~2033年場:|IMARC
HRテックの定義
HRテックは造語であり、HR(人事)とテクノロジー(技術)を組み合わせたものです。主に、企業における人事や人的資源管理領域のテクノロジーの総称として使われています。社員情報を管理する人事情報システム(HRIS:HR information system)から、採用支援、従業員調査、勤怠管理など、人事領域に関連するITを用いたツールのすべてが含まれています。
HRテックが普及した背景
HRテックが普及した背景には、不確実性の高い時代における人事のあり方の変化とITの進化があります。
1990年代から多くの企業でグローバル化が進み、人事の業務範囲は国内から世界へと変化しました。2000年代には企業はリーマンショックやITバブル崩壊を経験。不確実性の高い時代に突入しました。
さらに近年では、SNSなどIT技術の発達とともに育ったミレニアム世代が、企業のメインプレーヤーを担う段階へと成長しています。ミレニアム世代は一般的に、働く目的を重視します。そのため、職場でやりがいを感じられなければすぐに他の企業へ転職してしまうのです。
最近では企業でも、仕事のやりがいや働くことで得られる経験の質を重視するようになっています。
こうした人事業務の広範囲化や人事課題の変化、そしてITの発達によりHRテックは普及を続けているのです。
HRテックで人事はどう変わるのか
HRテックという言葉は一種のバズワードになっています。実際に人事業務へHRテックを活用することはどのような意味があるのでしょうか。
業務の高度化
HRテックで特に有用性の高い機能の1つに、ビッグデータの収集と解析があげられます。企業内部や人事部には人材に関する多くのデータが存在しています。散乱したデータを1か所に集めるのは困難でしたが、HRテックを導入すると情報を集約して瞬時に解析することが可能 です。
こうしたデータ分析により、人事部の業務は人材の管理から課題解決へと進化できるのです。
業務の効率化
HRテックには勤怠管理システムや採用管理ツールも含まれます。人事部では面接の日程調整やタイムカードの整理など付加価値の低い事務作業に追われがちでしたが、そうした作業を自動化します。事務作業を効率化できれば、残業時間の削減につながるでしょう。
人事部の縮小
HRテックを導入すると、少ない人員で人事部を運営できます。HRテックのツールにより自動化や簡素化を進めることで、これまで人の手で行ってきた定型作業を削減できるでしょう。業務削減に成功すれば大規模な人事部は不要となり、少数精鋭の人員で小規模な人事部を運営できるようになるのです。
HRテックが採用される領域
アメリカのコンサルティング会社であるPwC社の調査によると、さまざまな人事課題における意思決定をHRテックが支援していることが明らかになっています。HRテックは、どういった課題に対してどのような支援を行っているのでしょうか。
採用と定着管理
PwCの調査によると、HRテクノロジーの導入は採用と定着管理の領域で特に進んでいます。採用面では、SNSや外部データを活用して条件に合致する人材を自動で抽出し、スカウトメールを送るサービスが登場しており、従来よりも効率的かつ精度の高いマッチングが可能です。
定着管理では、従業員のメンタル状態やエンゲージメントを可視化し、早期離職を未然に防ぐ仕組みが広がっています。実際にグローバル調査では82%の企業が「HRテクノロジーは従業員エクスペリエンス(EX)の向上に寄与する」と回答した一方、日本では24%にとどまっており、今後の伸びしろが大きい分野といえるでしょう。
参考:HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ2024|PwC
労務管理
現代の労務管理は、単なる勤怠管理や社員情報の管理だけではなくなってきています。組織心理学の研究が進んだことで、いかに組織生産性を高め、企業業績を上げるかが現代の人事部の仕事になっているのです。
そのため労務管理においては、エンゲージメントや従業員体験(エンプロイー・エクスペリエンス)を高めることを目的として、HRテックが導入されています。
育成と配置
人材の配置やスキルによって業績が左右されます。しかし、現場ではこうした事実に気づかずに、上司の勘と経験や好みで配置が行われがちです。
HRテックを導入することで、各人材のスキルやパフォーマンスを見える化し、どこにどの人材を配置すればよいのかを的確に判断できるようになります。また、どの人材に対してどのようなスキルを習得してもらえばよいかも明らかになります。
組織開発
チームの生産性を左右するのは、チームの人間関係です。信頼し合い、率直に話すことのできる関係が生産性の高いチームをつくります。
HRテックの中にはアンケートやウェアラブル端末を活用して、チームの関係性を明らかにするツールが存在しています。組織の状態を向上させる組織開発にも、HRテックは有用な手段となりつつあるのです。
HRテックの選び方
ここまでご紹介したように、HRテックにはさまざまな領域における多種多様なツールが存在しています。そこで、どのようにHRテックツールを導入すればよいのかを解説します。
まず、HRテックはなんでもできる「魔法の杖」ではないことを理解しましょう。最新のツールがあると、すべてがそのツールで解決できそうに思えるものです。しかし、ツールはあくまでも何かを解決する手段でしかありません。
どのような課題を解決したいのかを考え、課題を最も解決できるツールを選びます。多くのHRテックツールトライアルができるようになっていますので、複数の製品を比較しながら最適なツールを選びましょう。
まとめ
人事課題の変化とITの進化により、HRテックはますます企業への導入が広がっています。HRテックは便利な反面、なんでも解決してくれる魔法の杖ではありません。テクノロジーはあくまでも手段です。HRテックに使われるのではなく、HRテックを目的に応じて使いこなすことが大事です。
自社の人事課題が何かを検討したうえで、どのようなツールであれば課題を解決できるのかを考えましょう。



