モチベーションとは?
よく「モチベーションが上がらない」と言う人がいます。やる気が出ないこととはどう違うのでしょうか。ここからは、モチベーションの意味と定義を解説します。
欲求を満たすための持続的な心構えと行動
モチベーションは日本では「動機づけ」と訳されます。経営学や心理学では、何かを達成する意志とそれに基づく行動によって何らかの欲求を満たそうとする、という意味です。ちなみに欲求とは、物理的、精神的に満たされていない状態を意味します。何らかの欲求が満たされていないからこそ、人はその欲求を満たそうと考え行動するのです。
同じような言葉に「やる気」があります。やる気は欲求を満たそうとする瞬間的な気持ちであるのに対し、モチベーションは将来に向けて欲求を満たそうとする持続的な心構えと行動を意味しています。
エンゲージメントやロイヤリティとは意味が違う
モチベーションとよく同じ場面で議論されているのが、エンゲージメントとロイヤリティです。
エンゲージメントは、学術的にはワーク・エンゲージメントと呼ばれ、働く人が自ら進んで熱意をもって仕事に没頭している度合いと定義されています。一方、ロイヤリティは日本語で忠誠心と訳されます。ロイヤリティは、従業員が自分が所属する会社への忠誠度を表したものです。
モチベーションは欲求を満たすための持続的な心構えと行動ですので、エンゲージメントやロイヤリティと全く異なる概念であることがわかるでしょう。
企業におけるモチベーションとは?
企業におけるモチベーションの研究は、1950年代から始まりました。70年も前に取り組まれた研究であるにもかかわらず、いまだに組織マネジメントの現場では強く信じられている理論が存在します。
人事で使われる基本的な理論
人事領域でよく使われている代表的かつ基本的な理論として、2つの理論があります。ひとつはハーズバーグの2要因理論、そしてもう一つはマズローの5段階説です。
ハーズバーグの2要因理論
アメリカの臨床心理学者のハーズバーグは、人が仕事で満足感や不満足感を感じるのはどのようなときなのかを研究し、2要因理論にまとめました。
この研究で明らかになったことは、満足感を高める要因(動機付け要因)と不満足感を高める要因(衛生要因)は別のものであるということです。つまりモチベーションを考えるうえでは、この2つの要因を分けて考える必要があります。
もしあなたがマネージャーであるなら、部下の仕事への満足感を高める要因だけに気を配るのではなく、不満足感を高める要因にも注意しなければなりません。
満足感を高める要因としては、昇進の機会、個人の成長の機会、表彰、達成感が挙げられています。一方で、不満足感を高めるのは、管理者の質、給与、会社の方針、職場の物理的な環境、人間関係とされています。
マズローの欲求5段階説
もう一つ、モチベーションにおいてとても有名な理論が欲求5段階説です。エイブラハム・マズローは、人間の心には5段階の欲求があることを仮説立てました。
- 1.生理的欲求
- 空腹などの肉体的な欲求
- 2.安全的欲求
- 物理的・精神的な障害からの保護と安全を求める欲求
- 3.社会的欲求
- 愛情、友情など他者とのかかわりを求める欲求
- 4.自尊(承認)欲求
- 達成感や地位、周りから認められることを求める欲求
- 5.自己実現欲求
- 自分がなりたいものになる、成長するという欲求
1~5の欲求は、1の欲求が満たされると2の段階の欲求が優勢になるといったように、段階的に満たされていくものとされました。マズローは、一度、下の段階の欲求が満たされれば、その欲求に対する動機付けは不要になると主張しています。マズローの欲求5段階説は、現代のモチベーション管理の考え方として広く受け入れられています。
社員の欲求や文化がモチベーションに影響する
モチベーションは欲求を満たそうとすることであり、企業においては社員がどのような欲求を持っているかによってモチベーションが左右されます。また、その人の国の文化がモチベーションに影響を与えることもあると、研究者から指摘されています。
現代のモチベーション理論は、アメリカ人がアメリカの考え方をもとに考えたものです。アメリカは個人主義の文化が強いため、自己実現への欲求が高いと考えられます。たとえば日本では、安全性や他社とのつながりの方が他の欲求よりも優先されるかもしれません。
このように、理論をそのまま当てはめるのではなく、理論を踏まえたうえで自社の社員がどんな欲求を優先しているのか考えることが重要なのです。
社員のモチベーションが下がるとどうなるのか?
ここまでモチベーションの概念について説明してきました。では、実際に社員のモチベーションが下がると、企業ではどんなことが起こるのでしょうか。
生産性の低下
モチベーションは「欲求を満たそうとする行為」ですので、そもそも欲求が起きなければモチベーションは高まりません。働くことも何らかの欲求を満たすために行っているはずです。もし社員の欲求が高まらなければ、働こうという気持ちになれず、生産性が低下する可能性が考えられます。
離職の増加
もう一つの視点として離職の増加が考えられます。ただし、離職の増加はモチベーションの高いときにも起こり得ます。なぜなら、モチベーションは欲求を満たそうとする行為であるため、今いる職場で欲求を満たせない場合は他の職場へと転職していくでしょう。
反対にモチベーションが低い状態では、仕事そのものをやる意欲がなくなり、退職する可能性が考えられます。
社員のモチベーションを上げる方法
もし、社員のモチベーションが下がってしまった場合、どうすれば上げることができるのでしょうか。この命題についてこれまで多くの研究者たちが研究してきました。
ギリギリ達成できる目標を設定する
仕事上でモチベーションを高める有効な方法の一つが、ギリギリ達成できる目標を設定することです。人には達成意欲があるため、簡単に達成できる目標を設定するよりも少し難しい目標を設定した方が最も意欲が高まります。これは経営学の中でも目標設定理論として定義され、かなりの裏付けのあるモチベーション向上方法として知られています。
お金だけではなく、やりがいのある仕事を与える
お金には一定程度モチベーションを向上させる効果があります。しかし、ある程度のラインを超えるとお金ではモチベーションを向上できなくなることが、研究者によって実証されています。また、マズローの5段階欲求説に当てはめてみても、生活に困らず安全性の高い生活を送ることができれば、自己実現などの欲求が高まります。
モチベーションを向上させたい社員がお金の面である程度満足しているのであれば、本人が達成感の得られる仕事を与えてモチベーションを上げましょう。
褒めると叱るを組み合わせて指導する
行動分析学で、人は何かのメリットがあるから行動することが明らかにされています。反対にデメリットがあると行動しなくなる場合もあります。
そのため、社員や部下に何かしてほしい行動があれば、その行動をしたときに思い切り褒め、反対にしてほしくない行動をした場合は強く叱ることで行動をコントロールできます。この強化理論を応用すれば、「褒められること」を欲求として設定し、モチベーションを向上させることが可能と考えられます。
まとめ
モチベーションは欲求を満たそうとすることを意味します。企業において社員のモチベーション向上させることは、生産性を高めて離職を防止するうえで重要なポイントです。
一方で、モチベーションを高めることは簡単ではありません。あえてギリギリ達成できる目標を設定する、褒める叱るを組み合わせて指導するなど、上司が部下と向き合って部下が望むことは何か把握することが重要です。
最近はモチベーションやエンゲージメントを可視化するツールがたくさんありますが、ツールだけではモチベーションは上がりません。人を相手にするからこそ、最後は人と人との向き合いが大切なのです。