人事考課とは(目的と意味)
人事考課とは、社員の業務における成果や活動進捗を業績、能力といった評価基準をもとに査定することを指します。
人事考課の目的と意味について詳しく説明します。
人事考課の目的
人事考課は主として賃金査定や人事異動の判断材料として使われます。以下に人事考課の目的や導入効果をまとめました。
- ■企業の方向性を示し、従業員に求めるものを明確にする
- 人事考課により企業が求める従業員の行動規範や目標指針を明らかにすることで、企業と各従業員が同じ目標をもって業務を進められるようになる。また、目標が明確だと給与査定の明確な根拠も示しやすい。
- ■従業員満足度やモチベーションをあげる
- 公正な評価にもとづき適切な給与や役職が与えられれば、従業員の企業満足度が高まり、貢献度の拡大が期待できる。結果として企業の生産性向上につながる。
- ■従業員の能力開発に活かす
- 客観的評価により、従業員の適性や業務における課題などがわかる。これらのデータを社内の人材開発計画に活かしたり、フィードバックや面談を通じて自主的なスキル向上が期待されたりする。
人事考課の意味
人事考課には、適切な人事処遇を実現するという意味があります。
人事考課は、企業で定めた基準に基づいて従業員の実績や業務態度、能力などを評価する制度です。一定期間の従業員の成果や取り組みを定期的に評価し、給与やボーナス、等級などを決める人事査定の判断材料とするため、重要な意味があります。
人事考課と人事評価の違いとは
人事評価とは、一般的に四半期、半年、1年間などの期間の中で、企業が従業員の実績や能力などを評価し可視化することをいいます。実は人事考課と人事評価に明確な違いはなく、同義として扱っている企業も多いです。厳密には、人事制度を構成する一部である人事評価のうち、給与査定などに重きをおいたより狭義な人事評価を人事考課といいます。
人事考課の3つの評価項目
人事考課を行なう際には、人事評価のための3つの評価項目を用います。近年の傾向とあわせて詳しく紹介します。
1.成果(業績)考課
業績考課とは、業績や活動の実績にもとづく評価のことで、わかりやすくいえば「目標をどの程度達成できたか」です。営業職や製造ラインなどであれば、売上や生産量に基づいた定量的な評価が行われるでしょう。一方で医療業界など数字と成果を明確に示せない場合には、定性的な指標を使うこともあります。その場合は、評価指標としては活動数や活動内容にもとづき設定されるでしょう。
なお、現在は目標管理制度(MBO)が代替している場合も多いです。この場合、自身で目標を設定し、自主的な成長を促します。
2.能力考課
能力考課とは、業務を遂行する上で必要な知識、スキルや能力をどの程度身につけているか評価することです。専門性の高い業務であれば、その技術の習得度について評価します。また、役職や役割に応じてリーダーシップやチームマネジメントも求められる場合には、その能力についても評価の対象となります。
能力考課については、客観的な視点で判断を行うために、技能や求めるスキルについて、チェック項目を用意して評価を行うことが多いです。そのほか、近年では、模範となる成績優秀者の行動特性を評価基準とするコンテンピシー評価を導入する企業も増えています。
3.態度(情意)考課
態度(情意)考課とは、勤務の態度や業務への姿勢など、個人の性質に対する評価のことです。他者によい影響を与えるようなモチベーションの高さや、チーム内での強調性を重んじて円滑に業務を進める特性などを評価します。数値で表すことが難しい指標であるため、評価者の主観に左右されやすいのが特徴です。そのため近年では360度評価によって、同僚や上司部下からなど多角的な評価方法が採用されています。
3つの評価項目についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
人事考課の歴史的変遷
人事考課は、企業で働く人を対象とする評価のため、市場の状況や景気によって、変化してきました。ここでは、戦後から現在に至るまでの、主な変化をまとめます。
年功序列制度から職務等級制度への移行(1950年代~1970年代)
戦後、生活給的な賃金体系を基本としながら学歴別賃金の制度が一般化してきた後、日本経済のデフレを受けて、安定的な昇給制度を提唱しました。これを背景に「年功序列」の人事考課制度が確立されたといわれています。その後、高度成長期によって、労働力不足、賃金上昇が起こり、企業は仕事だけで賃金や働きを評価する等級制度として「職務等級制度」に移行します。
職務等級制度から職能資格制度への移行(1970年代)
職務等級制度には、人事異動で職務が変更になると賃金体系も変更となり、場合によっては賃金が下がってしまうなど弾力性に乏しいという課題がありました。そこで、企業では職務等級制度に代わり、新たに「職能資格制度」という人事評価制度の導入が広がりました。これは職務を遂行するのに必要な能力(職務遂行能力)の大きさなどに応じて等級を区分する制度です。人事異動や職務の変更に対応できて柔軟性がある、ゼネラリスト育成に適しているなどのメリットがありました。
成果主義の導入時代(1980年代~2000年代)
1986年に、いわゆる「男女雇用機会均等法」が施行されたことを契機に「職群制度」と呼ばれる人事評価制度が企業で盛んに採用されるようになりました。職群制度とは、期待する役割と職務範囲などを区分して処遇する制度です。この制度は、当時、一般的だった「総合職」と「一般職」で活用されました。
90年代には、バブル経済が崩壊し、経済が低迷していたことも伴って、多くの企業が業績の回復と向上を目指して、米国型の「成果主義人事制度」を導入していきます。成果主義人事制度は、従業員の職務を決め、その達成度合いを成果として評価し賃金に反映させるというものです。導入当初には、人件費の削減目的だけで導入するといった誤った運用や人事担当者などの理解不足などで、思うような成果を得られない企業もあったといわれています。
目標管理制度の導入(2000年代~現在)
成果主義人事制度が浸透し、制度で個人の成果・業績に応じた処遇をするために、個々の成果を明確にして評価する必要性が生じた結果、目標管理制度が進みました。この制度は個人目標と組織目標の統合を図る手法で「MBO」と略されます。企業から目標を与えるのではなく、従業員が自ら目標設定を行い、上司との面談を通して修正などを行って設定し、それに対する達成度合いで評価が決まります。
目標や難易度設定が困難だったり、部門間のバラつきがあったりするなど、制度の運用が難しい面があり、導入後にさまざまな課題を抱えている企業は少なくありません。そのため、最近ではOKRなどの導入も進み、個人の目標と会社の目標をリンクさせ、組織力の向上に注力する人事制度を組み合わせている企業も多くなってきています。
MBOやOKRについてはこちらで紹介しています。
人事考課制度の作り方、具体的な方法と手順
実際に人事考課制度を導入する際には、作り方や手順にポイントがあります。
人事考課制度の作り方、具体的な方法と手順に分けて詳しく解説していきます。
人事考課制度の作り方のポイント
人事考課制度を作り方には、以下の5つのポイントがあります。
- ■Whats:評価の対象
- 能力評価、情意(態度)評価、成績評価
- ■How:評価点の定め方、集計方法
- 具体的な評価を表す言葉、5段階評価など
- ■Who:評価を行う人
- 直属の上司、2次評価・3次評価を取り入れるか
- ■When:評価の期間
- 情意評価・成績評価は半年に1回、能力評価は年1回など
- ■Why:評価結果の活用
- 昇給・昇格、ボーナス(賞与)、配置・異動、能力開発など
人事評価の具体的な方法と手順
人事考課の具体的な方法と手順は次の4つのステップです。
- 1.目標設定
- 会社や部署の目標やビジョンの達成と、個人の業務スキル向上に必要な個人の定量目標、定性目標を決定します。被評価者本人が納得できる目標であることが必要です。
- 2.業務の遂行
- 区切られた期間の中で、業務を遂行します。評価の実施前に中間レビューを行い、進捗の管理や問題点について確認することもあります。
- 3.評価の実施
- 四半期や半年など、期の節目に評価を行うことが一般的です。
- 4.フィードバック
- 評価の後は、被評価者に対して、面談等でのフィードバックを行うことが重要です。数値的な評価だけではなく具体的な改善ポイントなども伝える事によって、被評価者は結果に納得して次期の業務でも前向きに取り組めるでしょう。
目標を設定して終わりではなく、評価、フィードバックまで行い、また次の目標設定に活かしていくというサイクルを回していくことが重要です。
人事考課の書き方
人事考課を行う際に、人事考課をどのように書いたらよいかわからない人もいるでしょう。評価者の管理職と評価される部下の両方の立場でポイントを紹介します。
管理職側の人事考課の書き方のポイントは、以下の4つが挙げられます。
- ・本人の将来にプラスになる表現で評価する
- ・成果は具体的な数字などで記載する
- ・抽象的な表現を避け、シンプルで短くまとめる
- ・本人が退職するまで記録に残るという認識を持って記載する
評価する側は、自身の評価が本人の昇給・昇格など今後に大きく影響を与えることを意識して、出来るだけ前向きに評価するようにしましょう。
評価される部下の書き方のポイントは、以下の2つが挙げられます。
- ・達成できた人事考課目標は大きくアピールする
- ・基本的に断定口調で記載する
評価される側の人事考課は前向きに書くことがポイントです。
人事考課を運用する際の注意すべき点
人事考課では、評価、フィードバックの段階で、評価される側に不満が募ることがあります。モチベーションの低下や、最悪の場合離職者が増えてしまう可能性もあるでしょう。また評価者の負担も大きく人事評価のエラーが取り沙汰されることから、「人事考課は意味がない」などと揶揄する声も少なからず聞かれます。
人事評価エラーには以下の11種類があります。
- ・ハロー効果
- ・中心化傾向
- ・極端化傾向
- ・寛大化傾向
- ・厳格化傾向
- ・逆算化傾向
- ・論理誤差
- ・対比誤差
- ・親近効果
- ・期末誤差
- ・アンカリング
人事考課は人が行うもののため、上記のような心理的な要因によって人事評価エラーが発生しトラブルに発展することもあります。
こちらの記事でも、人事評価エラーについて解説しているのであわせてご覧ください。
人事考課のメリット
人事考課のメリットは、以下の2つが挙げられます。
- ・従業員と企業が双方の理解を深められる
- ・モチベーションとロイヤリティを向上できる
人事考課は組織が人的資本を効果的に活用するために不可欠な情報収集の機会になり、従業員にとっては組織の方針や価値観を再確認する機会になります。それにより、従業員のモチベーションや組織に対するロイヤリティを向上でき、生産性の向上などが期待できることがメリットです。
人事考課のデメリット
人事考課のデメリットは、以下の3つが挙げられます。
- ・適切な運用にコストを要する
- ・適切な評価が行われないと従業員の不満に繋がる
- ・人材開発の視野が狭まる可能性がある
適切に人事考課を運用するためには、人事考課制度の作成や実施に多くの時間的・人的コストを要します。また、適切に評価が行われなかった場合は従業員の不満に繋がり、モチベーションを下げる結果となります。評価基準に沿った人材以外の評価が難しいことで人材開発の視野が狭まる可能性もあり、人事考課の運用にはしっかりとポイントを押さえることが必要です。
人事考課を成功させるためのポイント
人事考課における注意点を知ったところで、ここからはその具体的な対策法について詳しく解説します。
評価基準を明確にする
人事考課で最も重要なことは公平な評価をすることです。評価者の無意識な評価エラーを防ぐためにも、企業全体で人事考課の具体的な評価基準を決め、その基準をもとに客観的事実にもとづき人事考課を行いましょう。
職務行動のみ評価する
人事考課では業務のみに対して評価を行います。仕事以外の行動(プライベート・就業後の行動)は評価対象になりません。仕事帰りの飲み会での粗相や、プライベートでの仲良良さは人事考課の評価に入れてはいけません。
面談(フィードバック)でコミュニケーションをとる
よりよい人事考課にするためには、業務に支障が出ない範囲でミーティングを行いコミュニケーションを取ることです。人事考課は年間に数回ありますが、その期間内に課題を改善できるようにチームで動くことが重要です。
評価者向けに研修を行なう
人事考課の目的や評価基準、評価方法について評価者に正しく理解してもらわないと評価エラーが起こる原因になります。定期的な研修を行い、評価者がスムーズかつ公正に評価できる体制を作りましょう。
人事考課を行うには人事考課システムが便利
人事考課を行っていくには、専用のシステムを利用するのが便利です。
人事考課の実際の運用場面では、多くの場合「人事考課シート」と呼ばれる帳票を利用し、評価決定までのプロセスや評価者のコメント、最終評価を管理します。人事考課システムでは人事考課シートなどの煩雑なプロセスを効率的・効果的に行うことが可能です。
また、人事考課システムを利用することで評価エラーを防ぎ、MBO評価、360度評価など組織に合わせた人事評価制度を効率的に使用できます。人事考課・人事評価システムの最新人気ランキングから、どのような製品があるか比較してみてはいかがでしょうか。
人事考課を理解して公正な人事評価制度を構築しよう
人事考課を適切に行なうことは、従業員のモチベーション向上や能力開発に役立ちます。人事考課の概要や人事評価との違いを理解し、人事評価システムも活用しながら社内で公正な人事考課を行いましょう。