給与計算の内製化とは?
内製化とは、自社のリソースのみで対象の業務を行うことです。つまり給与計算の内製化は、給与計算における作業を自社の従業員が担当することを指します。予算や時間コストを削減できるため、特に中小企業やベンチャー企業では内製化を推奨している場合が多いでしょう。
給与計算の内製化は必ず実施すべきか
上述したように、内製化にはコストの面におけるメリットがあります。しかし、給与計算においては業務の専門性や正確性の観点で、必ずしも内製化が適しているということでもありません。あくまで内製化によるメリットが多いという前提ではあるものの、外注することで給与計算に関するミスやトラブルが軽減できる場合もあるでしょう。したがって給与計算の内製化は必須ではなく、場合によっては専門の人材を用意すべき領域であることを覚えておく必要があります。
給与計算を内製化するメリットは?
給与計算に限らず、さまざまな業務を内製化する最大のメリットは、技術の継承です。給与計算についてアウトソーシングした場合、これまで社内で培われたテクニックのほか、法律や税務などの知識もアップデートされなくなってしまいます。内製化した場合、これらの各種知識は会社のアセットとして蓄積されていきます。
矢野経済研究所が2015年に発表した調査結果によると、国内企業で給与計算をアウトソースしている企業は2割程度にとどまっているのが現状です。日本企業は情報漏えいリスクに対する警戒心が強く、高レベルの個人情報となる給与や人事の情報を外部に提供することを避けてきたためでしょう。給与計算を内製化することで、情報漏えいのリスクが低下すると考えられます。
また、社内での意思疎通も問題です。社内ならば、気になることがあれば「あの件だけど、どうなっている?」と担当者に直接確認できます。しかし、外部企業にアウトソーシングするとなるとそうはいきません。情報伝達のスピードという点も、内製化のメリットといえます。
給与計算を内製化する場合の作業
給与計算を内製化した場合、具体的にはどんな作業が必要になるのでしょうか。
まず、社員全員分の勤怠情報を集計します。紙のタイムカードや勤怠簿を使用している企業なら、集計のためにデータを打ち込むところから始まります。複数の営業所や店舗がある場合では、タイムカードを期日までに回収するだけでも大変です。
さらに、「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」の支給のためには、残業時間や有給休暇の取得状況なども調べる必要があります。
次に給与から「健康保険料」、「厚生年金保険料」、「介護保険料(40歳以上65歳未満の従業員のみ)」、及び「雇用保険料」の従業員負担分を計算して控除します。
これら労務関連法規や制度は毎年のように改定されるため、最新情報にアップデートするだけでも大変です。そのたびに、給与計算ソフトを変更する必要も発生し、システムの運用・保守の費用もかさみます。
こうして給与額が決定したら給与明細を作成し、紙で支給している場合は印刷します。
給与計算内製化の課題
給与計算は、決められた期日までに必ず作業を済ませなくてはならないため、時間と正確性が必要になります。コア業務に経営資源を集中させるため、アウトソーシングを考えている企業も少なくないでしょう。
給与計算は煩雑な作業が重なる一方で、誰がやっても同じ結果が出る定型業務です。賃金の正確な支払いは労働契約の根本をなすものであり、給与計算を間違えて給与が支給される場合や、期限までに給与が支払われなければ社員や社会からの信頼を大きく損ないます。
そのため給与計算を担当していた総務・経理の社員が不意の病気療養や産休・育休・介護休暇などで不在になっても決して穴をあけるわけにはいきません。給与計算が属人的な業務となっていると、いざというときのリスクに対応できなくなります。
給与計算業務は年末などに繁忙期が発生するため、パート社員や派遣社員で雇用を調整している企業もあるでしょう。
しかし昨今の情報漏えい事故を見ると、非正規社員が社内の重要情報にアクセスしていたことで機密情報を漏えいしたケースもあります。情報漏えいを恐れて内製化するなら、そうしたリスクも念頭に置くべきです。
給与計算のアウトソースに向く企業と向かない企業
給与計算をアウトソーシングしたほうがよい企業は、中小企業や立ち上げたばかりのベンチャー企業など、人事制度が未成熟でそれほど規模も大きくない企業です。
総務・経理担当の社員がほかの業務を担当しながら給与計算も担当しているような場合、アウトソーシングを利用することで、担当者の能力をほかの重要な業務に振り分けられます。
また、そうした企業では総務・経理担当の社員の数も少ないので、突然の休職リスクにも備えることが可能です。
一方、数千人規模の大企業であれば、経理部門専門の社員を雇う余裕が生まれるので、内製化も可能です。規模が大きい企業になると、アウトソースする場合でもそれなりの費用がかかります。そのため、社員を1人雇うのとそれほどコストが変わらない可能性もあるでしょう。
自社内で給与計算業務がスムーズに行われている場合でも、一部の業務のみを単体で外部委託することで、年間の業務量を標準化できます。例に挙げられるのは、紙媒体の申告書・証明書類を多量に取り扱う年末調整や、毎年5~6月にかけて発生する住民税徴収額の更新業務です。
給与計算のアウトソーシングと内製化はどう選択すべきか
給与計算のアウトソーシングと内製化をどのような観点で選択すべきか整理していきましょう。まず、アウトソースすべき場面は、明確に「専門家の知見を借りなければいけない」時です。給与計算は、法令の変更や保険料率の変更など、毎年のように更新される外部環境によって作業の方法を変えていかなければなりません。
もし社内の経理部のリソースとして知識や作業経験豊富な人材がいない場合は、明らかにアウトソースしていく必要があるといえるでしょう。また、給与計算業務を担当する従業員への教育や引き継ぎにかかる時間が多い場合も給与計算アウトソーシング会社に依頼するメリットが大きくなります。
一方で、給与計算の専門家がすでに在籍している、もしくは経理関係の情報を一手に担うことで経営企画部としっかりやり取りをするということを目的としている企業の場合は、内製化する方がメリットを感じられるかもしれません。
また、アウトソースというものは基本的にスケールメリットを取りに行く考えですので、小規模の会社であれば、内製で行った方がコスト面でのメリットは大きいといえるでしょう。
給与計算アウトソーシングのメリット・デメリット
給与計算アウトソーシングには、以下のメリット・デメリットがあることを覚えておきましょう。
- ■メリット
- ・コスト削減
- ・法改正対応の自動化
- ・従業員がコア業務に集中できる
- ■デメリット
- ・社内にノウハウが蓄積できない
- ・機密情報の漏えいリスクがある
- ・委託できない場合がある
給与計算アウトソーシングのメリット・デメリットについての詳細は以下の記事で詳しく解説しています。内製化のメリット・デメリットとあわせて比較したい方はぜひ参考にしてください。
まとめ
給与計算をインソースするかアウトソースするかの判断は、企業規模や人事制度と密接に関係します。給与計算を煩雑だと感じているなら、一度アウトソーシングを検討してはいかがでしょうか。