「給与アウトソーシング」普及の背景
給与計算のアウトソーシングは、もともと職域の線引き意識が強く、弁護士や会計士といった外部の専門家に業務をアウトソーシングする文化がある欧米から普及したサービスです。特に、州ごとに税制が異なり、給与計算が複雑になりがちな米国で広まりました。
日本でも、大手企業を中心にグループ企業内での給与計算をまとめて行う「シェアードサービス」は早くから存在しましたが情報セキュリティの観点から、人事に関わる業務を外部にアウトソースすることに抵抗を感じる企業が多く、給与計算のアウトソーシングは進みませんでした。
しかし、2000年以降、企業のコアコンピタンスを活用し、業務の「選択と集中」を進めるという考え方が一般的になると、給与計算もBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の一環として外注する動きが広まりました。
矢野経済研究所が2015年に発表した調査によると、給与計算業務のアウトソーシング率は未だ約2割程度ながら、国内企業の従業員の定年退職増加による人手不足や、マイナンバーの導入による業務の煩雑化などで、給与計算のアウトソーシングサービスへの需要はますます高まる見通しです。
【出典】矢野経済研究所 「給与計算アウトソーシング市場に関する調査結果2014」
給与計算アウトソーシングのメリット
給与計算は、勤怠情報や人事情報、各種控除や保険量の差し引きを行い、社員一人ひとりの給与を計算します。期日が限られており、ミスが許されない作業です。
こうした定型業務のために、貴重な人材の能力を費やすのは非効率的であり、「選択と集中」によってビジネスを加速しようという考え方から、給与計算をアウトソーシングする企業が増えています。
給与アウトソーシングのメリットは以下の4つのポイントが挙げられます。
- メリット1:コスト削減
- メリット2:法改正への対応がスムーズ
- メリット3:コア業務への集中
- メリット4:属人化のリスクを下げる
メリット1:給与アウトソーシングでコスト削減
自社内で作業した場合、経理担当者の人件費のほか、給与計算に不可欠なコンピュータソフトの開発・運用・保守費用などが含まれます。
一方、アウトソーシング企業は、複数企業から同様の業務を受注することでスケールメリットを活かし、こうしたコストを低減しています。
また、給与計算は毎月必ず発生する業務なので、もし担当者が退職したり、産休・育休・介護休暇などで不在になったりした場合でも穴をあけるわけにいかず、常に人材を待機させておかねばなりません。
とくに、繁忙期である年末調整の時期などは、一時的にスタッフを増員する必要にも迫られるかもしれません。
アウトソーシングした場合だと、給与計算に関わる費用がすべて外注費用となってあらわれるため、費用の「見える化」にもつながります。
メリット2:法改正への対応がスムーズ
労務関連法規や税制、社会保険の制度は毎年のように変更があるため、人事担当者や経理担当者には専門の知識が必要になります。研修のコストをかけて教育している企業も多いでしょう。
また、変更に合わせて、給与計算システムのメンテナンスの必要がある場合があります。
法改正などに伴う対応は、後回しにできない作業です。給与アウトソーシングを行うことで対応の負荷や漏れを避けることができます。
メリット3:コア業務への集中
中小企業やベンチャー企業などでは、専任の担当者が給与計算をしているというのはまれです。多くの場合、総務・経理担当の社員、もしくは経営者自身がほかの業務を担当しながら、給与計算も担当しているというのが実情です。
定型業務をアウトソーシングすることで、社員がコア業務に集中できるようになり、利益に直結した活動にフォーカスすることができるのです。
メリット4:勤怠管理を正確に行う
給与計算をアウトソースするということは、そのもとになる給与データ、労務管理データをきちんとまとめ、アウトソーシング企業に渡さなくてはいけません。
そのため、残業時間の管理、労務管理に対する意識が向上し、残業時間の削減や社内コンプライアンスの強化につながります。
事例①人事業務の効率化!
人事・総務部門の業務は多岐にわたります。社員の異動や退職・昇進・評価などの管理、新卒・中途採用などの採用活動、社員の給与待遇の決定など。会社や組織内での「人」に関わる業務のすべてがその範ちゅうといえます。
「人財」という言葉があるほど、社員は大切な会社の経営資源です。
人事部門は、社員がより働きやすくパフォーマンスを出すことができる環境づくりを目指すべきといえます。
定型業務のアウトソース化で事業体制を強化!
専門商社のA社は、今後10年間の中期経営計画を策定するうえで、人事制度の見直しなどの企画・立案・調整業務を人事部門のコア業務と位置づけ、定型業務はアウトソースする判断を下しました。
その上で、現行の業務フローを見直した結果、勤務表チェックなどを含む給与計算業務をアウトソースすることに決定しました。
結果、アウトソーシングにより生じた余剰人員を非生産部門である間接部門から営業部門へ再配置するなど、事業体制の強化につなげることができました。
事例②業務フローの統一化
社内業務をアウトソーシングするためには、ある程度業務内容とデータが整理され、標準化されている必要があります。
立ち上げ間もないベンチャー企業や人的資源のとぼしい中小企業などでは、業務フローの策定にまで手がまわらないことが多いものです。
しかし、業務を属人化してしまうと、担当スタッフの急な休職や退職といった事態が発生した際に、リカバーできなくなります。給与計算は定型業務ですが、給与の支払いが遅れたり不正確だったりすると、社員や社会的な信用を損ねることにつながるので、たとえ担当スタッフが抜けたからといって、穴をあけるわけにはいきません。
また、グループ会社を多数抱えるような大手企業の場合、関連会社にも同一のサービスを導入することで、グループ各社間での定型業務における業務フローの統一化が図る効果が見込めます。
業容拡大に伴い業務フローを標準化し効率アップ
小売業のB社は、店舗数の拡大と社員数の増加にともない、複雑化してきた人事業務を標準化する一方で、定型業務のアウトソーシングに踏み切りました。
その結果、各店舗でおのおの行っていた勤怠管理を本部で一元化し、透明化するとともに業務の効率化を図ることに成功しました。
事例③年末調整の効率化
紙媒体の申告書・証明書類を多量に取扱う年末調整の時期は、人事・経理部門の最繁忙期です。毎年この時期は、担当部門の残業が常態化したり、派遣・アルバイトスタッフを雇用して一時的に人員を手当てするという企業も多いのではないでしょうか。
年末調整のみをアウトソーシングすることも可能
日本全国に拠点をもつシステム開発会社C社では、年末調整を手作業で行っていました。各拠点の社員がそれぞれ手書きで申告書を作成するため、年末にかけて記入方法に関する問い合わせや提出状況の確認に追われ、本来の業務が後回しになり支障をきたしていました。
さらに、社会保険制度などは頻繁に改訂されるため、担当者は都度その変更に合わせて社内規定やシステムの修正対応をしなければなりません。
こうしたアップデートに対応するため、年末調整時期は派遣社員を増員して対応していました。
C社は、通常の給与計算はインソースで対応する一方、年末調整のみをアウトソースすることで、年間業務量の平たん化を実現しました。
ミスが起こりやすい企業の給与計算事情
給与計算という業務は総じてミスの発生しやすい作業です。加えて、事業の拡大に伴う社内の変化や、従業員のワークスタイルの多様化により、給与計算のミスの頻度は変わってきます。
まず、事業が拡大してくると計算作業を一人で対応することができず、多くの従業員が連携する形で作業を行うケースが出てきます。
当然、それぞれの役割分担がしっかりできていればいいですが、作業分担の境目を共有できていないと、入力漏れなどが多発してしまいます。
また、事業が次第に大きくなってくると、いろいろなライフステージの従業員を抱える可能性が高くなってきます。
実は給与計算は、従業員の年齢によって、徴収すべき、もしくは免除・終了する保険料に違いがあるのです。
この違いを考慮せずに計算することにより、算出される数字にミスが生じてしまうこともままあります。
気を付けるべきライフステージは具体的に「40歳」、「64歳」、「65歳」となっています。例えば40歳からは介護保険料の徴収が開始され、64歳からは雇用保険料の免除開始、65歳で介護保険料の特別徴収が終了する、という流れです。これらのポイントを給与計算の担当者が正確に把握していないと、給与計算にミスが生じてしまうので気をつけましょう。
事業の拡大とともに負担も増大する
給与計算作業は単純作業で対応できる部分もありますが、その工数は少なくなく、人員も必要な作業です。そのために、事業が拡大してくると多くの人材を雇い、給与計算を滞りなく終わらせるためにチーム体制を組みます。
そのうえでチェックリストの実施などを行いながら作業を遂行する必要があります。
当然、事業の拡大とともに然給与計算の対象となる従業員数は増えていき、結果として労務担当者の責任や負担も増大していきます。 加えて給与計算には、社会保険や労働法、また所得税や住民税などなど、幅広い知識が求められます。
毎年、健康保険料率、雇用保険料率、厚生年金保険料率がそれぞれ、3月、4月、9月に改定します。この改定後の保険料率を考慮し、その料率を持ってして控除額を決定する必要があるのです。
給与計算を間違うと、従業員ひとりひとりにとって重要な給料の支払いを間違うことになります。
そういったことが続くと、管理部門に対する信頼の欠如が出てきてしまいます。会社のお金という非常に重要なものを取り扱う管理部門への信頼がないという状況は、当然ながら組織としてはかなりのリスクです。
逆に言えば、管理部門がしっかりしていて、滞りなく給与計算業務ができているということは、組織としての信頼感や安心感、従業員同士の信頼が強まるといえるかもしれません。
給与計算業務をアウトソースすることで解決できる事
給与計算をアウトソーシングすることのメリットをいくつかご説明していきましょう。
まず、人的コストを抑えることができます。前述の通り、事業が大きくなってくると給与計算だけに多くの人的リソースが割かれてしまいます。
また、給与計算には関連システムの利用・保守運用などが含まれます。アウトソースすることで、単価の低減が実現されるという利点があります。
次に、法令改正への対応に関して労務部の時間と工数を割く必要がなくなるということもメリットとして挙げられます。
労務関連や社会保険の制度は毎年のように変化しますので、それらの変化を理解し社内規定や業務フローに反映していかなければなりませんが、こういった作業全体を外部委託することで、労務部の人材の時間を多く捻出することができます。
また、アウトソースするということは、万が一、給与計算にミスがあった時にも「外注先のミス」という形で社内の信頼関係が悪くなるということを避けられるという利点もあります。
管理部門は本来的には、ビジネスにまつわる数字を取りまとめ、抽出されるビジネス示唆や課題・問題点を経営部と協議していくという役割もあります。
給与計算をアウトソースすることで、担当者の時間が捻出でき、正しい経営判断が導き出されるといっても過言ではないでしょう。
給与計算代行とは
ここで、給与計算代行できることを見ていきましょう。
- ・給与計算
- ICカードやタイムレコーダーなどの勤怠管理情報を預け、給与計算を委託できます。主に、毎月金額が変動する残業代や所得税などが対象です。給与明細の作成まで任せられるケースもあります。
- ・振込・納税
- 計算結果をもとに、給与の振り込みや各種納税を任せられます。給与計算にオプションとして追加する形で委託するケースが多いです。
- ・年末調整
- 年末調整は、年末から年始にかけて必要になる業務です。そのため、この業務だけをアウトソーシングするケースも少なくありません。必要となる各種書類の作成も併せて代行できることが多いです。
- ・住民税対応
- 住民税は前年の所得に応じて決定します。毎年5月頃に市区町村から通知が届き、そこに納付額が記されているため、それに応じて納付することになります。この業務だけをアウトソーシングするケースも多いです。
給与計算代行・アウトソーシングの利用率と背景
給与計算の代行は、日本では1990年頃から注目されるようになりました。バブルが崩壊し、業務をより効率化させる必要が生じたためです。また、グローバル化による競争の激化も、この流れを後押ししました。
特に2000年代前半から急速に市場が拡大し始めました。その後も拡大を続け今では単なる給与計算だけではなく、人事全般を請け負うサービスも増えています。
矢野経済研究所の調査によると、2013年度の給与計算代行の市場は前年度比5.8%増の2,465億円となっています。
日本での利用率は企業全体の約2割です。しかしマイナンバー普及などの影響を受け、今後もさらに増加すると予想されています。
給与計算代行の料金相場
給与計算代行の料金相場は、従業員1人当たり500円~1,000円程度です。
ただし大企業を対象としたサービスでは、1名当たりで金額を定めていないことがあります。そういったサービスの場合は、数百人以上の従業員がいる企業のみ対象となっていることもあるため注意しましょう。
また、別途基本料金や初期費用が必要なケースもあります。サービスによりますが、0円の場合もあれば数万円かかることもあります。これも、中小企業と大企業のどちらをターゲットにしているかによって大きく異なるため要注意です。
給与計算のアウトソーシング・代行を行うべきケース
以下のようなケースでは、アウトソーシングしたほうがよいでしょう。
- ・従業員が多い
- 従業員が少ないのであれば、エクセルなどを用いて自社で対応したほうがローコストです。
- ・法改正への対応が難しい
- 給与計算方法は法改正によって変動するため、一定の専門知識が必要になります。アウトソーシングであればその対応も任せられます。
- ・給与計算が本業の妨げになっている
- 給与計算に時間がかかるせいで本業に支障が出ている場合は検討しましょう。本業に専念することで収益が上がれば、アウトソーシングのもとが取れます。
- ・給与計算のための雇用をしている、あるいはそれを検討している
- 専門知識を持ったスタッフを直接雇うより、アウトソーシングしたほうがローコストです。
- ・正確性を確保したい
- 税務・労務に関するリスクを回避するうえでも、プロに任せられる代行サービスは有効です。
給与計算アウトソーシングの選定ポイント
給与計算のアウトソースを検討する際には、どのような基準で選定するのがよいでしょうか。
個人情報を含むデータであり、納品の遅れが許されない業務なので慎重に選ぶ必要があります。最低限以下のポイントを押さえて選ぶことをおすすめします。
- ・料金
- 「なるべく低価格の業者に」ということを優先し価格の比較だけで選定すると失敗してしまいます。例えば、タイムカードの集計も含めてアウトソーシングしたいのか、それとも自社で行うかなど、どこまでアウトソースするかを明確にしてから比較を行いましょう。
- ・専門性
- 給与計算の業務と言うのは、正確性はもちろんのこと、労働保険や社会保険に対する専門知識が必要となります。イレギュラーにも対応できるかどうかを確認しましょう。
- ・対応力
- 窓口となるアウトソーシング先の担当者は、1名かそれとも複数名かで対応やスピードが異なります。自社のニーズに合わせて検討しましょう。
- ・自由度
- 給与計算を明日とソーシングする場合、勤怠情報などのデータの受け渡しが必要になります。自社のフォーマットで問題ないのか、それともフォーマットを見直す必要があるかなど、確認しましょう。
給与計算アウトソーシングの導入方法
給与計算アウトソーシングの導入の検討の前に、導入の流れを知っておくことで、選定の参考にもなります。具体的には下記の4つのステップが一般的です。
- 1)ヒアリング・調査
- 現在の給与計算業務のやり方などを担当者からヒアリングし、業務量をチェック。委託業務範囲も分析し、最適な改善策を探ります。
- 2)業務フロー、運用ルールの作成
- アウトソースのイメージが固まったら、具体的に業務フローや運用ルールに落とし込んでいきます。従業員向けのマニュアルや研修などの計画も立てる必要があります。
- 3)並行稼働・運用テスト
- アウトソーシングと社内処理を並行で稼働し、内容の改善を行います。
- 4)本稼働
- 検証作業が一段落したら、いよいよ本格稼働です。
給与計算アウトソーシングの導入事例と効果
多くの企業が給与計算代行を利用して、導入の効果を実感しています。具体的には以下のような導入の効果があるようです。
- 事例①人事業務の効率化
- 事例②業務フローの統一
- 事例③年末調整の効率化
給与計算アウトソーシングの導入失敗例
最後に、給与アウトソーシングの失敗事例も見ておきましょう。導入前の準備や確認を行えば避けられるものばかりですが、見落としがちなポイントでもありますので、確認をしてみてください。
- 失敗例① 勤怠管理システムとうまく連動できない
- 失敗例② 勤務体系の多様化に対応できない
- 失敗例③ 法改正への対応で追加コストが発生した!
給与計算をアウトソーシングして業務改善!
給与計算アウトソーシングのメリットや導入の流れ、注意ポイントなどを関連記事と併せて紹介しました。給与計算をアウトソースすることで、自社の社員をより注力するべきコア業務にあてることが可能になります。見直しを検討中の方は、まずは一度、いくつかのアウトソーシング事業者に相談してみることをおすすめします。
給与計算アウトソーシングのサービス比較は下記のサイトから参照ください。
※法人向けサービス比較、資料請求サイト「Bizトレンド」へ移動します。
https://biz-trend.jp/kyuyo/outsourcing/