製造業におけるERPとは
ERP(Enterprise Resource Planning)は、会計・人事・在庫・生産など企業の基幹業務を統合管理するシステムです。特に製造業では、工程管理や原価管理、生産計画、部材の調達など多岐にわたる業務が複雑に絡み合っています。
こうした業務を個別のツールや属人的な運用で管理していると、ミスや情報の分断、非効率が発生しやすくなります。そこで注目されているのが、製造業の業務特性に最適化されたERPです。
製造業向けERPでは、BOM(部品表)やMRP(資材所要量計画)への対応など、業界特有の管理機能が標準搭載されており、効率的な全体最適を支援してくれます。
ERPの基本をさらに深く理解したい方は、背景や導入プロセスを解説した以下の記事も参考になります。
製造業がERPを導入するメリット
ここでは、製造業がERPを導入して得られる代表的なメリットを紹介します。
原価管理・利益率の可視化
部品や工程ごとの原価を把握することで、製品ごとの利益率やコスト構造を正確に分析できます。これにより採算があわない案件の見直しや、コスト削減施策の立案が可能に。さらに、材料費・人件費・製造間接費などを部門別・工程別に明確化できるため、改善活動や価格設定の精度向上にもつながります。
工程・在庫・購買の連携による生産性向上
各業務部門の情報がリアルタイムに連携されるため、部材不足による生産停止の防止や、余剰在庫の削減につながります。現場から経営層まで同じ情報をもとに判断できることも大きなメリットです。特に購買部門・製造現場・営業部門がタイムラグなく連携できれば、納期遵守率やライン稼働率の向上も見込めます。
多拠点・部門の一元管理と経営判断の迅速化
本社・工場・倉庫など、複数拠点をまたぐデータを一元化することで、事業全体のパフォーマンスを俯瞰して把握できます。日次・週次単位での迅速な意思決定を支える基盤となります。例えば、拠点ごとの在庫・原価・納期情報を可視化できるため、経営層による判断のスピードと正確性が大きく向上します。
属人化の防止と標準化の推進
製造業では、設備保守や資材発注、原価計算などが属人化しやすく、「あの人しかわからない」「担当者が休むと止まる」といったリスクがつきものです。ERPを活用すれば、業務フローをシステムに標準化・定義できるため、マニュアル作成や作業の自動化もスムーズに進みます。
これにより、急な人事異動や退職が発生しても、業務を継続できる体制づくりが可能に。業務の平準化・可視化が進むことで、教育コストの削減やBCP(事業継続計画)の強化にもつながります。
製造業向けERPの主な機能
製造業では、生産・在庫・原価など多岐にわたる業務を正確かつ効率的に管理する必要があります。ERPはこれらの情報を一元管理し、部門間の連携や業務の見える化を実現します。代表的な機能は以下のとおりです。
| 機能 | 説明 |
|---|---|
| 生産管理機能 (製造指示・進捗管理・実績収集) | 製造オーダーの登録から進捗状況のモニタリング、最終実績の集計までを一元管理できます。工程別の進捗やボトルネックの可視化に役立ちます。 |
| 原価管理機能 (部材別・工程別原価計算) | 材料費・労務費・製造間接費などを製品別に自動集計し、予実差異の管理や原価改善の施策立案を支援します。 |
| 在庫管理機能 (リアルタイム在庫把握) | 原材料・仕掛品・製品の在庫をロット単位・棚卸評価含めて管理可能。在庫過多や欠品リスクを可視化できます。 |
| 購買管理機能 (部材調達・納期管理) | 発注から納品、支払までの調達業務を管理し、調達コストの抑制や納期遵守率の改善を実現します。 |
| 会計・人事などの統合モジュール | 経理・財務や人事給与システムと連携することで、製造実績と会計データの整合性確保やレポート作成の自動化が可能です。 |
製造業向けERPを選ぶ際のポイント
製造業でERPを導入する際は、機能が豊富な製品を選ぶだけでは不十分です。ここでは、製造業特有の業務に対応し、現場で活用されやすいERPを選ぶためのポイントを解説します。
製造業向けに最適化された機能があるか
製造業では、BOM(部品表)管理やMRP、ロットトレース、工程管理などの機能が不可欠です。また、自社の生産形態(受注・見込み・多品種小ロットなど)に対応できるかも重要です。これらが標準搭載されていないと、後からのカスタマイズが負担になる恐れがあります。製造業向けのテンプレートや事例が豊富な製品を優先しましょう。
クラウド型かオンプレミス型か
クラウド型は導入が早く、コストを抑えられる一方で、オンプレミス型はカスタマイズ性やセキュリティ面に優れ、複雑な業務要件にも対応しやすいのが特徴です。現在では、製造業に強いクラウドERPも登場しており、拡張性や外部連携の柔軟性も高まっています。自社のIT体制や将来計画にあわせて提供形態を選定しましょう。
既存システムと連携しやすいか
ERPは単体で使うよりも、CADやMES、PLMなどのシステムと連携して活用するのが効果的です。例えば、CADからの設計変更情報をERPに自動連携することで調達ミスや手戻りを防止できます。MESとの連携によって、現場の進捗状況をリアルタイムに可視化することも可能です。
連携手段としてAPIやEDI、CSV連携などが利用可能か、導入前に確認しておきましょう。
サポート体制や導入支援があるか
ERPは導入から運用・改善まで長く使うシステムであり、支援体制の質が成功の鍵となります。特に製造業では、業界知識のある担当者がプロジェクトに参画できるかが非常に重要です。要件定義、データ移行、教育・運用支援など、支援範囲の広さや対応力を事前に確認しましょう。
将来のスケーラビリティがあるか
製造業では、工場や拠点の増加、海外展開などを見据えたシステム選びが欠かせません。多拠点・多通貨・多言語対応や、拠点間の在庫・原価管理を一元化できるかがポイントです。導入当初は必要なくても、将来的な事業拡大を考慮して拡張性のあるERPを選びましょう。
どんな製品が自社にあっているか判断しづらい場合は、まずは資料を取り寄せて比較検討しましょう。製造業ならではの業務課題も、資料請求を通じて解決の糸口が見つかるかもしれません。
製造業におすすめのERP製品比較
製造業向けに設計されたERP製品は多数あり、それぞれ得意分野や機能に違いがあります。ここでは、ITトレンド編集部が厳選したおすすめの製造業向けERPを紹介します。
Biz∫
株式会社NTTデータ・ビズインテグラルが提供する「Biz∫」は、大手製造業の基幹業務を支える国産ERPパッケージです。豊富な業種別テンプレートと多機能モジュールにより、原価計算・ロットトレース・品質管理・サプライチェーン連携まで幅広く対応。多言語・多通貨にも強く、グローバル展開する製造業にも選ばれています。
SAP Business One
株式会社日立システムズが代理店として提供する「SAP Business One」は、中小規模の製造業に最適なグローバル対応ERPです。生産管理・在庫管理・販売管理・購買管理を標準装備しており、本社・工場間の情報一元管理が可能。SAPの信頼性とスケーラビリティを備えながら、柔軟なクラウド導入が実現できます。
Infor SyteLine (CloudSuite Industrial)
京セラコミュニケーションシステム株式会社が提供する「Infor SyteLine (CloudSuite Industrial)」は、離散型・受注生産型の製造業に特化したクラウドERPです。BOM・MRP・工程管理・原価管理など、製造現場に必要な機能を標準装備。短期間かつ低コストでの導入が可能です。グローバル展開にも対応し、海外拠点をもつ製造業にも適しています。
アラジンオフィス
株式会社アイルが提供する「アラジンオフィス」は、中堅・中小製造業に多数の導入実績をもつERPです。販売管理をベースに、生産管理・在庫管理・原価管理などのモジュールを柔軟に組み合わせ可能。業種・業態別テンプレートが豊富で、自社にあった業務フローをスムーズにシステム化できます。
MJSLINK DX
株式会社ミロク情報サービスが提供する「MJSLINK DX」は、中堅企業の製造業務を効率化するために開発されたERPです。会計・人事・給与などの基幹業務に加え、工程別の原価管理・受注生産管理・資材調達なども可能。制度改正や税制対応にも強く、長期運用にも安心です。
製造業以外の業界で活用されているERPも比較検討したい方は、以下の記事をご覧ください。
製造業におけるERP導入事例
実際に製造業でERPを導入した企業の事例は、自社の検討にあたって非常に参考になります。
ITトレンドでは、製造業企業のERP導入事例を多数掲載しており、導入前の課題・導入後の効果・製品選定の決め手などを詳しく紹介しています。掲載事例では、企業名に加え、業種、事業内容、従業員規模などの基本情報も確認できるため、自社と近い条件の企業がどのようにERPを導入したかを把握しやすいのが特徴です。
以下のページでは、製造業を含むさまざまな業界のERP導入事例をまとめて紹介しています。具体的な活用イメージを掴みたい方は、ぜひご覧ください。
参考:ERP(統合基幹業務システム)に関連する導入事例一覧|ITトレンド
製造業でERPを活用する方法
製造業でERPを導入する際は、単体で導入するだけでなく、ほかの業務システムと組み合わせて運用することで、より高い効果が得られます。ここでは、ERPと連携して活用したい代表的なシステムを紹介します。
MESと連携する
MES(Manufacturing Execution System/製造実行システム)は、製造現場の状況をリアルタイムに把握し、現場改善に活用するシステムです。ラインの稼働状況や不良率、作業進捗などを収集・分析し、現場レベルのQCD(品質・コスト・納期)を改善します。
一方、ERPは経営層が生産・原価・販売などを横断的に管理するための基幹システムです。MESとERPを連携させることで、現場と経営をシームレスにつなぎ、部門間のギャップを解消できます。
ERPで俯瞰的に生産全体を管理し、MESで現場の課題を即時フィードバックする体制が整えば、製造業の業務効率は大きく向上します。ERPとMESの違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
PSIと連携する
PSI(Production・Sales・Inventory)は、「生産・販売・在庫」を計画・調整するためのシステムです。需要予測や受注情報をもとに、生産計画と在庫量を最適化し、過剰在庫や欠品を防ぎます。
ERPにも生産管理機能はありますが、PSIは生産と販売の需給バランスに特化したツールであり、ERPと補完関係にあります。PSIとERP、さらにMESを組み合わせることで、需要計画から生産実行、在庫最適化までの一連の業務が連動。部門間の連携ミスを防ぎ、生産性と収益性の向上が見込めます。
まとめ
製造業の業務は複雑で、部門間の連携が成果に直結します。ERPを活用すれば、工程・原価・在庫・経営データを統合的に管理でき、生産性向上と利益率改善が同時に叶います。しかし、ERP製品は多種多様で、自社に合ったものを選ぶには複数サービスの機能や導入実績を比較検討することが重要です。
製造業が抱えがちな業務の課題や悩みも、資料を通じて具体的に解決策が見つけられる可能性があります。まずは製品資料を請求して、現場の業務改善・効率化を一歩前に進めましょう。



