テレワークにおける人事評価の課題
テレワークの常態化に伴う企業の新たな課題として、人事評価があります。テレワーク下では、コミュニケーションに偏りが生じ勤務態度の評価も難しいでしょう。さらにワークフローや人事評価プロセスの停滞も考えられます。人事評価の方法や基準の明確化が求められるなど、課題は少なくありません。
勤務態度の評価が難しい
オフィス勤務とテレワークでは働き方が異なり、テレワークでは上司や同僚の目が届かない場所で働く場合もあります。上司は目の前にいない部下をマネジメントし、評価しなければなりません。
近年、仕事への取り組み方やコミュニケーションの取り方などを人事評価に取り入れる試みが増えています。しかし、テレワークにおいては上司と部下が物理的に離れて作業をするため、対面でのコミュニケーション量が減り、勤務態度や業務プロセスの把握が困難です。
手続きや評価プロセスの停滞
書類チェックや決済の遅延による「手続きの滞り」も、テレワーク環境における課題のひとつです。特に手書きやハンコの押印などのルールがある場合は、テレワークでは作業が煩雑化し、手続きが止まる恐れがあります。
またオフィスでの業務に比べ、コミュニケーションの低下により情報共有が難しくなる傾向をもちます。例えば、評価担当者である上司と人事担当者が意見交換しながら社員の評価を決めていく場合には、思ったように相談できず評価プロセスがストップする可能性もあるでしょう。
評価方法や評価基準があいまい
評価方法や基準があいまいになりやすい点もテレワークするうえでの課題です。明確な評価項目が設定されていない場合、評価する人によってバラつきが生じます。例えば、「Web会議での発言を評価に含めるのか」「成果物だけで評価するのか」など、共通の認識をもつ必要があります。
また、テレワークとオフィス勤務の社員が混在する企業では、評価項目の見直しが必要でしょう。プロセス重視の人事評価は、テレワーク社員にとって不利であり不公平感の解消が重要です。
テレワークに最適な人事評価とは
テレワークにおける人事評価の課題を解消するための方法について解説します。具体的な評価方法・導入すべき人事評価制度や仕組み、有効なITツールなどを紹介するので、自社の現状と照らしあわせて参考にしてください。
評価方法の明確化
対面での業務機会が減ることで、成果や実績にフォーカスして評価される傾向が強まるでしょう。部下との齟齬を防ぐためにも評価方法を明確化する必要があります。
例えば「いつまでに何を行うか」を記す目標達成シートの共有によって、目標と成果をより明確化させられます。業務スピードやレスポンスなども評価材料に加えましょう。
評価方法の統一化
テレワークに則した評価方法に慣れないうちは、評価者によって評価内容にばらつきが生じる可能性もあります。しかし評価基準のブレは、部下に不公平感を抱かせる原因になり兼ねません。
対策として、評価者による偏りを防ぎ社員にとって納得感のある仕組み作りが重要です。仕組み作りの手法のひとつとして「人事評価システム」の導入が考えられます。人事評価システムは評価管理や評価設計の機能を搭載しており、精密かつ公正な評価へと導きます。評価業務や人事業務の効率化、人事評価方法の明確化と統一化にも役立つでしょう。
人事評価システムに興味がある方には、以下の記事もおすすめです。導入メリットやデメリットに言及するほか、人気の製品を紹介しています。
業務プロセスと成果のバランスの考慮
オフィス勤務と違い、テレワークでは業務プロセスが見えにくいため成果物で評価しがちです。しかし、テレワークにおいてもプロセスと成果の両方を評価対象とし、2つのバランスに考慮した評価制度を取り入れましょう。
完全な成果主義で人事評価すると、社員のモチベーションを削いでしまう可能性があります。また、数字で成果が見えない場合、リモートでの評価はより困難です。プロセス評価と成果評価の比重やどのような評価項目にするのか、各社の事情にあわせて検討する必要があります。
目標管理制度(MBO)の導入
目標管理制度(Management By Objective)とは、組織の目標と並行して個人が自主的に業務目標を定めて実行したものにもとづく評価方法です。目標設定から達成まで、上司と部下が相談しながら一緒に取り組みます。目標の達成度合いで評価ができるため、テレワークでも評価しやすいでしょう。
部下が自己PRできる機会の創出
部下が自身の成果や成果に至るプロセスについて、上司にアピールできる機会を設けることも重要です。部下の評価に対する疑問や不安を軽減できるでしょう。
また成果を出せなかった社員が、どのような課題に対してどのような手段で改善を試みたのか自己評価することは、セルフマネジメントにおいても役立ちます。
裁量労働の可視化ができるような仕組み作り
業務の過程が見えないために、テレワークに伴って裁量労働制を導入するケースも多いでしょう。しかし、場合によっては、特定の従業員への負担や過重労働を増やすだけかもしれません。
裁量労働制を取り入れるのであれば、まず人事評価のルールや制度の見直しを図りましょう。従業員一人ひとりの公平性や働きやすさに目を向け、評価基準やフローがわかる仕組み作りが必要です。
ビジネスチャットやグループウェアの導入
テレワークによるコミュニケーション量の減少をカバーするために、グループウェアやビジネスチャットの活用がおすすめです。グループウェアとは、組織内の情報共有やコミュニケーションを円滑にし、業務の効率化を推進するためのソフトウェアです。スケジュール管理・設備予約・文書管理などの機能が搭載されています。
ビジネスチャットとは、ビジネス利用に特化したコミュニケーションツールです。リアルタイムで複数人とコミュニケーションがとれるうえ、画像や動画はもちろん資料ファイルも送信できます。
以下の記事では、定番ビジネスチャットツールからおすすめ製品まで、それぞれの特長や価格などを比較してまとめています。興味のある方はぜひ一読ください。
テレワークにおける人事評価の事例
テレワークに適した人事評価を導入した企業の実例を紹介します。
評価者に対し「1on1トレーニング」を実施
アフラック生命保険株式会社(金融業・保険業)は、2015年からテレワーク促進に注力してきました。入社時にテレワーク実践のプログラムを導入したほか、所属長を対象としたマネジメント研修などを取り入れています。また、全所属長向けに「1on1トレーニング」を実施し、従来の「1on1」を強化。テレワーク環境下でも、適切な人事評価を下せるよう工夫がされています。
裁量労働制の評価基準を明確化
株式会社プロアス(情報通信業)では、委託先勤務のパート社員を除き、本社勤務の社員全員がテレワークを利用しています。裁量労働制を導入しており、正社員における評価基準は、業務時間にかかわらず各自設定された粗利目標です。短時間労働者の場合、効率(実績÷業務時間)と成果物の品質によって判断されます。
評価シートの活用や同僚による定性評価を採用
2020年に完全テレワークに切り替えたLAPRAS株式会社(サービス業)では、ゲーム感覚で利用できるバーチャルオフィスを導入。テレワークにおける孤独感の解消やコミュニケーションの活性化に一役買っています。人事評価は、各自が記入した評価シートや同僚による定性評価などが用いられ、周囲が認める高いパフォーマンスを発揮した人が高評価につながるそうです。
参考:輝くテレワーク賞事例集(令和4年度)|厚生労働省
テレワークに適した人事評価制度の設計を
テレワークでは社員の業務プロセスを評価するのが難しく、従来の人事評価制度では対応できないでしょう。テレワークにおいて公平かつ公正な評価をするためには、適切な人事評価制度構築が先決です。
課題解決の方法や他社の事例を参考にするとともに、人事評価方法の明確化と統一化に有効な「人事評価システム」の導入を検討してはいかがでしょうか。