ブラック企業の定義
ブラック企業に明確な定義はないものの、厚生労働省はブラック企業の特徴として以下の3つを挙げています。
- 1.労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
- 2.賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い
- 3.このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う
つまり、長時間労働やサービス残業が常習化している企業や、パワハラやセクハラ体質、不平等な人事評価がある企業などは、ブラック企業と解釈されるでしょう。
参考:「ブラック企業」ってどんな会社なの?|厚生労働省
ブラック企業となる残業時間
「残業時間」は、ブラック企業と判断する際のひとつの基準になるでしょう。
厚生労働省の毎月勤労統計調査による残業時間の平均は、月10.2時間(一般労働者13.9時間・パートタイム労働者2.1時間)です。また、法律に規定された残業時間の上限は、原則月45時間・年360時間です。残業時間が月45時間・年360時間以内である場合は、ブラック企業の可能性は低いといえます。
月80時間超え(過労死ライン)の残業はブラック
2~6か⽉平均で残業が月80時間を超える場合は、ブラック度が高いといえるでしょう。月80時間を超える残業は過労死ラインの目安とされ、健康障害リスクが高まるためです。企業には勤怠管理において従業員の心と身体の健康状態も管理する義務があり、過重労働による過労死やメンタルヘルスの不調は企業側の責任です。
月45~80時間の残業も要注意
過労死ラインの月80時間を超えなければブラック企業ではないのかというと、そうではありません。厚生労働省は、時間外労働の上限である月45時間を超えて働く時間が長くなればなるほど、健康障害のリスクは高まるとしています。月45時間以上の残業が続く場合も、ブラック企業である可能性が高いでしょう。
参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省
参考:労働基準法
参考:毎月勤労統計調査 令和4年9月分結果確報|厚生労働省
参考:過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ|厚生労働省
時間外労働協定(36協定)について理解を深めたい方には以下の記事がおすすめです。
ブラック企業となる年間休日数
「年間休日数」もブラック企業かどうかを見分ける指針になるでしょう。
年間休日とは、法定休日と所定休日を足したものです。
- ■法定休日
- 労働基準法で義務づけられた休日。会社は従業員に毎週1日の休日、もしくは4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
- ■所定休日
- 会社の就業規則や雇用契約において定められた、法定休日以外の休日。
1年を週に換算すると、52週と1日です。法的には最低でも52〜53日の休日を与える必要があります。
しかし労働基準法において、法定労働時間は原則1日8時間、週40時間と定められているため、実際にはより多くの休日を設ける必要があるでしょう。例えば、所定労働時間が8時間の会社の場合、5日勤務すると週40時間に達します。残り2日は休日を設けなければなりません。年間休日数は最低でも105日程度必要になるでしょう。
なお、令和3年度の厚生労働省の調査において、労働者ひとりの平均年間休日総数は116.1日です。1年間の土日・祝日を合算すると120日前後となるため、カレンダー通りの頻度でお休みがとれるイメージです。
1日8時間勤務の企業において、年間休日数が100日を下回る場合、ブラック企業の可能性が高まるでしょう。
参考:令和3年就労条件総合調査|厚生労働省
ブラック企業における残業代の不払い例
ブラック企業の特徴として、サービス残業に代表される残業代の不払いが挙げられます。ここからは、正当な残業代が支払われないブラック企業にありがちな事例を紹介します。
残業代の隠れ蓑「名ばかり管理職」
一般の従業員ではなく「管理監督者」の場合、労働基準法による労働時間の制限や休憩・休日に関する規制から除外されるため、会社は時間外労働や休日労働への割増賃金を支払わなくても問題ありません。そのため、管理監督者とみなされる条件を満たしていないにもかかわらず、管理監督者として都合よく扱い、残業代を支払わないブラック企業も存在します。
- 管理監督者とみなすための条件
- ・重要な職務内容を有している
- ・経営者と一体的な責任と権限を有している
- ・勤務時間の制限を受けていない
- ・職務相応の待遇を受けている
例え管理職であっても、条件を満たさなければ管理監督者とはみなされません。管理職だからといって残業代を支払わないのは、ときとして違法行為であることを理解しましょう。
管理監督者の定義や基礎知識をおさえたい方には、以下の記事がおすすめです。
固定残業代制や裁量労働制の悪用
「固定残業代制」とは、あらかじめ固定給のなかに定額の残業代を含めて支払う給与体系で、みなし残業制ともよばれます。以下のようなケースは違法性が高く、ブラック企業と考えられます。
- ・設定されたみなし残業時間を超過したにもかかわらず、残業代が支払われない
- ・固定残業代が基本給に含まれている、固定残業代の金額・時間がわからない
- ・就業規則に規定されず従業員にも周知されていない、同意が得られていない
- ・労働基準法で定められた残業時間の上限45時間を超えるみなし残業時間が設定されている
ほかにも、「裁量労働みなし労働時間制(裁量労働制)」の誤用による残業代未払いもよくあるケースです。裁量労働制とは、実労働時間ではなく、あらかじめ決めたみなし時間で労働時間をカウントするという制度です。システムエンジニアや弁護士、デザイナーなど特定の人だけが対象となり、実労働時間がみなし時間より長くても残業代は発生しません。裁量労働制の実態を伴わないのに、裁量労働制を誤用して残業代を支払わない事例があるのです。労働基準法では法定労働時間が定められており、1日8時間、1週間で40時間を超えて残業した場合、残業代を従業員に支払う必要があります。
残業代の計算方法や、労働時間・残業・休日労働の定義などについて知りたい方は、以下のページを参考にしてください。
残業時間や残業代からブラックに該当した場合の対処法
残業時間・休日数・残業代の支払いなどから、自分の勤める会社がブラック企業である可能性が高い場合、どのような対策が考えられるでしょうか。残業時間を減らすための方法や残業代を支払ってもらうための方法などを紹介します。
労働組合や労働局など外部に相談
転職せずに残業時間を減らすなど職場環境を改善させたい場合、個別交渉だけでなく労働組合を活用した団体交渉なども検討しましょう。また、労働基準監督署や労働局への相談も選択肢のひとつです。労働基準監督署は企業への指導勧告や立ち入り調査ができ、労働局は労働者と会社が話し合うためのサポートをします。
残業時間が少ないホワイト企業に転職
ブラック企業の職場環境を改善させるには、時間も労力も必要とします。ブラック度が高い企業の場合、頑張り続けるよりも「逃げるが勝ち」です。ストレスや不安を抱えながら働くよりも、残業時間の少ない企業に転職したほうが、いち早く肉体・精神的安らぎを得られるでしょう。
未払い残業代の請求やブラック企業を訴える
残業代の未払いは違法であり、働いた分の賃金を請求することは労働者として当然の権利です。泣き寝入りせずに残業代の未払い分を請求したい場合は、まずは会社と交渉をしましょう。交渉で解決できなかった場合は、労働審判や訴訟にステップアップします。
長時間労働が原因で病気になった場合なども、損害賠償を請求できる可能性が高いでしょう。弁護士など専門家に相談してブラック企業と戦うのも手段のひとつです。
残業時間や休日数でブラック企業を見分けよう
月80時間を超える残業が続く場合や、フルタイム勤務で年間休日数が100日以下の場合、ブラック企業とみなされても仕方ありません。残業代の未払いがある場合も、労働基準法に違反しており、ブラックとみなされる可能性が高いでしょう。
ブラック企業の判断基準を知ることで、自分の職場環境を客観的に理解できます。もし勤め先がブラック企業に該当した場合は、外部の力を借りる・転職する・訴えるなどの対処法も検討してみましょう。