ブラック企業と評される要因と影響
パワハラ、セクハラ、不平等な人事評価があればブラック企業と評されますが、勤怠管理においても注意が必要です。ブラック企業となり得る要因と影響を詳しく見ていきましょう。
裁量労働制の誤用、残業代未払い
裁量労働制の誤用による残業代未払いはよくあるケースでしょう。裁量労働制とは、実労働時間ではなく、あらかじめ決めたみなし時間で労働時間をカウントするという制度です。システムエンジニアや弁護士、デザイナーなど特定の人だけが対象となり、実労働時間がみなし時間より長くても残業代は発生しません。裁量労働制の実態を伴わないのに、この制度を誤用して残業代を支払わないという事例もあるのです。
労働基準法では法定労働時間が定められており、1日8時間、1週間で40時間となっています。この時間を超えて残業を行った場合、残業代を従業員に支払わなければいけません。なお、深夜労働の場合は25%以上、休日出勤だと35%以上を加算した割増賃金を支払います。
残業代の未払い請求をされると、未払いの残業代の支払いだけでは済まないかもしれません。未払いの金額や理由などが悪質だと裁判所が判断すれば、割増賃金を支払わなかった経営者に対して、割増賃金とは別にこれと同額の付加金の支払いを命じられます。そうなれば、残業代の最大2倍の額を支払わなければならない可能性があるということです。
参考:労働基準法
在宅勤務時のみなし労働時間制に注意
新型コロナウイルスにより在宅勤務をニューノーマルとして取り入れている企業が増えていますが、管理者の目の行き届かないところでの勤怠管理は特に注意が必要です。
裁量労働制のほか、柔軟な雇用形態の中には事業場外みなし労働時間制やフレックスタイム制があり、どれも日々の労働時間を従業員に委ねることになります。働きやすさにつながる反面、サービス残業や時間外手当の未払いの原因となりかねないため、できるだけ正確な労働時間を把握できる体制を整えましょう。
長時間労働、過重労働
残業や休暇に関しては、2019年4月施行の働き方改革関連法によって、時間労働の上限規制や年5日の有給休暇の取得などが義務付けられました。企業は法令に違反しないよう、従業員の勤怠や有給を管理をしなければなりません。仮に、その管理を怠っていれば労働基準監督署からの指導が入り、罰則が科されるおそれがあります。
例えば36協定では1か月45時間、1年だと360時間の残業が認められますが、それを超えると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。さらに、書類送検されると厚生労働省のホームページで企業名が公表されてしまい、企業イメージの悪化につながるでしょう。ちなみに、ブラック企業の公表は2017年5月からされており、労働基準関係法令違反に係る公表事案が毎月更新されています。
また、勤怠管理によって従業員の心と身体の健康状態も管理する義務があり、過重労働による過労死やメンタルヘルスの不調は企業側の責任です。従業員の過労死が労災認定を受ければ、損害賠償の支払い義務が発生します。
ブラック企業ということが世間に広まれば、従業員の離職や取引先との関係悪化、新卒や中途採用にまで影響が及びます。
参考:「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について|厚生労働省
ブラック企業にならないための勤怠管理
ブラック企業と評されないためには、労働時間や残業時間、有給休暇を正確に把握することが求められますが、どのように勤怠管理を行えばよいのでしょうか。ポイントを紹介します。
厚生労働省のガイドラインに従う
労働基準法のうち、労働時間に係る規定が適用される全ての事業場を対象にした、ガイドラインを厚生労働省が2017年に公開しています。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、使用者が従業員の労働時間を正しく管理する義務があると明言したうえで、以下のような基準を設けています。
- ■始業・終業時刻の確認及び記録
- 使用者が従業員ごとに始業・終業時刻の確認し、記録します。
- ■始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
- 使用者による始業・終業時刻の確認・記録方法は主に2つです。使用者が自ら確認し記録する方法、またはタイムカードやICカードなど客観性のある機器を用いて確認し記録する方法です。
- ■自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
- 使用者による確認やタイムカード・ICカードの利用をせずに自己申告制により、始業・終業時刻を確認する場合は、労働者と管理者双方に正しい運用のための十分な説明をする必要があります。また、申告した労働時間と実際の労働時間が合致しているか必要に応じて実態を調査し、補足します。
- ■賃金台帳の適正な調製
- 労働基準法第108条及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数などを適正に記入しなければなりません。
- ■労働時間の記録に関する書類の保存
- 労働時間を記録した出勤簿やタイムカード、賃金台帳などは労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければいけません。
- ■労働時間を管理する者の職務
- 労務管理を担当する部署の責任者は、従業員の労働実態を認識し、正確に労働時間を管理して、問題があれば対策を講じる必要があります。
- ■労働時間等設定改善委員会等の活用
- 労働時間の管理などについて問題がある場合には、労働時間等設定改善委員会を活用して、労働者は雇用主と話し合い、解決策を検討します。
参照:労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
管理監督者も勤怠管理を行う
2019年4月に労働安全衛生法が改正され、管理監督者についても労働時間の把握を義務付けられています。管理監督者は経営者と同じように残業代の支払いは対象外ですが、実際の仕事内容は一般従業員と変わらない「名ばかり管理職」が問題となっていました。さらに働き方改革関連法によって一般従業員の労働時間が減少した一方で、管理監督者にしわ寄せが及び、過重労働のリスクがありました。そこで、管理職にも労働時間の把握が義務付けられる運びとなったのです。
管理監督者は労働基準法の一部が適用されないので、勤怠管理が少々複雑でしょう。以下の記事では、管理監督者の勤怠管理の方法についてわかりやすく解説していますのでぜひご覧ください。
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従来の勤怠管理の課題
従来から行われている勤怠管理の方法としては、タイムカードや手書きによる勤務台帳などがありますが、これらの管理方法には次のような課題があります。
1. 自己申告制による勤怠管理
出勤簿に従業員が出勤時間や退勤時間を自ら記入し、後から管理者が確認する方法があります。また、個別にエクセルで出勤簿をつけ、締め日に上司に提出して承認をもらうといった方法もあります。
自己申告制の勤怠管理では不正やミスが起こりやすく、記入や入力の手間もかかります。さらに、管理者が従業員全ての記録のチェックを行えば作業工数がかかるでしょう。従業員数が多いほど勤怠管理に関わる総作業工数は増え、生産性低下を招いてしまいます。
2. ICカードやタイムカードでの勤怠管理
ICカードやタイムカードを勤怠管理に導入している企業も多いでしょう。しかし、これらの方法でも、なりすましによる不正打刻や打刻忘れによって正確な情報が得られないリスクがあります。
また、従業員の申請データと実際の労働時間に乖離があった場合、申請データと事業所への入退場記録などを比較し、確認しなければならないため、管理者の作業工数が増えてしまいます。
加えて、ICカードやタイムカードの勤怠管理には、勤務時間の集計にエクセルを使用することが多いです。エクセルへの入力は手作業のため、ミスのないよう細心の注意が必要となり、担当者には大きな負担がかかります。
エクセルによる勤怠管理の課題については以下の記事で詳しく紹介しています。
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勤怠管理システム導入のメリット
勤怠管理システムなら、先述したような課題を解決できます。メインとなるのは労働時間の打刻機能で、PCやスマホから位置情報を付与した打刻、指静脈や顔での生体認証が可能です。本人がいつどこで打刻したのかが証明されるので、代理打刻などを防げます。
また、打刻された勤怠データはシステム上で自動集計されるので、管理者の負担は大幅に削減されるでしょう。残業時間や有給管理の機能も搭載しており、長時間労働や有給休暇の未取得があればアラート表示がされ、労務管理を適切に行えます。給与計算ソフトと連携できる製品が多く、残業や休日出勤の割増賃金の計算も簡単です。
以下の記事では、定番の勤怠管理システムを紹介しています。正確かつ効率的に勤怠管理を行うなら導入がおすすめです。無料トライアルを実施している製品や、初期費用が無料の製品もあるので、まずは実際のシステムをご覧ください。
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勤怠管理システムの導入で適正な勤怠管理を
企業が従業員の労働時間を適正に管理することは、法令に基づく義務です。しかし、労働時間や残業時間などを集計する業務の煩雑さゆえ、残業代の未払いなどのトラブルがあり、正確な勤怠管理が企業にとってますます重要な課題となっています。
勤怠管理システムは、適正な勤怠管理を実行できるだけでなく、今、国を挙げて取り組んでいる「働き方改革」の推進にもつながります。ぜひシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。