コーチングとは?
あなたがビジネスパーソンであれば、コーチングという言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、コーチングの意味を明確に理解している方は、意外と多くありません。では、コーチングとはどのようなものなのでしょうか。
コーチングの歴史
英語のコーチ(coach)の語源は、馬車を意味します。馬車は、目的地に向けて人を運ぶことから転じて「人を目的地に届ける役割」がコーチの意味になったのです。
コーチングという言葉が初めて登場したのは1830年代のイギリスで、学生の学術的研究を手伝う家庭教師という意味で使われていました。その後、コーチという言葉は1950年代まで主にスポーツの分野で使われてきました。
しかし、1959年にハーバード大学のマイルズ・メイス教授が「The Growth and Development of Executives」という著書の中で「マネジメントにはコーチングが必要だ」と位置づけたことで、企業のマネジメント分野でもコーチングが重要スキルとして扱われるようになりました。
最も有名なコーチングの定義として知られているのが、イギリスのコーチであるジョン・ウィットモア氏の言葉です。「コーチングとは、人々の可能性を最大化しパフォーマンスを最大化することである。コーチングは教えというよりは学びである。」とウィットモア氏は説いています。
日本では1990年代にアメリカからコーチングが伝わり、現在は企業マネジメントだけではなく、スポーツや人生相談など幅広い分野で必要とされるスキルになっています。
ティーチング、カウンセリングとの違い
コーチングとよく混同される言葉としてティーチングとカウンセリングがあります。それぞれコーチングとどのような違いがあるのでしょうか。
ティーチング:人に教えること
英語のteachは「教えること」「指示すること」を意味します。ティーチングは必ず教える人と教えられる人がいます。多くの場合、教える人が経験や知識が豊富で、教えられる人よりも立場が上のことが多いでしょう。
一方でコーチングは、クライアント自身が自ら考えて目標に進んでいくことが求められます。コーチに指示的に教えられることは滅多にありません。コーチングは、自ら考えて学ぶことをサポートする手法であるため、ティーチングとは立場が異なります。
カウンセリング:心理学に基づいた面談手法
コーチングとカウンセリングはほとんど同じ手法を用いるため、よく混同されます。コーチングもカウンセリングも1人のクライアントに対して、話をよく聞く「傾聴」の技法を用いて接します。では、どこが異なるのでしょうか。
カウンセリングは、心理学者のカール・ロジャースが提唱した来談者中心療法から生まれました。クライアントがどこか自分が自分ではない感覚(自己不一致の状態)を持っているのが前提です。そしてクライアントの心理的状態に注目しながら、クライアント自身が問題を解決することを支援していきます。
一方、コーチングは当初から目標を設定し、目標に向けてクライアントが行動することを支援します。カウンセリングがクライアントの心理状態に注目して支援を行うのに対し、コーチングは行動の支援を中心に行う点で異なります。
コーチングのメリット・デメリット
実際にコーチングにはどのような効果やデメリットがあるのでしょうか。コーチングを行う立場とコーチングを受ける立場から考えてみましょう。
コーチングのメリット
- コーチングする側
- あなたが管理職であれば、指示待ちの部下に悩まされた経験があるのではないでしょうか。指示待ちの部下が生まれる原因として、いつも管理職が指示をすることがあげられます。コーチングを普段のマネジメントに取り入れれば、部下の成長を促し、自ら考える人材へと変化させることができるでしょう。
- 受ける側
- 自らの目標を考える機会はそう多くありません。また、自分自身が経験したことを振り返る場面も少ないでしょう。コーチングを受けると自分自身の目標が明確になり、目標達成に向けて自分自身の行動を改善できるようになります。より高い目標を目指すときには、コーチングが特におすすめです。
コーチングのデメリット
- コーチングする側
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コーチングがマネジメントにおけるすべての解決策、というわけではありません。当然ながらコーチングが通用しない場面は多く存在します。例えば部下のメンタルケアが必要な際、コーチングは不向きでしょう。
また、目標を設定して行動を支援するだけでは目標達成できない場合もあります。本人に向いていない仕事であれば、目標設定を行っても行動改善は難しいです。コーチングは、あくまでも限定されたシーンで使えるテクニックということになります。
- コーチングを受ける側
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コーチングを受ける側のデメリットとして、目標以外のことが見えなくなるという現象があります。人は目標に集中することで目標を達成できますが、他の可能性を排除するかもしれません。セレンディピティのように、オープンに物事に取り組む方がうまくいくときもあるでしょう。
部下のパフォーマンスを最大化するコーチングのやり方
では、部下育成のシーンではどのようにコーチングに取り組めばよいのでしょうか。やり方についてご紹介します。
目標設定
コーチングにおいて最も重要なのが目標設定です。目標に向けて部下を導くので、部下の成長やパフォーマンスの最大化につながる目標を設定しましょう。
また、上司が目標を設定するのではなく、部下に自分で目標を考えてもらいます。上司は指示的にならずに、部下が自分に適した目標を設定できるように支援する必要があります。部下にSMARTの法則で目標を考えてもらうと良いでしょう。
- 【SMARTの法則】
-
- Specifizc
- 具体的であること
- Mesurable
- 測定可能であること
- Achievable
- 達成可能であること
- Relevant
- 自分にメリットがあること
- Time-related
- 期限が設定されていること
質問
コーチングは対話の技術ともいわれます。コーチングは部下自身に行動を考えることを促すため、上司から部下に質問をして問いかけることが中心的な手法になります。
目標設定のシーンであれば「なぜその目標にしたのか」を考えてもらい、目標に向かう途中であれば「いまどんなことに取り組めばよいのか」を質問を通じて考えてもらうのです。
しかし、質問攻めにするのはよくありません。質問をする前にお互いに自己開示をしたうえで、信頼関係を築きながら質問ではなく対話をしていきましょう。部下から答えが返ってこなくても焦らず、答えを待つことも大切にしましょう。
また、問いかけにより部下の内省を促します。内省とは、自分の行動や経験、考え方や価値観について考えて気づいてもらうことです。直近でうまくいったことや失敗した経験について尋ね、なぜそうなったのかを考えてもらい、改善すると効果的です。
コーチングと1on1の関係性
最近、企業で取り入れられている取り組みに1on1があります。1on1とコーチングはどのような関係にあるのでしょうか。
1on1は文字通り、1対1で上司と部下が面談をすることですが、一般的には高頻度かつ短時間での面談を意味します。Googleが「部下とは半年に1回ではなく、毎日15分話した方がよい」と紹介したことや、Yahoo!ジャパンでは人事制度として取り入れたことで、一気に広まりました。
1on1は短時間で上司が部下の状況を把握するため、高度なコーチングのテクニックが求められます。もちろんコーチングを知らなくても1on1はできますが、コーチングを知っていた方が効果的な1on1ができるでしょう。
ただし、1on1は高頻度で面談を行うため、前回話した内容を忘れがちです。ITトレンドでは、1on1を支援するツールをご紹介していますので、そちらを活用してみてください
まとめ
コーチングはマネジメントにうまく取り入れると、部下のパフォーマンスを引き出せます。それだけでなく、部下が自分の「軸」を作り、どのような状況でも迷わず自分で考える習慣づけにも役立ちます。1on1と一緒に取り組めば、より効果的に部下のパフォーマンスを最大化させられるでしょう。